鈍。








 「寝てばっかりで何もしないんだから、本当にもう!」

 「…さっきから何ぎゃーぎゃー怒鳴ってんだよ…」

 「あんたが動かないからでしょ!」

 「そんな怒るようなことかよ」

 「偉そうに言うな!」

 「かわいくねぇなぁ…」





甲板で昼寝していたところを殴り起こされたゾロは、痛む頭を撫でつつ呟いた。
立ち去ろうとしていたナミはその足を止め、ゆっくりと振り返った。
腕を組み仁王立ちになってゾロを見下ろしながら、ゆらりと背中に黒いオーラを纏う。





 「よく聞こえなかったわ、今何か言ったかしら?」

 「別に」

 「このナミちゃんを捕まえてかわいくないですって?」

 「聞こえてんじゃねぇか」



ゾロはボリボリと頭を掻きながら、面倒臭そうにナミから顔を逸らした。
ナミはしゃがみこみ、手を伸ばしてゾロの両頬を思い切りつねり上げた。
いでででで、という訴えは完全に無視する。



 「あんたの目は節穴かしら? それとも私よりカワイイ女なんか腐るほど見てるっていう自慢?」

 「あんあっえおあ」

 「なに?」



頬をつねられたままのゾロがフガフガと何かを言い始めたので、ナミは仕方なくその指を離した。
ヒリヒリと頬を赤くしたゾロは、溜息をついたあとジロリとナミを睨んで再び口を開いた。



 「あのなぁ、女ってのは多少器量が悪くても笑ってりゃかわいく見えるもんだ」

 「………」

 「逆にどんだけイイ女でも年中ふてくされてちゃ、不細工に見えんだよ。 分かるか?」

 「………何が言いたいのよ」



生徒を諭す教師のような口調に少々ムカつきつつ、ナミは膝を抱えて首をかしげる。
ゾロは腕を頭の後ろで組んで枕にして壁面に寄りかかる。





 「勿体ねぇだろ」





そう言いながら、顎でナミを指した。




 「笑っとけ」

 「………」




ゾロは返事を待たず、大きな欠伸をして目を閉じた。
その顔をナミはじっと見つめる。




 「……そういえば、ロビンもよく笑うわよね」

 「……あ?」



いきなりこの場にいない人間の話が出て、ゾロは片目を開いた。
ナミの大きな瞳と目が合う。



 「あんた最初のころ、よくロビンのこと見てたわよね」

 「……何が言いたいんだよ」

 「ロビンの笑顔に惚れちゃった?」



ナミが口端を上げてからかうような笑みを見せながらそう言うと、
一瞬固まったゾロは盛大に溜息をついた。



 「…見てたんじゃなくて、見張ってたんだ。 勘違いすんな」

 「ほんとにー?」



呆れた口調にも構わず、ナミはゾロの額に指をグリグリと押し付けて意味深な笑顔を寄越す。
ゾロはうっとおしそうにその腕を払いのけ、常人ならば思わず後退るような目でナミを睨んだ。





 「女にゃ興味無ぇよ」

 「………」




そう言い切ったゾロは、ナミの反応が無い意味に少し遅れてから気付いた。




 「だーー! 違う! そういう意味じゃ無ぇよ!!!」

 「………」

 「……惚れた女以外にゃ興味無ぇってことだ!」



真昼間の甲板で何を叫んでるんだか、と心の中で呟きつつも、
妙な誤解を解くために仕方なくゾロはそう口にした。

だがその誤解が解けたのか否か、
ナミは今度は若干眉を下げて、力無い声で反応した。



 「………いるんだ」

 「…………あ?」



ゾロは言葉の意味が判らず、片眉を上げて聞き直した。
ナミが少し俯いたので、無意識に上体を曲げて耳を近づけようとした。
だがすぐにナミは顔を上げ、膝を立てたまま両手を甲板につけてゾロにのしかかるように近づいた。
慌ててゾロは背中を壁に戻す。




 「惚れた女って誰よ、私の知ってる人? 故郷の人?」

 「…………」



真面目な顔のナミに詰め寄られ、ゾロは口元を引きつらせた。




 「…………」

 「…………」




しばらく2人は無言で見つめ合っていた。
といっても甘いムードは欠片もなく、傍から見ればむしろ一触即発状態だった。


ゾロはナミを睨み、ナミも負けじと睨み返す。
2人の間には妙に張り詰めた空気が漂っていた。




先に折れたのはゾロだった。

目をそらし、舌打ちをする。




 「何よ」

 「本当にてめぇは…」

 「私が何よ」




ゾロはギロリとナミを睨むが、そんなもので怯える女ではなかった。

枕代わりにしていた腕をほどいて、ゾロは右の掌でナミの額を叩いた。
ペチンと軽い音がして、ナミは反射的に痛いと呟いてゾロから体を離した。





 「鈍いにも程がある」





そう言ってゾロは立ち上がり歩き出す。
ナミが額をさすりながら何すんのよと叫んだが、それを無視して男部屋へと消えた。






後姿を見送りながら、甲板に尻を下ろしたナミは大して痛くもない額から手を離した。

額と同じように赤くなった頬と耳を隠すように、膝を抱えて顔を埋める。





 「…鈍いのはどっちよ、バーカ」




顔の火照りと心臓の鼓動が治まるまで、ナミはしばらく動けなかった。




07/03/22 UP

サン誕中ですが、ゾロナミに飢えてきたので(笑)。
よくあるネタですね。
あれ、ていうかこういうのもう書いたっけか?
まいっか(適当)。

ほのぼの系か甘系か迷いましたが、まぁ恋話だしってことでハートマークの方に入れてみました。

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