心。










 「おはよーゾロ」

 「おっす」

 「おぅゾロ、今夜はてめぇの誕生日パーティだからな、昼間の酒は控えとけよ」

 「……誕生日」

 「何だよ、忘れてたのかー?」



ウソップがそう言ったので、まわりのクルーたちも一緒になって笑う。
だがゾロは顎に手を当てて考え込み、それから顔を上げて口を開いた。




 「誕生日か」

 「11月11日だろ?」

 「てことは」

 「ん?」



言葉の続きを、何となく皆は無言で待った。
ゾロはテーブルについたクルーたちの顔を見渡して、続ける。



 「今日は『ありがとう』と言う日だとおれは聞かされて育ったからな、そうするぞ」

 「ありがとう? あぁ、誕生日おめでとうの返事だもんな、そらそうだな!」

 「ちょっと違うが、まぁいい」



それだけ言ってゾロは朝食を食べ始め、クルーたちもルフィの手から自分の皿を守りつつ食事をかっ込んだ。






   * * * * * *






昼食を終え、サンジは後片付けをしながら頭の中ではおやつについて考えていた。

夜のパーティーがあるからあまり豪勢にもできない。
かと言って質素にしては、ゴムの胃袋を持つ船長が我慢できなくなるだろう。
派手すぎず、量があって腹持ちして、なおかつ女性陣にも喜ばれるもの……。

カチャカチャと皿を洗いながらサンジはうーむと呟いた。




 「何唸ってんだ」

 「……別に」



キッチンに入ったゾロは、サンジの背中に声をかける。
チラリとだけ振り返ったサンジはすぐに顔を戻して、皿洗いを続ける。

ゾロはスタスタとサンジの隣まで来て、立ち止まる。



 「何だよ、酒は我慢だっつったろ? じゃねぇと夜の盛り上がりが…」

 「違う」

 「あぁ? じゃあ何――」



サンジが眉を寄せてゾロを睨むと、まっすぐなその目と視線が合った。

それからゾロは言った。





 「いつも旨いメシ、ありがとう」



 「…………」



一瞬何を言われたのか分からず、サンジは固まっていた。
だが次の瞬間にはかーーっと顔が赤くなり、持っていた皿が泡の中でカチカチと音を立て始める。



 「なななな何だ、新手の嫌がらせか?」

 「ありがとうを言う日だっつったろ」



動揺を隠せないサンジとは対照的に、ゾロはいつもの調子でそう答える。


女性陣やチョッパーたちから旨いメシだと褒められることは、よくある。
だが、この無愛想な剣士からは。

もちろん、心の中では旨いと思っていたはずだ。
だがゾロからこんなにも直接的に言われたことなど、初めてだった。




 「てめぇのおかげでおれたち全員、飢え死にも壊血病やらも無縁で航海できてる」

 「……お、おぅ…」



ゾロは、サンジには滅多に見せない顔で微笑んだ。
それを見てサンジの顔がさらにかぁっと赤くなる。



 「ありがとう」

 「…………」



サンジが嬉し泣きしそうになっていることに、ゾロは気付かない。



 「これからもよろしく頼むな」

 「お、おぅ……」






   * * * * * *






 「ウソップ」



後甲板で星の材料らしきものを広げているウソップに、ゾロは近づいて声をかけた。
手を止め顔を上げたウソップは、機嫌良く笑顔を見せる。



 「どした? 鞘でも欠けたか?」

 「いや、刀は順調だ」

 「そうか、何かあったら言えよ! 今日は誕生日だしな!」

 「ありがとう」

 「おうよ!」



ウソップは鼻の下をこすりながら、へへと笑う。
その前にしゃがみこみ、ゾロはじっとウソップを見つめた。



 「お前のおかげで、海賊船のわりに楽しく航海できてる」

 「……な、何だよ突然」



突然の言葉に、ウソップは照れで顔を赤くして手を振る。
ゾロはニヤリと笑って、足元に広げられている卵を指で突付きながら続けた。



 「お前の話、結構好きだぜ」

 「お、おぅ」

 「この船の空気はお前が作ってんだ、これからも頼むぜ」

 「……おう!」






   * * * * * *






 「お誕生日おめでとう、剣士さん」



船首へ向かっていたゾロに、キッチンに入りかけていたロビンが声をかけた。
ゾロは立ち止まり、「ありがとう」と返事をした。



 「………」

 「……なぁに?」



ゾロは立ち止まったままじっとロビンを見つめ、近づいたロビンも同じように立ったままで首をかしげた。



 「お前が仲間になって、結構良かったと思ってる」

 「……あら」

 「この船はバカばっかだからな、頭のいいヤツが増えたのは有難い」

 「ふふ」



最初は自分を敵視していたはずの剣士からの言葉に、ロビンは頬を染めて笑った。



 「お前の知識も経験も、おれたちにはまだまだ足りねぇモンだからな」

 「お役に立てれば光栄だわ」

 「ありがとう」

 「……私のセリフじゃなくて?」

 「おれのセリフだ」



きょとんとするロビンに、ゾロはニヤリと笑いかける。
それを見て、ロビンは肩をすくめてから微笑む。



 「そう、なら…どういたしまして」

 「今後もまぁ、よろしく」

 「えぇ」



最後にまた笑顔を見せたゾロは、向きを変えて甲板への階段を下りていく。
ロビンはその後姿にもう一度声をかけた。



 「何だ?」

 「…来年も、誕生日おめでとうって言ってもいいかしら?」



どこか遠慮がちなロビンの言い方に、振り返ったゾロは片眉を上げる。
手すりに手をついて、階段を見下ろしながらロビンは返事を待っている。



 「当然だろ?」



ニヤリと笑って、ゾロはそう答えた。



 「……ふふ」

 「てめぇの誕生日にはおれも言ってやるよ」



ヒラヒラと手を振りながらそう言い残して、再びゾロは階段を下りていく。
その背中をしばらく見送って、ロビンは嬉しそうに笑いながらキッチンへと入って行った。






   * * * * * *






 「ゾロー!」

 「お、チョッパー」



倉庫から出てきたチョッパーは、ゾロの姿を見つけて嬉しそうに声をかけた。
ゾロは立ち止まり、小さな船医が必死で駆けてくるのを待った。



 「あのな、新しい傷薬作ってみたんだ! どっか怪我してないか?」

 「おれは実験台か」



目をキラキラ輝かせて言われたその言葉に、ゾロは苦笑する。
チョッパーは慌てて、両手をブンブンと振る。



 「じ、実験なんて! そんなつもりじゃ!」

 「分かってるよ。 でも今はどこも怪我してねぇから、今度な」

 「あ、あぁ!」



ゾロに優しく言われ、チョッパーは安心したように笑った。

ふとゾロはしゃがみこみ腕を伸ばして、チョッパーの頭をガシガシと撫でた。



 「いつもありがとな、チョッパー」

 「え? へ、へへ?」

 「お前がいてくれたら、おれぁ死ぬ気がしねぇよ」

 「…お、おれ! 絶対に皆のこと死なせないから!!」

 「ありがとう」



そう言って微笑んで、ゾロはまたチョッパーの頭を撫でる。



 「こ、こんなことされたって嬉かねーぞバカヤロー!」



そう言いながら、チョッパーは嬉しそうにゾロに頭を撫でられ続けていた。






   * * * * * *






妙なダンスを踊りながら再び倉庫に消えたチョッパーを見送って、ゾロは船首へ足を向けた。

メリーの上では、相変わらずルフィが座り込んで前方の海を見つめている。



 「ルフィ」

 「んー?」



声をかけると、ルフィは呑気な顔で振り向いた。
メリーの横の手すりに背中をよりかからせて、ゾロはルフィを見上げる。



 「なぁルフィ、今何考えてんだ?」

 「んーー? そうだなー、今日のおやつは何かなーって」

 「ははっ、それでも海賊船の船長かよ」

 「おうよ!」



ゾロが声を上げて笑うと、ルフィは胸を張って答えて、一緒になって笑う。

ルフィはメリーの上に寝転がり、ゾロも手すりに肘をついて体をそらせる。
2人で青い空を見上げながら、何となく無言になった。



 「……ルフィ」

 「おぅ」

 「あのとき、お前の誘いに乗っといてよかったよ」

 「だろ?」

 「あぁ」



ルフィはゴロンと転がり、メリーの上にうつ伏せて顔を伸ばしゾロを見下ろす。
目を合わせ、にししと笑う。



 「おれも、お前が仲間になってくれてすげぇ嬉しかった」

 「…あぁ」

 「おれが海賊王で、お前が世界一の大剣豪! どっちが先かなー?」

 「さぁな」

 「楽しみだな!」

 「あぁ」

 「とりあえず、誕生日おめでとう!」

 「相変わらず脈絡ないな」

 「そうか?」



相変わらずのルフィに、ゾロは苦笑する。
ルフィはまた体を転がして、今度は両腕を伸ばして仰向けになる。

メリーの上から落ちてきているルフィの手を見上げながら、ゾロは言った。



 「ルフィ、……ありがとう」

 「おう」

 「これからもよろしくな、船長」

 「おう!」






   * * * * * *






女部屋に下りたゾロは、ナミが居ないことに気付いて肩をすくめ、
机の前の椅子に腰を下ろした。

数分も経たずして、ナミが下りてきた。



 「なーに勝手に入ってんの」

 「いつものことだろ」

 「そうだけどさ」



ナミはわざとらしく口をとがらせて、両手に持っていたミカンをカウンターの上に置く。
そのまま椅子に腰を下ろして、ミカンの皮を剥いて口に運ぶ。



 「なぁナミ」

 「なに?」



ナミが振り返ると、ゾロは椅子に座ったまままっすぐに見つめてきていた。



 「傍に居てくれて、ありがとう」

 「………」



至極真面目な顔でゾロはそう言って、ナミは無言でその顔を見つめる。
それから視線を手元に戻して、またミカンを一房口に放り込む。



 「そうやって、みんなを口説いてったの?」

 「あぁ? どこが口説いてんだよ」

 「普段のあんたから考えたら立派な口説き文句よ」

 「礼言っただけだろ」



心外だ、という顔をしてゾロは手招きした。
素直にナミが近づくと、座ったままで腹に頭を寄せて腰に手を回してくる。
ナミは無意識に、緑色のその頭を撫でた。



 「おれお前が好きだよ」

 「………」

 「これは口説き文句だよなぁ?」

 「…そうね」



顔を上げたゾロはニヤリと笑い、ナミも負けじと同じように笑い返す。



 「まぁ今日は誕生日だから、特別にさっきまでの浮気は許してあげるわ」

 「だから口説いてねぇって」

 「あんたはそうでもね」



ナミは苦笑して、顔を落としてゾロにキスをした。



 「誕生日おめでと」

 「ミカンの味だな」

 「あら、好きでしょ?」

 「お前の次にな」

 「………」




誕生日のゾロは、ある意味危険だ。
ナミはそう思いながら、ゾロの頭を撫で続けた。










その日の夕食、盛大に開かれた誕生日パーティーでは、
ゾロ以外のクルーは何故か顔が赤かったという。




『SMAPの【ありがとう】でゾロナミ』
……最近、ちゃんとリクに応えられてない気がするよ……。
いやあのその、感謝の言葉を伝えるという点で…うん…。
いやでも本当、リク内容に沿ってないねこれ…。

とりあえずこれにて2006年の緑祭は終了でっす!
12月末ですけど11月11日と言い張りますよ。

10/20にリクくれた紅音さん、何か違うけど許してェェェ!!

2006/12/30 UP

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