人生は、何事も紙一重の対極に位置するものを内包している。

白と黒と。
東と西と。
天と地と。

そして――ピンチとチャンスと。

それらはメビウスの輪のように巡り、流れ、人の生業を翻弄する。
ほんの偶然を装った悪戯にも似た感覚で。


そう、例えば――穢れなき純粋な好奇心を含んだきらめきに揺れる瞳によって・・・。





DEAD OR ALIVE






心地好い潮風が吹き抜ける。
一昨日立ち寄った島から流れる海流はことの他穏やかで、グランドラインの荒々しいそれにしては珍しいことだった。

いつも微細な変化に事細かに対応し、夜更けもゆっくりとは眠っていられない航海士のナミにとって、こうした休息時間はとてもありがたかった。

「ま、普段の行いがいいからよね」

クルーの面子に言わせれば「魔女の呪いだ」などと失礼千万なことを言ってくれるに違いない。

それを考えると思わず眉間に皺が寄ってしまいそうだが、今はそれもしないでおいてやることにする。

さわさわと、ナミに対して楽しい秘密を無駄に隠そうとしている気配。
嘘を嘘として隠すことさえできない面々には、そんなことを目論むこと自体が既に無謀なのだと笑ってしまう。

それ以前に日付を見れば「誰のために」「何をしようとしているのか」など一発丸判りなのに、それでも間際まで主賓にはキッチンに近づくなとの厳命が下されている。

もちろん、ナミ以上の戒厳令にも近い厳命が下されているのは船長のルフィだ。

彼の手に掛かったら、サンジがどんなに腕を振るった料理でも一瞬で粉砕合切胃の中だ。
それを死守する意味でも、キッチンの入り口付近ではゾロが修行と称して鋼鉄の重りのついた串団子を振り回しているし、当の危険人物の気を逸らそうとウソップとチョッパーが対応に当たっている。


ロビンは当番のウソップに代わって見張り台の上にいて、みんなに振舞うスペシャル料理を考案&製作中のサンジはもちろんキッチンに缶詰状態になっている。

先に出されたおやつのデザートも、今日は更に飾りつけの細部にまでこだわった力の入れようだ。


何もかも、ナミの誕生日という今日の日を祝うために。


それを思うとこそばゆくも心地好く、かつて幼い日々にココヤシの村で祝ってもらった席を思い出す。

優しい時間。
腕によりを掛けた美味しい料理。
誰よりも自分に向けられた親愛の情。

一度はなくしかけたそれらは見事に息を吹き返し、そしてまた新たなきらめきを宿してここにある。

運が良ければ陸で祝うこともできたが、今回は一昨日港を出港したばかりだ。
次の島に着くまでには、まだ一週間以上もの時間を要する。
船の上でもサンジの腕が何ら損なわれることはなく、むしろこの前立ち寄った港で仕入れた食材は数日寝かした方がいいものもあったらしいので、期待しておいてくれと怪しいダンスつきで約束してくれた。

何もかもが自分のために。

普段から豪快に「みかんとお金が大好きよ」と言い放ってはいるが、心底そればかりではないことも知っている。
かけがえのない仲間を得て、それが大事だと空や海に向かって叫び出したくなることもある。

――かれらの前では絶対言ってなどやらないが。

(そんなこと知れたら、今後どれだけつけ上がるか! あいつらはシメとくくらいで丁度いいの。いっつも苦労させられてるんだから)

そう思いながらも、口許はついつい微笑みの形に緩んでしまう。

どうせ夜には大宴会となるだろう。
その際少しくらい無礼講に羽目を外されても許してやろう。
何かを目論んでいる気配はするが、今日だけは寛容な心で大目に見てやろうと思う。

どうせ、抑えろと言っても聞かない連中なのだから。


日は中天、風は良好。


ナミはゆっくりと紅茶を飲みながら、ロビンから借りた本のページを捲った。





キッチンの死守を任されたゾロは、そんな今日の主賓の様子を視界の隅に捉えながら、それでも集中を切らさずに重りを振り続けていた。

今日はロビン張りにデッキチェアに掛けて本を読んでいるナミの姿が、ゾロの位置からでもその半身だけが見えている。


主賓には、形だけでも最後までサプライズ仕様で何も知らせないこと。


数日前からそれとなく話し合い、そう決まっているナミを除いた全員でのルールだ。

一昨日島に立ち寄った際に、それぞれ買い物に出たり器用に自分の特技を生かして何か作ったりと、贈り物に関わる作業にみんな余念がないようだ。

ゾロも一応ナミのためにと考えはしたものの、何分懐具合があまりにも寂しい。
かといって彼女に借金を重ねてまで買い物に出るのも本末転倒のような気がして、そう踏み切れないまま出発の時を迎えてしまった。

「てめぇ・・・アホか?」

サンジは明らかに噴き出す寸前の顔で袈裟懸けにしてくれた。

金がないのはナミも先刻承知済みだし、それはそれで知恵の出しどころではないか。
物でなくとも、気持ちの籠もった何か。
それで納得できるだけのものを見せられれば、とりあえず、と笑ってくれるかもしれない。


――だが、そんな都合のいい方法など、早々ゾロの頭で浮かぶ筈もない。


(マジでどうしたもんか・・・)

意識が逸れそうになり、慌てて気を引き締める。



視界の端では懸命な引き止め合戦が繰り広げられていた。

ウソップがあれこれ話題を持ち出して面白可笑しく話してはいるものの、食欲が勝って来たのかそろそろルフィの気を逸らし続けていられるのも時間の問題らしい。
ナミの制裁もサンジの制裁もごめんしたいウソップは、必死のあまりに悲壮な感じさえ漂っている。

チョッパーとのふたり掛かりでさえそろそろ限界のようで、ウソップは見張り台を見上げてロビンにも加勢を頼もうか否か迷っているようだ。


――と、不意に熱い視線が注がれていることに気づく。
鋼鉄の串団子を下ろしてそちらを見れば、視線の主は小さな船医のようだった。

ゾロを、というよりも、傍らに立て掛けた3本の刀を見ている。
そんなものくらいいつも見慣れているだろうがと思ったが、チョッパーの執拗な視線は相変わらずだ。
あまりの熱の入れように、ゾロは諦めて重りを甲板に下ろした。

「・・・どうした、チョッパー」
「ん? うん、ちょっと気になることがあって」
「気になること? ・・・俺の刀がか?」
「うん。まあ、刀ってよりも、刃物の扱い方について、かな?」

意を得たりとばかりに、キラキラの瞳が一気にゾロへと傾倒する。
それに苦笑しながら、ゾロは裸の上半身を流れる汗を拭いながら刀の傍らに腰を下ろした。

「刃物の扱いってんなら、クソコックの野郎だってキッチンでガンガンやってんだろ?」
「それもそうなんだけど、サンジの場合は相手が食材に限られてるだろ? その点ゾロは、向かい来る相手ならよりどりみどり掴み取りの入れ食い状態だから」

どういう意味だとこめかみが震えたが、人間のそんな微細な表情の変化に気づかないチョッパーは続ける。

「ほら、ゾロってさ、前にアラバスタで戦った時に何かのポイントを発見したとかで、鋼鉄まで斬れるようになっただろ? ほら、バロックワークスの幹部と戦闘してさ」
「ああ・・・ものにはそれぞれの“呼吸”があるってことだな。必要なものの呼吸を知り、それを肌身で感じる。それによって不必要なものを避け、必要なもののみを確実に斬る――そういうこった」

うんうんと頷く。
探求者の性か、医者としての知識欲か。
それはまるで、今まで師事していたふたりの医者と対峙している時のようなきらめきを宿した瞳だった。

「じゃあ、ゾロなら動くものまで切り分けられるのか?」
「動くもの?」
「うん。生き物とそうでないものなら、自ずとその“呼吸”とやらは違ってくるだろ? だったら、人間はどうだ? 切り分けられるのか?」
「人間の切り分けって・・・俺は無差別殺人の鬼か」

血に飢えた魔獣などと噂されたこともあり、あの頃は毎日向かい来る相手に血まみれの戦闘で明け暮れていた時期もあった。
確かにそうした時期も自分の技の経験値となり、様々な場面においての勘や技術を磨くのには役に立ったと思う。

だが、今更仲間にそんな認識を持たれるのは心外だった。
しかも、相手がこのチョッパーでは尚更だ。

せめてその認識だけでも改めさせようと口を開く。
それを封じるように、そのつぶらな瞳にきらめく星が増した。

「そうじゃなくってさ、人間と、そいつが着てる服とを切り分けられるか――有体に言えば、中身の人を切らずに着てる服だけ切ることができるかってことだなッ」


・・・・・・・・・・・・・・・・・あ゛?


ぶふッッ!!

隣で、思い切りウソップが噴いた。
何かを言おうとしたのか、それともチョッパーの口を塞ごうとしたのか、その動きは明らかに挙動不審そのものだった。

「この間男部屋を掃除してたら変な本が出て来てさ。それに書いてあったんだ。優れた刃物は、擦れ違い様にだってその外身と中身を瞬時に切り分けられるって。ゾロの腕と刀を以ってすれば、それが可能なんじゃないかって思ってさ」
「変な本、ねぇ・・・」

誰が隠し持っていたものなのか、掃除をしていたチョッパーが偶然にも発掘してしまったらしい。
おそらくは男の下劣な欲望を詰め込んだ類の本なのだろうが、そんなものをあからさまに見つけられてしまうような位置に隠しておくヘタレ加減にも溜息が出る。

おそらく元凶であろう長鼻の男を睨めば、本人は声もなく涙を流して激しく首を振っていた。

俺の所有物じゃないと言いたいのか。
それとも、他の誰かの入れ知恵で買わされたものを所持していたのか。

いずれにしても、その不審な動きは何かを知っていると暴露したも同然の態度だ。

だが、それ以前の問題として。

「・・・生憎だが、俺は自分の刀をそんな下らねぇことのためには使わねぇ」

第一、 そんなことにあの白鞘の和道一文字を使ったりしたら、怒ったかの親友にどんな鉄槌を落とされるか判ったものではない。
それでなくともここはグランドラインなのだ。
自然ではあり得ない怪異現象が間近に起こったとて、何も否定できる根拠も確証もない。

鬼徹なら尚更で、あの妖刀にそんなことをさせたが最後、果たしてどんなことになるのやら考えるだに厄介な顛末以外思い浮かばない。

雪走ならそんなことにはならないだろうが、素直な刀だけに逆にそんな暴挙に及ぶことはこちら自身が躊躇われた。

「じゃ、刀がダメならカミソリではどうだ?」
「だから、刃物なら何だっていいってもんでもなくて、そもそもそれ以前の問題――」
「要するに――てめぇは自信がねぇわけだ?」

いつしかルフィまでが興味津々に耳を傾けていた話題に、まったく第三者の声が割って入る。
小さなトレイにふたり分のデザートを乗せた金髪のコックは、煙草を燻らせながらさも可笑しそうに細い煙を吐いて見せた。

「おお、このヘタレな剣豪サマは、研究熱心な青少年の熱意に応えてやれるだけの自信がねぇとおっしゃっておられるのさ。そうだよなぁ、腐っても剣を扱う剣士サマが実は剣捌きは最悪で、ついでに間違って相手の腕まで飛ばしましたじゃシャレになんねぇもんな」
「・・・言うじゃねぇか、ダーツ眉毛」

どうやらナミとロビンにおやつを差し入れる道すがらに、かれらの会話を小耳に挟んだらしい。
サンジは明らかにからかうような視線でゾロを見下ろしていた。

「ああああ、やめとけやめとけ。そんな恐ろしげな芸当、宴会の余興にもなりゃしねぇ。こんな海のド真ん中で腕なんぞ斬り落とされた日にゃ、いくらチョッパー大先生だって処置が間に合わねぇよ」
「余興だと・・・?」
「ややや、ゾロ! お、オレなら大丈夫だぞ、いつでも用意万端だからなッ。大変かもしれないけど、腕の1本や2本いつだって縫い合わせてやるからな! 大丈夫だ、ちゃんと左右だって確認して間違えないから!」
「「間違えたら怖ェよッッ!!」」

思わずルフィとウソップが叫ぶ。

「ま、普段から金欠・借金大魔王のてめぇのこった。どうせナミさんのためにさえ、何の用意も間に合ってねぇんだろうからよ。せいぜい赤っ恥かいて、こってり絞られるこったな」

ひらひらと後ろ手を振りながら、本当に通りすがっただけの料理人は、ご機嫌良くみかん畑で待つナミのために踊るようなステップを踏みながらデザート配達に出向いて行った。
その後再び戻り、今度は見張り台の上にいるロビンのところへも行くのだろう。

「余興・・・」
「や、ゾロ! サンジもきっと悪気があって言ってるわけじゃなくて、ただからかって面白いだけだから――!」
「チョッパー、傷に塩塗り込んでどうするよッッ」

フォローしようとするあまりに素っ頓狂なことを口走る船医の口を、長鼻の狙撃手は慌てて押さえつける。

そんな様子など眼中にないように、ゾロはぶつぶつと何かを呟きながら自らの手を見つめていた。
いつしかその顔には、とても夜道で人様に見せられないような凶悪かつ不気味な笑みが浮かんでいた。
3人は、その背後に不気味な炎にも似たどす黒いオーラを垣間見たような気がした。

「・・・おいおいおい、な〜んかゾロの奴、とんでもねぇこと考えてねぇ・・・か?」
「だとしてもオレ、止めた挙句に身代わりでナニかされたらイヤだよッ」
「いーんじゃねぇの? 何か面白いこと考えてるみてぇだからよ♪」

「いや、だから違うだろ!」と叫ぶ良識人の叫びは綺麗に無視される。
ウソップは傍らでおろおろする船医を見下ろし、

「・・・俺たちは、何も聞かなかったコトにしよう」

と、至極後ろ向きな結論に落ち着いてしまった。
本当に、それ以外道の選びようがなかったから・・・。

その反対に、ルフィの機嫌はうなぎ上りに急上昇していた。

あくまで気楽に楽しく。
何せ根っからの宴会好きの船長のこと、ここで目論まれる企みなどわざわざ検閲する気などありはしなかった。





「では、我らが誇り高き航海士殿の生誕を祝って――カンパ〜イッ!!」
「「「「「おお―――ッッ!」」」」」

やがて辺りに夜の帳が降り、ようやくナミに甲板やキッチンに近づく許可が下りた。
可愛らしい画策にちょっと拗ねた顔を見せてやったものの、笑顔で謝られてしまってはナミもそれ以上文句を言うことはできなかった。

他の誰でもない、自分のために設けられた席だから。

皓々と降り注ぐ巨大な月の灯りに加え、船のあちこちにウソップの手製のきらびやかな灯りが灯されている。
マストなどの高い位置にも吊るされているので、それの手伝いをしたのはロビンだろう。

いつもより更に腕によりを掛けて作られた料理は、どこの一流レストランにもまったく見劣りも引けも取っておらず、むしろそちらのシェフにこれを見てみろと自慢したくなるほどだ。

美味い料理に美味い酒。
適度にアルコールが回れば踊り出す者も現れ、船の上はあっという間にドンチャン騒ぎの大宴会となった。


いつもならこういった席で呑み比べに近い形になるゾロが、今日に限ってあまり近づいて来ない。
不審に思って眉目を寄せた視線を向ければ、それに気づいて小さく口の端を上げるものの、それ以上の意思表示をせずにそっと目を逸らして木のジョッキを黙々と呷っている。

それがますます気に障り、ナミは険を含んだ声音で頬を膨らませた。

「何よ、こんな日だから何かとんでもないもの請求されるとでも思って、最初っからシカトモードなわけ?」
「別にそんなんじゃねぇよ。それに、俺からの『プレゼント』は一番最後にやるから。まあ、せいぜい楽しみにしてるがいいさ」

どこか意味深な物言いだったが、とりあえず待てばいいのかと渋々引き下がる。
何か含みがありそうだったが、何かあったなら締め上げてやればいいだけだ。





そうこうするうちに、クルーの面々はそれぞれが気持ちの籠もった贈り物をナミに手渡した。


サンジからは、綺麗なデザインで上品に見えるブローチを。

ウソップからは、生活に潤いを与えるジョークと紙一重の面白そうな本を。

チョッパーからは、甘さの中にきりりと一本筋の通った大人の香りを放つ香水を。

ロビンからは、文鎮にするにはあまりにももったいない以上に見事な宝石の原石を。

ルフィからは、ゾロに擬えたような“約束”を。


「約束? って、何の?」
「んん、俺の航海士はお前だけだってやつだ」

あまりにストレートな殺し文句に、思わず笑い飛ばす言葉さえ喉から出ない。
必死に赤くなるのを堪えながら、それでも一言くらいツッコんでやろうと口を開く。

「なぁに、それ。このグランドラインなんだから、もしかしたら命の危険くらいあるかもしれないでしょ? それに、いつか船を降りる日が来るかもしれないのに」
「それも問題ねぇ。お前の命は、絶対に俺が守る。それに、お前が船を降りるのは断る。俺はそんなん一生許可するつもりはねぇし、そしたらキャプテンの許可なしに船から降りることはできねぇよな?」

そこにあるのは、男と女の枠を越えた絶対の信頼。
欲しいものを力ずくでも奪い取り、その掌に握り込んで絶対手放さない熱さを見せつける。

「愛されているわね、航海士さん」
「もちろんロビンだって手放さねぇぞ? ここにいる奴は誰ひとり、俺からは逃げられねぇからな」
「さすが天然、あんたの殺し文句はピカ一だわよ・・・」

どこか脱力しながらも、それを自然体で有言実行してしまうのだ、ルフィという男は。
半ば照れ隠しに乱暴に首を巡らせる。

(まったく、どいつもこいつも・・・)

自然に口許が緩む。

そこで不意にゾロと目があったが、「俺のはもっと後だ」と素っ気なく言ったのみで再び黙々と飲み始まってしまった。





その後も散々飲み食いが繰り返され、いつしか辺りは静寂に包まれていた。

料理もその大半が食い尽くされ、酒も大樽を開けたせいか既にクルーの大半は潰れる寸前だった。
サンジも必死に空樽の上で目を見開こうとしているが、襲い来る睡魔の前にコックとしての意識と戦うので精一杯になっているようだ。

「さて、と」

仕切り直すような呟きと共に重い足音が背後を移動する。
その音にそちらを振り返れば、丁度ゾロが割り箸を鼻に突っ込んだまま昏倒しそうになっていたチョッパーを揺り起こしているところだった。

「ほれ、研究熱心で優秀な船医殿に狙撃の王よ。楽しみにしてたレポートの時間だぜ?」
「ふ、んにゃ?」
「ん・・・ほえ?」

揺れる頭で何とか起き上がったものの、半分夢の世界へと飛んだ意識は如何ともし難いらしい。
何をするのかと見ていれば、ゾロは樽の上に置いてあった何か小さなものを取り上げた。
あちこちの灯りで微かなきらめきを弾くそれは、どうやら小振りな何かの刃物のようだった。

「カミソリ・・・?」

それは女性が使うような安全性の高いものではなく、ゾロやサンジが髭を剃るのに使っている大胆に刃が剥き出しになっているものだった。

その刃の部分を叩き、柄の部分からわざわざ外す。
指に挟んで具合を確かめるように腕を振り、くっと視線を上げた。


途端に――ザワリ、と肌の上を走る悪寒。


それは、一種の危険信号のように感じられた。
おそらく野に放たれた草食獣が、茂みに隠れた肉食獣の気配を察知する感覚に似ているのかもしれない。

ナミは何とはなしに、意識しないまま本能で後退していた。
冷や汗のような、それでいてどこか興奮させられるような奇妙な感覚に、どくどくと心臓の音ばかりがやけに近い。
そのことさえ察知しているのか、その様子を悟った男は口の端を吊り上げるように笑った。

刹那。


風が――奔った。


ぶわりと大きな風の塊が通り過ぎたような錯覚に、思わず腕を上げて目元を庇う。
髪が靡いて大きく揺れ、やがてそれが収まった頃にそろそろと周囲の様子を窺うべく手を下ろす。

いつの間にか、ゾロはナミの背後に背を向けたまま立っていた。
軽く片腕を上げたままの姿勢で、チラリと肩越しに視線をくれる。
斜めに見下ろした翡翠の双眸と目が合い、ナミが訝るような顔をした瞬間――男はニッと笑った口許で小さく呟いた。

「・・・刀狼流し」

踵が一度、音をたてて床を蹴る。
それと同時に、ナミの身体を包んでいた殆どが解放された。

つまり・・・僅かな下着を残したきり、今日身に着けていたキャミソールとミニスカートが残らず細切れになって風に舞ったのだ。

「き・・・きゃあああああああッッ!!!

「すす、スゲー、スゲー! やっぱゾロって刃物の扱いに関しては超一流なんだなー!」
「いやいやいやいや! それは認めてもやぶさかじゃねぇが、何でナミを対象にすんだよ!! この場合コロされんのは誰だ、やっぱ主犯のゾロか!?」
「当たり前だ、てめぇらなんざ剥いてナニが面白ェ」

ナミは真っ赤になり、どこからツッコんでいいものか目を白黒させながらとりあえず自分を抱くように腕を交差させた。
もちろんそんなものでこのあられもない姿を隠すことなどできないのだが。

「ってなわけでな」

手にしていたカミソリを投げ捨て、おもむろにゾロはナミに向かって近づいた。
大股に歩み寄り、気づけばナミの身体は瞬時にしてその分厚い肩の上に担ぎ上げられていた。

「な、な、ナニすんのよッ! 下ろしなさいよ、このド変態、スケベ、エロマリモ!!」
「なぁに、この後のプレゼントの授受をやりやすくしただけだ、気にすんな」
「私をひん剥くことがプレゼントってわけ!? ジョーダンじゃないわよ、罰金よ罰金!!」
「だから、プレゼントは『俺』だって。何でもリクエストしてくれていいぜ? 今夜一晩、何なら朝までたっぷりみっちり“ご奉仕”するからよ」

尊大に言い切る男の言い草に、ナミは呆れていいのか照れていいのか意識まで麻痺して完全に声が出なくなってしまった。

「だ、だから私が言いたいのは――」
「言っとくが、あんまここにいるともっと凄ェ姿を披露する羽目になんぞ? 何せさっきの技は、あいつらに全部見せなくてもいいようにわざわざ時間差になるよう仕掛けたんだからよ」
「・・・え?」
「ってなわけで・・・おい、ロビン!」
「何かしら、剣士さん」
「今夜は見張りでもしながら女部屋に下りて来んな。明日と明後日の見張りは、2連続俺で構わんから」
「あらあら、ご馳走様。そうね、野暮は言わないことにするわ。航海士さん、素敵な夜を」
「バカァ! 私は納得してな・・・きゃああああああッッ!!!」

再び盛大な悲鳴が上がり、やがてそれは尾を引いて船内の女部屋へと吸い込まれて行った。





絹を裂くナミの悲鳴に、お互いしがみついたまま硬直していたウソップとチョッパーがようやく我に返る。
恐る恐る辺りを見回し、散々な結果に肺が萎みそうなくらい大きな溜息を漏らした。

不意に風が流れる。
女部屋へと続く階段の方からのそれに乗り、チョッパーの手元に何かの端切れのようなものが飛んで来たのが見えた。

「・・・何だ、コレ?」

蹄の手先で摘み上げる。
それは、細切れになった淡いピンクのレース仕様の布地だった。

そして更に思い出せば、それらはナミの身体を守っていた『最後の砦』に酷似していた・・・。

慌てたウソップはそれをむしり取って投げ捨て、チョッパーを引き摺るように男部屋へと引き上げて行った。



見張り台で満天の星空を見上げ、ロビンは何気なく拾って来たカミソリの刃を指先で弄んでいた。

「ふふふ、さすがは剣士さん、侮れないわ。まるでどこかのスケバンね」


・・・もしもし、ロビン姐さん?(←天のツッコミ)



Happy Birthday Dear NAMI。良い夢を・・・



   <FIN>


真牙サマ(Baby Factory)の、'06ナミ誕DLF作品。


エロゾロは健在でした(笑)。

ナミさんの誕生日なのに!ナミさんの誕生日なのにーー!!
確実に自分のほうがイイ思いをしていますよ剣豪!!!!
あぁもう、このパーティーに参加したかった(爆)。

ウソプーとチョッパーはガッツリ見ちゃったようですが、サンジくんは・・・・・・
勿体無いことしたね、サンジくんvv
てかサンジが潰れるの待ってたのかなゾロvv
そしてロビンちゃん年齢バレますよvv(笑)

破いた服の弁償で剣豪の借金はまた増えますな。

2006/07/04


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