咲。









ログが溜まるのに1週間かかるそこは大きな島で港町は栄え、商船を始め海賊船らしきものも多く泊まっていた。
その中にはメリー号も並んでおり、いつものようにルフィたちは意気揚々と上陸していた。
ただ今回いつもと違うのは、ゾロが珍しく船番を買って出なかったということだった。
大抵ならばその1週間のほとんどを船番として船で寝て過ごし、
ナミに連れ出されて1日か2日だけは上陸する、という男だったので、
ふらふらと町に消えていくゾロをナミは珍しく思っていた。

ナミは一緒に買い物ができると最初は喜んだがゾロは一人勝手に消えてしまい、
結局2人では歩けず、いつものように船に戻った夜にロビンに愚痴った。



 「剣士さんにも色々あるのよ」



そう言って宥めるように笑うロビンに、ナミは不満そうに口を尖らせる。
だがやはりロビンが微笑んだままで頭を撫でてくるので、結局大人しくなった。







翌日、滞在最終日となったこの日、お金が無いので船で寝ていたゾロはもそもそと起きだし、
前日までと同じように出かける準備をし始めた。

この1週間、ナミは結局ゾロと一緒に出かけることはできなかった。
1日2日の上陸でならばそれも仕方ないが、今回は1週間も滞在したのだ。
それなのに、恋人らしく街を歩くこともできなかった。

今日こそは、とナミは甲板に出てきたゾロをキッチンから見つけて慌てて声をかけた。
キッチンの中ではサンジが食糧の最終的な買出しに出かけるために与えられた食費を数えている。
大声でゾロの名を呼んだナミに気付いて顔をあげ、その背中に笑顔を浮かべた。

ナミはサンジの笑顔には気付かず、バタバタと階段を駆け降りて行く。




 「ゾロ!!! どこ行くのよ!」

 「………」

 「今日くらい一緒に出てくれてもいいでしょっ!」



ナミは強い口調でゾロに詰め寄り、傍から見れば喧嘩を売っているかのようにその白いシャツの胸を掴んだ。

無言で見下ろしていたゾロはポツリと呟いた。



 「あぁ、出ようか」

 「……え?」



普段は言われて嫌々出かけるゾロだったが、今回はやけに素直に同意した。
ナミは若干拍子抜けしつつ、だがやはり嬉しくて顔がニヤけるのを抑えながらパッとゾロから手を離した。



 「じゃ、じゃあ準備してくるから待ってて!!」

 「おぅ」



ナミは頬を染めながら、着替えるために女部屋へと向かって行った。

その背中を見送って、ゾロはふと視線を感じて顔を上げる。


キッチンの前の手すりに肘をついたサンジが、ニヤニヤと笑いながら甲板を見下ろしていた。



 「がんばれよ、剣士殿」

 「……どーも」









久しぶりにゾロと出かけられるというので、ナミは笑顔を零しながら女部屋に下りた。
そこには今日船番のロビンがいて、本棚から数冊の本を選んでいる途中だった。



 「あら航海士さん、もう出かけたかと」

 「うん、今から!」

 「剣士さんと?」

 「うん! 何で分かったの?」

 「だってそんなに嬉しそうな顔してれば、誰だって分かるわ」



ロビンはクスクスと笑い、ナミも照れながら笑顔を返してクローゼットの扉を開けた。

いつもと同じようなキャミソールにミニスカートでも構わないのだが、せっかくだから少しはおめかしをしたかった。
ワンピースでも着ようかと、ハンガーにかかったそれらを手で探りながら選んでいると、
本を胸に抱えたロビンが隣に立った。



 「その、白いワンピースがいいんじゃないかしら?」

 「白? これ清楚すぎかなって思ってあんまり着たことないのよね」

 「とっても似合うわよ」

 「そお? ロビンが言うならこれにしよっかな…」

 「えぇ」



にこにことやたらと機嫌良さげに笑うロビン少し首をかしげながら、ナミはそのワンピースを取った。









白いワンピースを着て甲板に出ると、ゾロはその姿に片眉を上げてまじまじと眺めた。
ナミがうっすら頬を染めてその視線を受けとめていると、ゾロはニヤリと笑って『似合う』と言った。
滅多に聞かないその言葉にナミの顔はまた赤くなり、
サンジがこの場に残っていれば溶けてしまうであろう程の笑顔を見せた。


街に出ると、ゾロは文句も言わずにナミの買い物に付き合ってくれた。
必要なものは既にこの1週間で調達済みなので、今回買うものは特に無い。
だがナミはゾロと出られることが嬉しくて、色んな店にゾロをひっぱりこんでは笑顔を見せていた。

途中で、先に街に出ていたウソップたちと出逢った。
ウソップは2人の姿を見つけると笑顔を見せ、ゾロに向かって『先に戻ってるからなー』と声をかけた。
チョッパーはナミのワンピース姿を見て嬉しそうに『すごく似合ってる!』と言ってナミを喜ばせた。
ルフィは何か言おうとしたが隣にいたウソップに口を塞がれてズルズルと連れて行かれてしまった。
妙な感じがしないでもなかったが、よく考えればいつもと大して変わらない。
ナミはゾロと顔を見合わせて笑って、3人に手を振って別れた。

そうしてさらに何軒か回ったあと、ゾロは広間の中央に立っていた時計を見上げた。



 「どうしたの、まだ戻る時間じゃないわよ?」

 「あぁ」

 「…何か時間気になるの?」

 「……そろそろちょっと、付き合ってもらうぞ」

 「え」




ゾロはそう言って、ナミの手を取るとずんずんと島の奥へと向かって進んで行った。


店が並ぶ島のメインストリートからどんどん離れながら、2人は石畳の階段を上って行く。
通りを挟むのは住宅や小さな地元民への商店ばかりになり、港付近とは違い穏やかな気配が流れている。

途中、洗濯物を干している婦人や椅子に腰掛けて新聞を読んでいる老人らが2人の姿を見て、
にっこりと笑って声をかけてくる。


 『フェリシダーデス!』


すれ違う皆が揃ってそう言うので、
ナミにはその言葉の意味は分からなかったがおそらくは『こんにちは』などの挨拶だろうと考えて、笑顔で会釈を返しておいた。

ゾロはナミの手を取ったまま道に迷う様子もなく進んでいく。
だが坂を上りきる手前で立ち止まったので、ナミはその背中にどんとぶつかった。



 「ちょっと、急に止まら――」

 「ナミ、目ぇつぶれ」

 「え?」

 「いいから」

 「……?」



意味は分からなかったが、とりあえず今日のゾロは機嫌がいいようだし、ナミ自身もおそらくここ最近で一番機嫌がいい。
素直にゾロの言うことを聞いて、ゾロの手を握ったまま目を瞑った。

ゾロはナミをひょいと抱き上げ、びっくりして声を上げるのを無視して歩き出した。
「目ぇ開けんなよ」と念を押されたので、ナミはゾロの腕の中で揺られながらぎゅっと目を閉じていた。
坂を下っている、という感覚だけはあったが、やはりゾロがどこに行こうとしているのかはさっぱり分からなかった。

時間にして数分、そうして揺られているとやがてゾロは立ち止まりナミを地面にゆっくり立たせた。



 「……もう開けていい?」

 「あぁ」



ゾロの声が背中から聞こえて、ナミはおそるおそる目を開けた。






 「………ぅわ……」






太陽の光を眩しく感じた次の瞬間には、ナミの視界は黄色に染められた。

一面の向日葵畑。

目の前は全て向日葵の黄色と葉の緑で埋め尽くされ、
真っ青な空との境界まで、ずっとずっとその先も太陽のような花が咲き誇っていた。



 「すごい!!!」



ナミは思わず両手を広げて叫んだ。
白いワンピースの裾が風に吹かれ、だがナミは気にせずに視界いっぱいの向日葵の花を見つめていた。
その背中を見ながらゾロは微笑む。



 「この島の観光名所らしいぜ」

 「へぇー、知らなかった! でもまわり誰もいないけど…」

 「今日は貸切」



貸切?と尋ねてナミは振り返ろうとしたが、ゾロに背中から抱き締められてそれはできなかった。
ナミは今更ながら頬を染めその腕に触れた。



 「……ゾロ?」

 「……こういうのは、ガラじゃねぇんだが」

 「…どういうの?」

 「まぁ一生に一度のモンだし、いいかと」

 「………何の話?」

 「手ぇ出せ」



質問には答えず独り言のように呟いたゾロは、そう言って片腕をナミの体からほどいた。
ナミは言われるがまま、右手を掌を上にして胸の前に出した。



 「右じゃなくて左」



今度は左手を同じようにして出す。



 「逆」

 「もう、注文多いわね!」



ナミはそう言いながらも、笑って掌を下にした。

ゾロはナミを片腕で抱き締めたまま、ごそごそとズボンのポケットを探る。



 「何なのよ?」



ナミが訝しげに顔だけ振り返ろうとしたとき、ゾロの右腕が背後から伸びてきた。
その手に持っていたものに太陽の光が反射してキラリと光る。

小さな緑色の石が埋められた指輪。

男の大きな手には似合わぬその指輪が、ナミの左手の薬指に通された。
ナミは呆然とそれを見下ろしていた。




 「………ゾ、ロ?」

 「結婚しよう」




ゾロは再び両腕でナミをぎゅうと抱き締める。





 「……………………え」

 「…聞こえたか?」



固まっているナミの顔を、ゾロは背後から覗き込んだ。
ナミの顔は徐々に赤くなっていき、ゾロの腕に響く心臓の音はどんどんと早くなっていく。



 「…き、きこえたけど、でもその」

 「何だよ」

 「私たち海賊で、海の上で、その、手続きとか」

 「そんなモン大したことじゃねぇだろ」



普段のナミらしからぬ歯切れの悪さを断ち切るように、ゾロは言い放つ。



 「要は気持ちの問題だ」

 「そ、そんなもんなの?」

 「そうだ」



ナミは横を向いて自信満々でそう言うゾロと目を合わせると、
少し考えてまた自分の左手に目を戻した。
太陽にかざすように腕を伸ばして、じっと見つめる。



 「ナミ」

 「………」

 「おれの嫁になる気あるか?」

 「………そんなの」




ナミはゾロの腕の中でくるりと体を回転させ、正面に向き合った。
腕を伸ばして飛び上がるようにゾロに抱きつく。



 「あるに決まってるでしょ!」



ふふっと笑いながら、ゾロの首筋に頬を寄せた。
ゾロも同じように笑って、ナミの背中に腕を回す。



 「ゾロのくせに、喜ばせてんじゃないわよっ!」

 「くせにって何だよ」



そう言って目を合わせ2人で笑ったあと、またお互いを抱き締めた。











向日葵畑から港のメリー号へと戻る道で、手を繋いで歩く2人にやはり島の人は声をかけてきた。
ゾロは小さな笑顔を見せて『グラシアス』と答えていた。



 「ねぇ、あの人たち何て言ってるの?」

 「さぁな」

 「さぁって……。 あ、あと指輪のお金とかどうしたの? それにさっきの貸切ってどういう意味?」

 「……聞くなよそういうことを…」

 「だってー」



ゾロが口を曲げて言うが、ナミは気になって仕方なかったのでしつこく聞いた。



 「…仮にも前は海賊狩りって言われたもんで」

 「……あんた今海賊なのよ!? 海軍に見つかったら…」

 「だから、そのまま街のヤツに現金代わりに預けた」

 「…ふーん、ならいいけど…。」

 「あと、諸々の交渉はロビンだ。 借金もしちまった」

 「……ロビン?」



予想外に仲間の名前が出てきて、ナミは目を丸くして隣のゾロを見上げた。



 「え、ちょっと、ロビンは今日のこと知ってるの?」

 「あぁ」

 「………これ、いつから計画してたの……?」

 「…………」




ゾロはふいとナミから顔を逸らし、見られぬようにとナミの先を歩き始めた。
引っぱられるように手をひかれ、ナミは慌てて小走りになって隣に戻る。

ちらりと見上げると、ゾロの耳が赤くなっていた。
ナミは笑って、ぴょんと伸びてゾロの頬にキスをした。






メリー号に戻った2人を待っていたものは、

豪華なパーティーの食事と『フェリシダデス』という言葉、

そしてみんなの笑顔だった。





2007/07/24 UP

『ステキなシチュエーションでプロポーズしちゃうゾロ』
ゾロなのにカッコよくサラッとキメちゃうそうで。

……分かりにくい…?
素敵シチュ……花畑?という短絡乙女思考をお許し下さい(笑)。
長さのわりに薄っっっっい内容でゴメンナサイ。

みどりさん、これで勘弁!

生誕'07/NOVEL/海賊TOP

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