囚。
目の前には、
泣きじゃくる少年と、
その傍らで横たわる、女性。
男もいた。
女性のものらしい、バッグを持っている。
もう片方の手には、銃。
頭を撃ち抜かれたらしい女性の横で、ぴくりともしないその体にしがみついて泣いている少年。
男はさらに、泣き喚く少年に銃を向ける。
それを見た瞬間、頭の中が真っ白になった。
そのあと、まず気づいたのは、自分の手のヌルリとした感触だった。
見下ろすと、血まみれの手に握られたのは、真っ赤に染まった棍。
そして、返り血を浴びて色を変えたシャツ。
足元には、ヒクヒクと痙攣する男。
その先には、倒れた女性と、
恐怖に目を見開いた少年。
「大丈・・・・」
「ひっ!!!」
そっちへ手を伸ばすと、少年は体をすくめて頭を抱えた。
「こっ、殺さないで!殺さないで!!!!」
「・・・・・」
伸ばした手を下ろすこともできず、そのまま固まった。
「ナミ!」
ナミを探しに来たゾロが見つけたとき、ナミは呆然と立ち尽くしていた。
ナミの体の血に気づいて、怪我をしたのかと急いで駆け寄るが、
その血は全て、ナミの足元に転がる男のものだった。
ゾロはしゃがんで男の首筋に触れ、
続いて女性にも同様に触れた。
「・・・おいお前、他に家族はいるか」
「・・・と、・・父、さんが・・」
ゾロは母親の隣で、ナミから隠れるように丸く縮こまっていた少年に、声をかける。
少年はビクビクしながらも何とか答えた。
「よし、早く親父んとこ行け」
「でもっ、母さんが・・」
「いいから、行け!」
ゾロの怒鳴り声に驚いて、少年はフラリと立ち上がり走り去った。
ゾロも立ち上がリ、ナミの正面に歩み寄る。
「ナミ」
ゾロの呼びかけにも、ナミは反応しない。
ゾロはナミが握り締めている棍を手から外し、分解して自分のシャツとズボンの間に突っ込んだ。
「ナミ」
何も見ていない空ろなナミの目を覗き込み、ゾロはその名を呼ぶが、
ナミはやはり反応しなかった。
そのままナミを抱きかかえ、ゾロは船へと戻った。
「あ!!戻ったぞ!!!」
「ナミさん!その血は!!??」
「怪我したのか!!!」
2人の帰りを待っていたクルーたちは、
ナミの血まみれの体を見て一斉に駆け寄ってきた。
「ゾロ!てめぇ何やってたんだよ!」
「心配すんな、こいつはかすり傷ひとつ負っちゃいねぇ」
「じゃあ何だよその血は!てめぇのか!?」
「・・・・風呂、入れる」
「おいゾロ!!!!」
ゾロはナミを抱えて風呂場に行き、服を着せたままでナミに熱いシャワーの湯をかけた。
それでもナミは、空ろな目のままだった。
ただかすかに震えながら、ゾロのシャツを掴んでいた。
ゾロはナミの髪や体を洗い終え、タオルでくるんで女部屋へとまた抱えて行った。
服を着せ、ベッドに横にならせたあと、キッチンへと向かった。
キッチンではクルーが全員集合していた。
ゾロが入ってからもしばらくは誰も何も言わず、無言の空気が流れた。
「・・・おいゾロ、説明しろ。何があった」
煙草を流しでもみ消したサンジが、ようやく切り出した。
椅子に座り腕を組んだままゾロは、しばらく目を閉じて何も言わなかったが、
ゾロ、とルフィに言われて話し出した。
「・・・おれが行ったとき、母親が撃ち殺されて、横でガキが泣いてた。
ナミの足元に、その親子を襲ったらしい男が倒れてた。
あいつの体の血は、その男のだ」
「・・・・ナミさんが、やったのか」
「あぁ、多分な」
再びキッチンはしんと静まり、一人サンジがクソっと舌打ちをした。
「ゾロ、その男は・・・」
「誰かが見つけてりゃ、まぁ生き延びてるだろうな」
「そ、そうか・・・」
ひとまず死んではいないことを確認して、チョッパーはほっと息を吐く。
「理性、また吹っ飛んじまったのか?」
「だろうな」
「明日になったら、また前みたいに忘れてんのかな」
「・・・・かもな」
「ならいいけどな・・・」
溜息をつきながらのウソップの言葉に、ゾロは片眉を上げた。
「何でも忘れりゃいいってもんじゃねぇだろ」
「・・でも彼女にとっては辛い記憶だぜ?忘れるにこしたこたねぇよ。
ナミさんも忘れたがってるから、覚えてねぇんだろ?」
「確かにあいつは忘れたがってるがな。でも、そんな弱ぇ女じゃねぇだろ」
ゾロの冷ややかな言い方に、サンジは反論する。
「ナミさんはそりゃ、他の女性に比べたら力も心も強いぜ。
でもだからって、わざわざ傷つく道歩ませなくたっていいだろ?」
「それで無意識の中で傷つくのは、結局あいつ自身なんじゃねぇのか」
「でも」
「いつまでもガキみてぇに、記憶飛ばして解決・じゃ済まねぇよ」
「そんな言い方無ぇだろ!!ナミさんを何だと思ってんだ!!!!」
サンジがキレて、ゾロの胸倉を掴みあげる。
ゾロが座っていた椅子が大きな音を立てて倒れた。
「どんな言い方しようが変わりは無ぇ」
「ナミさんの気持ちも考えろよてめぇ!!!」
「コックさん、落ち着いて」
ロビンに言われて、サンジは舌打ちをして乱暴にゾロから手を離した。
「・・・どう乗り越えるかはあいつ次第だ。
おれらがどうこうできる問題じゃ無ぇ。考えるも何も無ぇだろ」
「ゾロらしいな」
「・・・お前もそう思ってんだろ、ルフィ」
「別に」
黙ってゾロとサンジのやり取りを聞いていたルフィは、
妙に大人びた顔でそう言った。
(冷たい男ね、ゾロ)
キッチンの外の壁によりかかり、ナミはその会話を聞いていた。
(私ね、全部覚えてるの)
自分の手が、自分の棍が、
男の骨を男の内臓を潰したのを、全て覚えている。
ゾロは気づいているのだろう。
それでも何も言わない。
冷たい優しさで、私自身の行動を待っている。
いまだ過去の呪縛に囚われて、
過去の悪夢にうなされる。
解放されたはずなのに、
目の前の光景に理性を失う。
忘れようとして傷つく。
忘れたフリをしてまた傷つく。
腫れ物を触るように扱われることを拒絶して、
演じる事で真実にしようとする。
決して真実などになりはしないのに。
本当の解放は、自分の心の中。
分かっている。
自分自身で乗り越えねばいけないことだと、分かっている。
だけど。
もう少し、時間を。
きっともうすぐ。
だから。
だから、
今はまだ、
演じることを、許して。
イタイイタイイタイ!!!
ごめんよナミさん。
ゾロ以外に、ルフィとロビンあたりも気づいてますね。
ウソップとチョパは純粋なので気づきません。
サンジくんは優しすぎて気づきません。
あーーラブラブが書きてぇよ(笑)(書けるもんなら)。
2005/08/26
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