僥。









 「おれは将来、世界一の剣士になるんだ!」






そんな可愛げのある発言をしていた頃もあったなと、ふと思い出した。




時代劇が好きだった親父の影響で物心つく前から竹刀を握らされ、
自分自身も好きだったので小学生の頃は毎日のように道場に通っていた。

将来の夢はと聞かれれば『剣士』だと答えていたし、
あの頃のおれは本気で『剣士』というものになるのだと、なれるのだと思い込んでいた。

だが中学高校と成長するにつれ、そんなものはムリだと分かる。
社会で生きていく上では働かなければならないし、
『剣士』などという職業、例えば道場の師範になるなどはそう簡単なことではないと理解していく。

剣道は単なる趣味となり、結局は普通のサラリーマンとして生活している。
今でも剣道は続けていて道場にも通ってはいるが、幼い頃のように『剣士』になるなどとはもう言えない。


『剣士』というものが『夢』であったとしたら、今のおれは夢破れたということになるのだろうか。
何の恐れもなくデカイ夢とか希望とかいう気恥ずかしいモノを抱いていた頃のおれが、今の姿を見たら失望するだろうか。


だが今の自分も悪くないと、自分では思っている。


幼い頃の夢からすればちっぽけな、いたって普通でよくある人生だが、悪くはない。
それなりに働いてそれなりの評価を得て、好きな剣道を続けられてもいる。


それに、大事な人間も傍に居る。







ナミと付き合い始めて、そろそろ8年になる。

大学時代のいわゆる合コンで出会い、途中で何度もケンカしたり離れたりもしたが、
とりあえず今のところは落ち着いている。

8年も一緒にいれば傍に居るのが当然のようになってはいるが、
逆にこの状況が安定しすぎていて次の段階になかなか進めないでいる。

ナミの方が結婚という話題を出してこないわけではないが、それを迫ってくることもない。
向こうも結婚願望はそれなりにあるだろうし、自惚れではなくその相手はおれ以外では有り得ない。
おれ自身も結婚するのならナミ以外にはいないし、だがなかなかそれを切り出すきっかけが無かった。


安定した、いたって普通の生活。

食って寝て働いて、ナミが傍に居て。

それが自分にとっては『普通』だったのだ。









 「ねぇゾロ、お向かいのさ」

 「あぁ」

 「庭の花、今年もキレイに咲いてるよ。 見た?」

 「あぁ…会社行くときちょっと見えたな」

 「すごいよね、毎年毎年あんなに咲いて。 ああいうの見ると幸せだなーって思う」

 「まぁ花だからそりゃ咲くだろ」



白飯をかきこみながらそう答えると、
テーブルを挟んで向かい側に座ったナミは動きを止め、こっちを覗き込むように首をかしげる。
それに気付いて目を向けると、どこか非難めいた視線とぶつかった。



 「ねぇゾロ、花が咲くのが普通だと思ってる?」

 「あ? そりゃ…そうじゃねぇのか?」

 「違うわよ」



思いがけず真面目な顔と声で返され、箸を持つ手が止まる。



 「あの家の人がちゃんと水をやって、大事に大事に世話をして、いっぱい愛情を注いで…だから咲くのよ」

 「……まぁ、そうだが」

 「去年も咲いたから今年も咲くなんて保証もないし」

 「………」

 「普通なんだと思わないで」

 「……悪ぃ」

 「私に謝られても困るけど…。 あ、おかわりは?」

 「あ、あぁ…頼む」

 「はーい」



にっこりと微笑んだナミに反射的に椀を差し出す。
受け取ったナミは立ち上がり、炊飯器へと向かう。


その後姿を見つめながら、ぼんやりと思った。


変わらずそこにあることを「普通」だと思うのは、贅沢なのだろうか。





今までそこにあったからといって、これからも同じところにあるとは限らない。

そこにあることは、傍に居ることは、普通なんかではなく幸せと思うべきことだ。







 「なぁ、ナミ」






幼い、剣士になるという夢を持っていたころのおれにとっての幸せは、
きっと強くなるとか強いヤツと戦うとか、そんなところだったと思う。


では今のおれにとっての幸せは?

真面目に考えてみれば、行き着く先はたった一つだ。



傍にいるのが当たり前で、傍にいてくれるのが当たり前で、
共に居るのが普通のことだった、その存在。


今のおれが考える幸せは、目の前の女があってこそのものだった。







 「なぁに?」







幼いころの恐れを知らぬ壮大な夢と比べれば、これは小さな幸せかもしれない。


小さくて、当たり前で、普通のことで。
だがそれこそが一番大切で一番幸せなことなのだ。







 「結婚しようか」







お前が幸せについて考えるとき、そこにおれの姿はあるだろうか?


そう考えることも、きっとそうだろうと信じられることも、『幸せ』ってヤツだ。





2007/08/07 UP

『ポルノ○ラフィティの【幸せについて本気出して考えてみた】でゾロナミ』

難産でございました…(笑)。
なんかもう言葉に出来ないこのはがゆさ!!!!

10日にリクくれた方、曲イメージ合ってないけど許して!

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