温。
「ゾロ・・・・」
「・・・起きたのか・・・、タオル変えるか?」
ナミが倒れてから、皆は交替で看病しながら、
医者のいる島を求めてひたすらに船を走らせていた。
アラバスタのことも気になるが、
ビビの発言もあり、
メリー号ではナミのことが最優先事項となっていた。
今はゾロがナミを看る番だったが、
先程まではルフィが一緒にいた。
ルフィはナミの枕元に椅子を引き寄せて、その顔を覗き込んでいた。
だが島が見つかった、との報告を聞いてルフィは出て行ってしまい、
そのままゾロはベッドから離れ、立ったままでナミを見つめていた。
「ゾロ・・・」
ナミはゾロの名を呼ぶ。
ゾロは寄りかかっていた本棚から離れ枕元まで行き、
右手を伸ばし、ナミの額に触れる。
タオルを取ろうとすると、ナミがゾロのコートの袖を掴んだ。
弱々しいが、それでもしっかりと。
「どうした」
「私、死ぬかも」
ナミは空ろな目で、小さく言った。
額からタオルがずれて落ちた。
「バカ言ってんじゃねぇ」
一瞬言葉に詰まったゾロだったが、すぐにナミを睨んでそう言った。
「死ぬかも、しれない」
「ナミ!」
ゾロは本気で怒ったように、声を張った。
ナミの瞳に涙が浮かぶ。
「怖いの」
「・・・・ナミ」
「怖いのよ」
「・・・・・」
「・・・死にたく、ない・・」
「ナミ」
「死にたくないよ、ゾロ」
ゾロの手にしがみつくように、ナミは顔を寄せる。
「・・・」
「まだ、したいこと、・・・いっぱい、あるのに」
「・・・」
「眠って、目が覚めなかったらって、皆と会えなく、なったら、って」
切れ切れの息で、苦しそうにナミは言う。
また熱が上がったのか、
今まで皆の前で張ってきた虚勢が、崩れていた。
「死にたくない」
「ナミ」
「ゾロ、ゾロ・・・死にたくないよ・・・」
「・・・・」
ナミに掴まれた側の手はそのままに、ゾロはベッドの脇に腰掛ける。
片方の手はナミの髪を包むように添え、
体を倒して自分の胸にナミを抱いた。
「ナミ」
「ゾロ、怖いの」
「ナミ」
「真っ暗になって、独りになって、冷たくなって」
「ナミ」
「死にたくない」
「ナミ!」
ゾロの肩に顔を埋めるようにして、泣きながら必死に言葉を発していたナミを、ゾロは止めた。
「・・・・・」
「大丈夫だ」
「・・・・ゾロ」
「大丈夫だ、お前は死なねぇよ」
上に被さるようにしてナミを抱きしめたまま、ゾロは添えていた左手でナミの髪を撫でる。
「でも、怖いの」
「心配するなとは言わねぇよ、体もだりぃだろうしな。
でも不安になる必要は無ぇ。
お前にはおれたちがいるだろ?」
「・・・・・」
ナミの髪に口を当て、こもった声でゾロは続けた。
「おれたちが傍にいて、お前を死なせるわけ無ぇよ」
「・・ゾロ・・・」
「大丈夫だ、さっきの聞こえたか? 島だ。
さっさと医者引っぱってきて、ケツにぶっとい注射でも打ってもらえば一発だ」
「・・・・おしりの注射、痛い・・・」
ナミはクス、と笑った。
流れていた涙は、もう止まっていた。
「そんな文句は聞かねぇぞ」
ふっ、と笑って、
ゾロはナミの上から体を起こした。
目が合って、また2人で軽く笑った。
「・・・ちょっと、寝るね・・・」
「あぁ、準備できたら起こしてやるから」
「・・・・傍に、居てね」
「・・・あぁ、このまま手ぇ握っててやるさ」
ナミの手は、もうゾロのコートではなく、
ゾロの手を握っていた。
ゾロは手の向きを変え、ナミの手をしっかりと包み込んだ。
「おやすみ、ナミ」
「・・・・おやすみなさい・・・」
滅多に聞けない優しい声で、ゾロは言った。
ゆっくりと目を閉じるナミの髪を、ゾロはまた撫でた。
「ゾロ・・・」
「寝ろって」
「好きよ・・・ゾロ・・・」
「・・・・」
「好き・・・」
「・・・・・・・・・」
そう呟いて、ナミは寝息を立て始めた。
「・・・・くそ、うなされやがって・・・」
ゾロは舌打ちをして、握る手に力を込めた。
眠るナミを見下ろすと、相変わらずの苦しげな呼吸ではあるが、
先程見せた、今にも崩れそうな不安げな表情は消えていた。
ゾロはナミの額に手を伸ばし、汗を拭った。
新しいタオルを置いてやりたかったが、
手を握っているため身動きが取れない。
仕方ないので、常人よりも体温の低い自分の手を、ゾロはナミの額に乗せた。
それでも気持ちよかったのか、ナミは少し楽そうな顔になった。
だがすぐにナミの尋常ではない体温で、
その手も暖かくなってしまった。
手を離し、ゾロは再びナミの髪に手を滑らせる。
汗で額や首筋に張り付いた髪をはがし、
さっきまで額に乗せていたタオルで、首筋を軽く拭いた。
甲板では、クルーたちが上陸準備をする音が聞こえるが、
ゾロは手伝いに出る気はなかった。
何もできない。
ただ傍に居て、声をかけることしかできない。
無力な自分が、はがゆかった。
何もできない。
それでも。
死なせねぇ。
「おれが傍に居るから
だからさっさと治れよ、ナミ」
小さくそう呟いて、ゾロはナミの額にそっと唇を当てた。
体温と、汗の匂い。
間違いなく、それはナミが生きている証だった。
今さらシリーズ(笑)第3弾!ケスチア編。
他に今さらシリーズ、何ができるかな・・・。
微妙にまだゾロ×ナミではなくゾロ&ナミ。
しかもよくある展開だーー。
2005/10/21
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