隠。








 「ウソップってさー、カヤさんと付き合ってるんだよね?」





甲板の隅で工具を広げ、新星の開発に勤しんでいたウソップの前にナミはしゃがみこみ、
唐突にそう尋ねた。

ウソップの試験管を持つ手が止まり、徐々に顔が赤くなる。



 「………な、何言い出すんだよお前!!??」

 「え、違うの? 私てっきり…」



今度はナミの方が顔を赤くする。
ウソップは動揺した手つきで空の試験管を床に置いて、ナミをじろりと見る。



 「カヤは大事な友達だ! カヤだってそう答えるさ!」

 「そっかー、なんだー」



ナミが複雑な表情を見せて俯く。




突然何を言い出すのか。

一体何故、そんなことを。


まさか。

まさか。




妙な期待をしてしまう自分を諌めつつ、ウソップはどうにか会話を続ける。



 「な、何でそんなこと聞くんだ?」

 「……あのね」

 「おう……」




顔を上げたナミの顔はうっすら赤い。
ウソップは早まる心臓の鼓動を感じながら、ナミの言葉を待った。





 「……ゾロのこと、好きなの」

 「……………」





固まったウソップに気付いて、ナミは首をかしげてその顔を覗き込む。



 「………ウソップ?」

 「……あ、あぁ、何でもない」



ウソップは笑いながら両手をブンブンと振る。
ナミは不思議そうな顔をしたが、そのまま話し始める。



 「だから、ウソップがカヤさんと付き合ってるんだったら参考までにその…告白の仕方とか?
  そういうの聞こうと思ったんだけど…」

 「な、なるほどな…」



頬を染めたまま、今まで見たこともないような顔で恥ずかしそうに話すナミに、
ウソップは何とか冷静な声で返事をした。

普段のナミなら、他人の些細な態度の変化にも目聡く気付いたことだろう。
だがこの日のナミはそれどころでは無いようだった。



 「勢いで告白してフラれたりしたらさ、同じ船だからちょっと気まずいでしょ?
  だから相手の気持ちとか、どうにか調べられないかなぁって…」

 「ふーん……」



眉を下げて、ナミは自嘲気味の笑顔を見せる。
ウソップはようやく落ち着いてきた自分の鼓動に安堵しつつ、小さく返事をした。



 「ゾロってあんなだけど意外とモテそうだし女に飢えてはなさそうだから、私に興味は無いかな…」

 「………そんなこと、ねぇと思うぞ…?」

 「え?」




ウソップは思わず呟いた。




 「あいつも…ゾロもお前のこと好きなんじゃねぇかな」

 「……ど、どうしてそう思うの?」




ナミがかぁっと顔を赤くする。

胸のあたりが締め付けられるように感じながら、それでもウソップは笑ってみせた。




 「男の勘だ!!」










お前と一緒に居て、惚れない男がいると思うのか?

いつもは自信満々なくせに、こんなところで妙な謙遜を見せるんだな。

サンジだってルフィだって、チョッパーだってお前に惚れてる。
ゾロもお前のことをいつも見てるじゃねぇか。
この船で、お前に惚れてないヤツなんていねぇ。

本当に気付いていないのか?

ゾロが誰を見ているのか。


おれが誰を見ているのか。





いつか、と無理な願望を抱いていた。

いつか、その瞳がおれだけを映してくれたらと。
いつか、その笑顔をおれだけに向けられたらと。

いつか、この想いが聞き届けられたらと。



だが所詮は叶わぬモノだった。

ナミが見ているのはあの男で、
その男はおれから見ても、ナミが惚れるのも当然と言える男で、
そしてその男も、ナミのことを見ていて。


あぁ、おれの入る隙間なんてこれっぽっちも無いじゃないか。



ゾロの話をするナミは、いつも嬉しそうだった。
頬を染めて、声のトーンがいつもより上がって。
思い返せばどうしてその姿を見て、ナミの気持ちに気付かなかったのか。


簡単なことだ。

気付きたくなかっただけ。











 「ゾロに言ってみろよ」

 「で、でも……」



そう言うと、ナミはさらに顔を赤くして俯いてしまった。
ウソップはナミの肩をバンバンと叩きながら、軽い調子で続ける。



 「なんなら、おれからアイツにさりげなく言ってやろうか?」

 「えっ!? えー、でも…」

 「何だよ」

 「どうせなら、自分の口でちゃんと言いたい、か、な……」



顔を上げたナミは、目を泳がせながらボソリと呟く。
その顔を見てウソップは思わず噴出した。



 「何よ!」

 「いや、魔女にもそういう女らしい面があったんだなぁとイタタタタタタゴメンナサイ」



頬をつねり上げられ、ウソップは涙目で謝罪する。
ナミはウソップの頬を最後に強く引っぱってから手を離した。



 「いやアレだ、もっとそういう部分を前面に押し出して迫ってみたらどうだ?」

 「前面って何よ! 私は元々女らしいの!」



いやもともとは魔女じゃねぇか。

今度は口には出さず、ウソップは無言の返事をする。



 「私の魅力にあんたが気付かなかっただけじゃないのっ?」

 「……あーそーですか」











気付いていないわけがない。



自分の体に傷を残してまでおれを救ってくれたことも。
自分の人生を犠牲にしてまで村を助けようとしていたことも。
死に至るほどの病に冒されながらも友の心配をしていたことも。
その友のためにボロボロになりながら戦ったことも。

風を読み、波を感じ、海を走り、気候を操る。
どんな海でも、たとえそれが空に続くものだとしても、
確かなその腕でおれたちを、メリー号を導いてくれた。


お前の魅力なんか、泣きたくなるくらいに知ってるんだ。










 「…告白しろよ」

 「………うーん」

 「絶対上手くいくから」

 「……よし、頑張ってみる!!」

 「あぁ」

 「ありがとウソップ!」



にっこりと笑顔を残して、ナミは立ち上がり去って行った。







その笑顔で落ちねぇヤツなんぜ、男じゃねぇ。

ぎゅうと縮む心臓のあたりを押さえて、ウソップはナミの背中を見送った。




あの笑顔が見れなくなるわけじゃない。

今までと、何一つ変わらない。





きっとあの2人は上手くいく。
断るような贅沢者には、必殺火薬星をお見舞いしてやる。



そう思いながら、ウソップは新星開発の手を再び動かし始めた。





『ゾロナミ基本のゾロ←ナミ←ウソ、ナミにゾロのことを相談されるウソップ』
ウソップせつねぇ設定だなオイ!!!
『巡』と同じような感じですが、今回はウソプーの気持ちは内緒で。

10/17にリクくれたかっちさん、これで……これで……(小声)。

2006/12/25 UP

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