妻。










理想の結婚相手は大和撫子。

男を立てて三歩後ろについて、内助の功で夫を支える。




大学時代に友人と冗談交じりに話していたことをふと思い出して、ソファにもたれたままちらりと隣に目をやった。

同じようにソファに座っておれが淹れたコーヒーを飲みながらテレビを見ている、おれの妻がそこに居る。


年末特有の番組に飽きたのか、妻はリモコンを片手に適当にチャンネルを変えている。
画面には甘い顔立ちの若い歌手が歌っていたり、どこぞかの寺だったり、深夜向けのお笑い番組だったりが映っては消えていく。
何度も『ガキ使が見たい』と言ったのだがどうやら音楽番組に目当ての歌手が出るらしく、
チャンネル権は当然の如くおれに与えられることはなかった。
一瞬画面に映る人気お笑い芸人が虚しく消え去り、再びアイドル顔の歌手が画面に戻ってくる。
妻は不満そうに再びチャンネルを変え、画面には静かな寺の風景が映り鐘の音が荘厳に響いてきた。



 「108って煩悩の数なのよね」

 「あぁ」

 「テレビの前で108回聞いてたら煩悩消えるのかしら?」

 「さぁ」



妻は持っていたカップからコーヒーを一口すすり、こちらを向くと妙に幼い顔で笑った。



 「ずっと聞いてる気は無いけどさ、やっぱコレ聞くとあぁとうとう年が変わるのねって感じよね」

 「そうだな…」




単調な鐘の音を聞いていると、段々と眠気に襲われる。
見計らったように妻はチャンネルを変え、芸人の笑い声がして思わず目を開けるとやはりすぐに画面は変わる。


年末くらいチャンネル権を与えてもらいてぇもんだ


心の中での呟きが聞こえたのか、目を細めた妻がこちらを見た。
聞こえているはずは無いのだが、何となく目を逸らしてしまう時点でもうチャンネル権は奪えない。




 「もうすぐね」

 「…だな」



釣られて壁の時計を見上げると、既に長針は『来年』まであと10分というところまで来ていた。



 「今年遣り残したことはない?」

 「別に」

 「じゃあ後悔したことは?」




理想の結婚相手は大和撫子。




先程の昔話がちらりと脳内をかすめてしまい、うっかり返事に間が空いてしまった。
当然妻は反応し、再び目を細めて睨んでくる。



 「何かあるの? 結婚したこととか言ったら殴るわよ」

 「…………おれはな」

 「うん」



妻の顔を横目で見て、ボソリと呟く。
おれが口を開くのを待つ妻の姿は、猫じゃらしで遊んでくれるのをうずうずと我慢している猫の姿のようだ。



 「後悔なんざ今まで一度もしたこと無ぇ」

 「そんな人いるの」



妻は大きな目を丸くして、呆れたように首をかしげた。
それには構わず、妻が持っていたカップを奪って冷めつつあるコーヒーを一口飲む。



 「さぁな。 すくなくともお前に関しちゃ何の後悔も無ぇ」

 「………ふーん」



妻はそう言ってフフと笑い、おれの手から再びカップを取るとテーブルに置いた。
そうして猫のように身を摺り寄せてきて、腕にしがみつくと上目遣いで見上げてくる。



 「かわいい奥さんにもっとプレゼント贈ればよかった、とかの後悔は無い?」

 「………無ぇなぁ全く」




考える素振りだけして、あっさりとそう答えてやると妻も冗談めかして頬を膨らませる。



 「何よー! じゃあ来年に期待しましょ」

 「じゃあ小遣い上げてくれ」

 「それはそれ」







理想の結婚相手は大和撫子。


あくまでも理想は理想。



現実に惚れる相手は別物らしい。










2007/12/31 UP

2007年最後の更新。
ゾロ誕真っ最中なのに何故か通常更新(笑)。
とりあえず大晦日話をね…。

2007年、色々とお世話になりました。
みなさん、良いお年を!

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