酔。








海の上、船上で年を越した麦わらのクルーは『今やらいでいつやるか!!』とばかりに大宴会を開いていた。
さすがのナミやサンジも太っ腹になっており、酒も食事もいつもの宴会よりもはるかに準備が良く、
クルーたちは飲んで食べて歌って騒いで、そうして皆揃って新しい年を迎えた。
迎えたその日も同じように騒いで、気付けば既に夕刻を過ぎようとしていた。





ひとしきり騒いで静かになっていた甲板に戻ってきたナミは、ぼんやりと座り込んでいるゾロに気付いた。




 「……ゾロ? どうしたの?」



ナミはそう尋ねながら、ゾロに近寄って腰を屈め顔を覗き込む。

その目は開いていたが、やはりどこかとろんとしている。
ナミは正面にまわり、しゃがみこんだ。



 「ゾロ? お餅でも喉に詰まった?」



真面目な顔でそう尋ねると、ゾロの目が少し動いて、それから目が合った。

ふっと笑ったゾロは、唐突に腕を伸ばしてナミの腰に回し抱き寄せる。




 「え」




驚いたナミは反射的に立ち上がろうとしたが、結局膝立ちになるだけだった。
ゾロは何も言わず、ぎゅうとしがみついてナミの腹に顔を埋める。



 「なっ、ちょ、何!? 何!?」



さすがにナミは慌てたが、ゾロの力に敵うはずもなくその腕を振り解くことはできなかった。
両手をゾロの肩に当てて必死に突っぱねようとするがびくともしない。

突然の剣士の行動に、ナミは半ばパニックになっていた。
女好きのコックならまだ有り得る行動だが、
いかにもストイックなゾロがこんな行動に出るなどと、想像もしていなかった。

ナミは無駄だと分かっていてもとりあえず両腕で突っ張りながら、
ふとゾロの隣に転がっている酒瓶に気付いた。




 「………お屠蘇?」




じっとその酒瓶を見つめていると、酔っ払って顔を真っ赤にしたルフィとウソップがフラフラと甲板に戻ってきた。



 「今年さーいしょーの連ーれショーーン!」

 「連ーれショーーン!!」



ヘラヘラと笑いながら2人は肩を組み、訳の分からない歌を歌っている。
ゾロの拘束を解けぬまま、ナミは2人へ向かって声を上げた。



 「ちょっと! 下品なこと言ってないでこれどうにかして!!」



それに気付いたルフィらは、おぼつかない足取りでナミたちへと近づく。



 「何やってんだお前らー?」

 「知らないわよ!! ねぇ、ゾロお屠蘇飲んだの?」

 「あぁ、おれらが飲ませたーーー」



ルフィとウソップは、ナミにしがみついているゾロを珍しそうに覗き込みながら、軽い調子で答えた。
ナミは以前の会話を思い出すように視線を上げ、それからまた2人に顔を戻す。



 「コイツ、たしかコレ苦手だって言ってたんだけど…」

 「そうかー? 寝てる隙に無理矢理飲ませたから知らねーなーー」



にししと笑いながら答えたルフィは、再び妙な歌を合唱しながらウソップと肩を組合いフラフラと歩き去って行った。
少ししてからドスンと倒れこむ音がして、静かになったと思えば盛大なイビキの合唱が聞こえ始めた。
ナミは苦笑して、それからゾロをちらりと見下ろす。





ゾロに限って、まさかとは思うが。

でもこれはどう考えても正気ではないし。

これは間違いなく。



ゾロは、酔っている。





はーーっと大きな溜息をついて、ナミは突っ張っていた手をダラリと下げた。



 「ゾロ」



声をかけると、「うぅ」という呻き声が返ってきた。
一応眠ってはいないらしい。



 「あんた、酔ってんの」

 「………酔ってねぇ」



普段のゾロならその言葉はいくらでも信じられるが、今回ばかりはそうはいかないようだった。
真の酔っ払いほど、自分は酔っていないと言うものだ。



 「とりあえず、離してくれる?」

 「いやだ」

 「………はい?」

 「いやだ」



聞き間違いかと思ってもう一度尋ねると、やはり同じ答えが返ってきた。
子供のような返事をしたゾロは、ナミの腰を抱く腕に力を込める。



 「ちょ、」



膝立ちのナミは思わずよろめき、ゾロに倒れこむように寄りかかる。
ゾロの肩に両手を置いてどうにかバランスを取り直し、ナミは再び名を呼んだ。



 「酔っちゃったんならさっさと寝なさい。 他の皆もほとんど落ちてるわよ」

 「………いやだ」



ゾロは相変わらずそう答えながら、緑の頭をナミの腹にこすりつけるようにグリグリと動かす。
ふと自分の胸がゾロの頭に当たっていることに気付いて、ナミは急に恥ずかしくなった。



 「ゾロ、離してってば!!」



そう叫ぶと腕の力がほんの少しだけ緩んだので、ナミはほっとして離れようとした。
だが次の瞬間には再びその腕に捕らわれて、
気付いたときにはくるりと向きが変わりゾロの足の間に尻餅をついていた。
しかも背後からはゾロの太い腕が伸びていて、がっしりと捕獲されている。
ゾロの胸と自分の背中がぴったりと密着して、しかもゾロは首筋に顔を埋めてくる。



 「ちょっ、ゾロ……っ」

 「ナミ」



耳元でゾロの低い声が響いて、ナミは思わず身を固くする。



 「ナミ」

 「………何よ」



酔っ払ったゾロの熱い息が、首筋にかかってくすぐったかった。



 「……ここに居ろ」

 「………何でよ」

 「いいから居ろ」



そう呟いて、ゾロはナミをさらに強く抱き締める。


腕が、胸に、当たってるん、ですけど。


そう言おうとして、ちらりと視線を横にしたナミは再び溜息をついた。

ナミの白い肩に頬を乗せたまま、ゾロは目を閉じて眠っていた。



 「………何なのよ、コイツ」



大きく息を吐いたナミは、強張っていた体の力を抜いた。
それからゾロの胸にもたれるように体を倒す。



 「ベッドにしては固いわね」



初夢見れるかしらと呟いたが、もちろんグーグーと寝ているゾロからは反応は無い。

ナミは片手を挙げて、自分の顔の横にある緑の頭をよしよしと撫でる。



 「お金は請求しますからね」



そう言って、微笑んでから目を閉じた。






翌朝、甲板で仲良く密着して眠っている2人の姿を発見したサンジが吠えたのは言うまでもない。





2008/01/01 UP

お正月話…?
てか酔っ払いゾロ→ナミ捕獲→ほだされるナミってコレ前にも書いた覚えがある。
でもどれだか覚えてないから誰か教えて。

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