呼。
「みどり!」
「これは?」
「だいだい!!」
「じゃあこれは?」
「ぐるぐる!!!」
ちょこんと甲板に座り込んでいるミラを囲んで、ルフィとウソップは面白そうに質問を投げかける。
それは最近この船で流行っている、ひとつの遊びだった。
言葉らしい言葉を喋り始めたミラは、声をかけると笑顔でそれを繰り返す。
何度も何度も続けると、それらの単語をミラはどんどんと覚えていった。
とりあえずはクルーの名前だろう、と随分と前から皆で話していたのだが、
分かりやすいモノに例えていたら何故か『みどり』だの『だいだい』だの『麦わら』だのとなってしまい、
いつのまにやらその『教育』は『あだ名付け』という遊びに変わってしまっていた。
もちろん、ミラはクルーそれぞれをちゃんと認識しているし、皆の正しい名前も既に覚えている。
ゾロやナミのことはきちんと『おとうさん』『おかあさん』と呼ぶのだが、
ゲームのように遊ぶときはミラも面白がって『みどり』『だいだい』と呼んでいる。
そうして遊んでいる3人の座っているところまで本日のデザートを配達に来たサンジを指差してウソップが問うと、
ミラは満面の笑みで『ぐるぐる』と答えるのだった。
「…てめぇのせいでおれはグルグルだ」
「いいだろ、分かりやすくて」
「じゃあコックさんでいいじゃねぇか。妙な言葉教えんな長っ鼻」
サンジは顔をしかめながらクルーにグラスを配ると、ミラの横に腰を下ろして彼女用のコップを優しく手渡す。
大好きなオレンジジュースだと気付くと、ミラはにっこりとサンジに微笑み、
その笑顔にサンジも情けなく顔を崩した。
ゾロそっくりの髪の色と、ナミそっくりの愛らしさを持ったこの少女は、
紛れもなくこの船の天使だった。
「だってよ、すぐに覚えるんだぜー? すっげーおもしれー!」
「もしかしてミラって神童じゃねぇの?」
「お前、将来絶対親ばかだな」
「うるせぇな」
「つーかナミさんの子供だぞ、当たり前だろ」
「人のこと言えねぇじゃねぇかお前も!!」
真顔で答えるサンジと、全力で突っこむウソップのやりとりを見ながら、ミラはきゃっきゃっと笑う。
サンジは隣を見下ろし、ナミやロビンへ向けるものとはまた違う、父性溢れる笑顔を返してミラの頭を優しく撫でた。
その手を嬉しそうに受けながら、ミラはまたにっこりと笑って叫んだ。
「ぐるぐる!!!」
「…………」
怒るに怒れない、だが確実に溢れ出ているサンジの怒りのオーラを感じ取って、
ウソップはささっとルフィの後ろに身を隠した。
ミラもそのオーラを感じ取ったらしく、一瞬泣きそうな顔を見せた。
慌てたサンジは再び優しい笑顔を見せて、ミラの頬を両手で優しく包む。
「怒ってるんじゃないよー大丈夫だよー」
「………」
「あのねーミラちゃん、ぐるぐるじゃなくてサンジだよ?」
「………アンジ」
「サンジ」
「サンジ!!」
「そうそう」
覚えてはいてもまだはっきりとは発音できないミラの言葉に、サンジはまたふにゃりと顔を崩す。
それからその笑顔は崩さぬまま、ウソップへ向けて指を突きつけた。
「そしてアレが、鼻だ」
「はな?」
「そう、あんなのは鼻で十分だ」
「はな!!!!」
「ちくしょうサンジてめ! せっかくキャプテンウソップと覚えさせてる途中だったのに!」
「長ぇよバカ。 それからな、ミラちゃん……」
ウソップの抗議はさらりと無視して、サンジは声を潜めてミラに耳打ちした。
数分後、「ドクター・チョッパーの健康診断」のためにナミによって女部屋へと連れて行かれたミラは、
部屋のソファで昼寝をしていた父親を見つけると、ナミの腕からもがくようにして降りてその傍へと駆けて行った。
「なぁに、お母さんよりお父さんが好きなの?」
「……んぁ? ミラか?」
どすんと腹の上に飛び掛ってきたミラに気付いて、ゾロは眠そうな目を開けた。
それから腕を伸ばしてミラを腹の上に抱え上げると、よしよしと優しくその頭を撫でる。
「ま」
「ま?」
腹の上でミラはゾロを見つめながら、にっこりと天使の笑顔を見せる。
「まりも!!!」
「………………あ?」
「おとうさん、まりも!!」
「………………」
ミラは満足気に息をつくと、ゾロの胸にしがみつくように体を倒した。
条件反射でそれを抱き締めながら、ゾロはひくりと口元を引きつらせて天井を見つめた。
「…お、怒っちゃダメよゾロ……」
笑いを噛み殺しながらナミはゾロの頭側へと立つと、娘とお揃いの緑の頭を撫でた。
伸ばしたミラのサラサラの髪とは違い、短いそれは柔らかいとは言えチクチクと手のひらを刺激する。
「分かってるよ………」
ゾロは静かにそう答えて、ひょいとミラを抱え上げるとそのままナミに受け渡し、
ナミもゾロの頭越しに愛娘を受け取ると胸に抱きかかえた。
「ケンカは外でやってね」
「おぅ」
ずんずんと部屋から出て行く父親の後姿を、きょとんとした顔で見送ったミラは、
それからすぐに聞こえてきたサンジを呼ぶ怒鳴り声にビックリして目を見開いた。
「…おとうさん、おこった?」
「大丈夫よ、いつもの運動だから」
「おとうさん、まりもきらい?」
「さぁ…」
「おかあさんは? まりもすき?」
「え?」
ミラのくるりと大きな目でまっすぐに見つめられながらそう問われ、ナミは少し間を開けてふふと笑った。
「お母さんは、まりも大好きよ」
優しい母親の笑顔を見て、ミラも安心したように満面の笑みを零す。
「みらも、まりもだいすき!!!」
「そう、じゃあ後でお父さんに教えてあげようね」
「うん!!」
甲板ではドタバタと暴れる音が響いているが、女部屋ではお構いなしに、母子2人は緩やかに微笑みあっていた。
2008/08/28 UP
『ゾロナミミラ親子で、丁度ミラが喋り始めた頃の話』
喋り始めってどんなレベルだったかなぁ…。
我が家のチビたちは気づいたら一丁前に喋ってたからな…(笑)。
単に私の記憶力が悪いだけ、とも言う。
なみさん、ほのぼの親子かどうかは分かりませんが…勘弁!!
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