鳴。







「ハイ、ゾロ罰ゲーム!」


女部屋のテーブルを囲んで、ナミは満面の笑みで手持ちのカードを放り出した。
その向かいに座るゾロは、思いきり眉間の皺を深くして同じくカードを放る。


「あー、クソ」

「私からお金を巻き上げようなんて100万年早いわ」

「うるせぇな、いいから罰ゲーム何だよ言えよ」


ヤケになって、ゾロはナミからの罰ゲームの内容発表を急かす。

単純なカードゲームで、ゾロが勝てば10万ベリー分の酒、そしてナミが勝てばゾロに罰ゲーム、という内容でスタートした。
何も賭けていなければ二人の勝率は大して変わらない。
だが何かを賭けての勝負となると、ナミの勝率はぐんと跳ね上がる。
もしかしたらイカサマをしているのかもしれないが、どちらにしろゾロは現段階ではそれを一度も見抜けていないので、負けを認めざるを得ない。

ナミは無言で立ち上がると、棚の引き出しをごそごそと漁って何かを取りだした。
それを手にして再びテーブルまで戻り、ゾロの隣に立つとにっこりと魔女の微笑みを見せる。


「じゃーーん!」

「…………あ?」










「で、今のゾロが……こうなってるわけだ……」


ウソップはフルフルと肩を震わせて、そう言った。
ゾロに睨み付けられたのでどうにか噴き出すのは堪えているが、それでも誰がどう見ても笑っている。
他のクルーたちも我慢していたが、ゾロの姿を見ると結局全員揃って盛大に笑い始めた。

おやつタイムのキッチンで、不貞腐れた表情で無言を貫いているゾロの頭の上には、黒いネコ耳のカチューシャが付けられている。
おまけに尻のあたりには長い黒猫の尻尾がぶら下がっていた。

ナミの提案した罰ゲームは、ネコ耳とネコの尻尾を付けて夜まで過ごすこと、だった。
開始時間が昼食後だったので丸1日というわけではないが、この格好で日課のトレーニングをするはめになる。
嫌がったゾロに対して『約束』というキーワードをちらつかせ、結局ナミに逆らうことのできないゾロは凶悪面のまま猫になるしかなかった。


「……何してんだ、ルフィ」


ゾロは自分の背後に回ったルフィを、肩越しにじろりと睨む。
目を輝かせてしゃがみこんでいるルフィの手には、ゾロから伸びるネコの尻尾が握られていた。


「ネコって、尻尾掴むと力抜けるんだよな?」

「お前それ何か違うの混じってねぇか」

「怒るんじゃなかったっけか?」


サンジとウソップが首をかしげながら、同じくゾロの尻尾を掴み始めた。
ナミは肩を震わせてテーブルに突っ伏し、その隣のゾロはより一層の仏頂面になる。


「……期待してるとこ悪ぃが、おれから生えてる訳じゃねぇからどっちにもなんねぇよ」


そりゃそうだ、とサンジは尻尾から手を離し、テーブル傍に戻ると女性陣たちのカップにお代わりのコーヒーを注いでいく。
ゾロのカップも空だったので同じように入れてやり、それからその頭上のネコ耳に目を止めるとまた飽きもせず噴き出す。

いい加減耳も尻尾も引きちぎって放り投げたい気分のゾロだったが、『約束』である。
賭けをして、負けたら罰ゲームと約束して、そうして自分は負けたのだ。
その約束を違えるわけにはいかない。
ナミに乗せられたことは解っているが、逃げでもしたら死ぬまで延々と嫌味を言われるに違いない。

そう、これは修行だ、試練だ。

ゾロは己にそう言い聞かせ、ひたすら無言で目を閉じてナミや他のクルーがこの状況に飽きるのを待った。


「なぁゾロ、鳴けよ」

「………あぁ?」


修行だと念じて冷静であろうとした矢先の、笑いをこらえつつのサンジの言葉にゾロは思わず目を開けて睨んだ。


「え、ゾロ、猫の鳴き真似なんて出来るの?」

「アホか、出来るわけ――」


否定しようとしたが、何故かナミは期待に満ちた目でゾロを見つめていた。
ルフィやチョッパーまでもが目を輝かせ、わくわくとゾロが鳴くのを待っている。

猫の鳴き真似が出来るなどと言ったことはないし、耳と尻尾を付けたからと言って鳴けるわけでもない。
それなのにナミたちはやたらと期待している。
ゾロは元凶であるサンジをじろりと睨みつけたが、相変わらず肩を震わせるサンジは一向に気にしない。


「本気でやれよ。上手かったら今この船で一番いい酒出してやる。約束、だ」

「………」


いい酒、と言われてぴくりとゾロの眉が動く。
それにゾロに対して『約束』と口にするのは、ゾロにとっても口にした者にとっても『絶対』だ。
サンジと睨みあい、周りからの期待の視線を受けながら、ゾロはゆっくり口を開いた。

そして――――。


一瞬キッチンは静まり返り、そして爆笑に包まれた。
ルフィらは大笑いしながら目を輝かせ「すげー!」と連発する。

ナミは呼吸するのも苦しいくらいに腹を抱えて笑いテーブルに倒れこみ、サンジは自分の煙草の煙でムセている。


「ゾ、ロ、おま、サカってんじゃねーよ!! すげー、オス猫!!!」


サンジは途切れ途切れにそう言って、涙まで浮かべて大笑いしている。
「腹痛ぇ!!」とフラフラしながら、酒の並ぶ棚へと近づき1本選び取ると、それをゾロの前にドンと置いた。


「ほらよ、約束だからな」

「おぅ」

「それにしても、おまえ、マジ発情期のオス猫……っ!!」


ネコ風なゾロの姿を真正面で目にしてサンジは再び盛大に噴出し、それに釣られるように他のクルーたちもまだまだ爆笑し続ける。


「……てめぇらイイ加減おさまれ」

「だって、サカりまくってっから…!! もうお前一生その耳としっぽ付けてろよ」

「………」

「発情期のにゃんこ大剣豪ってことで。なぁ?」


サンジがゾロに喧嘩を売るのはいつものことである。
嫌味や悪口に対してゾロも応酬し、そうして力技の喧嘩に発展する。
他のクルーたちは腹を抱えて笑いながら、この日もそうなるものだと誰もが思っていた。

だがただ一人、ナミだけは違う気配を感じていた。
それは一種の危険察知の本能で、ゾロの周囲に漂う黒いオーラがいつもと違うことにはっきりと気付いてしまった。


「ちょ、サンジくん、そろそろ笑うのやめた方が……」

「だってナミさん、こいつの『発情期のオス猫の鳴き真似』、すげー似てねぇ? すげーサカってねぇ?」


再びドッとキッチン内が沸き、ナミは背中にひやりと冷たいものを感じて、隣のゾロをちらりと見た。

ゾロはキレている。
静かに、冷静に、キレている。

確かにこれだけ笑われては気分は良くないだろう。
ウソップならば喜ぶだろうが、ゾロは笑いを取って嬉しがるタイプではない。
それでなくても、ネコ耳と尻尾のせいで機嫌は良くないのだ。

笑いの渦の中で、ゾロはゆっくりと立ち上がった。
その動きに、ナミはぎくりと体を固まらせる。

このキレ方は、サンジとの喧嘩に発展するものではない。
これは自分にとばっちりのくるキレ方だ、とナミは判断して立ち上がって逃げようとしたが、あっという間にゾロの腕に捕えられ、まるで荷物のようにその肩に担がれてしまった。


「ちょちょちょちょゾロ!! 私もう笑ってない! 笑ってないから!!」

「おいてめぇナミさんにいきなり何するんだ!!」


突然の行動にサンジも笑うのをやめ慌てて詰め寄るが、ゾロはさっと向きを変えるとナミを抱えたまま扉へと足を進めた。
他のクルーたちもきょとんとした顔でその光景を見送る。


「どこ行くんだコラ!!!」


サンジの怒鳴り声に、ゾロは足を止めると顔だけ振り返った。
そうしてニヤリと笑う。




「発情期なんでな」



これから自分の身に何が起こるのか、これまでの経験から十分に想像できてしまうナミは真っ赤な顔で暴れるが、ガッチリ抱えたままゾロはそのままキッチンを去った。



残されたクルーたちは、ゾロから生えた尻尾がゆらゆらと揺れているのをはっきりと目撃した。




2011/11/30 UP

「お馴染み(?)コスプレシリーズ」

ゾロが猫の鳴き真似上手いかは知らない!
上手いということにしておけ!

サリナさん、コスプレ度は低いけどお許しを!

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