声。









 「海賊といえば…やっぱ音楽家だよなぁ!!」

 「またそれか」







昼過ぎに上陸したこの島は商船が多く泊まる栄えた港町で、チョッパーが偵察に向かった限りでは海軍の姿はなかった。
さらには前の上陸はほんの1週間前でまだ食糧にも余裕があったうえ、
ここに来る途中で襲ってきた小規模の海賊から頂いた臨時収入もあった。

おかげで機嫌の良いナミの許可が下り、この日麦わら一味は揃って酒場へと足を運んだのだった。


物価が安い町で、その酒場ではほとんどの酒が相場の半額程度で出されていた。
だがやはりナミの監視の目があるため、そこでも自然と一番安い酒を頼むのが麦わら一味だった。

地元の人間や商人、それに見るからに海賊という輩もいたが、酒場では皆同じように酒を飲み盛り上がっている。
久しぶりの外での宴会とあって、ルフィはもちろん他のクルーたちもすっかりその騒ぎに溶け込んでいた。

店にはギターを抱えた音楽家がいて、客のリクエストに合わせて様々な曲と歌を披露していた。
中年のすらりと背の高い音楽家は、優雅に指を動かして酒場を盛り上げる。
それに盛大な拍手を送りながら、ルフィはカウンターに座っていたゾロの隣に来て腰を下ろし、
声高々に『海賊といえば音楽家だ!』と宣言したのだった。
ゾロを挟んでその反対側に座っていたナミは、体を後ろに逸らしてゾロ越しにルフィを見ながら呆れたように声をかける



 「あんた本当、そればっかりね」

 「だってよー! 海賊は歌うモンだろー!!」


酒のせいでとろんとした目のルフィが駄々っ子のようにそう言うと、ナミはクスクスと機嫌の良い笑顔を見せる。

ナミ自身それなりにほろ酔いで、クルーには内緒でゾロと2人で少し高めの酒を頼んでいた。
久しぶりの宴会で酒豪2人とくれば必然ペースは早く、その高級ボトルさえも結構なハイペースで空になっていったが、
他の皆が飲む酒が安いからとナミは平然と笑って、ゾロがそれに抗議の声を上げるはずもなく2人はまた新しいボトルを開けた。

隣で着々と空になっていく高級ボトルに気付く事もなく、椅子に腰掛けブラブラと足を揺らし『音楽家いいなぁ〜』と唸るルフィを見て、
ゾロとナミは顔を見合わせて苦笑した。

ルフィは酒の入った赤い顔で指を咥えて口笛を鳴らし、音楽家はそれに応えて恭しく頭を下げた。




 「あら、お兄さんたち海賊なの?」

 「あぁ!」



おそらくは彼女目当てで来る常連客も多いのであろう、酒場の若い女主人は、
3人の会話を聞いてグラスを拭きながらルフィたちに微笑んだ。

簡単に海賊とバラしたルフィをナミはキッと睨むが、女主人は慣れているらしく態度を変えることはなかった。
それどころか音楽家に「あんた、海賊の歌でも歌ってあげなよ」と声までかけた。

それを聞いてルフィは目を輝かせ全力で拍手をし、別のところで同じように酒を楽しんでいたクルーたちもそれに乗った。
サンジは店にいた女の客たちと仲良くなりそれどころではなかったようだが、それでも少し遅れてから彼女たちと拍手を始めた。

ナミとゾロは目を見合わせ、肩をすくめたあと同じように拍手をした。
他の客たちも手を叩き、音楽家は店の中央に移動しその拍手に応えて片手を上げた。




音楽家は再びお辞儀をして演奏を始めた。
ルフィはもちろんのこと、店の中にいた客たちも盛り上がり一緒になって手拍子を始める。

音楽家は歌いながらルフィの傍までやってきて、ルフィは立ち上がり彼と肩を組んで歌い始めた。
ほろ酔いの客たちも立ち上がって、初対面同士の相手と手を取り合って踊り騒ぐ。
サンジも女性の手を取って、ここでは場違いなほど優雅に踊っていた。




 「ゾロ、ゾロ! お前も歌えよ!!」

 「ん?」



ゾロは持っていたグラスを一気に煽り、ルフィに応えて口端をあげて笑った。

久しぶりにたっぷりと酒を飲め、さらには高いモノまで飲めたゾロは上機嫌だった。
しかも他のクルーはそれぞれ店内に散らばって楽しんでいるおかげで、ナミと2人で飲むことを邪魔されずにいるのだ。
この日はおかげで、珍しくナミと同じようにほろ酔いだった。


隣に居たナミはもちろんそれに気付いていたし、ゾロの機嫌が良ければやはりナミも嬉しかった。
2人きりとはいかないが他のクルーに邪魔されることもなく、ゆっくりゾロと話すこともできたし、
おかげでこの酒場の騒がしいバカ騒ぎの空気を楽しむ余裕があった。

だからもしルフィがナミに一緒に歌おうと声をかけていたらおそらくはナミも歌っていたし、それも悪くないと思っていた。
だがさすがに、普段宴会で騒いでも歌うことの無いゾロが快諾するとは思ってもいなかった。




 「いいぜ」

 「…え、ゾロ? 歌うの?」

 「何だよ、おれが歌ったらおかしいか」



ゾロはそう言って笑いながら、女主人がすぐに満たしてくれたグラスをまた空にした。

それからカウンターを背にしてテーブルに片肘をつき、手に顎を乗せた体勢のままで歌い始めた。




 『Yo-ho, Yo-ho, a pirate's life for me ……




それは海賊の歌で、男共がバカ騒ぎしながら歌うのに相応しいものだった。

だがその騒がしさにもかかわらず低くよく通るゾロの歌声を聴いて、店内にいた客たちは一斉にそちらを見た。
店内に散らばっていたクルーたちも、滅多に聞けない、珍しいゾロの歌声を聴いて目を丸くする。

ルフィは満面の笑みを見せ、ゾロに負けない大きな声で歌いだし、他の客たちも我も我もと歌い始める。
客たちは音楽家と肩を組むルフィ、そしてその隣で座ったまま歌うゾロを囲うように丸くなり、酒場は大合唱となった。




曲が終わり、店内は満足の拍手で満たされる。
男たちの機嫌は最高潮になり、酒のスピードがさらに上がっていく。
村人も商人も海賊も、完全にごちゃ混ぜになって大宴会の様相を呈していた。

ルフィは音楽家の肩にしがみついたままどうやら勧誘しているようだったが、
音楽家も慣れたものでさらりとそれをかわし、ゾロと目が合うと人の良さそうな笑顔を見せて声をかけてきた。



 「歌、お上手ですね」

 「そりゃどうも」



素っ気無いその返事が照れ隠しなのだと知っているナミは、笑いながらゾロの脇腹を突付いた。
ゾロは眉間に皺を寄せナミを睨むが、それ以上は何も言わなかった。



 「貴方の声なら、こんな曲も合うかもしれませんね」



ルフィがウソップたちのところへ消えると、音楽家はさらりと弦をはじいて曲のサビ部分を弾いた。

それはいわゆるラブソングの類で、何年か前にイースト・ブルーで流行したものだった。
今でも若者の結婚式で歌われることが多く、定番の曲になりつつある。

ナミはもちろん、おそらくはルフィですら一度は耳にしたことがあるであろう曲だった。



 「ご存知ですか?」

 「あぁ」



ゾロの返事にナミは意外な顔を見せ、だがそれに構わずゾロはイントロの部分を口ずさんだ。



 「――だよなぁ、確か?」

 「えぇ、そうです」



音楽家はにっこりと笑って、改めてその曲を頭から演奏し始めた。
それからゾロに目をやって首をかしげて促すように眉を上げてみせる。


先程のまでの曲とは調子の違う演奏に気付いた客たちの騒ぎが、ほんの少しだけ静まった瞬間、


ゾロの歌声が店内に響いた。


違った意味でのざわめきが店の中に走り、客の目は一斉にゾロに注がれた。
だがゾロはそれらの視線を気にするでもなく、椅子に座ったまま歌っていた。
いつもの宴会ならすぐに他の客と歌いたがるルフィも、
このときばかりは口を開けてぽーーっとゾロを見つめ歌声に聴き入っていた。

ウソップとチョッパーは目を輝かせてゾロを羨望の眼差しで見つめ、
サンジは驚きのあまりあんぐりと口を開けていたが、隣にいた女性たちが揃ってうっとりとゾロを見つめているのに気付いて、
今度はショックで口を開けっぱなしになる。

店内の客の目は揃ってゾロに向けられ、騒ぐものは消え皆がゾロの歌声に捕らわれていた。
ゾロは周りの目の色が変わっていることには気付かず、機嫌良く曲に合わせて歌い続ける。
ナミは隣に座ったまま、呆然とその姿を見つめていた。

ふとゾロが視線をナミに向け、歌いながら笑いかけた。
ちょうどそこがサビの部分で、ナミは歌詞と相俟って一気に顔を赤くする。
その反応にさらにゾロは笑顔を見せ、視線を前に戻して最後まで歌いきった。



演奏も終わり、店内が一層大きな拍手で包まれた。
ゾロも満足気に微笑み、グラスの酒をまた一気に飲み干す。

ナミは頬を染めぽーーっとゾロを見つめる。



 「……どうした?」

 「…………」



顔を覗き込むようにして尋ねたゾロをぼんやりとした目で見つめながら、ナミが口を開いた瞬間、


サンジを取りまいていた者を含む女性客たちが、今度は一斉にゾロを囲んだ。
隣のナミが押しのけられるように体をズラさざるを得ないほどの勢いで、彼女たちは頬を染めて黄色い声を上げる。



 「ねぇねぇもう1曲歌って!!」

 「すっごくセクシーだった!!」

 「お兄さん本当に海賊なの? 勿体無い!」

 「一緒に飲みましょう!」



好き勝手に言いながら女たちはベタベタとゾロに触りまくっていた。
上機嫌だったとはいえその勢いにさすがにゾロは顔を曇らせ、適当に流しながらルフィに手招きをする。
気付いたルフィはにししと笑いながら近づいてくる。


 「ゾロ、お前上手いじゃんかー!」

 「次はコイツが歌うから」



ルフィを指差しながら、ゾロは女たちに告げた。
だが彼女たちは不満らしく、歌って歌ってと抱きつきながらせがむ。
ゾロが女たちの腕をさり気なく振り払う、その光景にルフィは面白そうに笑いながら「じゃあ一緒に歌おうぜ!」と叫んだ。



 「おーい! サンジも歌おーぜーー!!」



ゾロの歌声を聞いてしまい、さらには女たちまで取られてしまったために椅子の上で体育座りをしていじけていたサンジを、
ルフィはムリヤリ引っぱってきて音楽家の隣に並ばせた。

同じようにゾロの腕も取って立ち上がらせ、再び音楽家と肩を組んでルフィは歌い始める。
音楽家は先程とは違う、別の陽気な海賊の歌を演奏し始め、
ゾロもそれに合わせて歌い、サンジも仕方なく、だが段々と楽しくなってきて大きな声で歌い出す。

女たちもきゃーきゃーと3人を取り囲み、それぞれに腕をからませて笑っている。
他の客たちも手拍子をはじめ、店の中は再びバカ騒ぎの盛り上がりを見せる。






そんな中で、ナミだけはカウンターに座ったままで不機嫌な表情だった。
先程のまでのほろ酔いは一気に醒め、ヤケ酒気味にグラスを傾ける。



 「モテる男が連れだと、色々大変だねぇ」

 「……次は無いわよ」



クスクスと笑う女主人に、ナミは少しだけ顔を赤くして苦笑を返した。






この日以来、ゾロが外で歌うことはナミによって禁止されている。





07/11/14 UP

『ゾロが超セクシーボイスで歌う(原作ベース)』

セクシーボイスだけど、ゾロに歌の話題振っちゃダメなんだよねぇ?(笑)
でもやっぱ中井さん、セクシーボイスですから…!!!!
ていうかセクシーの表現ってどうすりゃいいのか…!!!
タイトルそのまんまやね(笑)。

ゆきさん、歌声はご自分で補完してください(笑)。
許せ!

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