153153ゲッター、hanakoサマへ愛を込めて。
癒。
「なぁ、もう食っていいだろー」
「あぁ? まだゾロのヤツ戻ってきてねぇのか?」
「また迷子か?」
「なぁーー、腹減ったーーー」
「しょうがねぇなぁ、じゃあ先に食っとくか」
「よっしゃー! いただきまーす!!」
並べられた料理を前に情けない顔でダラダラと涎を垂らしていたルフィは、
一転して目を輝かせ目の前の皿を掴むと猛烈な勢いでかっ込んだ。
ウソップも食欲には勝てずに、ルフィに負けじと料理に食らいつく。
ナミとロビンも小さく肩をすくめて、各々のフォークを取ると皿を引き寄せる。
同じように皿を手にしたチョッパーは、心配げな顔でキッチンのドアを見つめていた。
「チョッパー、あいつが集合時間に遅れるのはいつものことじゃない」
「そうだけど…もし海軍とかとやりあってたら…」
ナミはクスリと笑って、フォークを皿に置くと手を伸ばしてチョッパーの頭をポンポンと撫でた。
「大丈夫よ! この島は平和だから、海軍は滅多に来ないし。
それに小さいトコだから、迷子になってても一周してそのうち帰ってこれるわよ」
「うん……」
「だから気にしないで食べてなさい。じゃないとルフィに全部食べられちゃうわよ?」
「優しいのね、船医さん」
「だってゾロ、放っとくと怪我の手当てもしないし…」
船医としての責任以上に、チョッパーはゾロに懐いているためかいつもその心配している。
もちろんゾロが強いことはよく分かっているし、
迷子になっても結局はどうにか戻ってくる(もしくは誰かが迎えに行く)ことは知っているから、
そこまで心配する必要は無いのだが、それでもやはり不安になるらしい。
まるで手のかかる父親を世話する孝行息子だ、とナミとロビンはよく2人で笑っている。
「…ただいま」
「遅ぇぞクソ剣士、先に食ってんぜ」
「あぁ」
自力で戻ってきたらしいゾロは、そのままいつもの席へドサリと腰を下ろす。
チョッパーはそれを見てホッと安堵して、目の前の皿の料理を食べ始めた。
だがふいに違和感を覚えて、顔を上げてゾロをじっと見る。
黙々と料理を口に運んでいるゾロは普段の白いシャツではなく、この日は黒いシャツを着ていた。
とはいえそれは今朝から同じ服装であって、感じたのはそんな違和感ではなく―――。
同じように、隣に座るナミもふとゾロの異変に気付いた。
「あんた、肩どうしたの?」
「肩?」
ナミの言葉に、クルーがゾロの肩に注目する。
よく見れば、左肩あたりの布が少し破けている。
「…ちょっとぶつけただけだ」
「何だ、トロくせぇな」
「うるせぇ」
「どこにぶつけんだ? 黒いからよく見えねぇけど…血ぃ付いてないか、シャツ?」
「もう止まった。 歩いてたら積荷が崩れてきたんだ」
向かいに座るウソップが、目を細めながら体を屈めてゾロの肩をじぃっと見る。
ゾロは相変わらず何も無かったかのように、食事を進めている。
時折伸びるルフィの魔の手から皿を守るときも、痛みは無いのか肩を庇う素振りも見せない。
「珍しいわね、あんたがそういう事で怪我するなんて」
「…ガキがいたんだよ」
「あぁ…」
魔獣と呼ばれ恐れられていた男は、案外と女子供に甘い。
クルーたちはそれを知っているから、その一言で全てを納得した。
「あとでちゃんとチョッパーに見てもらいなさいよ」
「別にいい」
溜息をつきながらのナミの言葉に、ゾロは素っ気無くそう呟いた。
その返答に、チョッパーはフォークを手にしたまま、固まる。
「…何で?」
「あ? …こんなモン、ケガのうちに入んねぇよ」
「そんなの、見てみないと分からないだろ」
「だから大したことねぇって」
「ゾロ、おれは医者だぞ!!!」
チョッパーが急にそう叫ぶと、キッチン内はしんと静まり、ゾロはちらりと顔を上げた。
箸の動きを止め、歯を食いしばっているチョッパーの顔をじっと見返した。
「知ってる」
「そのケガが大丈夫かどうか、ゾロは医者じゃないのにどうして分かるんだよ!」
「…自分の体だ」
「じゃあ、じゃあおれは何なんだよ!!!」
「チョッパー、落ち着いて。 本当にそんな大した傷じゃないわよ」
一番近くでゾロの傷を目にしているナミがそう宥めたが、聞こえていないのかチョッパーは目に涙を浮かべてフルフルと震えている。
「ゾロは、ゾロはいっつも、おれが何言っても聞かないで」
堪えていた涙の粒が、ポロポロと零れてチョッパーの頬を濡らしていく。
ルフィを含めてクルーたちは皆黙って動かず、ゾロもじっとその姿を見ているだけだった。
ナミが立ち上がろうとしたが、それを遮るようにチョッパーはまた声を上げる。
「取っちゃダメだって言っても包帯取るし、トレーニングするし、ケガしてもすぐに言わないし、
おれは、おれは医者なのに、それなのに」
「………」
「ゾロのばかやろう!! だいっきらいだ!!!」
そう叫んで、チョッパーはキッチンから飛び出した。
ナミやサンジが呼び止めたが、構わずにそのまま男部屋へと駆け込んで行った。
気まずい空気の流れるキッチンの中で、ゾロだけが無言で食事を再開した。
「どうしたの、大人しいわね」
腕を組んで不機嫌そうに夜の甲板に座り込んでいるゾロに、ナミは声をかける。
風呂上りで濡れた髪をタオルで拭きながら隣に腰を下ろしたが、ゾロはちらりと目を動かしただけで返事はしなかった。
「あんたがそんなにヘコむなんて、珍しいじゃない」
「………だいっきらいだとさ」
タオルを首にかけ膝を抱えて座るナミは、ゾロがそう呟いたのを聞いて思わず微笑んだ。
慌ててタオルで口元を隠したが気付かれたらしく睨まれて、だが当然怯えるはずもなく逆ににっこりと笑顔を返した。
「チョッパーはゾロ信者だもんねー。 その子にだいっきらいって言われたら、やっぱりキいた?」
「別に……」
「ま、あんたが悪いわよね」
「………」
膝を抱えたまま、片手でつま先を触りながらナミは続ける。
ゾロも釣られてナミの足に目をやり、フンと呟くと両腕を枕にして壁によりかかった。
「あんたは自分のケガなんだから放っとけ、て思うんだろうけどね。そんな傷見せられる側の身にもなってみなさいよ」
「…あいつは医者だ、傷ぐらい見慣れてんだろ」
「そういう意味じゃない」
「あぁ?」
「大事な人が傷ついて血を流してるのを見るのは、自分がケガするのよりもずっとずっと『痛い』のよ。
しかも手当てもさせてもらえず見てるだけなんて」
「………」
「そこんとこ、ちゃんと分かってる?」
「………」
目線は相変わらず自分のつま先のままで、ナミはポンポンとゾロの太腿を軽く叩いた。
そのまま手をそこに置く。
「ちゃんと、分かって」
「……分かってるよ」
「うそつき」
「うそじゃねぇよ」
「はいはい」
腕をほどいたゾロは、ナミの白い手をぎゅっと握ってまた「分かってる」と呟いた。
ホットココアとコーヒーを器用に片手に持って男部屋に下りたサンジは、隅っこにうずくまっているチョッパーを見つけた。
足音にピクリと反応したチョッパーだが、顔はあげずにそのまま動かなかった。
サンジは無言でソファに腰を下ろし、テーブルにカップを置くと天井へ向けて煙草の煙をふぅと吐く。
「……ゾロにとって、おれって必要ないのかな」
しばらくお互い無言だったが、やがてうずくまったままのチョッパーがポツリと口を開いた。
サンジは携帯灰皿に煙草を押し付けると、持ってきたコーヒーをズズ…と啜る。
「船医なのに、全然頼りにしてくれない」
「そういうわけじゃねぇよ」
コトリ、とカップをテーブルに戻し、目を赤くしたチョッパーが顔を上げるとサンジはにこりと微笑んだ。
「あいつのあの足さ、自分で縫ったろ」
「足? …うん、縫い目めちゃくちゃだったもんな。 膿んでて大変だった」
「もうああいうのは無ぇだろ、この船じゃ」
チョッパーが首をかしげると、サンジは腕を伸ばしてその額を突付いた。
「お前がいるから」
「………へ」
「お前がいるから、おれたちは安心してケガできるんだぞ? お前のおかげであのクソ剣士の寿命は確実に伸びてんだぜ」
「……そうかな」
「あぁ」
「でもゾロは……」
「あいつはなー、ビビリなんだよ」
「……ゾロが?」
元海賊狩りの剣士を表現するには余りに不似合いな単語を耳にして、チョッパーはまた首をかしげる。
サンジは楽しそうにクックッと肩を揺らしながら、新しい煙草に火を点けた。
「あぁ、痛がりなんだ。 痛いのが怖いんだぜ」
「でも、足とか腹とか、自分で斬ったりしたんだろ? それにあんなに強いのに、痛いのが怖いなんて――」
「見栄っ張りだから痛いって言わねぇだけさ」
サンジは煙草を噛んで、ちょいちょいと手招きする。
それに素直に応じて、チョッパーはソファに上り隣に座った。
「ナミさんの村で胸の傷縫ってもらったときなんかお前、ぎゃあぎゃあ喚いてたんだぜー、あいつ」
「そうなのか? まぁあの傷なら仕方ないけど…」
「それにな、こないだ…」
「こないだ?」
「ソコのタンスの角で、あいつ小指ぶつけんた」
指に煙草を挟んだ手で、サンジは部屋の一角を指し示す。
手の先を目で追って、それからまたサンジへと顔を戻したチョッパーは意外というように目を丸くした。
「…ゾロが?」
「そう。 ここ真っ暗で、あいつ風呂上りで戻ってきて、階段降りたら何でか知んねぇけどあっちに向かって…」
「……本当に?」
「足押さえてしゃがみこんで、しばらく動かなかったなぁ。 おれぁもう笑いこらえて寝たフリすんのに必死だったよ」
「………あのゾロが?」
「あのゾロが」
「………」
思い出し笑いをしていたサンジが真面目な顔でコクコクと頷くと、チョッパーは何故か感心したようにはーーと息を吐いた。
「あとな、こないだナミさんに『爪切れ!』て怒られて、『いてっ、いてっ』て呟きながら切ってた。
ありゃー深爪したな、間違いなく」
「……プッ!!」
チョッパーが噴出したのをきっかけに、2人は声を上げて笑った。
「だからさ、痛がりのロロノアくんのために、痛くない治療してやって」
サンジはそう微笑んで、チョッパーのココアを手渡した。
まだ十分に温もりを持つそれを両手で受け取って、チョッパーもにっこりと微笑み返す。
「わかった!」
「よし」
「…あ、でもおれ……」
「ん?」
「ゾロに、だいっきらいって言っちゃった…怒ってるかも……」
「バカだなー、お前。そんなの笑って『大好きw』とか言えばイチコロだぞ、あんなの」
「そうかなぁ……」
「そうだって。あいつチョッパーバカだから」
「へ?」
「大丈夫大丈夫」
「うーん」
甘いココアを飲みながらチョッパーが唸っていると、男部屋の入り口が開いて人影が下りてきた。
「……何だ、てめぇもいたのか」
「いちゃ悪ぃかよ。 まぁもう仕込みに戻るけどよ」
ゾロとの相変わらずのやりとりをして、サンジはコーヒーを飲み干した。
チョッパーのカップにはまだ残っているので、自分のだけを持ってソファから立ち上がり、
何事も無かったかのようにゾロの隣を通り過ぎてマストに手をかけた。
ゾロもサンジのことは無視して、チョッパーの方へと体を向ける。
「チョッパー」
「…ゾロ」
まっすぐに見つめられ、チョッパーはカップをテーブルに戻して立ち上がり、ゾロの足元へと駆けた。
「チョッパー、さっきは悪かった」
「うん、もういいんだ」
「お前が居てくれるから、ああいう傷でもおれは平気でいられるんだ。 もし何かあっても、お前が治してくれるだろ?」
「…うん」
「頼りにしてる」
「……うん」
「これからもよろしくな」
「……おれ、おれ絶対治すから!!!」
「あぁ」
「それから、おれゾロのこと、大好きだから!!!」
チョッパーがうるうると瞳を潤ませてそう叫んだので、ゾロは微笑んでその頭を優しく撫でた。
マストの階段を一歩上ったところで止まって2人の様子を見ていたサンジは、フっと笑って上り始める。
扉に手をかけると同時に、チョッパーが笑顔でまた叫んだ。
「だからさ、小指ぶつけたときもちゃんと言えよ! 爪割れてないか見るからな!」
「……………」
ゾロの背後で、サンジはギクリと体を強張らせる。
音を立てぬよう気配を殺してゆっくりと扉を開けるが、殺気を感じてそっとそちらを盗み見る。
魔獣と呼ばれた男が、射殺さんばかりの目つきで睨み上げていた。
「…………」
「……何だよ、別にいいじゃねぇか話したって」
「あ、ゾロ! 深爪は大丈夫なのか? 放っとくと肉に食い込んだりするから、ちょっと見せてみろ!」
「バカ、チョッパー!」
目をキラキラとさせてチョッパーはゾロの背中に話しかけたが、サンジがそう叫んだのできょとんとして口を閉じた。
自分の前に立っている男からドス黒いオーラが出始め、なおかつ腕の手ぬぐいをその頭に巻くのを見て、
もしかしたら自分は何か失言をしたのでは?と気付いた。
階段の上のあたりで中途半端に止まっていたサンジは、ゾロの顔をちらりと見てから一気に扉を抜けた。
それからひょいと頭だけを逆さまに覗かせると、器用に煙草を咥えたままで笑う。
「照れ隠しに刀使うなよー、マヌケ剣士?」
「……待ちやがれクソコック!!!!」
素早く頭を引っ込めたサンジを追って、ゾロは物凄い勢いで男部屋から出て行った。
直後、チョッパーの頭上ではドタバタと暴れる音が響き船が揺れる。
だが30秒もしないうちにナミの声がして、なにやら大きな音がしたかと思えば甲板はしんと静まった。
天井を見上げていたチョッパーは、あまりにもいつもどおりな光景を想像してクスクスと笑うと、男部屋を飛び出した。
きっと拳骨で殴られたであろう、2人の頭を診るために。
09/01/16 UP
153153リク。
『チョッパーに泣きながら怒られてヘコむゾロ、慰めるナミ』でした。
あれ、あんまりヘコんでない、ゾロ…。
というか文章書くのが久しぶり(!)でかなりのリハビリ感が…ご、ごめんなさい。
裏テーマは『可愛いゾロ』です(笑)。
hanakoさんへ捧げます。
かーーなーーりーーお待たせしてしまってごめんなさい!
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