人の声が聞こえて、古市はぼんやりと目を開けた。
目だけを動かして周囲を見渡すと部屋の中は薄暗く、窓から漏れる明かりすらもない。
まだ真夜中と思われ、古市はまた眠ろうかと目を閉じようとした。

「……やぁ、あっ」

先程耳にした人の声がまた聞こえてきて、古市は今度こそばっちりと目を開けた。

あれっ、テレビの電源切り忘れた?
てかエロビデオつけっぱだった?

一瞬そんなことを考えたが、暗闇に慣れた目が自分が今いる場所が自室ではないことを思い出させた。
修学旅行で沖縄に来ていて、今はそのホテルのベッドで寝ているのだ。
ラブホテルやビジネルホテルではない、ちゃんとしたそこそこの高級ホテルである。
だからテレビに有料チャンネルなんてついてなかった、と思う。だが今耳にした声は、誰がどう聞いても「喘ぎ声」だ。

そこまで考えて、古市はまたもう一つの事実を思い出した。
今この部屋にいるのは自分だけではない、ということだ。

「たつ、みっ」

あぁそうだ、隣のベッドには男鹿とヒルダさんとベル坊が…………………。

そうして古市の思考回路は停止した。
だがそんなことはお構いなしに、隣では高級ベッドのスプリングが派手に鳴っている。

本来ならばこの時間は誰もが寝静まっていて、ホテル前の夜の海から届く波の音がよく聞こえたはずだ。
それに加えるならば例えば寝がえりをうったときの布の音とか、ベル坊の寝息とか、静かな部屋にはそういった音が響くはずなのだ。

こんな荒い息遣いとか、ヒルダさんの甘い声とか、あんな音とかそんな音とかが聞こえてはいけない。だって修学旅行なんだから。

………そうだよ修学旅行だよ何やってんだよお前ら!!!!!!

我を取り戻した古市だが、飛び起きて二人を怒鳴りつけることはさすがに出来なかった。
背中を向けているから男鹿たちの様子をこの目で見たわけではないのだが、気配から察するに今の状態でストップをかけるのはさすがに同じ男として躊躇われる。
たとえば男鹿が無理矢理ヒルダを襲っている、なんて状況であれば止めるべきだが、どう聞いても合意のものだ。

いやいやもしかしたら、マッサージとかかもしれない。
美咲さんもマッサージ受けてえろい声出してたし!

古市はそう考え、勇気を出し振り返り確認しようとした。
だが動けない。
希望的観測を吹っ飛ばすくらい、背後から聞こえてくる音から連想されるのは情事以外何物でもないのだ。ダテにAV見てねぇぜ!!という空しい叫びを心中でしつつ、古市は眠ろう眠ってしまおうと目を閉じる。
だが視覚を停止するとより一層聴覚刺激が増してしまい、いかんいかんと再び目を開ける。
そもそもこんな状況では眠るどころか興奮するのが普通である。

てゆーかベル坊いんのに何してんのこいつら!!!
何なの慣れてんのベル坊!!
慣れるくらいヤッてんのお前ら!!

乱暴に軋むベッドの音やヒルダの声に消されてベル坊の寝息は聞こえないが、さすがに起きてはいないだろう。
ベル坊が起きているにも関わらず行為を許すなど、ヒルダの性格からは想像できない。

「た、つみ、待っ……あ!」

必死に男鹿を呼んで、すがるように抑えきれない声を漏らす。いつだってクールで上から目線で毒舌ドS悪魔のヒルダがこんな声を出すことも、古市は当然知らなかったし想像もできなかった。

あーもー終われ終われ早く終われ!!!

古市は冷静になれと自分に言い聞かせ、とにかくさっさと終わってくれと祈った。
頭の中でお経もどきを唱えていたら開き直って悟りを開いたような気持ちになり、よしいいぞオレ!と一人頷いたところで、ヒルダが一層の甘い声を上げる。

「ヒルダ……ッ!」

同時に男鹿の声が耳に届き、古市の思考回路は再び停止した。

………え? え? えええええええ?????

急激に体温が上がった気がして、思わず体を丸める。
自分の心臓の音がとんでもなく大きくなった気がして、それが二人にバレないように必死に胸を押さえた。ヒルダの甘い声なんて聞いたこともない。
同時に、男鹿のあんな声も古市は聞いたことがなかった。

そもそも男鹿が女に興味あるのかどうかすら、これまでの付き合いから考えても怪しかった。
一緒にAVを見たりエロ本を読んだりしたことはない。
貸したことはあるが、それを男鹿がどうこうしたのかは教えてくれなかった。
そんな男だったからこそ、ヒルダが同じ家に暮らすことになっても二人が深い仲になるなど本気で考えてはいなかったのだ。

それなのに男鹿は今、古市の後ろでヒルダを抱いている。
低く掠れた声で、愛しそうにその名を呼んでいる。

長い付き合いだけど、こんな男鹿はオレは知らない。
あんな風に女を抱いて、あんな風に女の名を呼ぶ男鹿なんて、オレは知らない。当り前と言えば当たり前だがそれよりも何よりも古市が動揺したのは、軋むベッドの音でも繋がる音でもヒルダの喘ぎ声でもなく、どうして男鹿の声に自分の体が反応したのか、ということだった。

ふっざけんなよありえねぇ何でだよ男鹿コノヤロウ絶対コロスばーかばーか男鹿のばーか気のせい気のせい!!!!

だがどれだけ言葉で誤魔化したとしても、自分の体に起きている反応は無視できない事実である。


周りに与えた衝撃の大きさなどカケラも気付いていない二人が部屋のバスルームに消えたあと、古市は頭を抱えて朝まで悩んだが結局その答えを出せなかった。


(了)




『誰か夢だと言ってください。』

修学旅行のホテルにて。
古市→男鹿風味です。
ほんっっとーに微エロですいません。
ガチエロは他の皆さんにお任せw

2012/04/08 UP

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