濡。
「あー、本当気持ち良かった♪」
濡れた髪をタオルで拭きながら、ナミは鼻唄を歌いながら独りごちた。
ある程度乾いたところで、後ろでまとめてアップにする。
新しい船、サウザンドサニー号の大浴場をナミは誰よりも喜んでいた。
他のクルーもサニー号がまだまだ珍しいらしく、色々な部屋を走り回ったりフランキーから説明を受けたりして、
新しい玩具を与えられた子供のようにはしゃいでいる。
しばらくは穏やかな波が続きそうだったので、ナミは広い風呂に入りのんびりと体を休めた。
換気のために窓を開け甲板を見下ろすと、ロビンが花壇に水をやっているのが見えた。
種を蒔いたばかりの部分はまだ茶色で少し寂しいが、ロビンは楽しそうにそれを眺めている。
ナミはふふっと笑って、鏡に向き直り化粧水をパタパタに頬につけた。
ゴトゴトと重い足音がするのに気付くと、鏡の中にはしごを上ってきたゾロの姿がうつった。
ナミは振り返らず、鏡越しにゾロと目を合わす。
「次、入る?」
「あぁ」
「あんたもお風呂好きだもんねー。 本当ココ最高よ!」
ナミは機嫌よく笑い、ゾロは開け放たれたドアから浴室の中を覗いた。
まだ湯気がこもり、温かく湿った空気が流れ出てくる。
以前よりもはるかに広いその風呂は、確かにゆったりとできてトレーニングの疲れも取れそうだった。
「……前のとは勝手が違いそうだな」
「そう? 確かに広いけど、使い方なんてのはそう変わらないでしょ?」
化粧水の瓶の蓋をして、ナミはゾロの隣に立って一緒に中を覗く。
ゾロはぐるりと視線を一周させ、シャワーの蛇口を顎で示した。
「湯は?」
「そこのレバーで温度の調節が出来るわ」
「シャワーとの切り替えは?」
「切り替えはほらあそこのレバーで…ってもう面倒くさいわね! ほら来て!」
ナミはタオルを首にかけたまま、再び浴室内に入った。
ぴちゃぴちゃと素足をお湯で濡らし、ゾロもブーツを脱いで裸足になってからあとに続いた。
「ほら、ココで温度の調節、でコレがシャワーとの切り替え」
「ふぅん」
ナミが指で示しながら説明すると、ゾロは頷きながら止める間も無くレバーや蛇口を弄り始めた。
「きゃあ!」
シャワーヘッドからお湯が噴出してきて、身をかがめてレバーの説明をしていたナミは頭からそれをかぶってしまった。
慌ててそこから離れて蛇口を閉めるが既に頭からびしょ濡れになってしまった。
「もう! 何してんのよ!」
「悪ぃ」
本当に悪気があったわけではないらしく、ゾロは素直に謝った。
ナミは首にかけていたタオルで(これも濡れてしまったのだが)顔を拭き、
髪をまとめていたゴムをはずして頭を振った。
「また着替え取ってこなきゃ…」
「脱いでそのへん置いときゃ乾くだろ、いい天気だ」
ゾロはまだまだ珍しそうに浴室内を見渡しながら、素っ気無くそう言った。
あんたのせいなのよとナミは睨むが、ゾロは全く気にしていないようだった。
「外ならまだしもお風呂場で乾くわけないでしょ、これだけ湯気がこもってんのよ」
「だから甲板とか外に干しゃいいだろ」
「だーかーら、その間の着替えがいるでしょ!」
「うっせぇな…、とりあえず脱げよ」
「なっ」
言うと同時に、ゾロはナミのキャミソールに手をかけあっという間に脱がした。
下着を着けていなかったため上半身裸になってしまったナミが唖然と立ち尽くしているうちに、
ひょいと肩に抱えられ下もショートパンツごと一気に脱がされる。
「………ちょ、な、あ」
素っ裸にされ、ナミはようやく顔を赤くして言葉にならない声を出す。
だがゾロはそれを無視して、ナミを床に下ろすと脱がした服を片手に濡れた足のまま浴室から出て、
窓から外を覗き込んだ。
下の花壇には、ロビンとチョッパーの姿があった。
水をやりながら、2人はなにやら楽しげに話している。
「おーーーい! チョッパー!!!」
ゾロは声を張り上げチョッパーを呼んだ。
2人は揃って顔を上げ、大浴場の窓から顔を覗かせているゾロに気付いた。
「何だーー?」
「これ、干しといてくれ!!」
そう言ってゾロは、濡れたナミの服を全部まとめて丸くして放り投げた。
突然のことにチョッパーは慌てるが、途中で手の花を咲かせてくれたロビンが上手くキャッチした。
ロビンの手から受け取ったチョッパーは、丸まったそれを広げて驚いてゾロを見上げる。
「え? ナミの服か??」
「新しいヤツなんだが、ちょっと濡れちまったんでな。
そのへんにぶら下げて、悪ぃけど乾いたらココまで持ってきといてくんねぇか?」
「あぁ、いいよ!!」
チョッパーは快諾し、ロビンはふふっと意味深に笑ってゾロを見つめる。
ゾロは2人が服を広げるのを見てから、振り返り浴室内に足を向ける。
自分の服を全部脱ぎ捨てて中に入ると、ナミは相変わらず素っ裸で立ち尽くしていた。
「………ああああああんたねぇ!!!!」
「いいだろ、せっかくこんなデカい風呂だ」
「…………」
ニヤリと笑ったゾロは、バタンと浴室の扉を閉めた。
「チョッパー、ロビン、ここにいたのか。 何やってんだ?」
天気がいいため、工具を抱えて『工場支部』まで上がってきたウソップは、
マストから手すりにロープを張ってなにやら干しているチョッパーとロビンに声をかけた。
2人は同じタイミングで振り返り微笑む。
「ナミの服干してんだ!」
「何だ、洗濯したのか?」
「いいや、新しいヤツなんだけど濡れちゃったんだって」
「ふーん?」
ウソップは首をかしげながら、工具を『工場支部』に置いた。
服を干しているのは主に身長のあるロビンで、チョッパーはその隣でそれを見上げている。
「乾いたら風呂場に持ってきてってゾロが言ってたから、もしおれが忘れてたらウソップ声かけてくれるか?」
「あぁ、いいぜ。 ……ゾロ?」
「うん、ゾロが」
『工場支部』に座り込んだウソップは、軽く返事をしたがすぐに首を上げて問い返した。
チョッパーはきょとんとした顔でウソップを見返す。
「……で、ゾロはどこにいるんだ?」
「風呂場」
「……ナミは?」
「さっき風呂入るって言って上がってったけど」
「……ふーん……」
無邪気な顔でチョッパーは答え、何も疑問には思っていないようだった。
ウソップがちらりとロビンを見ると、大人の余裕の微笑みを返された。
「……ま、いっか」
ちらりと大浴場を見上げて肩をすくめたウソップは、しばらくトイレを使うのは我慢しようと思った。
2007/07/30 UP
『風呂上りのナミさんとゾロ』
ゾロにいい思いを、という部分は叶えられたかと(笑)(省略してるけど)。
46巻巻末をじっくり見たんですけど、なかなか頭の中で組み立てられません。
細かく気になる部分がたくさん……!!
当分はメリー号かな、隠れ家では(笑)。
しおさん、こんな感じで許してー!!
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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