輝。
「あ」
思わず一人、小さく声を漏らした。
信号が一斉に青に変わり、人の流れが動き出す。
横断歩道を埋め尽くすその人込みの中に、懐かしい姿を見つけた。
彼女と別れたのは、何年前だろうか。
美人で強気で、でも時々見せる少女のような一面がおれはとても好きだった。
まだ学生だった頃、2人で遊園地に行ったことがある。
生憎の雨で、でもその日は2人にとっては久しぶりのデートで。
雨に濡れることも構わず夢中になっていた。
メリーゴーランドに乗る客はほとんどおらず、
でもおれたちは何が楽しかったのか、声を上げて笑いながらクルクルと回っていた。
傍から見ればさぞかし滑稽だったろう。
でも、幸せだった。
売店で傘を買って、2人でその下に入った。
2人で使うにはあまりに小さかったので、彼女はおれにひっついていて、おれも彼女の肩を抱き寄せて。
2つ買えばよかったねと彼女が笑うので、おれもそうだねと一緒に笑った。
夜になってさらに客は減り、ガラガラの観覧車に乗った。
ゆっくりと円を描くその中で、窓から外を見下ろす。
街の灯りで雨粒がキラキラと輝いていた。
綺麗だねと呟く彼女の横顔に見惚れていたせいで、その返事が少し遅れた。
怪訝そうに顔を向け、眉を寄せる彼女の顔にもやはり見惚れてしまった。
素直にそう口にすると、彼女は頬を赤らめてバカねと笑う。
あの頃のおれたちは確かに幸せで、この時間が永遠に続くものと信じていた。
握り締めた彼女の手を、離すことなど永遠に無いと信じていた。
彼女は、綺麗なオレンジ色の髪をしていた。
肩の下あたりまで伸ばしていて、初めて出会ったときにおれはそれをキレイだと褒めた。
それ以来、彼女はずっとその長さで、
そしておれはそんな彼女の髪が好きだった。
人込みの中、笑顔を零す彼女の髪は肩の上あたりの長さになっていた。
長い髪の彼女は、確かに綺麗で、大好きだった。
だが短くなっても、その美しさは変わらない。
オレンジ色の髪をキラキラ輝かせて、隣に並んで歩く男に笑いかけている。
その笑顔も、おれは大好きだったんだ。
未練があるわけではない。
ダラダラと引きずっていた自覚も無い。
だが今、幸せそうに笑う彼女の顔を見て。
ようやく吹っ切れた気がした。
これでよかったのだ、と。
彼女は笑っている。
あの頃よりもはるかに美しく、はるかに幸せそうな顔で。
離れた距離ですれ違うおれに、彼女が気付くことはない。
その気配が遠ざかるのを感じながら、一人微笑んだ。
あの頃のおれたちは、本当に本当に幸せだった。
彼女の笑顔を見るのが、幸せだった。
彼女が幸せでいることが、おれの幸せだった。
そして今でも。
彼女が幸せであるなら、おれはそれを自分の幸せと思うことができる。
ふと足を止めて振り返ると、雲の切れ間から顔を覗かせた夕日が、
ひどく懐かしいオレンジの色に輝いていた。
彼女の後姿は、もうどこかに消えていた。
2007/03/17 UP
サン誕第2弾!
ナミさんの相手はもちろんゾロです。
サンジくんはやっぱ、こういう報われないのがイイよね!(酷)
歌のほうは、もっと未練タラタラになってます。
サスケ『雨の遊園地』より。
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