ヒルダの姿が見えないことに気付いて、考えるより先に足が動いていた。

修学旅行というものは知らなくても、まわりの連中のテンションがあがっていれば何となく雰囲気は理解できるはずだ。
表には出さずとも、ヒルダのテンションももしかしたら上がっていたのかもしれない。
でなければ、あの女があんなしょぼいナンパ連中に絡まれるような隙を見せるはずがないのだ。

視線の先では、見たことのない制服の男どもが4,5人でヒルダを囲んでいた。
喧嘩を売っているわけではないが、明らかに脅しを含むナンパだ。
ヒルダがそんなものに怯むはずはないが、大人数に囲まれて逃げ道を塞がれているし、いつも持っている仕込み刀も今は所持していない。
明らかに不機嫌なヒルダの表情には気付いていないのか無視しているのか、アホ丸出しの男どもはアホ丸出しのセリフでナンパを続けている。

そのうち男の一人がとうとうヒルダの腕を掴んで、自分たちの方へ引き寄せようとした。
手加減無しだったのか、ヒルダが少しだけ声を上げる。

おかげで理性がぶっとんだ。



一分も経たないうちにアホなナンパ野郎共は地面に伸びて、そうして今オレとヒルダは二人で歩いている。

「男鹿」

後ろのヒルダは、怒っているというより戸惑った声でそう言ってくるが無視をする。

「男鹿、何を怒ってる」
「……別に怒ってねーよ」

とはいえ、口調が怒っているのは自覚している。
ヒルダは黙ってしまい、大人しく後ろに続いている。
別にヒルダに対して怒っているわけではないのだから理不尽だとは解っているが、ムカつくものは仕方がない。
アホなナンパ野郎共をもう10発ずつくらい…いや、もう50発ずつくらい殴っておくべきだった。

「たつみ」

突然名前で呼ばれてほんの少し動揺するが、やはり返事はしなかった。

「手が、痛い」

そう言われて、思わず立ち止まる。

ナンパ野郎共をぶっ飛ばしてヒルダをあの場から連れ出したときから、ずっとその手を握っている。
その力が強すぎたのか、ヒルダはもう一度珍しく懇願するように「たつみ」と言った。

ヒルダの手は、細い。
指も細い。
白くて細くて、多分少し力を入れただけで簡単に骨がイカれる。
なんでこんな手で剣を振るったりオレを殴ったりできるんだと不思議に思うほど、華奢だ。

だから少しだけ力を緩めた。
だが離さない。
ヒルダも解放されることを望んでいたわけではないようで、オレのその左手を握り返してきた。
たったそれだけの反応で気分が良くなってしまうのも単純すぎると思ったが、なってしまったものは仕方がない。

「たつみ」
「……お前さー」
「何だ」

振り返らず、だが繋いだ手にまたほんの少し力を込めて、ぐいと自分の方へ引き寄せた。
油断していたらしいヒルダの軽い体は簡単に引っ張られて、オレの背中にぶつかった。

「あんま心配かけさせんなよ」
「心配?」
「てめーは目ぇ離すとすぐコレだ」
「……さっきのアレのことか? あんなもの放っておけばいいだろう、雑魚だ」
「ほっとけねーから言ってんだろ」

少しだけ苛つきながら、ちらりと背後を振り返る。
ヒルダは納得がいかないような表情でこちらを見上げていた。

「……ちゃんとオレの傍にいろよ」

深いグリーンの瞳を見つめながら言うだけ言って、驚いたのかその目を丸くしているヒルダの顔を見たら急に自分の発言が恥ずかしくなって思いきり顔を正面に戻した。
多分、耳のあたりが赤くなっている。
こういう反応をドSの侍女悪魔ならからかってくるだろうから、頼むから気付くなよと念じてみた。
が、顔は見えなくても後ろのヒルダがフッと笑ったのが解る。

くそ、と思わず小さく呟いたが、ヒルダはからかってはこなかった。
逆にさっきのオレと同じように手を強く握り返して、隣に並んでくる。

予想外の反応に隣を見下ろすと、ヒルダは楽しげに笑っていた。

「坊っちゃまの傍、の間違いだろう?」
「……あーあー、そーですよ」

当然と言えば当然の答えが面白くなくて、フンと鼻を鳴らして顔をヒルダと反対側に背ける。
その反応に満足したのか、ヒルダは「フフ」と笑って、それからオレの肩にとんと頭を預けてきた。
こっちとしてはそんな反応はやっぱり予想外だ。
思わず固まってしまったが、ヒルダは構わずオレに寄りかかってくる。

「たつみ」
「……何だよ」
「心配するな、私は貴様の傍にいる」
「……………そう、かよ」

どうにか素っ気ない返事をして、また歩き出した。


あぁくそ、繋いだ手が妙に熱い。


(了)



『あなたのそばに。』

ガヒリストの方々とイプチャしてるときに生まれたもの。
ナンパで絡まれるヒルダさんを助けてやきもちやいて手を引く男鹿です。
ヒルダさんの目は適当です。正解は何色なんだろ。

2012/03/18 UP

TOP

SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送