静。








 「………はぁ………」




パソコンの電源を落として、ナミは溜息をついた。


椅子に背もたれ、思い切り首を反らして暗い天井を見上げる。
そのまま猫のように背を伸ばしてううんと唸った。



室内には既に他の人の姿は無く、部屋の照明は落とされナミのデスクの小さな電気だけが点いている。
壁にかかった時計を見ると既に10時を過ぎていた。

昼間に部下がやらかしたミスの後処理に追われて、今日はあっという間に一日が終わってしまった。
室長という立場にある以上、下の者のミスは自分のミスだ。
午後はその当人を連れて取引先を奔走し、後に残った細々とした処理はナミが行うことにした。
ミスを犯した新人くんはナミと共に残業しようとしたが、
はっきり言って彼に出来ることはなく、さっさと帰らせた。

ミスをしても、それを次に繋げて伸びてくれればいい。
まだまだ青い部下の尻を拭くのも、上司の仕事だ。

とりあえず事無きを得て、ナミは再び長く息を吐いて首を左右に倒す。
コキ、と乾いた音が静かな室内に響いた。



 「もう年かな…」



思わず独り言を呟くと、『年寄りくさいっすよ』と声が返ってきて驚いて体を起こした。


暗闇に目をこらすと、背の高い男の姿が近づいてくる




 「室長が年だったら、おれはどうなんすか」

 「…ロロノアくん? まだ残ってたの?」

 「いや、携帯忘れたんで取りに…。 室長こそこんな時間まで?」

 「えぇ」



ロロノア・ゾロは自分のデスクの上から携帯を取って、ポケットにねじこんだ。
ナミは相変わらず椅子にもたれたまま、ぼんやりとそれを眺める。



ナミが最初にこの職場に配属されたときにロロノア・ゾロに対して抱いた印象は、あまり良いものではなかった。
寡黙で愛想は無く、扱いにくいように思えた。
ここの人間の半数近くはナミより年上で、ロロノア・ゾロもそうだった。
自分より年下でしかも女が上司となると、向こうも色々とやりづらいことがあったかもしれない。

だが実際に話してみると意外と人懐こく、気も合った。
女だから年下だからと軽く見てくることもなかった。
何よりゾロは仕事が出来る。
飲みに出かけ、同じ仕事を手がけ、今では彼はナミの右腕とも言える部下になっている。



ぼんやりとしていると、段々と瞼が重くなってくる。
ナミは素直に目を閉じて、再び顔を上げて首を反らした。

その様子に気付いたゾロはナミの傍に近づき、閉じたナミの目を塞ぐように手を乗せた。

ナミは驚いて体を起こそうとするが、ゾロの手がその動きを制した。



 「ちょ、なに?」

 「おれの手、冷たいでしょ」

 「……そうね」

 「体温低いんで」

 「ほんと……。 気持ちイイ」



ナミはゾロの手を振り払うことはせず、心地良くその重さと冷たさを瞼に感じながらずっと目を閉じていた。









 「それから?」

 「…それからって?」

 「進展は?」

 「……何言ってんのよロビン、後輩よ?部下よ?職場よ?」



バーのカウンターで、ロビンと呼ばれた黒髪の美女がナミの顔を覗き込む。



 「あら、そんなの関係ないじゃない」

 「そりゃロビンは職場結婚だからそうでしょうよ。…そういやサンジくん元気?」

 「えぇ、毎日電話が来るわよ」



ナミは話の方向を逸らし、ロビンは笑顔でそれに答えた。

ナミの先輩だったロビンは、後輩でありナミの同期でもあったサンジと2年前に結婚した。
ロビンは『専業主婦ってやってみたいの』という理由で、上司たちの説得を押し切り会社を辞め、
サンジは当然そのまま会社に残ったのだが、1年前に辞めてしまった。
料理人になり店を持つのだという昔からの夢のために、現在はロビンと離れ単身レストランで修行の身である。


ロビンはテーブルに肘をつき、グラスの氷をカランと鳴らす。
その姿は、同じ女性から見ても見惚れてしまうほど美しかった。
先輩であり友人である女の姿を横目で見ながら、ナミもグラスを傾ける。

その姿を男たちが遠巻きに見つめていることに、2人は気付かない。
極上の美女2人に声をかけられるほど、勇気と度胸、そして自信のある男はこの場にはいなかった。


ロビンはナミに目をやり、ふふと意味深に笑った。
ナミは口を尖らせ、頬を染めながらむっと睨む。



 「……なによっ」

 「そのロロノアって子、貴女に好意があると思うけど?」

 「……そんなの、知らないわ」

 「本当に、何もなかった?」

 「……無いわよ!!」












ゾロの手が、体温を奪って熱くなっていく。
冷やされていた瞼も額も、段々と熱を持っていった。

2人の温度は、じわじわと重なっていく。

ぴくりとゾロの手が動いたので、ナミは目を開けた。
少しだけその手が額の方にずらされて、見下ろしてくるゾロと目が合う。

まっすぐ刺すようなその視線を受けとめながら、ナミは同じようにまっすぐに見つめ返した。
逸らすことはできなかった。

しんとした暗い室内で、何の言葉も交わさずにただ見つめあう。


ゾロの手がまた動き、額から頬にうつされる。
抵抗はしなかった。
何故だかする気も起きなかった。

見つめ合い、ゾロの顔が少しずつ近づいてくる。


ナミが無意識に目を閉じようとした瞬間、眩しい光に照らされた。




ゾロの手がさっと離れ、2人は同時に目を細めてその光の発生源へと顔を向ける。

そこに立っていたのは、警備員の制服を着た男だった。
男は懐中電灯を2人に向けて照らしながら、帽子のつばを上げた。




 「…………」

 「…………」

 「………お邪魔だったか?」

 「………ルフィかよ……」



ゾロが小さく舌打ちしたのが聞こえた。
少しだけナミから体を離し、頭をガリガリと掻いた。

知り合いなのか、と思いながら、眠気のふっとんだナミは姿勢を直してルフィと呼ばれた警備員を見た。
童顔のその男は、懐中電灯でわざとゾロの顔を照らしながら口を尖らせる。



 「何だよその嫌そうな態度はっ! こっちは真面目に仕事中なんだぜ?」

 「あーあー分かった、だったらさっさと見回り戻れ」



ゾロがしっしっと手を振りながら言うと、ルフィは帽子を被りなおしてニヤリと笑った。



 「分かったよ。 お前らもさっさと帰れよー、職場でいちゃこらすんのも程々になー」

 「だ、誰がいちゃこら…っ!!」



ナミは慌てて声を上げるが、ルフィは呑気に鼻歌を歌いながら出て行った。

ちらりと顔を上げてゾロを見ると、同じように気まずい視線と目が合ってゆっくりと逸らす。




 「………」

 「………帰ろっか」

 「…うっす…」




職場の人間たちが2人の空気に気付くのは、これからまだまだ先のこと。




2007/07/23 UP

『社会人設定でバリキャリ男前なナミさんと年は上だけど後輩のゾロとのラブコメ(甘々)』
オールキャラ希望、とのこと。
………無念!!(笑)
バリキャリかなーナミさん…?
一体彼らは何の仕事をしてるんだろう…。
marikoは今の職業しか働いた経験が無いので、働く社会人の話って書けないんですよ…。
そんな言い訳をしてみたり。

剣豪loveさん、これで許しておくんなまし…orz

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