識。
Q.あの人のこと、好きですか?
彼女の答えは、YESだった。
「あらゾロ珍しいわね、洗濯?」
「いや、風呂」
大きなたらいを抱えて倉庫から出てきたゾロを見つけて、ナミは前甲板から声をかけた。
ゾロは首だけで振り返り、そう返事をして階段を上っていく。
「お風呂? …それに入るの?」
「おれじゃねぇよ、カルーだ」
「カルーを洗ってあげるの?」
ゾロは元々優しい男だ。
特に動物や女子供には甘い。
本人にその自覚は無いかもしれないが、それは見ていて明らかだった。
強面ゾロがカルーを洗う天気の良い午後。
ほのぼのすぎて、ナミは微笑んだ。
「ビビが一人じゃ大変そうだからな」
「……ビビ?」
じゃあな、とヒラヒラと手を振るゾロの姿を、ナミは無言で見送った。
今までメリー号に女はナミだけだった。
男しかいない海賊船に女が一人、という状況をナミは不安に思うことはなかったが、
それでもビビが入ってくれて嬉しかった。
仲間で、友達で、妹のようで。
男連中とは話せないこともビビとは話せた。
その話には、ゾロのことも含まれた。
ナミとゾロは、いわゆる恋人同士だった。
誰かに話したくて仕方ないことや、相談したいこと。
今までナミにはその話をする相手がいなかったのだ。
時折ウソップに話すことはあっても、同性にしか分からないこともある。
夜が明けるまで、ナミはビビと話し込むこともあった。
ナミが最初に胸の奥に小さなしこりを感じたのは、そんな会話の中でだった。
同じベッドで同じシーツにくるまって、ナミとビビはいつものように声を潜めて話をしていた。
その途中で、ふとビビが呟いた。
「ナミさんが羨ましいわ」
「どうして?」
「だって、Mr.ブシドーみたいな素敵な人が恋人だなんて」
「素敵ーー!? ゾロに一番似合わない言葉じゃない!」
ナミがケラケラと笑うと、ビビは顔を真っ赤にしてガバリと起き上がった。
「ナミさんったら! 贅沢よ!!」
「ご、ごめん」
ビビの声に驚いて、目を丸くしたナミは思わず謝ってしまった。
はっと気付いたビビはさらに顔を赤くしてシーツに潜りこむ。
「わ、私こそ! ごめんなさいムキになっちゃって…」
「いいのよ……」
以来、ビビとゾロの姿を見ると胸がざわつくようになった。
いったん気になり始めると全てが気になって、
ゾロとビビが会話しているだけでも何を話しているのかとそわそわしてしまう。
ビビはゾロには特に懐いているように見えた。
彼女がまだミス・ウェンズデーだった頃最初に助けに入ったのが理由なのかもしれない。
自覚は無くとも、彼女は気付けばゾロの傍に居たしゾロと話すときはいつも以上の笑顔を見せていた。
同じように、ゾロもビビによくかまっていた。
ゾロは何故か動物になつかれる。
本人もおそらく小動物が好きなのだろう。
カルーがゾロになつけば、ビビも一緒にいることが多くなる。
ゾロがそれを疎ましく思う様子は無かったし、むしろ自らビビの手助けをしているように見える。
他のクルーに対する態度とも、ナミに対する態度ともそれは違っている。
少なくとも、ナミにはそう見えた。
後甲板で笑いあいながらカルーを洗っている2人の姿を、ナミは複雑な思いで見つめていた。
ここ最近、ナミの様子がおかしいことにゾロは気付いていた。
だがその理由はさっぱり分からなかった。
自分が関係している、というのは何となく分かるのだが、
ナミの機嫌を損ねるようなことをしたか思い当たらず、首をかしげるしかなかった。
ある天気の良い午後、ゾロは昼寝をしようと後甲板に足を向けた。
だがそこには既に先客がいた。
「よぉビビ、お前も昼寝か?」
「あ、Mr.ブシドー。 違うの、カルーを洗ってあげようと思って」
振り返ったビビはにっこりと微笑む。
「そのわりにゃ何も用意してねぇじゃねぇか」
「うん…どうやって洗えばいいのか悩んでたの」
「ふぅん」
ゾロはビビの隣に立って、カルーの背中を撫でた。
カルーは嬉しそうにぐぇと鳴く。
「たらいン中で洗うのが一番じゃねぇか? さすがに風呂場じゃ狭いしな」
「たらい?」
「持ってきてやる」
ゾロはそう言ってくるりと向きを変え、倉庫へと歩き出す。
「あ、ありがとうMr.ブシドー!」
「おぅ、待ってろ」
振り返ったゾロは優しく微笑んだ。
倉庫へ向かいながら、ゾロはビビの笑顔を思った。
ビビの笑う顔は、見ていて心地が良い。
またその笑顔を見たいと思うし、その笑顔が見られるように動こうと思わされる。
それは王女として生まれた者の天賦の才なのかもしれない。
そんなことを考えていたゾロは、
たらいを担いで後甲板に戻る途中の自分に注がれるナミの視線の色に、全く気づかなかった。
ギシリとロープが軋む音がして、ゾロは暗闇に顔を向ける。
よいしょ、と言いながらナミは見張り台の柵を乗り越えてきた。
座り込んでキッチンから拝借してきた酒をあおっていたゾロは、瓶から口を離して見上げた。
「どうした」
「話があって」
「話?」
ゾロの正面に座り込み、ナミは俯いた。
話があると言ったわりに、そのまま口を開こうとしない。
その様子にゾロは瓶を床に置いて、じっとナミを見つめて話し始めるのを待った。
「………ゾロ」
「…おぅ」
ようやく口を開いたナミの神妙な顔を見て、思わずゾロも真面目な声で返事をする。
「ゾロは」
「おぅ」
「ビビが好き?」
「………あ?」
ゾロはガクリと脱力し、片眉を上げる。
だがナミはいたって真剣な顔で、正座してゾロを見つめている。
「……そりゃ、仲間だしな」
「そうじゃなくて!」
「……あのなぁ、おれとお前って一応そういう関係だよな?」
「そうだけど」
ナミはもどかしそうに拳を握り、キッとゾロを睨む。
「例えば! ビビの笑顔が見てたいとか、傍に居たいとか、思う?」
「…………」
「……思うでしょ?」
「……まぁ、」
「それって、他の人に対して思う感情とは違うでしょ?」
「………違う、ような…?」
ナミに詰め寄られながら、ゾロは唸りながら答えた。
「それって、ビビのこと好きってことよ」
「………」
ナミに断言され、ゾロは返事ができなかった。
正直、ゾロはこういう話は苦手だった。
というよりも、よく分からない。
一人の女と真面目につきあったのは、ゾロにとってはナミが初めてだった。
ナミに対する思いは今まで出会ったどんな女に対して持ったものとも違うし、
もちろんルフィやサンジたちへのものとも違う。
自分の前で笑顔を見せていてほしいし、それを失くしたくないと思う。
傍に居れば安心するし、傍に居たいとも思う。
それはつまり自分にとってナミが特別な存在なのだと、ゾロは考えていた。
だが、同じようなことがビビにも言えた。
ナミに指摘されるまで自覚は無かったが、
これは先程の理論からすればビビのことも特別に思っているということになるのだろう。
「ビビはね、ゾロのことが好きよ」
「…………あ?」
グルグルと頭の中で考えていたゾロは、ナミの言葉をすぐには理解できなかった。
「あの子は王女だし、自由な恋愛なんて許されないかもしれない」
「おい、何を」
「でもだったら、せめてこの船の中では、好きな人と恋人同士にさせてあげたいの」
「ナミ?」
言葉がさらに理解できず、ゾロは手を伸ばしてナミの腕を掴もうとするが、
ナミはそれを避けるように立ち上がった。
「私は大丈夫」
「だから、お前さっきから何を」
「私はあんたじゃなくてもいいし別にそこまで好きとかじゃないしだから大丈夫」
「ナ――」
一息で言い切ったナミはにっこりと微笑んだ。
「ビビと、お幸せに!!」
そう言って、ひらりと見張り台から下りていった。
ゾロは腰も上げられず、呆然とそれを見送った。
――おれが、ビビを好き?
そもそも、ナミを好きだと気付いたのも本人に言われたからだった。
そのナミが、おれがビビを好きだと言う。
ならばそうなのだろうか?
ゾロは唸りながら頭をガリガリと掻き毟った。
どちらにしても。
「…おれじゃなくてもいいだと?」
ゾロは立ち上がり、甲板を見下ろした。
既にナミの姿はそこにはなく、暗闇が広がっているだけだった。
泣きそうなツラで言いやがって。
「勝手に決めてんじゃねぇぞ、ナミ」
翌朝、ナミは朝食の場に現れなかった。
サンジが心配そうにビビに尋ねると、『風邪っぽいから、念のため今日は寝ておくって』と答えが返ってきた。
ならば!とサンジがナミ用の食事を作っている間、他のクルーたちはいつものように朝食を摂る。
ゾロも無言でパンにかじりついた。
その隣、いつもナミが座る席にビビがちょこんと腰を下ろした。
「Mr.ブシドー、あとでお見舞いに行ってあげてね」
「……おぅ」
昨夜のナミの発言があって、ゾロは何となくビビの顔をまっすぐ見れなかった。
だがビビはいつものように笑顔で、自分の皿の上の料理を平らげていく。
「そういえば昨日」
「…お、おぅ」
何となくゾロは体を緊張させる。
ビビはゾロの方を見て、何を思い出したのかクスクスと笑った。
「昨日ね、ナミさんから妙に改まって、Mr.ブシドーのこと好きかって聞かれたのよ」
ゴホっと喉を詰まらせ、ゾロは激しく咳き込む。
ビビは吃驚してゾロの背中をさすってやる。
「だ、大丈夫!?」
「気にすんな……」
ガブガブとグラスの水を一気飲みして、ゾロは深く息を吐く。
様子が落ち着いたのを見て、ビビは安心してまた笑顔を見せる。
「……で、何て答えたんだ」
「もちろん、好きですって」
ビビはきょとんとした顔で答えた。
何の邪気もないその顔を、ゾロは無言で見返した。
昨夜のナミの言葉が、頭の中をグルグルと回っていた。
「私一人っ子だけど、お兄ちゃんがいたらきっとこんな感じだろうなって」
「………」
頬を染めながらビビがそう言うのを聞いて、ゾロは言葉に詰まった。
「おいおいビビー、こんなのと兄妹だったらつられて凶悪極悪マッチョな妹になっちまうぞ?」
話が聞こえたらしいウソップが笑いながら会話に入ってきた。
ビビはクスクスと笑ってウソップを見る。
「そんなことないわ、Mr.ブシドーは優しいもの!」
「本気かビビー!」
声を上げて笑った2人は、そこでようやく固まっているゾロに気付いた。
首をかしげて、ビビはゾロの顔を覗き込む。
「Mr.ブシドー?」
「…………」
ゾロは口元を押さえ、やがて肩を震わせて笑い始めた。
ビビはオタオタと慌てて顔を赤くする。
「わ、私何か変なこと言いました?」
「いや…何でもねぇ…」
ゾロは笑いをこらえながら、何とかそう言った。
珍しいゾロの姿に、ウソップたちは肩をすくめる。
ビビはさっぱり訳が分からず、顔を赤くしながら食事を再開した。
食事のあと、ゾロは声をかけて女部屋の扉をノックした。
当然返事はなく、だが構わず中に入る。
「ナミ」
「………」
「仮病使うな」
「……仮病じゃないもん」
部屋の奥のベッドでシーツにくるまったナミが、小さく反論してきた。
ゾロはゴツゴツとブーツを鳴らしながら、近づき腰を下ろした。
ベッドが軋み、ナミはちらりと顔を覗かせてゾロを見た。
だが目が合うとすぐにシーツをひっぱりあげて隠れてしまう。
「昨日のアレ、何だよ」
「……何って、そのまんまよ」
「ふぅん」
しんとした空気が流れる。
ゾロは無言で、ナミも黙りこくる。
沈黙に耐えきれず様子を伺うようにナミがまたシーツから顔を出したころ、ゾロが口を開いた。
「おれ、女きょうだいっていねぇんだよ」
「……なに?」
「くいながいたけど、あいつは親友だし、年上だからなぁ」
シーツに後手をつき、ゾロは天井を見上げる。
それからちらりと首を動かしてナミと目を合わす。
ゾロが何を言いたいのか分からず、ナミはシーツで顔を隠すのを忘れていた。
「おかげで、よく分からなかったんだが」
「……何の話?」
「つまりな」
「………?」
「たとえば妹がいたら、こんな感じだったんだろうなってことだ」
「………妹?」
ゾロはニヤリと笑ってみせる。
「あっちもそうだったみてぇだぜ」
「…あっちって、ビビのこと…?」
「兄貴みたいなんだとよ」
「………」
ナミはしばらく固まり、それからかぁっと真っ赤になって再びシーツにもぐりこんだ。
くっくっと笑いながら、ゾロはナミの肩をシーツの上からポンポンと叩く。
「お前、おれじゃなくてもいいって言ったよな」
「………言った、けど」
ナミはくぐもった声で返事をする。
「お前はそうでも」
シーツ越しにナミの頭を撫でながら、ゾロは優しく言った。
「おれはお前じゃないとダメだ」
「…………」
ナミは何も答えず、シーツから出てくる気配も無い。
くいっとシーツを引っぱったゾロは、何の抵抗も無かったのでそのままめくった。
ナミは顔を歪めて、泣いていた。
「……お前、泣くなら声出せよ」
「だって〜〜〜〜……」
うぇ、と嗚咽を漏らし始めたナミに苦笑して、ゾロは手でごしごしとナミの顔をこすった。
「もう変なこと言い出すんじゃねぇぞ」
「ごめんねゾロ〜〜〜……」
「分かりゃいいんだ」
Q.この人のことが、好きですか?
2人で声を揃えて、YESと言おう。
2007/07/20 UP
『恋人なゾロナミだけどビビが登場してビビが気になりだすゾロ、
それに気付いてゾロの為に離れようとするナミ』
原作ベースで最後はゾロナミハッピーエンド、だそうです。
何かキャラの性格は定まってませんね…。
あうち。
そして無駄な長さ(笑)(mariko的に)。
6/7にリクくれた方、こんな感じで許してくれたら幸せ。
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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