芳。







「色っぽいなぁロビンちゃん……」


芝生甲板に出したデッキチェアの上で、すらりと長い足を惜しげもなくさらしながら午後の読書をしているロビンの姿を、
サンジは鼻の下を伸ばした情けない顔でキッチン前から見下ろした。
ロビンはただ本を読んでいるだけなのだが、時折足を組みかえたり、優雅な手つきでページをめくったり、時折サイドテーブルのコーヒーを口に運んだり、
そういった仕草を飽きることなくサンジは見つめていた。
自分が淹れたコーヒーをロビンが飲んでいる、ただそれだけで嬉しくて、その姿はいつまででも見ていられる。
そうしているとうっかり咥えたままの煙草の存在すら忘れてしまい、長くなった灰がボロリと落下した。
慌てて手を出そうとしたがそれよりも早く、いつの間にか隣にいたチョッパーが灰皿を差し出し、灰は無事にその中に着地した。


「おぅ、悪ぃなチョッパー」

「どうしたんだ、ぼーっとして」

「いや、ロビンちゃんが色っぽいなぁと思ってな」

「色っぽい?」


そう言われて、チョッパーは灰皿をサンジに渡すとよいしょと手すりによじ上がり、同じように甲板のロビンを見下ろした。
読書するロビンをじっと見つめて、「うーん?」と唸りながら首をかしげる。
その姿に肩をすくめ、サンジは長い煙を吐いた。


「まぁトナカイには解んねぇかなー」

「なぁなぁ、色っぽいって女にしか使わないのか?」

「へ? いや……別にレディ限定って訳でもねぇだろうけど。男の色気ってのもあるだろ」

「男の色気?」


好奇心で目を輝かせるチョッパーに、サンジはフフンと得意げな顔を作る。


「例えばおれの優雅な給仕姿とか?」

「へーーーー」

「……ここはツッコんでほしい所だったんだが……」

「そ、そうなのか? ごめん」

「いや別にいいけど……まぁお前もそろそろ色気つけねぇとな。美人メストナカイをゲットできねぇぞ」

「おれ、他の皆にも聞いてくる!!」


チョッパーはそう叫んで、ぴょんと床に下りるとタタタタと軽い足音を鳴らして駆けて行った。
短くなった煙草を灰皿に押し付け、船医の小さな後ろ姿を無意識の笑顔で見送ると、サンジはまた美女の鑑賞に戻る。
だが夕食の支度を始めなければならない時間だと気付くと、名残惜しげにチラチラ見ながら、己の仕事をするためにキッチンに入った。

そのすぐあとに、チョッパーはロビンの傍に駆け寄り声をかけた。


「あらチョッパー、貴方も読書の時間?」

「あのなロビン、質問があるんだけど」

「まぁ。私に答えられるかしら」


ロビンは笑顔で、読みかけの本を閉じてテーブルに置く。
それからデッキチェアから足を下ろし、チョッパーと向かい合った。


「あのな、男の色気ってどういうのだ?」

「………男の、色気?」

「あぁ!」

「……貴方もそういう年頃なのね」

「あら、仲良く何の相談?」

「あ、ナミ! ナミにも聞きたい!!」


数冊の本を抱え、ロビンと同じく甲板での読書をしようとやってきたナミは、顔を寄せ合って話している二人に声をかけた。
自分のデッキチェアの上に持ってきた本を置き、それからロビンの隣によいしょと腰を下ろす。


「聞きたいって、なにを?」

「男の色気ってどういうもの、ていう質問よ」

「ふぅ……ん?」


予想外の質問にナミは首をかしげるが、チョッパーはキラキラと目を輝かせている。
真面目な問いなのだと判断して、ナミとロビンは「うーん」とお互い目を見合わせた。

まず答えたのは、ロビンだった。


「私は」

「うんうん!」

「前髪下ろしてる姿とか、色気があると思うわ」


ロビンはにっこりと微笑んでそう言った。
隣のナミが「えーー」と若干不満の声を漏らすが、気分を害した様子も無く「人それぞれでしょ?」と変わらぬ笑顔を返す。


「前髪かー。ナミは?」

「んーー、色気かぁ。私は……」


ナミは組んだ足を組みかえて考えて、気持ち声を潜めて答えた。


「……トレーニングの後の汗かいた上半身とか、寝起きの顔とか、あと……匂い?」

「あら、寝起きも?」

「意外とね」


二人はそのままガールズトークに突入した。
チョッパーはなるほどなるほどと頷きながら、よく解らないが何となく参加しづらい会話を始めた二人を残してその場を去った。



それから数時間後、夕食のために全員キッチンに集合した。
いただきますの合図と共にまるで戦争の如き勢いで食事が始まり、時折伸びてくる船長の手から各々自分の皿を死守しつつ、クルーはサンジ自慢の料理を堪能する。
それはいつもの光景で、ある程度腹が満たされたところでようやくキッチン内は落ち着いてくる。

女性陣が粗方食事を終え、男性陣の方はいまだにもぐもぐと口を動かしている頃になって、チョッパーがふと思い出したように顔を上げ、「サンジ!」と呼んだ。
夕食スタート時にはお代わりや料理の追加に忙しく動き回っていたサンジは、今は逆に空いた皿の後片付けで動いている。
器用に重ねた皿を両手に持って、サンジは「何だ? おかわりか?」と聞いた。
まるで父親に覚えたての知識を披露する子供のように、嬉しそうな顔でチョッパーは「あのな!」と口を開いた。


「さっきの男の色気ってヤツ」

「あん?」

「ロビンに聞いたら前髪下ろしてる姿で、ナミに聞いたらトレーニング後の汗かいた上半身と寝起きの顔と匂い、だって!」

「………」

「……あら……」

「ちょ、チョッパー!」


キッチン内はしんと静まり、ロビンは多少驚いたように口元に手を当て、ナミは一気に真っ赤になった。
まさかあの質問をよりにもよってクルー全員が揃っている場で発表されるとは思っておらず、慌ててチョッパーの口を塞ごうと立ち上がるが既に全員が聞いてしまっている。
ゾロと目が合い、ニヤニヤと意地悪な笑みを返されてさらに顔を赤くして、ナミは勢いよく椅子に座り直した。
ロビンは既にいつもの笑顔になっていて、照れているフランキーと目が合うとさらに良い笑みをこぼす。
ウソップはあえて聞かなかったフリを決め込み、ルフィとブルックは状況を理解しておらずそのまま食事を続けている。


「おれよく解んねぇけど、そのうち男の色気出せるようになりてーな!」

「そ、そうか……」


報告を受けたサンジは、キラキラのチョッパーの目を見てしまっては聞かなかったフリも出来ず、怒りと悲しみで震える手でカタカタと皿を鳴らしつつ、苦々しい顔でどうにかそう絞り出した。



翌日以降、フランキーとゾロへのサンジの態度が喧嘩腰になったのは、誰の目にも明らかだった。



2011/11/29 UP

「原作ベースで、チョッパー男の色気について研究する」


さつき様、研究っつーかただの質問で終わってしまってごめんなさい……。


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