沮。
歴史の裏に埋もれる、砂漠の国での壮絶な戦いを終えた麦わらのクルーたちは、泥のように眠り続けた。
丸一日は身じろぎひとつせず、2日目あたりからようやく一人二人と目を覚まし、
だが戻ってきた意識をまた手放し、ベッドから起きだすことはなかった。
そして3日目の朝。
ある者は復興へと走り始めた町へ買出しに行き、またある者は己を含めた怪我人のために薬を調合する。
ナミも十分な休息を取った体を起こし、ベッドの上で思い切り伸びをした。
隣に目をやると、ルフィはいまだに起きる気配はなく、その隣ではゾロが同じように大の字になっている。
他のクルーは既にそれぞれ動いているようで、姿は無い。
2人が大口を開けて寝ている姿に微笑んで、ナミはベッドから抜け出して宮殿の図書室に向かった。
目に留まった本を数冊抱え部屋に戻ると、そこには既にゾロの姿は無かった。
ルフィの傍らについていたらしいビビに尋ねると、少し前に起きて外に出て行ったという答えが返ってきた。
雨が降り日が昇り国中が活気に満ち、国民たちは復興作業の合間にやがて平和を実感するだろう。
そんな空気がこの宮殿にいても感じられて、表に出ることは無いにしても確かな関係者であるナミはそれが嬉しかった。
それでいてこの部屋の中だけが時が止まったような、まるで争いなど最初から無かったかのような平穏な空間。
まさに「平和」という言葉がぴったりと当てはまる。
だがそこに恋人の姿は無い。
ナミは肩をすくめて、自分が寝ていたベッドの上にボスンと本を置いた。
ベッドのきしむ音が思ったよりも大きく響いたので少し慌てたが、それでもルフィが目覚める様子は無い。
船長がこの調子では、まだこの国を離れることはできないだろう。
ふぅと短い息を吐いて、ナミは分厚い本を1冊取って広げた。
だが文字を追うことはなく、ぼんやりと首をかしげる。
昨夜はナミ自身まだ疲れきっていて、何よりゾロも目覚めていなかった。
今では自分の体力も戻っているし、ゾロも外に出ているのなら回復したのだろう。
それならきっと今日は、ようやく2人きりで話ができる。
ナミはそう考えて、思わず笑みをこぼしてしまいビビに首をかしげられた。
夕食前には、ナミが図書館から持ってきた本は全部読み終わっていた。
サンジやウソップのように町へ出ても良かったのだが、ゾロを待っていたら結局夕方まで部屋にこもるハメになってしまった。
1日読みふけり最後の本を閉じるのとほぼ同時で、ルフィはようやく目を覚ました。
部屋に戻っていたクルーは船長を囲み、口には出さずともその無事に安堵する。
ナミも素っ気無い口調ではあっても、無事に起きてくれたことに安心していた。
ルフィの目覚めと同時に部屋に戻ってきていたゾロは、ちらりとナミと目を合わせた。
ナミのいる方へ足を向けようとしたが、寄ってきたチョッパーにトレーニング禁止だの包帯外すなだの言われ、
結局それを誤魔化すために反対方向の高価な酒の並ぶ棚へと向かうことになった。
ぎゅうと本を胸にかかえてナミは不満そうにその後姿を見つめるが、
30分後に夕食だと告げられ、結局その間はクルー全員が部屋の中に留まりゾロと2人で話すことはなかった。
宮殿大食堂での会食、とは程遠く騒がしい、だが麦わらの一味にとっては至っていつもどおりの夕食を終え、
クルーたちは満足気に腹を抱えて風呂へと向かった。
当然女風呂と男風呂は別々であるため、ルフィらとナミ・ビビの2人は入り口で別れる。
扉を抜ける間際、ナミはゾロへと一瞬の視線を送った。
ゾロがそれを逃すことはなく、視線を交わしたあとでナミは小さく微笑んだ。
今からのんびり風呂に入ったとしても、皆に出発の話をするまでにはまだ時間はたっぷりある。
それは多分、ゾロと2人きりでゆっくり過ごせるであろう最後の時間。
海に出てしまえば決して広くはない船内の女部屋で過ごすしかなく、これからの船旅が平穏などという保障も当然無いのだ。
目でそう合図したらゾロもちゃんと答えてくれた。
他の皆は気付かなかっただろうが、2人の間では言葉は無くとも通じていた。
念入りに体を磨きながら、ナミは再び頬を緩めてビビに不思議がられるのだった。
色々考えていたら思いのほか長風呂してしまったナミが部屋に戻ると、
さっさとあがっていたらしい男連中はのんびりとくつろいでいた。
タオルで髪の水気を取りながら、ナミは部屋の中を見渡しウソップに尋ねる。
「ねぇ、ゾロは?」
「入浴後のトレーニングだってよ。 おかげで船医殿がご機嫌ナナメだ」
「んもう、ちゃんと言ったのに」
「何をだ?」
「何でもない」
ナミは頬を膨らませて、タオルをベッドに放ってゾロを探すために部屋から出ようとした。
だが扉を開けると、その探し人は目の前に立っていた。
せっかく風呂に入ったというのにまた汗だくになっている男に苦笑し、
だが久しぶりにこんな近くに寄った気がするのでナミは嬉しくて笑顔を見せる。
応えるようにゾロも緩く微笑んだ。
それから汗だくの自分を自覚しているためか、「ちょっと待ってろ」と言って部屋の中へと入っていく。
入り口に立ったまま、ゾロがタオルで汗を拭い水を飲む姿をナミは見つめた。
勝手にトレーニングに行っていたことも、これから恋人と逢おうというのに汗だくになっていることも、
今のナミには全く気にならなかった。
自分は海賊であり、海が好きだ。
だがそれでもやはり陸地に足を着けると、どこか安心する。
少なくとも今は敵も海軍もおらず、平穏で、豪華な食事と大きな風呂、柔らかいパジャマと静かな部屋。
3日前の戦いがまるで夢のように、落ち着いた時間と空間。
そんなときをゾロと2人で過ごせるのだと思うと、多少の待ちぼうけや汗臭さなど許してしまえた。
それでもやはり心の中で早く早くと急かしながら、ゾロがコップをテーブルに置いた瞬間にナミは名前を呼ぼうとした。
だがそれよりも早く、ベッドに座っていたウソップがその名を呼んだ。
「なぁゾロ、二度風呂行こうぜ!」
「あ?」
「ゾロまた汗だくじゃねぇか、行こう!」
ベッドに寝転んでいたルフィが飛び起きて、ウソップに賛同する。
サンジもソファに深く腰掛けて休んでいたが、おれも行こうかなと呟いて背伸びをした。
「ゾロゾロ、また体洗いっこしような!」
「……いや、おれは………」
目をキラキラとさせたチョッパーに見上げられ、ゾロは言葉に詰まりチラリと扉へと目を向けた。
そこには無表情のナミが立っている。
2人の様子には気付かぬウソップたちはいそいそと風呂の準備を始め、完全に行く気満々だった。
「息止め対決しようぜゾロ!!」
「おれもおれも!!」
ルフィとウソップは、ゾロの両腕を引っぱりながらナミの脇をすり抜け部屋から出て行く。
チョッパーも小走りでついていき、そのあとに続いたサンジは前の4人に追いつくと、ゾロの肩に腕を乗せてニヤニヤと笑う。
「お前あの滝で修行しねぇのかよ?」
「誰がやるか」
振り返ったゾロはサンジを睨みながらそう返事をするが、ルフィらの手を振り払う事はなかった。
「…………」
残されたナミは呆然と男連中の後姿を見つめた。
部屋の中にいたビビは、動かないナミの様子を心配して近寄っていくが、
声をかけようとした直前でナミの気配が変わったことに気付き、伸ばした腕を引っ込めた。
「……………ちょっと待ちなさい!!!!!!!!」
その怒声にルフィらが振り返ると、鬼の形相のナミがものすごい勢いで迫ってくるのを見て、思わず全員足を止めた。
「何であんたたちだけゾロと一緒に入るのよ!!!!」
追いついたナミは、男たちを睨みつけながらそう叫んだ。
ルフィたちはきょとんとして、互いに顔を見合わせる。
「……って言われても……」
男同士なのだから大浴場に一緒に入るのは普通のことなのだが、
その当たり前の回答ではナミの不機嫌に油を注ぐことになるだろうというのはクルーは本能で気付いていた。
「ゾロ!! あんたも何素直についてってんのよ!!!」
「いや、汗かいたし…」
「この3日間、あんた私と2人になってないのよ!!」
「………まぁ、そうだが」
2人が付き合っていることは知っているが、今ここでそんな痴話喧嘩をされても…、とウソップらは困惑するが、
ルフィはじとりとナミを睨み返した。
「おれなんか3日ゾロと喋ってないんだぞ!」
ゾロの腕にしがみつきながらルフィが叫ぶと、ナミは鋭い視線を向ける。
「そんなのあんたが寝てたからじゃないの」
「ひっでー!!!」
「とにかくいい加減ゾロを渡しなさい!!!」
戸惑うクルーを無視して、ナミはルフィを引き剥がしゾロの腕を自分の方へと引っぱった。
ゾロは抵抗もせずにされるがままで隣に移動する。
「行くわよゾロ」
「行くって、どこに」
「女風呂」
「…………おぅ」
ナミは先程のルフィと同じように、しっかりとゾロの腕にしがみついてそう言い切った。
唖然とするクルーの間をすり抜けて、ずんずんと女風呂へとゾロを引っぱっていく。
「……じゃ、そゆことで」
顔だけ振り返ったゾロは片手を挙げてそう言い残し、引きずられたままで消えて行った。
何の返事もできず、クルーたちはそれを見送った。
「女風呂、使用中の看板しといた方がいいのかしら…?」
「そうだな…」
部屋の入り口でそれを見ていたビビがぼそりと呟くと、ウソップは力無い声でそう返事をした。
07/11/21 UP
『ゾロナミでイチャイチャしようとした時に限って他のクルーから邪魔されて怒るナミ(ゾロ総受け?)』
ルフィとナミの喧嘩(?)…こういうの前にも書いたよねぇ…(遠い目)。
忘れて忘れて…。
ごめんベタな展開で…!!!
ぽっかさん、こんなんでもいいかなぁ…(引け腰)。
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