巴。
「そーだサンジくん、あそこのケーキ買って帰ろ」
「お、いいね」
ナミはにこにこと笑いながら、サンジの腕を引いた。
サンジもそれに笑顔で応えて、引っぱられるままに付いていく。
キラキラ輝くオレンジ色の髪をした14,5の美少女と、20代半ばの金髪の青年が日曜午後の街を歩く。
他愛も無い会話をしながら、時折顔を合わせて笑いあい体を寄せる。
仲睦まじいその姿は、通りすがるものを思わず振り返らせるものだった。
ガラスケースの前でいくつかのケーキを選び、サンジが支払いを済ませる間にナミは店員から箱を受け取った。
箱の中の甘い味を想像して、ふふふと笑いながら通りの方へ振り返る。
そこで、自分たちを見ている視線と目が合った。
「………ロロノアくん」
「………おす…」
ロロノアと呼ばれた少年は、日曜の部活帰りと思われる姿で無愛想に挨拶を返した。
竹刀袋を肩から下げて、そのまま通り過ぎるでもなく立ち止まったまま、ナミとも目を合わせられないでいる。
ナミはナミで頬を染めて、空いた片手で慌てたように前髪の乱れを直しながら俯いた。
財布をジーンズのポケットに戻して振り返ったサンジはそれに気付いて、
少年とナミの顔を代わる代わる見やる。
「なに、友達?」
「う、うん! クラスメートのロロノア・ゾロくん!!」
サンジに話しかけられて、ナミは慌てて顔を上げ何とかそう言った。
ゾロはサンジの顔をじろりと見る。
その顔に、サンジは前髪に隠れた眉をクイっと上げた。
「………彼氏?」
ゾロはサンジには何も言わず、ちらりとナミを見てそう尋ねた。
それを聞いたナミはさらに顔を赤くして、ケーキの箱を持っているにも関わらず両手と首をブンブンと振る。
「ち、違うよー! お兄ちゃんなの、お兄ちゃん!」
「………」
言い訳するように必死なナミの答えを聞いて、ゾロは再びサンジに目をやった。
「…えー、妹がお世話になってますー。兄のサンジですー」
「………どうも……」
サンジがヘラリと笑って手を差し出すと、相変わらず無愛想な声と態度でゾロはその手を取った。
「……さっきのヤツ、力強ぇな」
「え?」
「いまだに手が痛い」
「うそー、サンジくんが弱いんじゃないの?」
「なんだってぇ?」
家までの道を並んで歩きながら、サンジは笑ってナミの頭を軽く小突いた。
「ロロノアくんはね、剣道部ですごく強くてね、全国大会とかにもたくさん出てるのよ!」
「ほー」
ナミは何を思い出したのか頬をピンクに染め、嬉しそうにサンジにそう教えた。
「なかなか…人見知りするヤツらしいな」
「えー、なにそれ? まぁ確かに基本クールだけどね!」
「クールねぇ…」
ナミの言葉を受けて、サンジは先程のゾロの顔を思い出してみた。
あの年齢にしては大きい方だろうが、それでも体はまだサンジよりは小さく、
鍛えているらしく中学生らしからぬ体つきではあっても、まだ少年の細さを残していた。
目つきはなかなか悪かったが、剣道部というのならアレもいわゆる眼力というものなのかもしれない。
あの言葉の少なさから察するに、寡黙な性格なのだろうが、
幼い感情を覗かせるあの表情は、クールとは程遠いものにサンジには思えた。
「でもさー…一緒に歩いてたら彼氏に見えるんだねー」
「おれら? だろうなぁ」
ふいにナミが言って、サンジは思考を戻して返事をした。
先程振り回してしまったケーキの箱を両手でしっかり持って、ナミはクスクスと笑う。
「何か変なの」
「おいおい、イヤなのか」
「だって、サンジくんが彼氏だって!」
そう言ってナミは声を上げて笑った。
隣で爆笑している妹の姿を、サンジは苦笑して見下ろす。
「年齢差もあるし、まぁこの年でこんな仲良いのも珍しいからな」
「……そうなの? どこもこんなんじゃないの?」
「いやー、そうでもないだろー」
少なくともサンジの友人たちで女姉妹がいる連中は、自分たちの所ほど仲良くはない。
大抵はこき使われているか、毛嫌いされているかのどちらかだ。
「……兄妹って信じてくれたかな? 誤解されてないよね?」
「……おやおやナミさん、あの男子に惚れてるんですかい?」
急に不安げな顔になったナミに、サンジはニヤニヤと笑いかけた。
ナミはぼんっと顔を赤くして、サンジの肩を思い切り叩く。
「やっ、ちょ、別に! 違うよ!!」
「はいはい」
真っ赤な顔のナミはどうやら機嫌を損ねたらしく、サンジを置いてズンズンと歩き出した。
苦笑して「悪かったよ」と謝りながら、サンジはその後姿を追いかけた。
「……ロロノアくんは…友達だもん……」
「はいはい」
俯き口を尖らせてそう呟くナミの頭を、サンジはポンポンと撫でた。
少なくともあっちはそうは考えてないみたいだがな、とサンジは思ったが言わなかった。
どう考えても先程のゾロの目つきや握り返したあの握力は、
たとえ兄とは言え『好きな女と親しくする男』への嫉妬の表れではないか。
だが、妹が気付いていないならばそれはそれで結構な話だ。
友人たちからシスコンだと笑われても、
サンジはそこらの男に妹をくれてやるつもりはなかった。
玄関のチャイムが鳴り、サンジは手を拭きながらキッチンから出た。
キッチンからは、ことことと温かい音が聞こえてくる。
この日風邪を引いて学校を休んだナミのために、サンジは仕事を早退しおかゆを作っていた。
「はいはい」と言いつつ玄関の覗き穴から外を確認して、眉を上げた。
それからエプロンを脱いでそこらに放り、鍵とチェーンを外した。
「……こんにちは」
「はい、こんにちはっと」
玄関先には、いつか見たときと同じような無愛想な顔で立っている学生服の少年の姿があった。
ショルダーバッグを肩から提げて、ゾロは片手をズボンのポケットに突っ込んだままサンジを上目見た。
もう片方の手には、大分皺だらけになった数枚のプリントを無造作に持っている。
「……プリント、届けに」
「あー、そりゃご苦労様」
「………見舞い、上がってもいいスか」
「あぁ? ……まぁ、ナミに聞いてみねぇとなぁ…」
「………」
目には見えぬ火花が二人の間に飛んだ。
本人は睨んでいるつもりは無いのだろうが、ゾロのその悪い目つきをサンジは負けじと見返す。
よくよく見れば、その目つき以外はそれなりに整った顔つきをしている。
この顔とスタイル、それに剣道も強いとナミは言っていたし、
随分とモテるのではないかとサンジは考えた。
その点においてのみ、サンジはゾロの株を自分の中で上げた。
自分の妹に惚れる男がイケてないのは癪に障る、という兄心だった。
サンジがじろじろとゾロを観察している間、ゾロは無言のままだったが、
先程の会話が聞こえたのか、ナミはゆっくりと階段を下りてきながら玄関を覗き込んだ。
「サンジくん、誰か居るの?」
「……あぁ、ロロノアくんがプリント持ってきてくれたぞ」
「え!?」
振り返ったサンジがそう告げると、ナミは目を見開いて足を止めた。
サンジの肩越しにゾロの姿を認めると、熱のせいだけではなく顔を真っ赤にしてパジャマの胸元を慌てて押さえた。
「やだ! ゾロが持ってきてくれたの!?」
「あぁ」
「ちょ、着替えてくるから待ってて! まだ入っちゃダメよ!!」
「あぁ」
ナミはビシリとゾロに指を突きつけて、バタバタと2階に上がり自室のドアをバンと閉めた。
サンジとゾロは玄関に突っ立ったまま、その光景を見上げていた。
………ちょっと待て。
サンジはチラリとゾロに視線を戻して、それからもう一度階段の先に目をやった。
少し前までは『ロロノアくん』呼ばわりではなかっただろうか。
いつの間に『ゾロ』呼びになったのか。
しかも、部屋に入れるのか?
サンジはゾロを横目で睨み、それに気付いたゾロはまっすぐ見返した。
「……1ヶ月くらい前から、ナミと付き合ってます」
「…………あ、そ………」
2人の間に、再び静かな火花が散った。
「……言っとくけど、しょぼい野郎にゃ妹はやれねぇぜ?」
「ご心配なく」
「…ふーん、ガキのくせに大した自信だな」
サンジはゾロに背を向けて、つっかけていたサンダルをポイポイと脱ぎ捨てた。
放り投げていたエプロンを拾って、振り返る。
「ウチは昔から両親共働きで、あいつはおれが育てたようなモンなんだ。
おれの許しが無けりゃ付き合いは認められねぇんだがなぁ?」
「おれら来年高校っスよ? 行動にいちいち兄貴の許可がいるんスか?」
間髪入れずそう返されて、サンジはヒクリと口元を引きつらせる。
腕を組んで壁に寄りかかり、ぎこちない笑顔をゾロに向けた。
「いやぁ、君とは仲良くなれそうだなぁ…」
「気が合いますね、おれもそう思います」
はははと乾いた笑い声が玄関に響いた。
「お待たせゾロ!入って… …ってあれ、いつの間に仲良くなったの?」
「ついさっき、な?」
「はい」
階段を下りてきたナミは、先程の皺になったパジャマから新しいものに着替えてカーディガンを羽織っていた。
ははははと相変わらず乾いた笑い声の2人の空気には気付かず、嬉しそうに笑った。
「よかったー、2人が気ぃ合わなくてケンカとかしちゃったらどうしようかと思ってたんだー」
「まさか、ケンカなんてしねぇよなぁ、なぁゾロ?」
「しませんよねぇ、オニイサン?」
「「ははははは……」」
「あははは!」
ナミとゾロの付き合いが正式に認められるのは、もう少し先のことである。
2007/07/06 UP
『サンナミ兄妹とゾロ』
シスコンサンジにゾロが認められるまでの経緯、認めざるを得なくなるエピソード。
っていうリクだったんですけど。
いまいちリク内容に合ってないですね。
でも気にしない(おぉい!!)
marikoは逃げた!!
そんな感じでhanakoさん、許してくれ…!!(土下座)
生誕'07/NOVEL/海賊TOP
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