偽。






持つ余裕も無かった、持てるとも思っていなかったこの感情に、私は気付かないフリをした。


でも同じ時を過ごせば過ごすほどに大きくなる想いは、
この感情の名から想像するような軽やかなものではなく、
ただただ苦しいだけで、いっそ出逢わなければよかったとすら思った。

それでも目を合わせ、名を呼び名を呼ばれ、他愛も無い会話をして、
同じ船に乗り同じ時を過ごして同じことを体験する。
そんな些細なことが私に前を向く力をくれたのも事実。


一緒に居られて嬉しいはずなのに苦しくて、
言葉を交わすことが幸せなのに哀しくて、
だからあの船から逃げるように離れたとき、私は少し安堵したのだ。

あぁきっとこれで忘れられる。
きっとこれで、もう胸が苦しくなることはない。










よく怒っていたが同じくらいよく笑っていた。
それが演技だったのかはおれには分からなかった。

だがそれでも、あいつの笑顔がおれは好きだった。

時折泣きそうになるような、妙に強張った顔を見せることもあったがそれは一瞬で、
今にして思えばあいつはおれたちといる間、ずっと仮面を被っていたのだろう。

だがあの笑顔が全て偽物だったとは思わないし、
おれがあいつと居て心地良かったように
あいつもそれを心地良く感じていたと思うのはおれの自惚れではないはずだ。

おれの名を呼び、おれがあいつの名を呼ぶ。
日常の何でも無い会話の中で見せたあいつの笑顔は決して作り物ではない。


あいつが消えたと知ったときまず感じたのは己の愚かさだった。
結局あいつが味方だろうが敵だろうが、
それを見抜けなかったのはおれ自身だ。

追いかけて捕まえて、そしてあいつの口からおれは何が聞きたいのだろう。
謝罪の言葉か、それとも泥棒らしく罵りの言葉か。
どうなっても、あいつの口から語られる真実がおれの求めるものだった。














あの男が来ている。

魚人たちからそれを聞いたとき、震える体に気付かれないようにするので精一杯だった。


巻き込みたくなかったのに。
傷つけたくないのに。
死なせたくないのに。

だからここで受け入れるわけにはいかない。
たとえ私を責めるために来たのだとしても、
彼と、彼らと関わりを持つことはもうできない。

アーロンたちに、彼らが私の仲間だと、仲間だったと思われてはいけない。


素っ気無く、冷たく突き放して、
必要ならば私のこの手で傷つけもしよう。
彼らの命が助かるのならそれでいい。
私がどんな女と思われようと、裏切り者と罵られても、そんなことには慣れている。
親愛の情のカケラも見せてはいけない。

何度も何度も繰り返して、自分にそう言い聞かせるのに。

それなのに。




嬉しい。


嬉しい嬉しい嬉しい。

来てくれた。

私の、私のためにここまで。



戸惑いよりも怒りよりも哀しみよりも、何よりもその感情が溢れて、涙が零れた。
また逢えるなんて、またその姿を見ることがまたその声を聞くことができるなんて。

私には、もうそれだけで充分だった。

彼がここに来た理由なんて、どうでもいい。
今の私にすべきことは、魔女の仮面を被って彼らを生きてここから脱出させることだけ。



ゾロ。

私を憎めばいい。
憎んで憎んで、そうして私を置いてここから出て行って。

再びあなたの姿を見たあのときの思いがあれば、きっと私は大丈夫。









魔女のように微笑んで、魔女のように振舞って魔女のように語りかけてくる。
うっすら赤い目をした女は、あくまでもそれを貫き通した。

まっすぐに目を見つめればまっすぐに見返してくる。
なるほど、完璧だ。
だがツメが甘い。
おかげで確信することになった。

あいつは全て、演技していた。

だがそれを裏切りだとは思わなかったし、
相変わらず感じるのは己の愚かさのみ。

結局あいつは魔女としての言葉しか発しなかったし、
仮におれがあの場で追求したとしてもそれは変わらなかっただろう。
聞きたいことは山のようにあったが聞くことに意味があるとは思えなかった。
それにナミの答えはどうせ偽りだ。

ただひとつ。
飛び込んだ海の中で見せたあいつのあの顔は、真実だろうと思う。


怒りたいなら怒ればいい。
笑いたいなら笑えばいい。
泣きたいなら泣けばいい。

それを全て演じてこなければいけなかったと言うなら、
そんな生き方くそくらえだ。

だから、おれを助けたことがお前の答えだと勝手に判断することにした。












 「ゾロ」

 「あ?」



切断されたロープを見下ろしながらゾロは返事をした。
顔を上げると、入り口から外の様子を伺っているナミの背中が見えた。



 「私を恨む?」

 「……別に」

 「恨むんなら、憎むんなら、憎めばいいわ」

 「……」




ゆっくり振り返ったナミは、先程の様子からは想像もできない小さな弱々しい声で呟いた。




 「ずっと……ずっと私を憎んでて」

 「……ナミ?」




逆光で、ナミの表情はゾロには見えなかった。
立ち上がろうとするゾロを制するように、ナミは顔を背けて再び外を見る。



 「……気付かれる前に出て行って」



ナミは今度は強い口調でそう言って、部屋から出て行った。






 「……ちっ」



一瞬涙を見た気がして、走り去るナミに声をかけられなかったゾロは我に返って舌打ちをした。

ロープの切れ端を振り払いながら立ち上がり、コキコキと手首を鳴らす。
それから刀を拾って腰に下げた。



憎めだと?

何を的外れなことを言ってやがる、あの女。


ゾロはすらりと刀を鞘から抜き、刀身を覗かせた。
鋭い輝きを放つ刀に映る己の顔を見て、ふっと笑う。


惚れた女に逃げろと言われてそのまま逃げては、剣士の名がすたる。


キンと高い音を立てて刀をおさめ、ゾロは外に出た。



何を憎めと言うのだろうか。

蹴ったことか、殴ったことか。
黙って出て行ったことか、真実を隠していたことか。

思い出すのはお前の笑顔だけなのに。









ずっと。

ずっと憎んでいて。

ずっと。

ずっと忘れないで。

憎まれるのは私の罰。
好きになってしまった私の罪。

それでも忘れないでと願うのは、私のわがまま。







2007/07/10 UP

『ア-ロン編のゾロに恋心を抱いてしまったナミさん』
恋なんかしてる場合じゃないのに惹かれるナミ、パーク崩壊後は思いを打ち明けて幸せに…
………ってリクと違う内容にーーーー!!!!
派手にセルフツッコミいれちゃうくらい、リクに沿えてないです。
あわわ…。
切なめで、というリクのみ達成してます(ただのシリアスだ)。
アレだ、崩壊後のラブラブは皆様の脳内で補完して……。

そんな感じで…みこさんごめんなさいぃぃぃぃ(スライディング土下座)

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