幻。












少女だった。










夜、嵐の気配を感じて外に出たナミは、船首のメリーの上に人影を見た。
ルフィが出ているのかと最初は思ったが、そうではなかった。



その人は麦わらをかぶっていなかったし、
服装も違っていた。
ルフィと同じ黒髪ではあったが、ルフィよりも小柄で、
何よりそれは、少女だった。








何故この船に女の子が、と思い、ナミはメリーへと近づいた。

ナミの足音が聞こえたのか、その少女は振り返り、ナミと目が合うとにっこりと笑った。










 「あなたは・・・・?」




ナミがそう声をかけた瞬間、少女はそのままふわりと背後へ倒れこみ、海へと消えた。




 「!!!」





ナミは急いでメリーの傍へ駆け寄り、海を覗き込んだ。

当然人の姿はなく、船壁にぶつかった波が月の光を浴びて白く見えるだけだった。






 「船を止めて!!!!」




ナミは声の限りに叫んだ。











見張りをしていたウソップが何事かと降りてきて、
部屋からは、ナミの叫び声を聞いたクルーたちが出てきた。







 「チョッパー、船を止めて!ウソップは明かりを!」




ナミは海面から目を離さずにそう指示した。




 「ゾロ!サンジくん!飛び込んで助けて!!!」

 「おい何だ、何を助けろってんだ」




ゾロは怪訝な顔で聞いた。




 「女の子よ!飛び降りたの!」

 「女の子ぉ!?」




とりあえず、ゾロとサンジはナミに急かされ、海に飛び込んだ。















 「おいナミ、このメリーの上から飛び降りたのか?」




明かりで海面を照らしながら、ウソップはナミに尋ねた。




 「えぇ」

 「動いてる船から?」

 「・・・・・えぇ」

 「それじゃ、もう・・・・」

 「分かんないわよそんなの!!!」




ウソップの言わんとしていることをナミは遮り、ただひたすら海面を凝視していた。















しばらくして、ゾロとサンジが浮いてきた。



 「おいナミ、何もないぞ!!」

 「海が荒れてきた、2人とも上がったほうがいい!」



ウソップは手すりから身を乗り出して叫び、はしごを下ろした。






 「ナミさん、どんな子だったんです?」




はしごを上り、手すりに手をかけながらサンジが聞いた。




 「10歳・・くらいの女の子で、黒髪で・・・・白い、シャツ」

 「・・・・・・・・」




ゾロははしごを上る手を止めた。




 「あと、何か手に持ってた・・・・、棒・・・みたいな・・・」
















    そうあれは





    まるで















 「・・・くいな・・?」
















ナミの頭に浮かんだのと同じ名を呟いて、
ゾロは再び海に飛び込んだ。





 「おいゾロ!?」

 「ゾロ!!??」



 「ゾロ!嵐になる!いったん上がれ!」




サンジがはしごから叫ぶが、ゾロは浮き上がろうとせず、荒れ始めた潜っていった。

仕方なくサンジは船に上がり、皆とともに海面を見つめる。





しかし結局、そのままゾロは海から姿を現さなかった。




















 「くそ!ゾローーー!!!」

 「待てルフィ!お前が飛び込んだって何にもならねぇだろ!!」

 「でもゾロ、全然浮いてこねぇんだぞ!!」

 「お前泳げねぇだろうが!」

 「・・・・ちくしょう!!」





一気に嵐となった海に飛び込もうとするルフィを、ウソップが必死に押さえている間
ナミは壁にもたれて呆然としていた。
土砂降りの雨にも関わらず、中に入ろうとさえしない。
ナミだけでなく、他のクルーたちも甲板に残っていた。
既に月は雲と雨に隠され、視界はほとんど無い。
上下左右に乱暴に揺れるメリー号の上で、クルーは足を踏ん張ってひたすら海を見ていた。

荒れる波の隙間から仲間の姿が現れると信じて。










 「・・・・私のせいよ」

 「ナミさん」

 「私が変なこと言って、飛び込めなんて言ったから」

 「違うよナミさん、おれのせいだ。おれが一番近くにいたのに」




びしょ濡れになって真っ青な顔で震えるナミの肩を抱きながら、サンジが呟いた。




 「2人とも、そんなこと言ってても始まらないわ」



ロビンが2人に近づき、優しく言った。



 「とりあえず、夜が明けたらまた探しましょう。この荒れようじゃ、今日はムリだわ。
  剣士さんならきっと大丈夫よ」















翌朝、一転して穏やかになった海にサンジとウソップが潜り、海中を捜索した。
ルフィもどうしても自分で探したがったので、ウソップの作った潜水服を着て潜った。
チョッパーは船の上から監視をし、海鳥に協力を求めて、
周りの海面や付近の島にゾロの姿が無いかを探した。
ロビンはその海鳥に目を咲かせ、同じように周囲を捜索した。

ナミは一人、メリーの横にしゃがみこんでいた。








日が暮れるまで探したが、ゾロは見つからなかった。




船は動かしていない。
それなのに見つからない。

自分の意思でどこかに泳いでいったのか、溺れて流されていったのか。
自分の意思だとしても、一体どこへ。
流されてしまったのだとしたら、あの嵐の中では、普通ならば無事ではいられないだろう。




ナミは一日中メリーの横から動かず、膝を抱えて俯き、しゃがみこんでいた。

















 「航海士さん、今夜は少し冷えるわ。部屋に入りましょう」

 「・・・・ここにいる」

 「・・・・・あとでまた、来るから・・・」

 「・・・・」



ロビンは心配そうに時折振り返りながら、ナミを残し女部屋へと帰った。












    私のせいで、ゾロが








ナミはひたすらに自分を責めていた。







    一体あの少女は何だったのか。


    ゾロが呟いた名前。


    確かに、前にゾロから聞いたあの子の姿に当てはまる。


    あの子なの?


    どうして?


    何故突然、現れたの?


    ゾロを迎えに来たの?


    こんな突然、ひどい。










涙が溢れそうになって、ナミは抱えた膝に顔を埋める。

















足音がした。


ナミはそれに気づいて、顔を上げる。




聞き間違えるはずのない、この足音。









 「ゾロ!!??」









そこには、ゾロがいた。





 「ゾロ!何で!?いつの間に!?あぁでも無事だったのね!よかった・・!!」



ナミは立ち上がってゾロに駆け寄り、抱きつこうとするが、
制止された。






 「ゾロ・・・?」




 「くいなが来たんだ」

 「え?」








ナミを見下ろすゾロの目は、どこか虚ろだった。




 「くいな。迎えに来たんだ。おれ行くよ」

 「・・なに・・、言ってるの」





虚ろな目のまま、うっすらと笑うゾロに、ナミは戸惑う。





 「あいつの所に行く。また勝負ができる」

 「・・・バカなこと言わないで!!あの子は死んでるのよ!?」

 「関係ねぇよ。おれは行く」

 「やめてよ!何言ってるか分かってるの!?」




青ざめた顔で、ナミはゾロのシャツを掴んで揺さぶる。







 「お前も行こうぜ」

 「・・・え・・?」

 「お前も一緒に行こう」

 「ゾロ・・・・・?」




ナミの手が止まる。




 「くいなの所なら、あいつらに付き合って海賊なんて面倒くせぇことする必要も無い」

 「・・・・何、を・・・・」




力が抜けて、ゾロのシャツからその手が落ちる。




 「こんな所より、よっぽどいい所だぜ?」

 「・・・・・・・・」




ナミは無意識に一歩、後退る。
自分の手が、自分の体が震えるのが止められない。







 「なぁナミ」

 「・・呼ばないで」

 「ナミ?」







 「気安く名前を呼ばないで!!!!」








ナミは、ゾロが伸ばした手を振り払い、絶叫した。










 「・・・・・」

 「あんた誰!!ゾロじゃない!ゾロはそんなこと言わない!!」

 「・・・・・」

 「ゾロを返して!!ゾロは何処なの!?何処よ!!ゾロ!!!!」

 「・・・・・」







ボロボロと泣きながらナミは、目の前のゾロの姿をした男を睨みつけ、叫んだ。









 「あんたなんか消えて!!!!!」










瞬間、ゾロの体の線がぐにゃりと崩れ、あっという間に消えた。
その足元には水溜りがあるだけで、気配も消えてしまった。







 「ゾロ・・・・・」


そのままナミは意識を失い、ロビンが戻ってくるまで、水溜りの中に倒れこんでいた。





















翌朝、メリー号からかなりの距離を離れた海で、海鳥がゾロを見つけた。

意識は無いながらも、流木にしっかりとしがみついて海面を漂っていた。


















 「ゾロ・・・」

 「・・・・ナミ、か・・・」




女部屋に寝かされたゾロの枕元で、
ナミはゾロの手を握り締める。




 「大丈夫?」

 「あぁ・・・・」

 「何があったの・・・?」



ナミの問いに、ゾロはしばらくぼんやりと天井を見つめていたが、
やがてゆっくりと口を開いた。






 「・・・潜ったら、くいなが居たんだ・・・」

 「・・・・・」

 「おれの頭の中に話しかけてきた。自分の所に来いと」





ナミはゾロの手を強く握る。





 「独りでは寂しい。昔のように勝負をしよう。だからこっちに来い、と」

 「・・・・・」

 「おれは、行こうとしたんだ」

 「・・ゾロ!」




ナミは思わず叫ぶ。
だがゾロは、そんなナミを真っ直ぐに見つめてきた。




 「でも、お前の声がした」

 「・・・・私の・・?」

 「あれはくいなじゃない、と。
  くいなの形をしていても、あれはくいなじゃない、と」





そう言うゾロが、苦しそうに顔を歪める。






 「だから、おれは、斬ったんだ」

 「・・・・・」

 「くいなの姿をした何かを、斬った」

 「ゾロ・・・・」

 「おれは、くいなを、殺した・・・・」

 「ゾロ」






ナミはゾロの頭を引き寄せ、抱きしめた。






 「あれはくいなさんじゃないよ。だから大丈夫、大丈夫・・・・」















海にはいろんな魔物が存在する。


心の隙に忍び寄って、内側から喰らい付く。

もし私があのままゾロに付いていっていたら?
もしゾロが彼女の所に行っていたら?
私があの影を拒絶しなかったら?
ゾロが彼女を斬らなかったら?



何度でも来るがいい。
あんなものに、私たちは負けない。

何度でも、拒絶してみせるから。




ナミ誕リク。
「ホラー系で、ゾロナミ」。
ホラーと言われると血みどろグシャグシャ系しか思い浮かばない・・・。
これじゃただの不思議話だ。
訳分からん・・・。
まいっか(え、)
6月4日に拍手にてリクくれた方、
これをホラーと言い張っていいですか・・・・。
ていうかもう尻切れ全開だよ・・ダメダメだよ・・・・。
あうあう・・・。

2005/07/09

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