涙。










 「なぁゾロ、本当はこんなこと言いたくないんだ」





あぁ分かってるよチョッパー。





 「ごめんな、ごめんなゾロ、おれがもっと立派な医者だったら」




お前は充分やってくれた。
それでムリなら、しょうがねぇよ。

元々長生きしようなんて考えちゃいなかった。
命賭けて戦ってんだからな。

だけど病気で死ぬとはさすがに思ってなかったな。








チョッパーには口止めをした。
他の連中に下らねぇ心配をかける気は無かった。

もしかしたら、病気よりも先に戦闘で死ぬかもしれないからだ。

それにもしかしたら、勝手に病気が治るかもしれない。
チョッパーの顔を見ればそれはあり得ないことだとはすぐに分かったが、
それでも心の端では願わずにはいられなかった。


遅かれ早かれ、死は誰にでも確実に訪れる。
それが10年後だろうが20年後だろうが、1ヶ月後だろうが、同じ『死』だ。

だがまだ死ぬわけにはいかない。

親友との約束は果たした。
だがもう一つの約束を、おれはまだ果たしていない。



あの女との約束を。






もうすぐナミの夢が叶う。

小さなときから抱き続け、それを叶えるために努力してきたその夢が。



見届けると約束した。

何よりも、おれがそれを見届けたいんだ。


それを一番に見届ける存在でありたいと。













 「ゾロ?」

 「ちょっと休ませてくれ」



夜の女部屋に入って、そのままソファの上に転がる。
机で海図を書いていたナミは、椅子の背に腕を乗せて振り向いた。



 「いいけど…、最近疲れてるの? 風邪でも引いた?」

 「かもな…」

 「鬼の霍乱?」



クスクスと笑いながら、ナミはまた机の上の海図に向き直る。
ソファに横になってしばらくすると落ち着いてきたので、ゆっくりと立ち上がってナミの背後に立つ。

ナミは気配に気付いたが顔も上げず、一心に手を動かしている。



 「待ってて、もうちょっと書いてから…」



その言葉を無視して、後ろから抱きしめる。



 「ゾロ?」

 「……完成まで、どれくらいだ?」

 「うーん、早ければ1週間かからないかな? 本当に…あと少し」



ナミは顔を上げて、嬉しそうに微笑んだ。
緩く微笑み返して、キスをする。
ナミはペンを置いて、首に腕をまわしてくる。





1週間。

あと1週間だけ。

たったそれだけでいいんだ。

どうかそれまで。







死は怖くない。
いつだってソレと隣り合わせで生きてきたのだ。


だが。

この腕の中の存在を失うのかと思うと。

もうこいつを抱きしめられなくなるのかと思うと。


それは少し、怖い。




当たり前のように存在し当たり前のように傍に居たものが

腕の中からすり抜けて

自分だけが暗闇に落ちていく。



その恐怖を振り払うように、一層強くナミを抱きしめた。

















 「ゾロ!!」



昼下がりに、ナミのよく通る声が耳に届いた。



 「出来た! 書けたよ!!」

 「そうか…」



ミカンの木に寄りかかって閉じていた瞼を開けると、
太陽の光を背負った眩しい女の姿が目に飛び込んでくる。

ナミは紙の束を抱えて、正面に座り込んだ。



 「見て!」

 「あぁ、見てる」



手渡された海図の束を一枚一枚めくりながら時折目を上げると、
ナミはまるで少女のような顔で嬉しそうに、手の中の海図を見つめていた。
思わず微笑んで、腕を伸ばして頭を撫でた。
ナミははにかんだ笑顔でそれを受けとめる。



 「よくやったな」

 「うん!」



束を返し、みんなにも見せて来いと言うとナミは頷いて立ち上がる。

だがすぐにまたしゃがみこんで、素早くキスをひとつ寄越してきた。






 「見守っててくれて、ありがとう」





そう言って聖母のように微笑んで、束を抱えて甲板へと駆けて行った。











ナミ






声を出そうとして、やめた。

呼び止めてはいけない。



あいつは知ってか知らずか、きっと今のがおれにとって最期のキスになるだろう。





ナミ





小さな声を出してみるが、もうナミの姿はここからは見えないし声も届かない。





ナミ









死は怖くない。

ただ、お前を失うのが怖い。





それでも、よかったと思う。

見届けることができて。

最初に見ることができて。





この世の最期に見たものが、お前の笑顔でよかった。






ナミ





流れる涙は、恐怖ではなく喜びだ。





『セカチューっぽいゾロナミ』
話題になる前に、コンビニで単行本っぽい漫画本を立ち読みしました。
その知識しかありませんでした。
ドラマも映画も見てない。
なので、とりあえず小説買ってみた。
……っぽい、って?
どのへんをセカチューっぽくすればイイんだろう…と悩んだ挙句、
こんな感じのSSになりました。
死ぬのをゾロの方にして、さらにゾロ視点にしてみましたが、ダメでした?

10/20にリクくれたかぁさん、これで…とりあえず…。

2006/12/29 UP

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