焦。








 「ナミ」







ロロノア・ゾロの声が聞こえるときは、必ず航海士の名前が耳に届く。









クルーがゾロの『気持ち』に気付いたのは、ある日の夕食の席でだった。



キッチンのテーブルに決まった席があるわけではないが、
毎日クルーが3度と集まるその空間では、自分の席というものが段々と決まるようになっていた。
自然と定着したその並びでは、ゾロとナミは隣同士だった。
その向かいにウソップとロビン、テーブルの短い辺にはそれぞれルフィとチョッパーが座る。
サンジにとってもその配置が定着していて、それぞれの皿を並べるのもその席順になっていた。


だがある日、日誌を書くのに夢中になっていたナミは夕食の席に着くのが遅れ一番最後にやってきた。
キッチンに入ると、いつも座るゾロの隣の席にはルフィが座っていた。

グルグルとロープで蒔かれ猿轡まで噛まされたルフィは、じたばたと暴れては時折ゾロにしばかれている。
いつもルフィが座る席には、何やら青ざめているウソップが座っていた。
キッチンに入ってきたナミはそれを見て、空いていたロビンの隣に腰を下ろす。



 「どうしたの、2人とも?」



ナミは座りながらロビンに尋ねる。
ルフィとウソップの顔を見てふふっと笑ったロビンは、「おしおきよ」と答えた。

テーブルに並べられていく、湯気の立つ美味しそうな料理を前に拘束されているルフィ。
目の前にキノコたっぷりのスープを置かれ、背後からギラリと光ったサンジの目が突き刺さっているウソップ。



 「……まーた食糧泥棒が出たの?」

 「えぇ、未遂だったんだけど」



ナミとロビンはクスクスと笑いあい、半泣き状態の泥棒たちは恨めしそうな顔で2人を見返す。
それを無視して、サンジは美女2人に給仕を始める。
料理も既に並べ終わり、メリー号はいつもの夕食の時間となった。




船長の魔の手から自分の皿を死守する必要が無いこの日は、いつもよりは落ち着いた席となった。
相変わらずじたばたともがいてるルフィを時折叩きながら、ゾロは黙々と食事をしている。
そんなルフィを見ながらクスクスと笑い、恨めしげな視線を受け流しながらチョッパーは自分の食事をゆっくりと味わい、
ナミはロビンと隣同士になれたので、2人で何やら楽しそうに話しながら手を動かす。
ウソップはキノコ山盛りスープを前に相変わらず固まっているが、
どうにかキノコをよけてせめてスープだけでも飲もうと鼻をつまみながら頑張っていた。


数分経って、ゾロはふと動きを止めた。
それに気付いたチョッパーが口をもごもごと動かしながら首をかしげる。



 「ゾロ、どうしたんだ?」

 「いや…何か……」

 「?」



ゾロは正面に座るナミをじーーっと見つめる。
視線に気付いたナミも、何よと言いながらフォークを持つ手を止めた。



 「ナミ」

 「だから、何よ」

 「こっち来い」



ゾロはそう言いながら、ルフィを押しのけて自分の隣にスペースを作った。
おかげでルフィは椅子から落ちそうになったが、もごもご言いながらどうにか留まった。

だがナミはその発言を眉を上げて「何でよ面倒くさい」と一蹴し、
まわりのクルーたちはどう反応していいやら分からずしんとしてしまった。

速攻で断られたゾロはむすっとした顔で、今度はロビンをじっと睨む。
ロビンはそのゾロとナミの顔を代わる代わる見て、仕方ないという風に苦笑して立ち上がった。



 「しょうがない子ね」

 「悪ぃな」



ゾロは言いながら、自分の皿と箸を持って立ち上がった。
ロビンも自分の皿を持とうとしたが、すかさずサンジが歩み寄ってその役を代わる。
不本意ながらも皿やグラスをゾロが座っていた席の前に移動させ、ロビンは礼を言いながら移動する。


ロビンが座っていた席、ナミの隣に移動したゾロは、
ガチャガチャと音を立てて皿をテーブルに置き、満足気に息を吐いて酒のグラスをあおった。

その顔を横目で見て、ナミは肩をすくめた。



 「何なの?」

 「別に」



隣のナミをちらりと見てから、ゾロは何事も無かったかのように食事を再開する。

ウソップたちは相変わらずしんとしたまま、2人の言動に耳を澄ましていた。



 「わざわざ隣に来て、何か意味あんの?」

 「落ち着かねぇんだよ」

 「え?」

 「お前が隣に居ねぇと」




しんとしたキッチンにさらに妙な空気が流れ、クルーたちは無言のままカチャカチャと皿を鳴らす。
対してナミは「訳分かんない」と呟いてから、こちらも何事も無かったかのように食事を再開した。







この日以降、クルーたちの間では『ゾロはナミが好き』ということになっている。

一度ルフィが直球でゾロに質問したが、否定されなかったので決定事項となった。
自分の感情を自覚したのか、それとも皆にバレたことで開き直ったのか、
ゾロは今まで以上にナミの傍に居るようになった。
元々ミカン畑はゾロのお気に入り昼寝ポイントであったのだが、あえてナミがいるときにそこへ行くようになり、
ナミが甲板のデッキチェアに寝転んでいればすかさずその傍で昼寝をする。
島に上陸すれば、船番でなければ一緒について行き荷物持ちをする。
ナミの傍に居ればおのずと雑用を言いつけられる羽目になるのだが、
ゾロは(ナミ自身に関わることであれば)素直に言うことを聞いた。

今までのゾロからすればその姿は必死とも健気とも言えるもので、
時折フルフルと左右に振れる尻尾が生えているのが見えるとか見えないとか、
クルーたちはそんなゾロの恋がいつ成就するのかとワクワクと見守っていた。



だがナミの方の態度は一向に変わらなかった。
嫌がるわけでも喜ぶわけでもなく、とりあえず上陸時の『荷物持ち』が確保できたことは気に入っているようだった。

サンジですらも同情してしまうほど、ゾロへのナミの態度は他のクルーと何ら変わらないものだった。
それでもゾロはへこたれず、相変わらずナミの傍についてまわっている。










 「どうしてちゃんと答えてあげないの?」



2人きりになった夜の女部屋で、ロビンは眠る支度をしながらナミに尋ねた。
もぞもぞとシーツに潜り込もうとしていたナミは顔をあげ、首をかしげる。



 「何でそんなこと聞くの?」

 「だって、剣士さんがあまりにも一生懸命だから」

 「そうねぇ」



ナミは何かを思い出すようにクスクス笑いながら、ボスンと枕に頭を落とした。
同じようにベッドに横になったロビンは、肘をついて上体を起こしナミを見つめる。



 「彼のこと、そういう対象としては見られないのかしら?」

 「だってね」

 「?」



ナミはゴロンと横向きに転がり、柔らかく微笑んでみせる。




 「あのゾロがさ、私のことであんなに必死なんだもん」

 「………」

 「何か、嬉しいじゃない。 だからつい、ね。 ロビンだってサンジくんがああだと、嬉しくない?」




頬をうっすら染めてそう言ったナミは、ふふふと満足気に笑いながらシーツに潜り込む。




 「あなたってば……」



剣士さんも苦労しそうね、とロビンは苦笑した。










 「ナミ」



今日もメリー号に剣士の声が響く。
低く掠れたその声で名を呼ばれた航海士は、他のクルーに向けるのと変わらぬ笑顔でそれに応える。


その笑顔に隠された想いを、一途な剣士はまだ知らない。





2007/08/13 UP

『ナミに猛アタックするゾロと、それに全くなびかないナミ』
原作ベースで。

……も、猛アタックかな…?
隠れ家ゾロにしては一生懸命なんだよ…。
ナミさんは少々Sっ子です(笑)。
そして何気にサンロビ。

11日にリクくれた方、これで勘弁しとくれー!

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