詐。










 「ナミ、あんたは今日からナミゾウよ」

 「……は?」




にっこりと微笑んだ母親の顔を見ながら、ナミは開いた口を閉じることができなかった。







上司のセクハラにキレて殴り飛ばし、その足で職場を辞めてきた母は、
心機一転とばかりにさっさと引越しを決め、ナミも合わせて転校することになった。

それなりに名の知れた進学校に進み、高校生活2ヶ月が経ちようやく慣れてきた頃の転校で、
しかも引越し先での編入校がなかなか見つからないという状況だったが、
母一人子一人という家庭であったため、一人元の住所に残るという選択肢はナミはハナから持っていなかった。


勉強できればどこでもいい、とようやく見つけた高校への編入を目前にした、
母はそんなナミに対して先程の発言を笑顔でかましたのだった。





 「ちょ……え? ナミゾウって何? 何で男の名前に?」

 「共学なんだけどねぇ………女子がいないらしいのよ」

 「………はい?」




本年度から共学になったその私立高校は、手違いでもあったのか今年の女子入学者はゼロだった。
しかも元々全寮制で、2・3年の生徒の大半はそのまま寮に残り新入生もほとんどは寮住まいなのだが、
女子寮はいまだ完成していないという不手際っぷりだ。



 「で、でも一応はちゃんと共学なんでしょ? 別に普通に女子として入学すればいいじゃない」

 「あんた、そんな男まみれの中に大事な一人娘を放り込むわけにはいかないわよ」

 「男装させて放り込むのはいいの!?」

 「それはそれ、よ」

 「ちょっとー!」



しれっと言い放つ母に、ナミは虚しく叫ぶのみだった。














 「転校生のナミゾウだ」

 「………よろしくおねがいします……」



体格の良い男性教師にそう紹介されて、袖の余る学ランを身に纏ったナミは頭を下げた。
ゆっくりと顔を上げながら教室を見渡すと、当然ながらそこには男子の姿しかなく真っ黒な学生服の集団としか見えなかった。

それでなくとも転校初日という緊張する場面なのに、男子に囲まれ男装してこの場に立っていることに、
教室に入る前まではさすがに胸中でじたばたと暴れていたが、
いざクラスメートの前に立つと色々と通り越して男装に関してはどうでもよくなっていた。
入ってしまったものは仕方ない、あとは自分の演技力と誤魔化しを信じるしかないのだ。

隣に立つ教師や前の席の男子生徒にバレないように、ナミは小さく息を吐いて顔をしっかりと上げた。



 「親御さんの仕事の都合でこんな時期の入学になったらしい。 寮にも入るから、お前ら色々教えてやってくれ」

 「へーい」



教室内の生徒たちは口々にそう答え、ナミと目が合うと笑顔を見せるものもいたし、
好奇心丸出しの目で見てくるものも当然いた。

だがとりあえず、最初の印象ではタチの悪そうな生徒はいないようだった。
その点にはナミはほっと胸をなでおろす。




 「クラス委員のルフィだ!! 何か分かんねぇことあったら言ってくれ!」



教室の真ん中あたりに座っていた黒髪の生徒が、人懐こい笑顔を見せながらそう声を上げた。
教師は「よろしく頼むぞ」と答えて、隣のナミを見下ろすと「こき使っていいからな」と呟いた。
それを聞き逃さなかったルフィは、「ひでぇよケムリン!」と嘆く。
だがケムリンと呼ばれたいかつい顔のその教師に一睨みされて、途端に大人しくなってしまった。
その一連の、だがおそらくは日常茶飯事のやりとりに生徒たちはどっと笑い出す。

ナミも思わず噴出してしまい、クスクスと笑った。

この場に立つまでの緊張とか、男子校への不安とか、バレたらどうなるのか、とか。
そんな色んな不安で昨夜は眠れなかったというのに、今はこんな風に笑っている。

意外と何とか…なるかもしれない。
何だか楽しそうだ、このクラス。

ナミは笑ったせいで目尻に浮かんだ涙を拭うと、ルフィの方に顔を向けた。



 「ありがとう、よろしくルフィ!」



そう言っていつものように…ごく自然に、微笑んだ。

幸か不幸か、その笑顔を直視してしまった男子生徒たちが数日間、
己の性癖について頭を悩ませることになったのだが、それをナミが知る由は無かった。












 「お前、女みたいなツラしてんなー」



教師に示された席にナミが腰を下ろした瞬間、
斜め前の席に座っていたルフィが首を捻って顔を向け、開口一番そう言った。
ナミは一瞬ギクリと体を強張らせながら、だがすぐに『転校生』らしく愛想笑いを浮かべる。



 「それ、よく言われすぎてもう気にならないよ」

 「本当、神様も惜しいことをしたモンだ…女に生まれてりゃなぁ…」



左隣の席の金髪の男は、ナミの顔を覗き込みながら心から哀しそうな顔をして首を振った。
「女子の入学を期待してたのに」と愚痴るその男にも、ナミは愛想笑いをしつつ「男で悪かったな」と返した。

てか何で気付かないの!
いくらブカブカの学ラン着てても男と女の区別くらいつけなさいよ!!
これでも前の学校では美人と評判だったのよ、自分で言うのも何だけど!!!

などと引きつった笑顔の下でナミが声に出さず叫んでいる間に1時限目の授業が始まり、
ルフィや金髪の男は面倒くさそうに自分の机に座りなおして、教師に言われるままに教科書を開き始める。

ナミもカバンからペンケースやノートを出して、それからちらりと右隣へと目をやった。



 「……あの、教科書、一緒に見せてもらえる?」



右隣の男は朝のHRからずっと机に突っ伏して眠っていたが、ナミがそう声をかけると少し遅れてむくりと体を起こした。
まだ教科書が揃っておらず、とりあえず今日は隣の生徒から見せてもらうようにと教師から言われていたナミは、
再び同じ言葉を隣の男にかけた。

緑頭のその男子生徒は二重の瞳をぼんやりとナミに向け、大きな欠伸をした。


あ、結構、タイプかも。


思わずそんな考えを抱きつつ、ナミは笑みと共に寝ぼけているらしい男子生徒にまたまた同じ言葉をかける。

中学時代なら、大抵の男(教師含む)はこの笑顔でヘラリと顔を緩めて言うことを聞いてくれたものだが、
隣の男が学ランを着た『ナミゾウ』にそんな反応を返すことはなかった。
だがボリボリと頭を掻いてまた欠伸をしたあと、じっとナミを見つめてくる。



 「………女?」

 「…………この学ラン、見えない?」



ナミは僅かな動揺を隠しつつ、学ランの襟元に指をひっかけてそう答えた。
相変わらず寝ぼけたような表情の男は、「だよな」と呟いて背を伸ばしてコキコキと首を鳴らした。
それから男がごそごそと自分の机の中を探るのを、ナミはぼんやりと見つめた。

とりあえずは夏休みまでか、せいぜい2・3ヶ月だろう。
母の仕事が落ち着けば、またゆっくり別の高校を―ちゃんと女子として編入できる高校を探すこともできる。
それまでの間をここで耐えればいいだけの話。
大した問題では、無い。



ナミが5歳の頃、母は離婚した。
父親が母に対して暴力を振るう場面をナミははっきりとは覚えていないが、
それは都合よく嫌な記憶を封印しているだけなのかもしれない。
記憶の底には確かに母が暴力を受けている場面が夢の中のワンシーンのように存在しているのだ。
父がナミに手を挙げたことはないが、
それは母はそうならないように己の身を呈して必死に守っていてくれたからということも、今のナミは知っていた。

離婚以来、女手一つで立派に育ててくれた母は、自由奔放という言葉がぴったりな人間だった。
男勝りの性格で明るくて人付き合いもよく、まわりからは強くてかっこいいと人気だった母だが、
ナミにとっての母は、そそっかしいところもある、傍にいてやらなくてはと思う存在だった。

態度はああだが心配性で、自分のせいで娘を振り回していることを心苦しいと思っている。
だがナミは母の行動を迷惑だと思ったことは今まで一度も無いし、むしろ楽しむことの方が多かった。
今回のことはさすがに行きすぎではあるが、だがこれも滅多にできる経験ではないと楽しむ余裕も徐々に生まれつつあった。

全寮制の元・男子校で、女であることを隠して生活する。

何とかなるわよ、とナミは心の中で再び決心しているとふと隣の男と目が合った。



 「転校生か?」

 「えぇ――あ、あぁ、ナミゾウって言うんだ。 よろしくね、な」



朝のHRを全く聞いていなかったらしい男に、ナミは女言葉になりそうになるのを誤魔化しつつ答えた。
妙な口調には違和感を感じなかったのか、男は机の中を探る手をまた動かし始める。
それから独り言のように呟いた。



 「じゃあおれの部屋に来るの、お前か」

 「……じゃ、君がロロノア・ゾロくん?」

 「あぁ」

 「そうなんだ! じゃあさらによろしく!!」


ナミがそう言って笑って手を差し出と、男は少し間を置いてその手を握り返した。
高校生とはいえ、女である自分のそれとは違う大きな手に緊張しつつも、ナミはどうにか誤魔化した。

離れた手を、ゾロはちらりと見下ろして再び呟く。



 「ちったぁ鍛えた方がイイんじゃね? 本当、女みてぇだぞ」

 「……男だって」



あえて不機嫌気味にそう返すと、ゾロは軽く笑って「悪ぃ」と答え、その顔にナミはほんの少しだけ頬を赤くする。



 「……で、教科書は見つかった?」

 「無い」

 「えぇ?」



一瞬前の動揺とは違う驚きで、ナミはゾロを見つめる。
男は机を探るのを諦め、椅子にもたれてぼんやりと黒板の方を眺める。



 「全部部屋に置きっぱなしだな、そういえば」

 「……それでどうやって授業受けるんだ?」

 「耳で」



しれっと答える男の顔はとても冗談を言っているようには見えず、ナミは呆れて肩をすくめる。



 「でも今、寝てたじゃん」

 「…………どうにかなんだよ、気合で」



少し照れたような気まずい男の返事に、ナミはぷっと吹き出して声を抑えて笑った。
その顔を横目でちらりと見たゾロは、再び机に頭を伏せてしまった。

笑いをこらえつつとりあえず教科書をどうしようかと悩むナミに、左隣の金髪の男が声をかける。



 「おれの見せてやるよ、そいつ万年寝太朗だからな」



そう言いながら、ガタガタと机を動かしナミとひっつけると、その間に教科書を広げた。
ゾロは既に寝てしまったらしく、からかわれたことには無反応だった。



 「あ、ありがとう。 えーと……」

 「サンジ。 よろしくな!」

 「サンジくん、ありがとう」



ナミはそう礼を言って、ニコリと笑った。
真正面からそれを見たサンジは、思わず顔を赤くする。



 「お前何照れてんだー? いくら男子校で飢えてるからって、それじゃ女好きの名がすたるぞ!」

 「うるせぇウソップ!」



サンジの前の席に座っていた鼻の高い、ウェーブのかかった髪を後ろで縛っている男がひやかすように言うと、
赤い顔のままのサンジはじろりとそちらを睨み、それからナミの顔をちらりと見た。
ナミは首をかしげ、よく分からなかったが目が合ったのでとりあえず微笑んでみた。
すると「くぅ!」とサンジはナミを避けるように体をよじり、何かに耐えるように震える。



 「あの…サンジくん?」

 「いや……気にしないでください…」



何故か丁寧語になってしまったサンジに、ナミは再び首をかしげた。

















放課後、ナミはゾロに案内されて寮の自室に居た。

2人用のその部屋には今まではゾロしかいなかったらしく、
室内はゾロのものが決して多くはないが乱雑に広がっており、2段ベッドの上段もゾロの服や本が無造作に放り投げてあった。
ゾロはベッドの上のものをまとめて抱え上げ、部屋の隅に放り投げる。
床や机に散らばっていたものも適当に抱えて同じように隅に固める。



 「まぁこんなもんか」

 「………」



とりあえず2人が座るスペースと、2人部屋らしくもう一人分の個人スペースを無理矢理に作り出したゾロは、
満足気に頷いてパンパンと手をはたいた。
舞い上がる埃を見つめながら、ナミは明日の放課後はとりあえず掃除をしようと決めた。

部屋の埃には一切構わず、ゾロは中央に置かれたテーブルの脇にどっかりと腰を下ろして息を吐く。
バッグを抱えて立ち尽くしていたナミも、しばらくきょろきょろと目を動かしたあと自分の机の脇にそれを置いて、
ゾロと同じように四角いテーブルの一辺にちょこんと腰を下ろす。

テレビの無い部屋に、妙な沈黙が流れる。



 「…お前、何でこんな時期に転校してきたんだ?」



ルームメイトとの無言の間が気になったのか、それとも気を遣ってくれたのか、ゾロの方から口を開いてきた。
ナミはぱっと顔を上げ、ゾロとまっすぐ目が合うとやはり顔が赤くなりそうになって慌てて誤魔化した。



 「あの、母親の仕事の都合で」

 「母親?」

 「離婚してるんだ、ウチの親」

 「ふーん」



ゾロの返事は素っ気無いものだったが、会話をやめるつもりは無いように見えたのでそのまま喋り続けた。



 「本当はわた…おれだけ前の住所に残ってもよかったんだけど…母さん一人にはしたくないから」

 「病気でも持ってんのか?」

 「……父親がさ、その……暴力振るう人で」



へへっと笑いながら言うと、目の前には予想外に真面目なゾロの顔があってナミは自虐的な笑いをおさめた。



 「おれが5歳のときに離婚したんだけど、何かそれ以来親子2人で、お互いすごい心配性になっちゃって」

 「ふーん。 まぁ一人息子なら母親守んねぇとな」

 「う、うんまぁそういうこと」



一人娘だけど、というツッコミはゾロにはバレないように、当然心の中に留めておいた。



 「強い人なんだけどね、やっぱり一緒にいたいから」



そう言って、ナミは無意識に優しく笑みをこぼす。
ゾロはその笑顔を見て一瞬固まり、それから同じように笑顔を返した。



 「…マザコンって言うのかな、コレ」

 「いや、イイんじゃねぇの」



照れたように笑うナミの頭を、ゾロは腕を伸ばしてがしがしと掻き混ぜた。
それから立ち上がり、ドアへと向かう。
突然頭を撫でられて驚いたナミは、乱れた髪を直すことも忘れてゾロのその動きを目で追った。



 「ロロノアくん? どこ行くの?」

 「お前の布団取ってくる。 準備するよう寮長に言われてたの忘れてた」

 「あ、そうなんだ。 おれ自分で行くよ?」

 「いいよ、荷物でも片付けてろ。 それから『ゾロ』でいい」

 「……ありがとう、…ゾ、ゾロ」

 「おう」



短くそう答えてゾロが部屋から出て行くと、ナミは大きく息を吐いた。

静かな部屋に一人になった途端、一気に気が抜けた。
さすがに緊張していたらしく、ふぅと息を吐くとじんわりと汗をかいていたことに気付く。

スカートと違って学ランにズボンは、なかなか暑苦しい。
それに胸を隠すために、シャツの下にはキツめのスポーツブラにベスト、という重ね着をしている。
最初は古典的にさらしを巻こうと思っていたが、手間がかかるため毎朝はとてもムリだし、
スポーツブラだけではどうにもふくらみや柔らかさが誤魔化せない。
学ランだったり大きめの服を着れば見た目は大丈夫だとは思うが、万一接触したときのことを考えて、
厚手生地のベストを着込むことにした。
動きにくいし暑いしイイことは何一つ無いが、とりあえずはそれでしのぐしかないのが今の状況だった。

ナミはちらりとドアに目をやり、ゾロが帰ってくる気配は無いことを確認する。



 「着替えちゃお」



そう呟いて、まずは学ランを脱ぎ捨てる。
それだけでも幾分の解放感はあったが、それからシャツを脱ぎベストを脱ぎ捨て、
汗をかいた肌に空気が触れるとかなり気持ちが良かった。



 「夏は地獄だわコレ…」



それまでにはどうにかしないと、と思いながら上半身はスポーツブラのままで、自分のバッグをごそごそと探る。
Tシャツをひっぱりだしたナミは、涼しさに名残を感じつつもそれをすっぽりとかぶった。
ベストだけはバッグの中に押し込んで、ナミは深く息を履きながらごろりと床に寝転んだ。



 「これも外したいけど、さすがにねぇ……」



胸元に手をやりながら一人呟いて、ぼんやりと天井を見つめる。

ここ最近はずっとバタバタしていて、ゆっくり息をつくヒマもなかった。
だがクラスの人間も皆仲良くやれそうだし、ルームメイトのゾロも無愛想に見えたが普通に話もできる。
何より…あの顔とか声とか、嫌いじゃない。

置かれている状況にも関わらずそんな感情を抱ける図太さに自分でも笑いながら、
少なくとも高校生活は順調に行きそうだと、ナミは安心して目を閉じた。

あぁダメだ。
ゾロが戻ってくる前に、荷物の整理をしておかないと…。
それにTシャツ一枚でこんなところで寝転んでたら…………。

脳内でグルグルと色んな言葉がまわり、それから段々と霞んでいった。








 「お前、上の段でいいか?―――ってもう寝てんのかよ」



布団を抱えて戻ってきたゾロは、部屋のど真ん中で寝息を立てているナミの姿を見て呆れた声を出す。
ベッドの上段に布団を放り投げ、ナミの横にしゃがみこんで肩を揺らす。



 「おい、ナミゾウ起きろ。 こんなとこで寝てたら明日の朝踏み潰すぞ」

 「ん〜〜〜………」



ほっせぇ肩だな、と思いながらゾロはナミの肩を揺するが、ナミは本格的に寝てしまったらしく唸り声を上げるだけで起きる様子は無い。
ゆさゆさと体を揺すられたナミは、ごろんと仰向けに転がった。



 「おいナミ――――」



名前の途中で、ゾロはぴたりと自分の動きを止める。

ゾロの目の前に寝ている『男』の胸では、Tシャツ越しとはいえいかにも柔らかそうな、
どう考えても筋肉には見えないふくらみが、呼吸に合わせて上下していた。




 「…………あぁ?」




たっぷり一分固まっていたゾロがようやく絞り出した声は、何とも間抜けなものだった。














 「……あのー…ごめんなーゾロ、ベッドに運んでくれたんだ?」

 「……荷物、今夜はちゃんと整理しろよ」




結局朝まで眠ってしまったナミは、気付けば2段ベッドの上段にきちんと横になっていた。
予想外に天井が近いことに驚いて飛び起きたナミは、既に着替えていたゾロを見下ろして誤魔化すように笑った。

ゾロはちらりとナミを見上げて、それからスポーツバッグを肩にかけて部屋から出て行こうとする。
それに気付いてナミは慌ててベッドから飛び降りた。



 「わ、待ってよゾロ! おれも行く!!」



そう叫びながら、無意識にTシャツの裾に手をかける。
声に振り返ったゾロはそれを見て目を丸くし、ズカズカと中に戻ってその裾を乱暴に引き下ろした。



 「な、何?」

 「……っ……。 い、急がなくてもお前はまだ時間ある」



きょとんとしているナミとは対照的に動揺しているゾロは、そう言ってくるりと向きを変えた。
ナミに聞こえない程度に小さく舌打ちをして、足早にドアへと向かう。
ゾロが慌てた理由に気付いていないナミは、壁の時計の針を見て「ほんとだ」と呟いた。



 「何でゾロはこんなに早く?」

 「朝練だ」

 「あぁ、部活? 何部?」

 「剣道部」

 「へーー!!! かっこいいね!!」

 「………」

 「頑張れーーいってらっしゃーーい」

 「………おぅ…」



何故か耳を赤くしたゾロは、そのまま急いで部屋から出て行く。

バタンと扉が閉じる音を聞いて、ナミはもう一度時計を見上げてから着替えようとTシャツに手をやる。
そこでようやく、自分がどんな格好だったかに気付いた。



 「………やば」



昨日潰れてしまったままだったので、スポーツブラにTシャツ1枚という姿。
うっかり普段の勢いで着替えようとしてしまったが、もしゾロの前でそうしていたら速攻で女だとバレていたはずだ。
しかも昨晩はゾロにベッドまで運んでもらったのだ。



 「……バレた…?」



でもゾロは、何も言ってこなかった。
バレていないとなるとそれはそれで虚しいが、少なくとも転校初日に正体判明という無残な結果にはなっていないようだった。
そのことにとりあえずは安心して、ナミは男と2人部屋ということに改めて危機感を抱く。



 「………ま、何とかなるわよね。 とりあえず油断しないようにしなきゃ」



そう言いながらも早速豪快にTシャツを脱ぐナミであった。








部屋の外では、耳たぶを赤くしたゾロが扉に寄りかかり溜息をついていた。



 「……どーーーするよ、これから………」



がしがしと頭を掻きむしりしばらくその姿勢のまま固まっていたが、ぱっと顔を上げる。



 「ま、何とかなんだろ…」



そう呟くと、肩のバッグをかけなおしてさっさと歩き出した。






似たもの同士な2人の寮生活は、まだまだ始まったばかりである。




2007/11/29 UP

『【花ざかりの君たちへ】でゾロナミ』

お、終わらなかった…(笑)。
終わりようがない!
とりあえずはコレで勘弁してください。

いなさん、騒動全然起こってないけど許して…!!

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