月。










でかい月だ









見張り台で、ゾロはぼんやりと夜の空を見上げる。


白い天満月。




月はこの世界のカケラだとか。
どこかで聞いたな。


妖しい光を放ち続ける満月を見上げたまま、
ゾロは考える。



誰に聞いたのか。

大昔にこの世界に何かがぶつかって、
壊れたカケラが月になった。

元々はひとつだったのか。



難しいことは正直よく分からない。
子供時代に聞いたことだ。
当時の頭で理解などしていないのだから、
今思い出そうとしても、ぼんやりとしか浮かばない。



どっちにしろ、今夜のような月は気に食わない。


あの月に似ているから。



最期になった、あの月に。



くそ。






酒でも取ってこようと、ゾロは見張り台から降りると、
ちょうどキッチンから出てきたナミに出くわした。



 「こら、何サボってんの」

 「サボってねぇ、酒取りに来たんだ」

 「あ、今差し入れしようと思ってたのよ」


そう言ってナミは笑って右手に持っていた酒瓶を持ち上げた。


 「下で飲む?」










 「今日の月ってすごいよねー」


船首に立ってナミは月を見上げる。
丸い大きな月を嬉しそうに見るその背中を、
ゾロはじっと見つめる。



銀色の光に照らされて、目に映るのはそのシルエット。


そのまま月に食われてしまいそうで、
ゾロは急いでナミを抱きしめる。



 「何よ、どうしたの?」

 「何でもねぇ」

 「・・・・?」


それっきり何も言わず、月の下で、ただゾロはナミを背中から抱きしめる。



ゾロからこんな風にしてくれるなんて珍しい。
嬉しくなって、ナミもゾロの腕を抱きしめるように、腕を重ねた。




布越しに感じる、ナミの鼓動。
腕から直に伝わる、ナミの温度。


大丈夫だ、こいつは此処に居る。




 「ねぇ知ってる?月って元々はこの惑星の一部だったのよ」

 「・・知ってる」

 「あれ、意外」

 「うるせ」



 「戻りたいと、思わないのかな」

 「・・・・・どういう意味だ?」

 「月が、ここに戻りたいと。元の場所に」

 「・・・・さぁな」

 「あんな遠くに離れて」

 「・・・・さぁな」

 「もう」



素っ気無いゾロの返事に、ナミは頬を膨らます。









遠い昔に離れ離れになったモノ。
欠けた隙間を埋めようと、常に互いに引き合って。
無くしたカケラを取り戻そうと、常に傍に寄り添って。


足りないものを補うその関係。
互いに依存し、自立したその関係。


失ってはならない相手。
自分が自分であるために、絶対不可欠な相手。




女と、男。

月と、この惑星。







 「似てるな」

 「え?何が?」

 「いや」


そうしてゾロはさらに強く抱きしめる。


 「ナミ」

 「何?」

 「どこにも行くなよ」

 「・・・・どうしたの?」

 「死ぬなよ」

 「・・・・どう考えてもアンタの方が先に死にそうだけど」

 「おれはまだ死なねぇ」

 「じゃあ私も死なないわ」



ゾロは自分のことは棚に上げて、
「死なない」とあっさり言い切るナミを睨むように見つめる。



 「人間なんてあっけなく死ぬんだぞ」

 「それ自分に言いなさい」


肩越しに振り返り、真面目な顔でナミは言った。



 「・・・・」


 「ま、私が死にそうになったら、ゾロが来てくれるでしょ?」

 「死なせねぇ」



笑って言ったナミの髪に顔を埋めて、ゾロはまた強く抱きしめる。


 「・・・本当にどうしたの?やけに弱気ね」

 「別に」




 「・・・・私が死ぬときは、ゾロが死ぬときよ」

 「・・・・・」

 「だから、あんたも死なないでね」

 「・・・・・・」

 「約束、なんて言わないけどさ」

 「・・・・・あぁ」

 「でもあんたが死んだら私も死ぬんだから、覚悟しときなさいよ?」

 「・・・・・・」

 「私に死んでほしくないんなら、ゾロも死ぬんじゃないわよ」

 「・・・・・・・あぁ」





月華だけが、二人を見ている。




    I walk slowly under the moonlight.
    Step by step, my body is imbued with spirits.
    My body is cleansed by the deep, dim moonlight.



        ゆっくりと月の光の中を歩く
        一歩一歩、からだのすみずみにまで気を満たしながら
        蒼い潤った光が私を浄化し満たしてゆく




ちょっと「輝夜姫」をイメージしつつ。
最後の詩は「Zenue meditation book」より。

若干弱弱しいゾロたんです。
ラブいゾロナミです(一応)。

2005/03/24

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