主。













森の中で、娘を拾った。


意識も無く、土で汚れ擦り切れた布を纏って倒れていた。
怪我をしているようではなかったが、
目が覚める様子もなかったので、
そのまま背負って家に連れて帰り、
簡単に体の汚れを落として、布団に寝かせた。











囲炉裏で晩の飯を作っていると、娘が目覚めた。




 「気が付いたか」

 「・・・・・」

 「名前は?」




体を起こし、きょろきょろと頭を動かしている娘に声をかけるが、
何の言葉も返さない。



 「おい・・・・・聞こえるか?」



こくりと娘はうなずいた。



 「名前は?口がきけないのか?」

 「・・・・・・・・・ない」



ようやく、かすれた声で娘は口を開く。



 「ナイ?それが名前か?」

 「違う。名前は、無い」

 「・・・・親は?」

 「・・・・・・」




再び口を噤んでしまった娘を見て、
捨てられたのか、と思い、向き直る。



 「里はどこだ?何故あの山にいた?」

 「・・・・覚えて、ない」



そう言った途端、娘の腹が大きな音を立てた。
娘は不思議そうに自分の腹を押さえている。

その姿が可笑しくて、くっくっと笑って、椀に飯をついでやる。



 「まぁ食え」



娘はそれを受け取り、珍しそうに中身を覗き込んでいた。



 「変な娘だな」





親に捨てられたのか、
はたまたどこからか逃げてきたのか。

どちらにしろ、娘一人をこのまま追い出すわけにもいかない。

容姿の割りにどうも、喋り方が幼いようだが、
元々なのか、ショックでも受けて一時的にそうなっているのか。
とにかくこの娘の様子では、また山の中で行き倒れてしまいそうだ。





 「なぁ、行く場所が無いなら、ここに居てもいいぞ」

 「・・・・無い」

 「名前も無いのなら、私がつけてやろう」





じっとこちらに視線を寄越す娘の顔を見ながら、考える。





 「そうだな・・・・ナミ」

 「なみ」

 「そうだ、ナミ。ナミと呼ぶぞ?いいか?」

 「いい」

 「私はゾロだ。よろしくな、ナミ」

 「ぞろ」

 「そう、ゾロだ」











それから、ナミは私の家で過ごした。

どうやら自分のことや過去の記憶が無くなっているらしいが、
2,3日もすればそれも気にならないのか、よく笑うようになった。


意外にも仕事をこなす奴で、
一人で暮らす身ではどうも手抜きになりがちな料理や掃除を、
ナミはきちんとこなしてくれた。

里の者からは、どこからか嫁を見つけてきたとからかわれたが、
詳しく話す気にはならなかった。



ただ、里長だけは、
怪訝な眼差しでナミを見ていた。















ナミは美しかったし、よく尽くしてくれた。
このままこの娘と祝言を挙げようと、そう本気で思い始めた、
一月がたった日。

目が覚めると、隣のナミの姿は消えていた。





















 「あれは、山の主(ぬし)の娘だ」

 「・・・・主の?」




ナミが消えてから数日、里を走り回りナミの姿を探したが、見つからなかった。
山を越えて隣の里へ行ってしまったのか。
そう思って、明日からはまず山を探そうと準備をしていたところに
里長がやってきて、そう言った。




 「何故、山を護る主が、人の姿で里に下りてきたのかは分からん。
  単なる気まぐれやも知れんな」

 「・・・・」

 「ゾロ、呑まれてはいかんぞ」

 「・・・・・もう・・・、あいつには逢えないのですか」

 「あれは山そのもの。
  逢いたいなら、山に行けばよい。
  だがお前にその姿が見えるとは限らん。
  もう、人の姿ではないだろうよ」

 「・・・・・・・」

 「ゾロ、あれは人ではないのだよ」










そうして里長は帰って行った。


私にどうしろと言うのだ。
ナミを、忘れろと?

ナミを?
















その夜、夢を見た。


小さい頃の夢だった。
山を走り回ることが好きだった私は、
夢の中でも一人、山の中を駆けていた。


途中、何かの声が聞こえた。
苦しそうに、呻いている声だった。

草木をかき分けその声の方へ向かっていくと、
そこには、
罠にかかり呻いている、大きな白い鹿がいた。

どこの阿呆が仕掛けた罠かは分からないが、
そこは昔から山の主の土地とされ、
里の者も、その土地での狩りは法度とされていた。


私は急いで駆け寄り、その鹿の足に食い込んでいる罠を、
何とか外してやった。

外れた瞬間に、鹿はぴょんと跳ねて私から離れ、
振り返り、私をじっと見つめてきた。

その目があまりに鋭くて、
私は体が竦んで動けなくなった。





   小僧、礼を言う



突然聞こえたその言葉に、
誰かと思い私は目を左右に走らせたが、何も無い。

それは耳からではなく、
直接に頭の中に響いてきた音だった。

いまだ体が固まっていた私は、
何とか頭を動かし周りを見渡してみたが、
あるのはただ、
目の前の美しい白い鹿だけ。


子供の私は、直感的に『これが主か』と判断した。








   礼を言う



   お前が成人となったとき、我はお前に娘を差し出そう




   もしそのとき、我が娘を愛すとお前が願うなら

   我と我が娘は、お前をその死の時まで愛してやろう







山の主に愛されることの意味は、子供ながらに理解していた。


鹿の姿をした主が、山深くに消えていくのを見送りながら
自分は将来、山の主の娘を嫁に貰うのか、と思った。



















目が覚めて、思い出した。

すべては、あのときの。



だがあのとき主は、私の死の時まで愛してくれると言った。



主と、

主の、娘。




ナミ。











 『あれは人ではないのだよ』



それが何だというのだ。

人だろうと、山の主の娘だろうと。

そんなものは、問題ではない。





 「ナミ」



真っ暗な部屋に、低く響く、その名前。







ナミ

戻ってきてくれ

愛してるんだ


私は

お前を愛したい












布団に寝転がったまま、片腕で目を覆い、じっと静けさに耐える。


そのとき、扉を叩く音が、小さく響いた。





 「・・・・・誰だ・・」

 「・・・・・」

 「・・・・っ!!!」



急いで起き上がり、転がるように扉に向かい、勢いよく開ける。





そこには、ナミが立っていた。



 「・・・・・・ナミ・・・」





ナミは、笑っていた。
出会ったときとは違い、美しい着物を纏っていた。
ただ、その笑顔は何ひとつ変わっていない。





 「私を愛してくれますか?」

 「ナミ・・・・・」

 「あなたが私を愛してくれるなら、私と父は、あなたを永遠に愛します」

 「ナミ」




にっこりとナミは微笑む。






 「一緒に、生きてくれますか?」






震える手でその頬に触れると、
ナミは嬉しそうに目を閉じる。




 「・・・もちろんだ。私の傍に、居てくれるか?」

 「はい」




微笑むナミを抱き寄せる。







たとえこの身が、人であろうとなかろうと

今確かにこの腕の中にある存在。




これ以上愛すべきものは無いと、

そう思った。





「ゾロがボロボロになったナミを拾ってラブラブに」
10/6に拍手でリクくれた方。
ボロボロ・・?ボロボロ・・・・・?
ボロボロの意味違う?(笑)

現代パラレルで書こうとしたら、
『こういうのどっかで読んだ・・・』ってなったのでボツ。
え?これも似たようなモン?

2005/10/27

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