専。







ここ数日ゾロと2人きりになっていないのは、私の気のせいだろうか?








海の上の小さな船の中。
2人きりになれる場所も時間も限られているが、だがそれは同時にその距離がいつも近いことも意味している。

相手がどこにいるかなんてすぐに想像もつくし、
たとえそこにいなくても、少し歩けばすぐに見つけることができる。

たとえば少し早く起きた朝だとか、
優しい風を受けて船を進める午後だとか、
静かな空気の流れる見張り番の夜だとか。

そんなちょっとした時間を見つけては、ナミとゾロは2人の時間を過ごしていた。





だがここ数日。



 「なぁゾロ!」

 「ゾロ!!」

 「おいゾロ!」

 「おいこら、ゾロ!」

 「ねぇ、剣士さん」



自分以外の声がゾロの名を呼ぶことが、やたらと多い気がする。
ナミは最初は気のせいだと思っていた。
ただ単に、その名前が特別耳に残るだけなのだと。

だが、ゾロと2人になる時間は確実に減っている。




 「なぁゾロ! 新作の星の実験するから、チェックしてくれよ!」



ウソップは甲板で昼寝をするゾロの横にしゃがみこんで、勝手に実験の準備を始める。
ゾロも渋々ながらも体を起こして、時折舟を漕ぎながら律儀にその実験に付き合っている。



 「なぁゾロ! 新しい薬作ったんだけど、こないだの傷に塗ってもいいか?」



キラキラと目を輝かせる小さな船医に、ゾロは文句を言いつつも結局は甘い。
シャツを脱いで新しい傷口をさらし、チョッパーがわくわくとその薬を塗るに任せている。



 「なぁゾロ! 魚釣れたんだけど釣り糸ぐちゃぐちゃになっちまったー」



船長が大きな魚を引きずりながらやってくると、
ゾロは溜息をつきながらその釣り糸をスパッと一太刀で斬り外した。
そうしてルフィに誘われるまま、2人並んでメリーの隣で釣り糸を垂らすのだ。
ゾロにとってはどんなものでも『船長命令』と言われれば逆らえない。



 「おいゾロ! この魚おろしといてくれ」



後甲板にどーんと置かれている巨大な魚を前にして、サンジはゾロを呼ぶ。
面倒臭そうに眉間に皺を寄せるゾロだが、サンジがそれよりも少し小ぶりの魚を山のように抱えてキッチンに向かう姿を見ると、
結局は刀を抜いて言われた通りに豪快に魚をさばいていく。



 「ねぇ剣士さん、貴方の住んでた地域のこと教えて欲しいんだけど。 伝説のような昔話ってあったかしら?」



何に触発されたのか、分厚い本を開いたロビンはゾロの後をついてまわり、
そのしつこさに負けてゾロは自分の故郷の話を適当ながらも思い出せる限りで答えてやる。






気付けばゾロのまわりにはいつも誰かがいる。
それは微笑ましい姿だったり、若干迷惑そうだったり、喧嘩腰だったり。
だがゾロは決して彼らを振り払おうとはしないのだ。


ナミは、そんな『彼らのうちの一人』になってしまっていた。

もちろん会話が無いわけではない。
食事の席は隣だから話もするし、操船の指示も出す。

だが、ナミが求めているものはそんなものではない。


『恋人同士』としての時間が欲しいのだ。


そしてこの数日、その時間が全く取れていないのが現実だった。









この日も『ゾロ』『ゾロ』とクルーはゾロにまとわりついていた。
ナミは階段に座り込んで、甲板で色々背中にひっつけているゾロの姿を見つめていた。


小さな声で『ゾロ』と呼んでみた。
海の音に消されてそんな大きさでは到底ゾロの耳には届かない、というようなものだった。

だがゾロは反応してくれた。
ナミの方を見てくれたのだ。
ただそれだけで嬉しくて、ナミは立ち上がりゾロの元に駆け寄ろうとした。


だが、次の瞬間にはどこからか飛んできたルフィがゾロの背中に飛び掛り、
ゾロはナミの視界から外れて甲板の端まで転がって行った。

ルフィと塊になってゴロゴロと転がりながら、ゾロは怒鳴っている。
だがルフィは気にするでもなくヘラヘラと笑い、しがみつく。


結局一歩を踏み出せぬまま立ち尽くしたナミは、その光景をじっと見詰めていた。





ゾロにはりついていたルフィ、そして甲板でゾロにまとわりついていたのはウソップとチョッパー。
「手伝えクソマリモ」と言いながら甲板に座り込んで山のようなジャガイモの皮を剥いていたサンジ。
そしてゾロの近くに椅子を置いて話しかけるでもなく傍に居たロビン。

全員が全員、自分たちのまわりの温度が急激に下がっていくのに気付いた。

ピタリと動きを止め、一斉に同じ方向に視線を向ける。



拳を握り階段の前に立ち尽くしているナミのまわりに、真っ黒い雲が漂っているのが見えた気がした。
温度の低下も気のせいかもしれないが、彼らは確かに鳥肌が立つのを感じていた。




 「………いい加減にしなさいよあんたら……」



ナミの体がゆらりと揺れる。

クルーは怒鳴られること、そして拳骨が下されることを覚悟したが、
ナミはそのどちらもせずにゴシゴシと目元をこすった。



 「私だってゾロと一緒に居たいのに……」



弱々しいその呟きを聞いてクルーたちは顔を見合わせ、慌ててナミに駆け寄った。
ようやくルフィから解放されたゾロは立ち上がり、コキリと首を鳴らしてナミの姿を見つめた。




 「ナ、ナミ、泣くなよ!」

 「悪かったって!」



うぇ、と子供のように泣きじゃくるナミを囲むように、クルーはオタオタと慰めようとするが一度溢れたその涙は止まらない。



 「ごめんなさいね航海士さん、貴方達があんまり可愛いからつい意地悪しちゃったのよ」

 「おれはこのマリモ野郎がナミさんと話すのを阻止したくて……ごめんよ」

 「おれは何も考えてなかったけど、スマン!!!」

 「おれも、悪かった!!!」

 「おれ、おれ、おれはちょっとナミにヤキモチ焼いてた…ごめんな…」


ロビンがよしよしとナミの頭を撫でる。
ナミは顔を挙げ、涙目でクルーの顔を見渡す。
目が合ったクルーたちは何度も何度もごめんと告げた。


そのクルーの先に、ゾロの姿を見た。


目が合うと、ゾロはすぐにナミの方に向かって歩き出した。
クルーを押しのけて、ひょいっとナミをその肩に担ぎ上げる。




 「え!」

 「てめぇら、少しくらい悪いと思ってんなら」



肩の上で真っ赤になったナミは反射的に暴れるが、それを無視したゾロはクルーを見渡してニヤリと笑った。




 「明日の朝まで女部屋に近づくなよ」

 「へ?」




ウソップとサンジが間の抜けた声をあげ他のクルーも呆然とする中で、ゾロはナミを連れて倉庫へと向かって行った。






暴れるナミを担いだまま、ゾロは女部屋への入り口を開ける。



 「ちょ、ゾロ!? 何なの!?」

 「たっぷり相手してやるよ」

 「なっ……バカ!!!!」

 「話でも何でも、ずっとお前の傍に居てやるから好きな事しろ」



階段を下りきってから、ゾロはナミを床にそっと下ろした。
ナミは相変わらずの涙目で、頬を染めてゾロを見上げる。
それからぎゅうとその首にしがみついた。








 「………やってらんねぇなー」




当てられたクルーは肩をすくめて苦笑いしつつ、各々のいつもの場所でいつもの時間を過ごすべく動き始めた。

当然、女部屋には近寄らないようにしながら。





2007/07/26 UP

『ゾロと2人きりになりたいのに、みンなに邪魔されて、拗ねちゃうナミ』
ナミさん、そうそう泣かないとは思うんですが…(なら書くな)。
まぁ細かいところは気にするな!

ふぅさん、何かありがちだけど許せチクショー!

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