「……さむい」




むくりと体を起こしたヨーコは、暗闇の中でそう呟いた。



ごつごつとした岩場の間を今夜の寝床として、カミナとシモンはいつものように並んで大の字になっている。
背中に当たる岩が痛くないのかと思うところだが、彼らは全く気にせず高いびきだ。

リーロンは少し離れたところで先程までは作業していたが、今は寝息を立てている。
いつも遅くまでグレンやラガンを前にして目を輝かせ腕を鳴らしているのだが、
この日はそのままそこで眠ってしまったようだった。


気持ち程度の薄い毛布を引っぱりあげたヨーコは、
雲のかかった薄い月明かりを浴びているカミナとシモンの眠る姿に横目で見た。

自分も人のことを言えた格好ではないが、あんなに薄着なのに2人は平気な顔で腹を出して横になっている。

2人で1枚の毛布を使っているのだが、カミナなどはもうそれをすっかり投げ出してしまっている。
シモンはかろうじて腹にかけていたが、それでも半分は肌が見えている。


昼間は確かに暖かく、暑いと言ってもいいくらいだった。

だが何故か、今夜は冷える。
震えるというほどではないが、少し暖を取りたいとヨーコは思った。
だが今手元にあるのは1枚の薄い毛布のみ。
うーーと唸って自分の体を抱き締めるが、何の慰めにもならない。

しばらくそうしていて、リーロンが何か羽織るものでも持っていないかと考えついてヨーコは立ち上がった。


立ち上がった拍子に小石を蹴ってしまい、静寂の中でそれがやたらと大きな音を立てた。



 「…ヨーコ?」

 「…あ、ごめん…」



毛布を羽織って立ち上がったヨーコは、声のした方へと顔を向ける。


もぞもぞと影が動き、カミナが目をこすりながら体を起こすのが見えた。
隣のシモンは相変わらず大人しく眠っている。



 「起こしちゃった?」

 「いや…どうした、ガンメンか?」

 「うぅん、ちょっと…」

 「あぁ小便か」

 「違うわよバカ!!」



真っ赤になって思わず大声を出したヨーコは、慌てて口元を押さえてシモンを見る。
だが起きる気配は無く、ヨーコはほっと息を吐いた。



 「…今夜は冷えるから、リーロンに何か借りようと思ったの」

 「冷えるか?」

 「冷えない?」



ヨーコが首をかしげて尋ねると、カミナも同じように首をかしげた。



 「………」

 「……あんたに聞いたあたしがバカだったわ」



呆れたように肩をすくめて、ヨーコはずりおちかけた毛布を引っぱり上げて歩き出す。
それを見たカミナが不思議そうに口を開いた。



 「どこ行くんだよ」

 「だから、リーロンに――」

 「ヨーコ」



岩の上に胡座をかいたカミナは、ヨーコを見上げながらちょいちょいと手首を動かした。



 「なに?」

 「寒いんだろ?」



そう言って、カミナはニヤリと笑う。

意味が分からずしばらく突っ立っていたヨーコは、一気に顔を赤くした。



 「なっ……なに考えてんのよこのスケベ!」

 「人肌が一番だろ?」

 「………」

 「来いよ」



カミナのまっすぐな目に捕らわれて、ヨーコは視線を逸らすことができなかった。


バカと叫んでさっさとリーロンのところに行くこともできた。
笑って流して、何なら毛布を奪ってやってもよかった。


だがヨーコは、結局どちらもできなかった。


気付けば、カミナに向かって一歩を踏み出していた。




 「ほれ、ここだ」



カミナは笑いながらそう言って、投げ出した自分の足の間をポンポンと示した。

ヨーコは何も言わず、自分の毛布を羽織ったままカミナの足の間にすとんと腰を下ろす。
膝を抱えるようにして毛布で体を隠すと、カミナはそれをひっぺがした。
普段見せているはずの下着のような姿が露になって、ヨーコは思わず体を固くした。



 「ちょっ――」



顔を赤くして、体をねじってカミナを睨もうとした。
だが、抗議の声は途中で出なくなる。

思いがけず間近にあったカミナの顔や裸の胸が目に飛び込んできて、ヨーコはさらに真っ赤になった。



マントのように毛布を羽織ったカミナは、毛布と一緒にヨーコを抱き締めた。
思わず叫びそうになったヨーコは、何とかそれを飲み込んだ。
どくどくと心臓が早鐘を打ち、一気に体が熱くなる。

すぐ隣にはシモンが眠っている。
毛布を奪われたことには気づかずに相変わらず熟睡しているが、いつ起きるとも知れない。
姿はここからは見えないとはいえ、リーロンだってすぐ裏にいるはずだ。
彼らにこんな姿を見られたらどう思われるだろうか。

だがカミナはいつもと変わらぬ様子で、何のためらいもなくぎゅうとヨーコを抱き締めてくる。



 「寒くないだろ?」



背中越しにすぐ耳元でそう囁かれて、ヨーコはビクリと体を震わせる。




背中に触れる素肌から

自分を包む太い腕から

耳元で感じる吐息から


カミナの温度が伝わってくる。




 「……寒くない、よ」

 「だろ?」

 「うん」




ヨーコはカミナの胸に体を預けた。

トクトクトクと、ほんの少し早いカミナの鼓動が伝わってくる。



あたしの音も聞こえてるのかなと思いつつ、ヨーコは目を閉じた。





 「あったかいよ」





『重なる温度』

カミヨコ大好き!!!

2007/08/23

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