尋。









 『ゾロ、好き』

 『大好きよ』

 『ちゃんと聞いてる?』

 『私、ゾロが好きよ』



オレンジ色の髪を風に揺らし、ふわりと花咲かすような笑顔で、今日も女は言葉を紡ぐ。










 「てめぇ、いい加減人をからかうのヤメロ!」



海賊船、ゴーイングメリー号の上で連日繰り広げられる告白大会に、
いい加減キレて大声を出した。
怒りか恥ずかしさか、それともその両方からか、
耳のあたりが熱くなるのを感じながら叫ぶと、目の前の女はピタリと動きを止める。

昼寝ポイントである後甲板に向かっていたら、
この日もナミが後ろから付いてきて、好きだの何だの言ってきた。

いつからだったかは忘れたが、気付けばナミはそんなことを言い出していた。
睨んでみても笑顔で返されるばかり。
それでも我慢はしていた。
からかうことにも、そのうち飽きるだろうと。

だがこうも毎日毎日言われては、いい加減嫌がらせとしか思えない。
冗談にも程がある。






 「そういうのはクソコックとか――」




イライラしながらそう続けたが、言葉に詰まってしまう。


ナミは大きな目をさらに大きくして、おれを見上げていた。
それから何の前触れもなく、ボロボロと涙をこぼし始める。



 「…ちょ、おい、」

 「ゾロは、ずっとそう思ってたの?」

 「あ?」



普段のナミからは想像もできない大人しい泣き方に慌ててしまい、
両手が無駄に宙を彷徨う。
ナミはこぼれる涙を拭うこともせず、頬をひたすらに濡らしながら震える声で続けた。




 「私が、からかってるって」

 「……あー…」

 「ゾロにこういうことを言うのを、面白がってるって」

 「いや、その……」



予想外なナミの態度に、どうしていいかわからず頭をボリボリと掻く。
開き直るか、文句を言うかだと思ったのに。



 「好きな人に好きだって言うのが、どれくらい勇気が要ったか分かんない?」

 「……」

 「簡単に言ってると思ってた?」

 「……あー……いや……」



ナミはクルリを背を向けて、俯き両手で顔を覆う。
その小さな背中を見つめながら、心の中で舌打ちをした。

何だってんだ、全く。
まさかこれも冗談か?





 「あー、その、悪かったよ…」

 「………」



返事は無い。



 「いや、その――、本気だっつーのは分かった、から……」



何でおれがこんなこと言わなきゃなんねぇんだよ、とも思ったが、
このままナミの機嫌を損ねたままにしてメリットなど何も無い。
とりあえず怒らせて傷つけてしまったらしいことは分かっている。
おれを好き、ってのが事実かどうかはさておき、
ここは謝っておくのが無難だというのは、共に過ごした時間から学習済みだ。




 「悪かったよ」



そう言うと、ナミは突然こちらに向き直り顔を上げた。


泣いてなど、いなかった。
それどころか泣いていた形跡すら残っていない。

あんぐりと口を開けていると、ナミはにっこりと微笑んだ。




 「ゾロ、私のこと好き?」

 「…あ?」

 「好き?」

 「………それとコレとは話が……」



内心動揺しつつ、呆れた声でそう返すと、
ナミはむうっと口を突き出し、それからまたパッと笑って両手を打った。



 「じゃあ私とサンジくんが付き合うって言ったら、どう思う?」

 「……何でそんなことおれが答えなきゃ――」

 「女を泣かしておいて、そのまま帰る気?」

 「……」

 「罰として、質問に答えてね! ほら、どう思う?」

 「……」



本当に泣いていたのか甚だ疑問ではあるが、仕方なく考えてみた。





 「お前とクソコック……?」





戦闘時からは想像できないほど顔を緩ませたコックの隣で、
ナミがその肩に親しそうによりかかかる。
コックがナミの細い腰を両手で引き寄せ、ナミはコックの首に腕を回す。

コックが笑い、ナミも微笑む。



………映像化してみたら、この程度でやたらと腹が立った。
コックのくせに生意気だ。





 「ムカつくな」



ボソリと言うと、目の前のナミは満足気に笑った。



 「じゃあ、私とルフィが付き合ったら?」

 「ルフィ――」





いつものようにメリーの上に座るルフィ。
腕を伸ばしてナミを抱き上げて、
逞しいとは言えないがナミよりは広いその胸の中にすっぽりとおさめる。
安心して背中を預け、ナミは顔を斜めに上げてルフィと目を合わせる。
ルフィはいつもの笑顔でそれに応えて、さらに強く抱きしめる。
その腕に自分の手を重ねて、ナミも嬉しそうに笑顔を見せる。

この船を導く、太陽のような2人。



………あれ、意外と似合うんじゃねぇのコイツら。





 「……ムカつく」

 「じゃあ、私とウソップ」

 「……想像できねぇ」

 「私とチョッパー」

 「ムリ」



答えを聞いて、クスクスと可笑しそうにナミが笑う。
それが気に入らなくて、むすっと睨みつける。




 「ゾロ、私のこと好き?」

 「……」



またそれか、と目を逸らすと、ナミはわざわざ移動して無理矢理目を合わせてくる。



 「泣かせた罰だってば、ちゃんと答えて」

 「……嫌いじゃ、ねぇよ」

 「そんな答えじゃダメ」

 「……」

 「好き?」

 「……」




確かに美人だとは思うし、見た目だけでなく…こいつはいい女だ。
抱いてみたいとも、正直思う。
でもこれは恋愛感情云々ではなく、単なる男の本能と言った方が正しくないか?


そう考えながら、無意識に目の前のナミをじっと見つめていた。
おれの答えを待つナミは、何やら必死な顔で見つめ返してくる。



一瞬、かわいいじゃねぇかと思ってしまった。



それを自覚した瞬間、一気に顔が熱くなるのを感じた。
止めようとしても無理な話で、慌てて顔を逸らしたが
目聡くそれに気付いたナミは満面の笑みを見せる。




 「好きよっ、ゾロ!!」

 「……っるせー……」





ちくしょう、何だよコレ。
刷り込みか?
それとも、前からそうだったのか?

どっちにしろ、気付いちまった。


口元を手で覆いながらおそらくは赤い顔のままで、チラリとナミを見る。
ナミは頬をうっすらピンクに染めて、ふふと笑っている。

再び目が合うと、ナミは今度は照れたように笑った。




 「ゾロ」




その声の優しさに、思わず唸りそうになった。



こんな簡単に精神を乱されて、冗談じゃねぇぞチクショウ。

覚えてろよ、この野郎。


そう思いながら、目の前の女を見つめる。








 「ゾロ、私のこと好き?」

 「――――あぁ」





こむぎさん(麦わらクラブ様)の2006年ゾロ誕『Est, ergo sum』に投稿させていただきましたv
よかった、ゾロ誕でも投稿できた!!!
テーマは『照れ』。
自覚したロロノアさんに照れていただきました。
ナミさんは押せ押せですが、内心はドキドキしてるんですよ。
恋する乙女は必死です。

2006/11/22 UP

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