寄。
「とりあえずルフィ…体洗うなり拭くなりしてこい」
サンジは煙草を海に投げ捨てながら言った。
言われたルフィはきょとんと首をかしげる。
「何でだ?」
「くせぇしベトベトだし、そんなんでナミさんに近づくのは許さねぇ」
「おれじゃなくてアイツのよだれが臭ぇんだろー」
「同じだ」
サンジは顔をしかめるが、ルフィは不服そうだった。
「つーかさ、アイツが食ってンの見たら腹減ってきた」
「へーへー、じゃあとりあえず特急でてめぇらのメシの支度すっから、その間ちゃんとナミさん見とけよ!」
新しい煙草に火を点け、それを持った指をクルーにびしりと突きつけてサンジはキッチンへと向かった。
ルフィは食事に遅れてなるものか、とばかりに風呂場へと飛んでいった。
女部屋へ戻ろうとしたビビは、ふと思い立って階段へと向かいサンジに声をかけながら上っていく。
「サンジさん、私も行くわ。 氷が全然足りないの」
「OKわかった、準備するよ。 あぁそうだ、ナミさんの食事の内容、一緒に考えてくれる?」
「えぇ」
ビビとサンジは2人でキッチンに入り、甲板ではウソップがしゃがみこんでいた。
唐突に現れ唐突に船を食い唐突に暴れ、そしてルフィに吹き飛ばされたワポルだが、
あっけない退場にしてはメリーの体には結構な打撃を与えていた。
食べられてしまったメリー号の残骸を拾い集めながら、ウソップは哀しげにあーあーと唸った。
「ゾロ、おれささっとここ片付けてくから、お前ナミ見ててくれよ。 すぐに行くから!」
「わかった」
ウソップに声をかけられ、他にすることもないゾロは素直に返事をして女部屋に向かった。
しんとした女部屋に入ると、ナミの苦しそうな息遣いが聞こえてきた。
「ナミ?」
声をかけながら近づくが、意識は無い。
ベッド脇でしっかりナミの様子を見ていたカルーは、ゾロに気付いてグェと鳴いた。
その頭をポンポンと撫でてご苦労さんと声をかける。
「外で羽動かしてきてもいいぞ、ビビはキッチンにいる」
そう言うと、カルーはもう一度心配そうにナミの顔を見て、再びグェと鳴いて出て行った。
器用に階段を上り扉を開けて出て行くカルーを見送って、ゾロはナミの顔を見下ろした。
傍にあった椅子をガタガタと引っぱってきて、脇に置く。
その音に気付いたのか、ナミはうっすら目を開けた。
「………ゾロ?」
「おぅ、悪い、起こしたか」
「なにか異常あった…?」
「いや別に。 妙なヤツの襲来はあったが、問題無い」
「そ…」
先程の騒ぎのせいでか、ナミの額に乗せてあったタオルは顔の横に落ちていた。
ゾロはそれを拾い上げ、既に氷水とはいえない温度になっている水につけなおして絞った。
気持ち程度に形を整えて、ナミの額に乗せてやる。
「寝てろ」
「うん…」
今の体温からすれば充分に冷たいタオルが気持ちよかったのか、ナミは目を閉じた。
その様子を見ながらゾロは椅子には座らず、ベッドの脇に腰掛けた。
ギシリ、とベッドが軋む。
手を伸ばし、こめかみあたりを伝っていた汗を指で拭ってやった。
「…つめたい」
「あぁ…外は雪だ」
先程まで雪の中にいたゾロの手は、部屋に置かれた水や額のタオルよりもはるかに冷たい。
ゾロはタオルを外して、手のひらをナミの額に押し当てた。
余程気持ちよかったのか、ナミは赤い顔で弱々しくながらも微笑んだ。
「………」
「………」
額でナミの尋常ならざる熱を感じながら、ゾロは呟いた。
「怒ってねぇお前見ると、何か違和感あるな」
「失礼ね…」
そのナミの体温で、ゾロの手のひらもすぐに温かくなってしまった。
手を離し、今度は指の背で頬に触れる。
「辛抱しろよ」
「ん」
「島ぐらいすぐに見つかるだろ」
「ん」
撫でるようにナミの熱い頬に指を滑らせながら、優しく声をかける。
ナミは小さく返事をしながら、やがて寝息を立て始めた。
先程の苦しげな呼吸からは少し落ち着いたように思えて、ゾロは小さく安堵の溜息を漏らした。
同時に、ドタドタと頭上で足音が響き、扉のあたりで止まった。
「ナミーー!! 雪だぞーーー!!!」
「声でけぇぞ」
派手な音を立てて、ルフィが女部屋に飛び込んでくる。
部屋を見渡してゾロの姿を見つけ、少し目を見張る。
「あれ、ゾロだけか?」
「あぁ、カルーにはちょっと外の空気吸わせにやった」
「へー、そっか。 なぁナミ、雪だぞ!!」
ルフィはにししと笑いながら、両手をナミの方へ突き出した。
その手のひらの上には、掬ってきたらしい白い雪が小さな山を築いていた。
「今寝たとこだ」
「ちぇー、なんだ」
「ま、ちょうどよかった」
「ん?」
ゾロは手を伸ばし、ルフィの手のひらの雪を掴み取り、握りつぶした。
溶けかけていた雪はあっという間に水に変わり、ゾロの手から溢れ床を濡らした。
「あーー!! ナミに見せようと持ってきたのに!」
「寝てるっつったろ」
ゾロはそう言って、ぴっぴと軽く手を振って水気を切り、再びナミの額に手を置いた。
ルフィは立ったままでその光景を見下ろしていた。
「……何やってんだ、ゾロ」
「つめたくて気持ちいいんだと」
「へー」
ルフィはベッドの脇にしゃがみこみ、ナミの顔を覗く。
ゾロはそんなルフィにちらりと目をやり、すぐにまたナミに視線を戻した。
「………」
「………」
「……ナミが怒鳴ってないと、何か変だな」
その呟きを聞いて、ゾロは小さく噴出した。
「何だ?」
「さっきそれと同じこと言ったら、怒られたぜ」
「そうか」
ゾロを見上げたルフィは笑顔を見せ、またナミを見つめる。
ゾロも笑顔を消し、手を逆に変えて再びナミの額に触れる。
「………なぁゾロ」
「何だ」
「ナミ、死なないよな」
「……当たり前だ」
2人は決してナミから視線を外さなかった。
苦しそうに呼吸をし、眉間に皺を寄せて眠る航海士の姿を、じっと見つめていた。
「こいつはそう簡単にくたばるタマじゃねぇし、それに」
「それに?」
「おれたちが、死なせやしねぇだろ」
「だな」
2人は目を合わせ、互いにニヤリと笑った。
「ゾロ、おれ今日ここで寝るから」
「あぁ?」
シーツの上で腕を組んで顎を乗せ、ルフィはナミの頬を突付きながら言った。
大人しく寝かせとけ、とゾロにそれを払われて、ブーーと唇を突き出す。
だが一転して真面目な顔を見せた。
「離れたくねぇんだ」
ゾロは片眉を上げルフィを見下ろして、ふんと鼻を鳴らした。
「……じゃあ、全員でここに雑魚寝すっか」
「……ゾロはやきもちやきだなー」
「うるせぇ」
うっすら耳を赤くしたゾロを見て、ルフィはケラケラと笑った。
2007/07/11 UP
『ケスチア編で、ワポル達が去ってから皆で女部屋で雑魚寝するまでの経緯。
みんな(特にルフィ・ゾロ)に愛されるナミさん』
というようなリクでした。
……あれ?(笑)
どうやらスランプだぜ!!(言い訳)
しかも何だこの尻切れ終わりは!!!!
6/5にリクくれた方、ごめん中途半端で…。
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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