動。








ロロノア・ゾロがコートの中で飛ぶ姿に、私は一瞬で心を奪われた。


それまでだって何度も高校バレーの試合は見ていたし、実業団の試合も見に行ったこともある。
だが、人が飛ぶ姿を美しいと思ったのは初めてだった。

たかだか高校生、しかもまだ彼は1年だった。
交代でコートに出てきた彼が飛んだ瞬間、私はもう彼から目を離せなくなっていた。
私はそのとき中学3年で進路ももう決めていたけれど、その試合のあとですぐに志望校を変えた。

彼と同じ高校に行きたい。
彼の飛ぶ姿をもっと近くで見たい。

彼の姿が、瞼に焼き付いて離れなかった。




生憎バレーをするには身長が低かったこともあって、その高校でレギュラーを掴むことはなかなか難しかった。
小学校の頃から背が伸びると信じて続けてきたが、高校に入ってどうやら止まってしまったらしい。
今はまだ1年だからというのもあるが、来年や再来年でレギュラーになれるかどうか100%の自信はない。

だがたとえ背が伸びずともレギュラーになれずとも、私はバレーが好きだし、
ゾロと同じ事を出来ることがうれしかった。


ゾロも男子の中では背が高い方ではない。
だが彼には武器がある。

彼の垂直跳びの記録は、高校生男子ナンバーワンだ。

コートの中で誰よりも高く誰よりも美しく飛ぶ彼の姿は、私にバレーを続ける勇気をくれる。










 「お前だって、結構跳ぶだろ」



駅までの道を歩きながら、ゾロはそう言った。

憧れていた選手とこうして並んで歩くとは、高校に入る前は思ってもいなかった。
入学して半ば無理矢理入らされた委員会が、ゾロと同じものだったのだ。
(もちろんこっちはゾロがバレー部であることを知っていたが)私がバレー部だと知ったゾロは、
最初の委員会の集まり以来、ちょくちょくと声をかけてくれるようになった。

学年が違うので教室の階も違うのだが、移動教室などですれ違うことがあれば笑顔を寄越してくれるし、
放課後、部活への道のりが同じになれば歩幅を合わせて一緒に行ってくれる。
委員会のあとに部活へ行くときは、私の後片付けが終わるのを待ってくれていて、一緒に体育館に行く。

ゾロからすれば単なる『同じ委員会でバレー部の後輩』という感覚なのかもしれないが、
こちらからすればそれらは全てが有り得ないことで嬉しいことで毎日大変だった。




 「でも元が低いから」



男子と女子の部活の終わる時間が一緒になることはあまり無いが、
時折同じような時間帯に解散になることがある。

そういうときや男子が先に終わったときは、ゾロは私が帰るのを待ってくれていた。
方向は逆だが同じ駅を使っているのが理由だろうが、
私を待っているゾロの姿を見た友人たちは私たちが付き合っているのかとからかってくる。
そうならいいけどと思いながらいつも否定しているが、正直ゾロが私のことをどう思っているのかが気になっていた。

単に同じ委員会だから?
単に同じ部活だから?
単に同じ駅を使っているから?

ただそれだけの理由で、彼は私にこんなに優しくしてくれているのだろうか?
ゾロは確かに(顔は無愛想だけど)優しい人だから、そうなのだと言われれば納得もしてしまいそうになる。




駅までの道を隣同士で歩きながら、少しばかりの期待をしてしまう自分が恥ずかしくて思わず俯くと、
身長を気にしてヘコんでいると思ったらしいゾロがガシガシと髪を掻き混ぜてきた。



 「気にすんな。 全日本にだって170無いヤツいるじゃねぇかよ」

 「…そうだけど。 てか全日本とかは全然レベルが違うじゃない」

 「それもまぁ気にすんな」



顔が赤いことに気付かれていないだろうかと心配しながら、乱れた髪を直して隣を見上げる。
ゾロはニヤリと笑って、今度は優しく頭をポンポンと叩かれた。




 「おれ、お前の飛ぶ姿好きだぜ」

 「え」



思わず立ち止まると、一歩遅れて足を止めたゾロが振り返って言った。




 「お前いつも、楽しそうに打つだろ」



ゾロは思い出すように少し目線を外して、微笑む。
私は無言で、ゾロが話すのを聞いていた。
ゾロが私の話をしてくれているのだと、何となくまだ実感が湧かなかった。




 「そんで、羽が生えてるみたいにふわっと飛ぶ」

 「………」

 「それに…なんつーか、上手く言えねぇけど」




ゾロは少し首をかしげて、私の姿をじっと見た。




 「そうだな…、アレだ」

 「………」




ゾロの口から言葉が出てくるたびに心臓の音はどんどんと早くなって、
思わず逃げ出したくなったけど視線を外すことは出来なかった。





 「キレイだ」




そう言ってゾロは笑った。



私の練習する姿を、目に留めていてくれた。
私の飛ぶ姿をキレイだと、好きだと言ってくれた。

嬉しくて、何故だか泣きそうになった。



キレイなのは、ゾロの方だよ。



ゾロが笑って「行くぞ」と言ってまた歩き出したので、思わず大声で名前を呼んでしまった。
今の顔はきっと誰が見ても分かるくらい真っ赤で、
いくら夕方で見えにくいとは言ってもゾロの位置からならそれは確実に見えてしまうだろう。
だけど呼んでしまったので、振り向いたゾロにその顔を見られてしまった。





 「……私、ゾロに憧れてこの高校選んだんだよ!」

 「……へぇ、そりゃ初耳だ」




ゾロは片眉を上げて笑って、私は相変わらず真っ赤な顔で勢いのまま言葉を続ける。




 「ゾロがコートで飛ぶ姿が、すごくキレイで、だから私、私も!」






 「大好き!!」






叫んでからしばらくして、何となく思った。
今の言葉、勢いとはいえ思わず違う意味を含めてしまった気がする。

あくまでもゾロの『飛ぶ姿』が好きだ、という意味だったのだが。
今この場で、『ゾロが好き』という想いを告げるつもりなど毛頭無かったのだが。

どうしようどうしようと頭の中で色んな思いがグルグルと回って、
ゾロが気付いていませんようにと願うのみだった。


だがゾロは何も言わずにこちらを見ているだけなので、
どうやら言葉に含まれた気配に気付いてしまったようだった。

あぁ逃げ出したい、と思いながらそうもできず恥ずかしくて顔を俯け、2人揃って道の真ん中立ち尽くす。






 「おれも」





ゾロの声が聞こえてガバリと顔を上げると、にかっと笑った顔と目が合った。




 「ほら、行くぞ? 特急逃しちまうぜ」

 「え? あ、うん、………え、え?」





今、ゾロは「おれも」って言った?
それは、『飛ぶ姿が好き』という意味で?


それとも。



聞きなおすほどの勇気は無く、結局いつもと変わらぬ会話をしながら駅までの残りの道を歩いた。
ゾロがあまりに普通なので、私もそうせざるをえなかった。


ゾロは私の気持ちに、あの言葉の意味に気付かなかったのだろうか?
では何故あんなに無言の時間があったのだろうか?
どうしてわざわざ、「おれも」なんて言葉を返したんだろうか?


やっぱり都合よく期待をしてしまって、だけどその分答えを聞くのが怖くなって。




ねぇゾロ、私どうしたらいい?




2007/07/26 UP

『高校生ゾロナミ、同じ部活の先輩後輩で付き合う前を甘く』
とりあえずバレー部。
バレー選手なゾロって良くない?という気持ちを込めて。
ナミさんが妙に大人しい性格になってしまった…。

かっちさん、……ごめん!!(先に謝る)

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