宿。










 「ナミさーーん!!!」

 「ちょ、ビビ!? どうしたの!?」


玄関の扉が開くと同時に、青い髪をした半泣きの女は中から出てきた女性に抱きついた。





















 「妊娠?」

 「うん…私、どうしたらいいのか分からなくて…」




居間に通されて紅茶を出され、とりあえず落ち着いたらしいビビは何度も鼻をすすりながら答えた。
ナミは自分の分の紅茶のカップをテーブルに置きながら、ビビの斜め横のソファに腰を下ろす。



 「そっか…おめでとう!」

 「ありがとう…でも不安で」



めでたい話の割りに相変わらず浮かない顔のビビは、またうるっと瞳を潤ませてナミを見た。

大学の先輩後輩という以上に友人として親しい2人は、結婚してからも互いの家を行き来するような仲だった。
親友とも呼べるその女の不安げな表情を見てナミは首をかしげ、飲みかけていた紅茶をテーブルに戻す。



 「ルフィはどうしたの、まだ言ってないの?」

 「ルフィさん、先週から仕事で……」

 「あーー、そうなんだ。 帰ってくるのは?」

 「予定では3ヶ月だったけど、多分いつもみたいに半年くらい…」

 「うわー…」

 「一人で考えてたら、何だかパニックになっちゃって…」



ナミはビビの隣に移動し、俯く親友の頭をよしよしと撫でた。
堪えていた涙がまたぱたぱたとこぼれてきて、ビビはナミにすがるように抱きついた。



 「あんたご両親も遠いもんね…。 てかルフィ、こんなときに仕事なんて!!」

 「違うの、妊娠が分かったのが一昨日だから、ルフィさんは知らないの」

 「そっか…」




ビビの夫であり同じくナミの後輩でもあるルフィは、写真家として活動している。

世界中をフラフラと飛び回っては写真を撮り、そして毎度それがそれなりの評価を受けている。

ルフィの写真は、まるで子供の目を通して見た世界のように純真無垢で、
それはついつい微笑んでしまうものもあれば、無意識な涙が零れてしまうものもある。

ここ数ヶ月は国内での個展や取材が忙しく、ビビもルフィが傍に居て嬉しそうだったのだが、
今回また発作のようにルフィは撮影の旅に出てしまったのだった。
ビビは妻として夫の職業に理解を示していたし、いつも辛抱強くなかなか帰ってこないルフィを待っていた。

だが今回ばかりは、話が違っていた。




 「半年って…長いわねー、今の状態じゃ」

 「うん…」



ソファの背にもたれ、ビビの頭を抱きながらナミは溜息と共に天井を仰ぎ見た。
ビビも一緒にソファにもたれて、すんと鼻をすする。



 「いつも3週間か4週間くらいで最初の連絡が取れるから、それまで…」

 「3週間かー…」

 「どうしようナミさん、私どうしたらいい?」



ビビはガバリと体を起こし、ナミに詰め寄る。
不安に揺れる親友の目を見返しながら、ナミもソファに座りなおしてビビの両肩をがっしりと掴んだ。



 「安心しなさいビビ! あんたには私がついてるわ!!」

 「ナミさん…」



頼れる先輩の心強い言葉を受けて、ビビは今度は感動で瞳を潤ませた。




 「女手一つで赤ん坊育ててきたこのナミさんがついてるんだから大丈夫よ!!」



 「どこの誰だ冗談抜かしてんのは」




ふいに男の声が混じり、2人は揃って隣の部屋のドアへと顔を向けた。




 「あらゾロ、居たの」

 「………」



隣から出てきたのは、平日の昼間だというのにTシャツにジーンズという姿の男だった。
ナミの夫であるその男、ゾロは緑色の頭をボリボリと掻きながらビビに「おす」と声をかけ、
それから呆れたようにナミを見た。



 「誰が女手一つ、だって?」

 「似たようなモンじゃないの。 てかもう出たのかと思ってたわ」

 「出発は明日だ」

 「あらそ、いってらっしゃい」

 「………」



ナミはふいっと顔を逸らしてそう言い放つ。
その冷たい言い方に、ビビはおろおろと2人の顔を交互に見ることしかできなかった。

ゾロは片眉を上げながら、ナミとビビが座っているソファの背に手を置いてナミの顔を覗き込む。



 「まだ怒ってんのかよ」

 「別に」

 「怒ってんじゃねぇか」



自分に向かって伸ばされた逞しい腕をびしっと払って、ナミはゾロを鋭く睨んだ。



 「えぇえぇ怒ってますよ、何も結婚記念日に仕事に出なくてもいいじゃない?」

 「だから何回も言ったじゃねぇか、今回は1ヶ月で戻るから記念日には間に合う」

 「そう言ってあんたもいっつも3ヶ月とか半年になるじゃないの」

 「…………」




ゾロの仕事も、ルフィと同じく写真家だった。

ただしルフィとは違い、ゾロの撮るものは思わず目を背けたくなるような、
だがそれでも確かに存在する現実、そういう類のものだった。

戦地に生きる子供や、残酷な弱肉強食の自然の世界。

だが生きる厳しさを含んだその写真の中にも、そこには愛情や美しさが存在していて、
ゾロもルフィのようにこの世界では確かな評価を受けていた。




 「怒るなよ…ちゃんと帰ってくるし、お前の好きな石採ってくっから。 何せ宝石で有名な所だからな」



ゾロはそう言って背後からナミを抱き寄せて上を向かせ、額にキスをした。



 「……ダイヤじゃないと許さないわよ」



優しいキスを受け入れてほだされつつ、それでもナミはじろりとゾロを睨んでそう言った。
相変わらずの妻のそんな態度にゾロは苦笑を返す。




 「ところでどこに行くんだっけ」

 「ジャヤ」

 「ジャヤ!? ルフィさんと同じだわ!!」



隣でイチャつく2人を、頬を染めながら横目で見ていたビビは「ジャヤ」と聞いて思わず声を上げた。
ナミとゾロは揃って目を丸くする。



 「そうなの?」

 「えぇ、確かにジャヤって言ってたわ」

 「よーしゾロ、連れ戻してきなさい!!!」



ナミは立ち上がり、ビシリとゾロに指を突き付けてそう命じた。
その提案にゾロとビビは一瞬呆けて目を見合わせ、それからはははと乾いた笑い声を上げた。



 「ナミさん、いくら何でも…」

 「無茶言うなよお前、あいつが今どのへんにいるのかも分かんねぇんだろうが」

 「気合よ!!」

 「アホか!!」

 「あは…」



ビビはもう笑うしかなく、ゾロは額に血管を浮かばせて盛大に突っ込んだ。
その反応に、ナミはむっと眉を寄せて恨めしげにゾロを睨む。



 「それとも何、初めての妊娠の半年間をビビ一人で過ごせって言うの」

 「それとこれとは話が――」

 「ゾロだって私が妊娠したときは仕事休んでくれたじゃない」

 「そうなんですか? 愛ですね!!」

 「ルフィだって知らせたら飛んで帰るわよ、あいつなら! だから早く知らせてきて!!」



ナイスアイディアと自画自賛で目を輝かせているナミを見て溜息をつき、ゾロは諦めて玄関へと向かった。



 「ゾロどこ行くの!? 逃げる気!? あ、それともジャヤへ?」

 「アホか!!幼稚園だよ!! 迎えの時間だろうが」



スニーカーを履きながらゾロが叫ぶと、ナミはきょとんとした顔をして、それから慌てて時計を見上げた。



 「え、もうそんな時間?」

 「やだ、私ったら長居しちゃって…ごめんなさい!」

 「いいわよゾロが行ってくれるから。 滅多に居ないんだからこういうときくらい動いてもらわないとね」



チクチクと棘のある言葉が背中に突き刺さりゾロはじろりとナミを睨んだが、
最高級の笑顔で『いってらっしゃいv』と言われれば『…いってきます』と答えるしかなかった。




 「じゃあビビ、色々買い物にも行かなきゃね! 私が使ってたのもまだ新しいし、良ければあげるわよ?」

 「本当、ナミさん!?ありがとう!! やだ私、何か楽しくなってきた!」

 「よかった! 何かおなかすいたわねー、何かお菓子あったかなー」

 「ナミさん、紅茶淹れなおしますね!」



背後できゃあきゃあと盛り上がっている女たちをちらりと見て、
ジャヤでの仕事がひとつ増えたな、と結局妻に逆らえない自分に溜息をつきつつ、
可愛い娘を迎えに行くためゾロは幼稚園までの道のりをてくてくと歩いて行った。






07/11/01 UP

『ゾロナミ・ルビビで、ビビが妊娠してママ先輩ナミに相談』

はい、ゾロ誕1発目…。
うん、だってオレ妊娠したことないし!!(爽やかに言い訳)
あ、ビビちゃんは紅茶は1杯だけです。
ルフィが捕まったかは知りません(放棄)。

10/5にリクくれた方、
まとまりのないSSになりましたがお許しを…!


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