理。










今まで数え切れないほどの海賊たちを騙して、裏切って、逃げて。
だけど、
こんな風に泣いたのは初めてだ。
まだ私にもこんな感傷が残ってたなんてね。
自分でもビックリよ。
今さらだわ。

それでも私にはすべきことがある。
それなのに。
次から次へと私の邪魔をしてくれる。
本当に腹が立つ。
どうして放っておいてくれないの。
私のことを思うというなら、放っておいて。

































目の前には、大袈裟に包帯を巻いた、刀も取り上げられた哀れな剣士。
両手両足を縛られちゃ、さすがの海賊狩りもお手上げね。
まっすぐに私を見てくるその目。
ねぇゾロ、あんたは何でそんなにまっすぐに人を見れるのかしら。
自分に正直に生きてるから、とでも言うつもり?
そんなの私だって一緒よ。
私が目を逸らすと思う?
逸らす理由なんて、私には無いのよ。
確かにあんたたちを騙したけど、そんなの騙される方が悪いのよ?
私は自分の行動を、後悔なんてしてないわ。
だからあんたの目もまっすぐに見返してあげる。

私は何も迷ってないし、何も後悔していない。








 『こいつは金のためなら親の死さえも忘れることのできる冷血な魔女の様な女さ!!』







 『・・・・・・!!!』







油断した。
一瞬の動揺ですら、この男なら見抜いてしまうだろう。
本当、目障りな魚人共。






 『てめェがこういうロクでもねェ女だと見切ってた』





なおもまっすぐに私の目を見てあっさりと言ってのける男。
あらそう。
それならさっさと出て行ってよ。
早く・・・・・・・。



・・・・・・・・・。




・・・・・・・・・何、やってんのよ・・・・・。






縛られたまま、海に消えた男。
自殺ですって?
そんなの、あの男がするわけ無いじゃない。
決まってるでしょ。

私を試してるのよ。






私にあいつを助ける義理も理由も無い。

無い。

・・・・・・・・・・。



























それなのにどうして私は飛び込んだのか。

いい加減にしてよ。
どうして邪魔するの。
どうしてこんな真似するの。
どうして私を揺らがせるの。


 『人一人も見殺しにできねェような小物が・・・粋がってんじゃねェぞ!!!』


カッとなって、殴った。


あんたのせいでアーロンは私を疑い始めるかもしれない。
築き上げた壁が、崩れる。




何で私があんたを助けないといけないのよ。

何で。

何で。











 『ブチ込んどいて!私が始末するわ』

 『おれらがやってもいいんだぜ?』


魚人たちがニヤニヤと私を見ながら言う。
これ以上疑われるのは御免よ。


 『私がやるって言ってるでしょ。自分が連れてきた迷惑の種くらい自分で潰すわ』

 『ほお、じゃあまかせてもいいな、ナミ』


アーロンがこちらを振り返りもせずに言う。


 『・・・信頼してくれてるようで、どうも』

 『溺死よりもいい始末の仕方があるんだろ?』

 『・・・・・・・・好きにさせてもらうわ』

 『見張りはどうする?お前が来るまでつけとくか?』

 『刀取って、両手両足きつく縛ってたら平気よそんな男
  ・・・刀は私のところに持ってきて。次の”航海”で売るわ』


クロオビがすれ違いに聞いてくるが、立ち止まりもせずにそのままパーク内へと急ぐ。
一刻も早くこの場から立ち去りたかった。


 『確かに”海賊狩り”の遺品なら、それなりの値がつくかもなァ!!』


下品極まりない笑い声をあげる魚人たち。
いつ聞いても反吐が出そう。
おもしろくも何ともないその冗談を無視して、パーク内に入った。
この場から、逃れたかった。
視線から、逃れたかった。


ゾロが見ている。
背中に突き刺さるほどに感じるその視線。
まっすぐに。




何なのよ。
見ないでよ。
私は何も。
後悔なんて。






















ゾロが閉じ込められた一室。
刀を手にして、外をうろついている魚人の目をすり抜けてその部屋に入る。


 『よぉ、遅いぞ』

 『・・・・・』

 『お、刀持ってきてくれたか。ありがとう』


自分の置かれてる状況も考えず、呑気な挨拶のうえにご丁寧に礼までしてくる。
腹が立って、縛り上げられたままの男に刀を投げつけた。


 『てめっ!投げるなってあれほど!!』

 『うるさい!!』


こんなところを魚人たちに見つかれば、今度こそ言い訳はきかない。
それなのに大声を出してしまった。
小さく舌打ちをする。


 『お前の声のがデカイ』


ゾロの反論にはもう答えず、無言でそのロープを切る。


 『さっさと逃げて!!』

 『・・・逃げる?』

 『そうよ!』

 『お前、おれらが何しにここに来たと思ってんだ?』

 『関係ないわ』

 『関係ないことねぇだろ』


ゾロは細切れになったロープを払いのけながら、立ち上がる。


 『邪魔なのよ!』


外の様子を伺ったままの姿勢で、またもや大声を出してしまった。
幸いにもまわりに魚人の姿は無い。


 『ナミ』

 『あんたたちの事なんて関係ないの!どうでもいいの!
  あんたたちが此処にいることが、私にとっては迷惑なのよ!分からないの!?
  目障りなの!早く消えて!!』

 『ナミ』

 『仲間で仲良しごっこするのは勝手だけど、私を巻き込まないでくれる!?』

 『おれを見ろ』

 『・・・・・』


気づけばゾロはすぐ背後に立っていた。


 『おれの目を見て、同じことが言えるか?』

 『・・・っ、言えるわよ!』

 『じゃあ言ってみろ』

 『・・・・・』

 『こっち向いて、言ってみろよ』

 『・・・・・』

 『向けねぇのか?』


今、振り返るわけにはいかなかった。
イライラする。


 『おい』

 『・・・私の勝手よ。とにかくさっさと出てって』

 『騙すんなら、最後まで上手く騙しやがれ』



さっきまで、普段と同じように話していたゾロの声に苛立ちが混じる。
何よ、苛立ってるのはこっちよ。


 『わざわざ種明かしされに来たのはあんたたちでしょ』

 『そうじゃなくて、今この瞬間だ』

 『どういう意味よ』

 『てめぇは女優にゃなれねぇな』

 『・・・・・』



腕を掴まれて、強引に顔を合わさせられる。
振りほどこうとしても、男の手はびくともしない。



 『いいか、てめぇがその刺青を入れた経緯なんざ、おれは知ったこっちゃねぇし、興味もねぇ』

 『だったらさっさと・・』

 『でもな、それはてめぇにゃ似合ってねぇ』

 『似合う似合わないは関係ないでしょ』

 『似合ってねぇんだよ、その刺青も、てめぇの演技も』

 『っ、』


目が、まっすぐに私を刺す。


 『目ぇ合わせろよ』

 『合ってるじゃない!』

 『全然合ってねぇよ。おれを見ろ』

 『何故』

 『見れねぇのか?』

 『見る必要がある?』

 『ある』

 『どんな』

 『おれを騙したいなら、ちゃんと目を見ろ』

 『騙すも何も、今の私が全ての真実よ』

 『だからそれを目を見て言えっつってんだよ』

 『・・・・・』


耐え切れず、ゾロを包帯の上から突き飛ばしてその腕から逃れた。
視線が、刺さる。


 『・・懲りずにまだ此処にいるようなら、次に逢ったときは私があんたを殺すわ』


そう言い残して、目を合わさず足早に部屋から出て行く。





あぁ、視界が霞む。
まだ背中にゾロの視線を感じる。

















私は後悔なんてしてない。
それなのに。
何故あの男の目をまっすぐ見返せないのか。









私は何も迷うことなんてない。
私は何も後悔なんてしてない。
泣く理由も、無い。
無いはずなのに。





理由、理念、理屈、理性。理解。

”今さらシリーズ”(笑)、アーロン編です。。
このゾロとナミはデキてはおりません。
ゾロ×ナミではなく、ゾロとナミです。
でも微妙にナミ→ゾロ?
アーロン編はルフィとナミもあります。そのうち。
ルヒ誕やしね!

2005/05/06

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