*注意*

・これは2009年11月3日のワンピオンリーイベントで配布した無料本のSSです。
・多少の加筆、訂正をしております。
・当時はまさかミホ様のお城とは存知上げず……。

・というわけで、ペローナ×ゾロ×ナミの完全なる捏造話です。



ご了承いただけた方はどうぞ。













かわいいモノがないという孤独な環境におかれていたペローナは、自覚できるほど「それ」を発見した瞬間は新しいおもちゃを得た子供のように胸を弾ませていた。

おそらくは自分と同じようにしてあの男に飛ばされてきた「それ」は、残念ながら自分の仲間ではなく、麦わらの仲間の剣士だった。
最初に会ったときから生意気な目つきと口調が気に食わなかったのだが、傷だらけでぐったりと地面に横たわる男の胸の傷に気付いて、少しだけ興味が湧いてきた。

まるでクマシーみたいな縫い跡。

今ここに居ない部下を思い出してまた気分が沈んできたが、だがこの男も白い包帯でグルグル巻きにでもしたらきっと少しはカワイクなる。
刀はカワイクないから隠してしまって、やたらに鍛えてる筋肉も目つきの悪い顔もグルグルグルグルと包帯を何重にもして……。

しばらく見下ろしていたペローナだったが、そう考えて男を屋敷の中に運んだのだった。



だが目を覚ました男は全然かわいくなかった。
低い声だし顔は怖いしやっぱり生意気な口をきくし、人の話は聞かない。
せっかく包帯を巻いて眠いのを我慢して看病してやったというのに、文句を言いながら邪魔そうにそれを剥ぎ取ろうとする。
やはり寝ている間にマスクをつけておくべきだった、とペローナは後悔した。
口を縫い合わせる手もあったが、生身の人間の体へのそういった類いの処置は生憎自分の得意とする領域ではない。

それでも男はかなりのダメージを負っていたのか、最初に目覚めてからしばらく叫んだあとはまた大人しくベッドの上に寝転んだ。
こんな風に静かにしていればやっぱりカワイイかもしれないと、ペローナはどうにか自分に言い聞かせまたほどけかけた包帯をぐるぐると男に巻きつけた。

男の傷は、胸に斜めに走る大きなものをはじめ、全身に及んでいた。
くまに付けられたもの以外にも、古い傷がたくさんある。
最初のぐったりとした様子から察するに、おそらくは見えない部分でも相当の傷を負っているのだろう。
ホグバックがいれば(もうすぐ勝手に空きそうな)強い体を見つけたと喜んだろう。
なんせ、死にかけとは言え高額賞金首だ。

ふと気付くと、男は眠っていた。
お礼の一言もなしかよ、と思いながらも、結局ペローナも睡魔に負けてそのまま椅子で眠ってしまった。














体中に湿気のまとわりつく、まさにじめじめという表現がぴったりな場所でゾロは目覚めた。
先程一瞬目覚めたときは外は明るかったが、今は薄暗くなっている。
どのくらい眠っていたかは分からないが、ベッドの脇に置かれた椅子にはもう誰も座っていなかった。

「…なんで…あの女がいたんだ…?」

ゾロはぼんやりとした声で呟いて、体を起こす。
全身からギシギシと軋む音が聞こえるようで、舌打ちをして体を起こした状態でしばらく腰を捻ったり腕を伸ばしたりした。
そうやって体を動かすと、大袈裟に巻かれた包帯が緩んだのかぱらぱらとほどけていく。
どうせジャマだ、とゾロはそれを全て取った。


「あ、てめぇまたほどきやがったな!」

突然の女の声に、入り口へと目をやるとそこにはあのゴースト使いが立っていた。
片手には皿の乗った盆を持っている。

「せっかく人が…」

ブツブツと文句を言いながら、ゴースト使い…ペローナは盆をベッド脇のテーブルにガシャリと置くと、険しい顔でゾロのほどいた包帯をまたしつこく巻き始めた。
女とはいえ敵だった相手だけにゾロはその手を払おうとしたが、ふと思い出して動きを止めた。

「…お前が手当てしてくれたのか」
「そうだよ。何か文句があるのか?」
「いや、ありがとう」

そう言ってゾロは素直にペローナの手当てを受けた。
先程は何も言わず寝てしまった男からあっけなくお礼を言われてしまって、ペローナは照れと苛立ちからゾロを睨みつける。

「私は召使いが欲しかっただけだ! さっさと動けるようになって私に仕えろ」
「ここはどこなんだ?」
「話を聞け!」
「刀はどこだ」
「さっきも言ったろ、武器なんか渡すか!」
「酒はないのか」
「自分で探せ!」

ベッドの端に座り込んで、細い体で必死に男の体に包帯を巻こうと奮闘しながらわめくペローナを、ゾロはじっと見つめた。

髪の色が小さな船医を思い出させ、うるさい小言は『あいつ』みたいだ。

そう思いながら、ゾロは眼前のペローナの頭を無意識のうちに撫でていた。
一瞬固まり、きょとんとして顔を上げたペローナは、慌ててその手を払いのけた。
小さな手から離れた新しい包帯がコロコロと床に転がって行く。
ベッドから飛びのいたペローナはだんだんと顔を赤くしていったが、一方のゾロは平然としていた。

「いいいいきなり何するんだてめーは!」
「何となく」
「ふざけんな! 私に喧嘩売ってんのか!? 私はゴーストプリンセスだぞ!」
「っちょ、待て」

ペローナの体からぶわりと出てきたゴーストが、止める間もなくゾロの体を通り過ぎた。
ベッドの上で『同じ空気を吸ってすいません……』と打ちひしがれているゾロを残し、赤い顔のペローナは部屋を出て行った。










夜になり、ペローナは再びゾロの部屋へと入った。
テーブルを見ると、粥の入っていた皿が空になっている。
だがベッドに目を向けると、そこはもぬけの殻だった。
驚いて部屋の中を見渡したが、丸まったシーツとほどいた包帯があるだけで男の姿はどこにもない。
あの傷でどうして動けるのかと首をかしげつつ、「動けるなら私にココアでも淹れろよ!」と叫びながら部屋を飛び出し、ペローナは屋敷中にゴーストを飛ばした。

十分近く色んな部屋を覗いた途中で、ゾロを見つけた。
腰には三本の刀がちゃっかりと納まっている。
隠しておいたのに!と心中で舌打ちし、ペローナは駆けつけてゾロの後姿に叫んだ。

「おい、海賊狩り! 動けるんなら私のために動け!」
「おぉ、ちょうどよかった。便所どこだ」
「……部屋をすぐ出たとこにあったろ」
「見てない」
「真正面だぞ?」
「そうか。じゃあその部屋ってどこだ」
「……お前、迷子か」

広い屋敷とはいえ、別に迷うほどのものではない。
ここに来たその日に屋敷の中を全部見て場所を理解したペローナには、部屋どころかトイレさえ見つけられなかった男の感覚が理解できなかった。
こいつ本当に賞金首なんだろうかと疑いつつ、ペローナはゾロのいた部屋の方へと向きを変え歩き出す。
ゾロも無言でその後に続いた。

「…そういえばお前ら、オーズとモリア様はどうした?」
「あぁ? あー、倒した」
「……別の七武海が来ただろ?」
「……あの場では収まったが…別のところでまた遭遇して、このザマだ…。なぁ、他のヤツらもここに来てねぇか?」
「いや…見てない…」
「そうか……」

あの化け物とモリアを倒したうえに、暴君を一時は退けた…。
やはり揃って高額賞金首だけの強さはあるらしい。
ペローナはそう思って歩きながらちらりと背後に目をやると、ゾロは険しい顔で窓から外を見つめていた。
その表情に驚いて、慌てて前へと顔を戻した。


その後、「動けるなら夕食を作れ」と言うペローナと「酒があればいい」というゾロの意見が一致せず、ペローナは自分の分だけ作りゾロは酒を発見してひたすらそれを飲んでいた。
お互いそのまま部屋に別れたのだが、隣の部屋から盛大に聞こえる腹の音に、「音がかわいくない」という理由でペローナは結局夕食を作ってやったのだった。












食欲も満たし体力回復のためすぐにベッドに戻ったゾロは、女の甲高い悲鳴を聞いて飛び起きた。
ベッド脇に置いていた刀を素早く掴むと部屋を出て、声のした方へと向かう。
そこはどうやら風呂場のようで、髪をほどいたペローナはまだ服を着ていたが、タオルを掴んで何かから逃げるように脱衣所の隅にしゃがみこんでいた。
今まで見せていた振る舞いからは想像できないほど顔を青くして子供のように涙を浮かべ、震えている。

「おい、どうした!?」
「ゴキブリーーーー!!」
「あぁ? …なんだ、ゴキブリかよ…」
「ゴキブリやだやだやだ取って取ってあのカゴの裏に隠れてるから取って早く取ってーー!!」
「ったく…」

ゾロはペローナが泣きながら指差したカゴに近づき、ひょいと持ち上げた。
その行動に後ろから悲鳴がまた盛大に聞こえてきたが、無視をする。
カゴの下から姿を現した黒い生き物は、カサカサと素早く動いてその身を隠そうとしている。
ゾロはすらりと刀を抜いて、「悪く思うな」と呟いてからそれを『退治』した。
それから鏡の前にあったティッシュでそれを包んで、振り返る。

「おい、始末したぞ」
「………」

相変わらずペローナは泣いていて、たかがゴキブリで過剰な反応だなと思ったが別に追求することはせず、
ゴミ箱を発見できなかったゾロはティッシュを持ったまま処分するため脱衣所を出ようとした。

「………ありがとう」

微かな呟きが背中に届き、ゾロはふっと笑った。














翌朝、空腹で眠れない、なんてこともなくぐっすり眠ったゾロはベランダに出た。
眼下には鬱蒼と繁った森が広がり、時折不気味な動物らしきものの鳴き声がしている。
お世辞にも爽やかな朝とはいえない。
ゾロはそんなものにはかまわず意識を周囲にめぐらすが、仲間の気配を感じることはできなかった。

あの男が何をしたのかは分からないが、自分が今こうして生きているのなら、他のクルーも同じようにどこかにいるに違いない。
同じ場所にいるかどうかは分からないが、この屋敷の中にとどまっている場合ではないのは確かだ。

「ロロノア! 朝飯だ! あんなかわいくない音は二度とさせるなよ!」

バンと勢いよくドアを開けて、盆を持ったペローナが入ってくる。
ゾロはもう一度外を見渡してから、室内へと戻った。
ペローナはテーブルに皿を置くと、キッとゾロを睨みつける。

「いいか、これは昨日の借りだ。次からはお前が作れよ、お前は私の召使なんだから」
「これ食ったら、出る。世話になったな」
「え?」

人の話を全く聞かず、いただきますと手を合わせてからスープを飲むゾロに、ペローナは抗議するのも忘れて思わず聞き返した。

「ど、どこに行くつもりだ」
「仲間を探しに行く」
「探しに…ってアテでもあるのか?」
「ない」
「それでどうやって探すんだよ」
「何とかなる」

ゾロはそれからあとは黙々と食事を続けた。
ペローナまで黙ってしまったから、室内はしんと静まり返っている。

「……ゴハンも食べさせてやったのに」

小さな声でペローナがそう言ったときには、ゾロはもう食事を終えて立ち上がりかけていた。

「私に仕えもせずに逃げるつもりか!」
「恩は忘れねぇよ」
「ふざけるな! バーカ! てめぇなんか全然かわいくねーんだよ!」
「あ?」

何故か変なキレ方をしている女にゾロは首をかしげる。
それがまた苛ついて、ペローナは自らの体から巨大なゴーストをゆらりと出した。

「のたれ死ぬとこだったお前を、この私が拾ってやったんだぞ!」
「おい、落ち着けよ」

このデカいゴーストがどういうものかゾロは知らなかったが、ネガティブになってしまうアレと同じ類なら、このサイズだったらどれだけマイナス思考になるんだと顔をしかめる。
ペローナから目を離さずに、ゆっくりと距離を開けた。
一宿一飯の恩があるとはいえ、攻撃されればゾロは斬る。
刀に手を当てたその殺気に気づいたのか、ペローナが今度は小さなゴーストも出してきた。
ペローナがそれらを向かわせるのと、ゾロが外の気配に気づいたのが同時だった。

「動くな!!」

ゾロが叫んだ次の瞬間には、その迫力にあてられたペローナ自身もゴーストたちも言葉どおり動くことができず、ゾロはベランダへと駆け出していた。


ベランダの手すりから身を乗り出すようにして目を走らせたゾロは、上空にひとつの影を見つけた。

「ナミ!!」

まだ遠くてはっきりとは見えないが、徐々に近づいてくるその影は間違いなくナミだった。
何かにしがみついて、叫んでいる。
明らかに自ら望んだ落ち方ではない。
それはスピードをつけて落下していて、速度を緩める気配はなかった。
舌打ちをして、ゾロは手すりに足をかけるとそのまま勢いをつけて飛び出した。
うまく空中でナミをキャッチし、そのまま一緒に落下していく。


一方ペローナは何が起こっているのか、理解するまでほんの少し時間を要した。
女の叫び声のような音が近づいたかと思ったら、ロロノア・ゾロが視界から消えた。
それから声が遠ざかり大きな何かが地面にぶつかる音と、太い木の枝が折れる音がして、屋敷全体が少しだけ揺れた。
そこでようやくはっとして、ベランダに急ぎ下を見下ろす。
土埃と折れた木々でよく見えないが、そこにゾロがいるのは間違いなかった。

「あの…バカ野郎!」

ペローナは毒づいて、己の霊体を出して同じようにベランダを越えた。











「…おい、おい! ナミ!」

ゾロは自分の胸の上で気を失っているナミの肩を軽く揺すった。
ナミを空中で胸に抱きかかえ、下に向けて斬撃を飛ばし衝撃を幾分和らげたとはいえそのまま地面に激突したゾロは、
放射状にひび割れ抉れた土の上でナミをしっかりと抱えたまま横たわっていた。
さすがにダメージがあってしばらく起きられなかったが、ナミの反応がないものだからゆっくりと体を起こした。
そうするとナミがくたりと胸に倒れこんできて、ゾロは一瞬青ざめる。

「ナミ!」

何度か叫ぶと、ようやくナミがうっすら目を開けた。
ゾロはほっと息を吐き、オレンジの髪を払いながらその顔を覗き込む。

「おいナミ、しっかりしろ」
「………ゾロ…? 何でここに…?」
「お前こそ、どっから来てんだ」

弱々しくはあるがナミがぎゅっと背中を掴んできたので、ゾロはあまり力を入れないように抱き締めた。

「私…空島に居て…」
「空島ぁ? まさか落ちたのか?」
「ううん、あの、タコバルーンで…」
「あぁ、アレか」
「それが、思ったより早くしぼんじゃって」

ナミはふと気付いてゾロから少し体を離した。
二人の視線の先では、仕事を終えた哀れなタコが潰れてナミの足に引っ掛かっていた。

「………お疲れ様…」
「あいつ、タコ焼き作れっかな」
「…あいつ?」
「ここ、先客がいるんだ」

ゾロはそう言いながら、立ち上がると器用にタコを手に取ったうえでナミを両腕で抱き上げた。
抉れた地面から脱出すると、傘を差して浮いていたペローナと目が合った。
ペローナは値踏みするように、じろじろとゾロの腕の中の女を観察する。
ナミもその視線に気付いて、じっとペローナを見上げた。

「……海賊女か」
「…なんで、あいつがここに」
「だから、先客だ。なぁお前、タコ焼き作れるか?」
「たこやき? 知るか」
「じゃあ適当に頼むわ。ナミ、ケガは?」
「え? あ…、そんな酷いのは無いわ」
「そうか。とりあえず中入るぞ」

ナミは何故ゾロが敵の一味であった女と親しげなのか分からず、ペローナに険しい視線を送る。
目が合った瞬間に女の勘が働いて、わざと力をこめてゾロの首に腕をまわす。
一方ペローナは海賊女とゾロの関係が分からず、だが何故それが気になるのかも分からず、女を大事そうに抱くゾロを苦々しく睨みつけていた。









「おいお前、ここを出るんじゃなかったのか」

ナミをそっと自分が寝ていたベッドに横たわらせたゾロは、ペローナの言葉に振り返った。
本体に戻ったペローナは、ベッドの上でこちらを探るように見てくるナミを睨み返している。

「ナミの状態が落ち着けば、出る。まぁ長居はしねぇよ、一日程度だろ」

ベッドの枕元に腰を下ろし、ゾロはそう答えた。
無意識なのかナミの髪を梳くように触れている。
ナミはそれを当然のように許していて、そのことにペローナはまた苛立ってきた。

「言っとくけど、その女に使わせてやる部屋は無いぞ」

ケガは無くとも精神の消耗の激しかったナミは横になったまま、ペローナをじっと見つめていた。
ここでもまた、女の勘が何かを感じ取っていた。

「部屋なら腐るほどあんじゃねぇか」
「うるせぇ。ここは私の屋敷だ」
「いいわよゾロ」
「あ?」

ナミはペローナから視線を外さずに、頬のあたりにあるゾロの手に自分のそれを重ねた。

「ゾロと同じベッドでいいから」
「狭いぞ」
「船よりは広いじゃない」
「まぁな」

わざと二人の仲を見せ付けるようなナミの言動に、ペローナは自分の中にモヤモヤとした感情が湧いて出るのを感じていた。
この二人が近くにいるのに腹が立つ。
この女の勝ち誇ったような顔に腹が立つ。

「…てめぇは、アブサロムの花嫁だろ!」
「違うわよ」
「違ぇよ」

二人が声を揃えて否定する。
女はともかく、ゾロの即答っぷりにペローナのイライラは頂点に達した。

「もういい! 勝手にしろ!」

力いっぱい叫び、二人を睨みつけてから部屋から出て行った。



「…ねぇゾロ、明日になったら出ましょう」
「…珍しいな、もう少しゆっくりしていく、とか言うかと思った」
「ちょっとね」

不思議そうな顔をするゾロに、ナミは曖昧な返事をして微笑む。
目が合ったときから、女の勘がしつこく告げていたのだ。
あれは恋敵だと。

「ねぇ、私がここに来るまで二人で――」
「きゃーーーーーーー!!!!!!」

ゾロの手をぎゅうと握ったナミの言葉を遮るように、唐突なペローナの叫び声が響き渡る。

「な、なに!? 敵襲!?」
「いや…多分アレだ」

ゾロは苦笑して、立ち上がる。
その手が自分から離れ、ナミは慌てて体を起こした。

「ゾロ、どこ行くのよ」
「ゴキブリだ。苦手らしい」

そう答えたゾロの手をナミは掴んで、強く引っぱった。
ガクンと体勢を崩され、ゾロは片眉を上げて振り返る。

「行かないでよ」
「…心配すんな、この部屋には出てねぇから、今のところ」

ゾロは呑気に笑ってナミの頭をぽんぽんと叩くと、手を解いて部屋から出て行った。
残されたナミは、閉じた扉を見つめて深く溜息をつく。

「鈍いのよ、バカ!!」









ゾロは声を頼りに発信源へと無事辿り着いた。
キッチンのテーブルの上では、ペローナがやはり膝を抱えて泣いていた。

「出たのか?」
「ロロノアゴキブリーーーーー!!」
「おれがゴキブリみてぇじゃねぇか…」

ゾロはペローナの指差す方向を探し、先日と同じように淡々と始末した。
それからキッチンの中を見渡して、ペローナへと向き直る。

「もういねぇぞ」

テーブルの上のペローナは、グスグスと鼻をすすりゾロを見つめる。

「……海賊女は」
「部屋にいる」
「置いてきたのか」
「いちいち連れてきてどうすんだよ」
「………」

ゾロは答えながらキッチン内を漁り、酒の他にチーズや缶詰を探し当てた。
ペローナはテーブルから降りて、ゾロの傍に立つ。

もう包帯もグルグルとは巻いていないし、クマシーとは似ても似つかないし、やっぱり生意気で全然可愛くないのに、どうして傍に置いておきたいと思うんだろう。

ペローナは自分の感情が不思議だったが、多分ゴキブリを退治してくれるからだろうなと自分で結論づけた。
あのネガっ鼻のせいで、前以上にアレが嫌いになってしまっているのだ。
クマシーも部下も居ないここで、アレが出たら自分で退治しなくてはいけない。
そんなのは耐えられない。

「なぁ、本当に出て行くのか」
「あぁ」
「しばらくここにいればいいじゃねぇか。仲間探しはあの女にまかせて」
「何言ってんだ」
「それに、アレが出たらどうするんだよ!」

ペローナは自分でも意外なほど、必死にゾロを引き留めようとしていた。
だがそれはあくまでもゴキブリ退治のため、と本人は信じていた。

「慣れりゃどうにかなるだろ」

軽く笑って、ゾロは船医の帽子と同じピンク色の頭を撫でた。
ゾロにはそれは無意識のクセのようなものだったが、ペローナはまた顔を赤くして俯いた。

こういうのは、子ども扱いな上にナメられているようで気に食わない。
腹が立つ。
だがタチの悪いことに、嫌ではないのだ。
ペローナは赤い顔のままキッとゾロを睨み上げると、無言でキッチンから出て行った。









翌朝、ある程度復活したナミとゾロは出発の準備を始めた。
と言っても私物があるわけではなく、酒と食糧を用意するだけだったので別の部屋で発見したリュックにそれを詰めるだけで終わった。
ペローナはこの日は朝食を持ってくることはなく、姿も現さなかった。

「勝手に行きましょ」
「あぁ…そうだな」

ゾロはリュックを肩にかけると、ナミと共に屋敷を出た。
敵ではあったが借りの出来た女に出発の挨拶くらいはすべきかと思ったが、見当たらないのでは仕方が無い。


屋敷の大きな扉を閉めると、ナミと共に人気のない森へ続く道を歩いていく。
だが数分進んだところで、二人は人影を見つけた。
ピンク色の髪を持つその人影は傘を差して木に寄り掛かっていて、二人に気付くとフンと笑って木から離れた。

「……何してんだ?」
「私も一緒に行ってやる」
「何でよ」

目が合ったペローナとナミの間に火花が散るが、ゾロは気付かなかった。
ナミはすすす…とゾロの傍に近づくと、牽制するように腕をからめる。
ペローナはその光景を見ながら眉間に皺を寄せ、ナミに向かって宣言する。

「私も行くぞ」
「は?」
「何でよ!」

ナミの抗議も聞かず、傘を差したままペローナはスタスタと進みゾロの前に立った。
しばらく無言で見合っていた二人だが、ふいっとペローナは視線を逸らす。

「…お前には恩を返してもらわなきゃなんねぇからな」
「だからって何で付いてくるのよ」
「アレが出たら、こいつがいないと困るんだよ」
「そんなの屋敷を出たら関係ないじゃない!」
「う、うるせぇ! てめぇはアブサロムと式でも挙げてろ!」
「誰が挙げるか!」

女二人が何故か突然ケンカを始めてしまい、ゾロは口を挟まずにそれを見守っていた。
原因が分からない以上、下手に首を突っ込んでいかない方が無難だと、脳内で誰かが叫んでいる。

二人の口喧嘩は終わる様子はなく、その喧嘩の原因であるゾロは相変わらず意味が分かっておらず、結局三人がその場を動いたのは三十分も経ってからだった。




2009/11/03発行、2011/02/25加筆修正

というわけでペロゾロナミです。
今ならばミホーク様も絡んでくるわけで、ペロゾロミホなトリオ話に心躍るわけで。

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