夜。











 「あんなボロ船、奪うんじゃなかった」







例の如く、海賊からお宝を頂戴して、
ついでに小船も頂戴して逃げてきたはいいけれど、
運の悪いことに、途中で船底の穴が広がった。

最初の段階で穴に気づくべきだったのだが、
急いでいたので手近な船で済ませてしまったのだ。

さらに運の悪いことに、日が暮れてから嵐に遭遇した。
まあこれは事前に感づいていたし、
近くに無人の島があることも分かっていたから、
とりあえずはこの穴の開いた船で予定通りに無事たどり着けるか、というのが問題だった。






 「宝も思ったより少ないし、今回の稼ぎは最悪だわ・・・」






海水と雨水で半分沈みながらも(それでも宝を捨てようとは考えなかったが)、
何とか島には着いた。

船の穴を塞ぐ程度のことなら自分でもできる。
嵐がやめば応急処置をして、
いつものように遭難者を装ってまた海賊船に乗り込めばいい。

そう考えて、
とりあえず風に煽られながらも船を廃れた港にくくりつけ、自分は宝を持って内部へ走る。
走ったところで全身びしょぬれには変わりないのだが、
だからといって呑気に歩く奴はいないだろう。

少し走ると、小屋が目に入った。
明かりもなく、こちらも負けじとかなりのボロ小屋だったが、
一晩雨風を防ぐには充分だろう。




勢いよく扉をあけて中に滑り込み、急いで閉める。
宝を足元に置いてからふーっと息を吐き、
そしてすぐに自分の軽率な行動を悔いた。







誰かいる。





中を確かめもせずに入るなんて、何てバカなことを。








 「・・・・・誰」






 「・・・・・・」







 「誰かいるの!?」





嵐の音に負けないように、はっきりと強気で言う。
相手が誰であろうと、自分が怯えていると思われてはいけない。

真っ暗な小屋の奥から、声がした。




 「・・・先客だ・・」









男。









頭の中で危険信号が鳴る。
静かに太腿の棍に手を伸ばす。












 「気にするな、こっちもただの雨宿りだ」

 「・・・・・」

 「この雨の中出たいなら勝手に出ろ、しのぎたいなら勝手に居ろ。どうせおれの家じゃねぇ」

 「・・・・・」




無愛想ではあるが、乱暴ではない口調に、
棍からは手を離さずに、宝を抱えて扉に近い隅に移動する。






濡れた服が気持ち悪い。
真っ暗とはいえ、見知らぬ男がいる中で服を脱いで絞る気にはなれないので、
着たままでムリヤリ服を引っぱって、気持ち程度に絞った。
気温が低くないのが幸いだった。


 「!」


男の居るほうから、物音がした。


 「・・・ちょっと動いたくらいでそんなビビんじゃねぇよ」


気配を察した男が、呆れたように呟いた。


 「お前みたいなガキ襲うかよ」

 「誰がガキよ!」

 「声聞きゃ分かる」


思わず反発してしまった。
まぁ暗闇の中で無言でいるよりは、
会話をしていたほうが見知らぬ相手の動向も分かりやすくなる。



 「・・・こっち近づいたら殺すわよ」

 「あいにく女に飢えたことはねぇんでな」

 「・・それはそれは、大層な男前っぷりですこと」

 「どうも」

 「・・・・・・」

 「・・・・・・」



とりあえず襲われる心配はなさそうではあるが、油断はできない。
それに宝を持っていると知れたら、貞操の危機に加えて命の危機もやってきそうだ。
何となくコイツは大丈夫だ、と勘では思うが。




 「あんただって、まだガキでしょ」

 「何だと」

 「声変わりしたばっかりですー、って声じゃないの」

 「いつの話だ、おれはもう15だぞ」

 「私だって14です!」

 「やっぱガキじゃねぇか」

 「ひとつしか違わないでしょ!」

 「えらい違いだ」

 「ナメないでよね」





何て呑気な会話だろう、とは思う。
少しは不安になっていたのか。
何の関係もない他人との何の意味もない会話に、少し楽しさを感じている。



 「そりゃこの大嵐ん中、辺鄙な無人島に一人で居るような奴だ、普通の女じゃねぇよな」

 「・・・・ま、否定はしないわよ」

 「そうかよ。とりあえずおれは寝る。嵐がいつまで続くか分かんねぇから寝るしかねぇぞ、てめぇも」

 「朝にはおさまるわ」

 「断言か」

 「私には分かるの」

 「ふーん」

 「信じるかは勝手ですけどね」

 「まぁいいや、どっちにしろ朝まで寝る」

 「ご自由に」


暗闇の小屋、対角の隅で、男が寝転ぶ音がする。


 「うるさくすんなよ」

 「こっちのセリフよ、イビキなんてかかないでよ」

 「保障はしねぇ」

 「何それ」

 「ぐー・・・・・・・」

 「早っ!!」








嵐の夜の邂逅。
互いの名前も顔も、何も知らず
翌日の夜にはもう思い出すこともない。
記憶に残らぬ出会い。

それでも
2人にとっては
それが初めての出会い。


宿命の出会い。


2度目の出会いは
まだもう少し先の話。




「あらしのよるに」みたいな感じで。

追記。
ゾロは見知らぬ土地で見知らぬ人間と居るときに
転がって寝たりはしないと思うけど。
刀抱えて座って寝るんだと思うけど。
まぁまだ子供だから転がって寝る、ということで許してください(笑)。
多分あれだ、まだ人殺したこととかないんだよきっと!(爆)

2005/05/13

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