演。








 「………何だって?」

 「だから、ナミちゃんがお姫様で、ロロノアくんが王子様ね」

 「………はぁぁぁ!!???」









クラスの文化祭実行委員である女子が、眼鏡の位置を直しながら、
口を開けたまま固まっているゾロに指を突きつける。



 「ロロノアくんがサボったからでしょ! 昨日出し物決めるって言ったのに!」

 「てか17にもなって演劇か!?」

 「もう決定したんだから、文句言ってもダメ。練習ちゃんと参加してよ?」



そう言い残して彼女は自分の席に戻って行った。

その後姿を呆然と見つめ、それからゾロは振り返った。
後ろの席に座っているナミと目が合って、無言で腰を下ろす。
椅子に横向きに座り背もたれに腕を乗せて、じろりとナミを睨む。



 「何で私を睨むのよ」

 「…何で演技なんか…」

 「しょうがないじゃない、何かしないといけないんだし、このクラス演劇部員多いのよ」

 「じゃあそいつらに王子もやらせたらいいだろ」

 「訂正、演劇部の大道具さん小道具さんが多いのよ」

 「……」



ゾロははーーーっと長い溜息をついて脱力する。
ナミは腕を伸ばしてゾロの肩をポンポンと叩く。



 「観念しなさいよ。 あんた見栄えはイイんだから、真面目にやれば素敵な王子様になるわよきっと!」

 「嫌味かよ」

 「まっさか。 私だって恥ずかしいけど、やるからにはきちんとやるわよ。
  それに王子様なんて後半にしか登場しないんだから、文句言うんじゃないわよ」

 「……わぁったよ、んで? 何やるんだ?」



ゾロはガリガリと頭を掻きながら顔を上げ、ナミに尋ねた。
ナミは机に両肘をついて、にっこりと微笑む。





 「白雪姫」















数日後の放課後、しんとした教室でゾロとナミは台本を片手に向かい合っていた。

台本が完成し、とりあえずは各々セリフを暗記することから始まる。
あっという間に覚えたナミは、ゾロを誘って早速演技の練習に入ることにしたのだ。



 「とりあえず、後半のセリフ合わせよっか」

 「へーへー」

 「動きも少しつけるわよ、セリフは大体覚えてるでしょ?」

 「ま、一応読んではきたが」

 「あーら、意外と真面目にやってるわね」

 「真面目にやれっつったの誰だ」

 「よし、やるわよ!」



ナミはガタガタと机を動かしてスペースを作り、自分の椅子をその中央に置いた。
そこに座って、パラパラと台本をめくる。

ゾロは溜息をつきつつ、ナミが開こうとしているページを覗き込んで自分も台本をめくる。




 「小人さんのセリフは適当に流してー…、こっから!」



ナミは開いたページの一文を、とんと指差してゾロを見上げる。
それを確認して、ゾロは目でその部分を追う。

台本から目を上げると、ナミは椅子に背もたれて顔を天井に向け、瞳を閉じていた。
思わずその姿を見つめたまま固まっていると、ナミがちらりと片目を開ける。



 「ほらぁ、セリフ!」

 「…お、おぅ」



ゾロは慌ててナミの傍に近づき、台本を片手に持ってコホンと咳払いをする。
再び目を閉じたナミを見下ろしながら、渋々口を開く。



 「あぁなんと美しい姫だ。この白い肌も紅い唇も桃色の頬も、まるで生きているようではないか」

 「………」

 「…笑うな」

 「ゴメン」



目を閉じたままナミは笑いを噛み殺し、どうにか気を落ち着け『白雪姫』になりきる。
ゾロは照れから頬をうっすら紅くし、再び台本をちらりと見る。



 「…彼女を私の城に連れて帰っても構わないだろうか?」

 「……小人さん、ここで了解」

 「……てめぇ、マジメにやる気あんのか?」

 「あるわよ! もう、いいから次!」





目を瞑ったままのナミを睨みながら、ゾロは台本をめくる。

王子はガラスの棺の横に腰を下ろし、その蓋を開ける。
美しい華に囲まれて、棺に納まる白雪姫の頬にそっと手を伸ばす。



 「……動きもつけんのか?」

 「そうよ、ちゃんとやってね、できるだけ本番のつもりで」

 「……」



ゾロは少し迷って、それから手を伸ばした。
現実のナミの頬の触れるか触れないか、のところで手を止め、また台本に目をやる。



美しい姫の顔を見つめながら、王子は姫への愛を示すためにキスをする。




 「………」




しばらく固まっていたゾロは、少し震える手でゆっくりとナミの頬に触れた。
一瞬ナミの体がぴくりと反応したが、ゾロはそれに気付くどころではなかった。



ごくりと唾を飲み込み、腰をかがめてゆっくりとナミへと顔を近づけていく。
ナミは瞳を閉じたまま動かない。



ナミの呼吸を感じるほどの距離で、ゾロの動きが一瞬止まる。


だがすぐまた近づき、唇が触れる間際。




ナミがパチリと目を開けた。




至近距離で目が合い、ゾロはナミを見つめたままで固まった。






 「……本番は、ここで暗転ね」

 「…………お、おぅ……」

 「じゃ、続けて」



そう言って、ナミは再び目を閉じる。



 「………」




続けて、と言われても。
このまま――してもいいのか?
それとも暗転した、てことでその後の話を進めればいいのか?


ゾロは嫌な汗をダラダラと流しながら、結局腰を戻してナミから離れた。




 「えーーと、白雪姫の口からリンゴの欠片が転がり出て……」



ゾロは台本を読みながらゴホンと咳払いをする。

それを聞いてナミは目を開け、体を起こして椅子に座りなおした。




 「……あら、私はどうしてここに?」

 「貴女は悪い魔女に毒リンゴを食べさせられたのですよ」

 「まぁ……でもどうして生き返ったのでしょう?」



ゾロはナミの足元に膝をつき、台本を床に置く。
ナミの手をとり、真面目な顔で見つめる。

そのままゾロはセリフを続けた。



 「私のキスで、あなたは息を吹き返したのです。 美しい姫よ、どうか私と結婚してください」

 「…喜んで」




ナミはふわりと笑い、2人はそのまま見つめあう。



ゾロが再び嫌な汗を流し始めた頃、ナミはさりげなくゾロの手をほどいてパンっと両手を合わせた。



 「はい、まぁまぁかな! 今日はここまででいいや!」

 「………」



ゾロは立ち上がり、こっそりと大きな息を吐いた。

ナミも椅子から立ち上がり、台本を拾ってゾロの胸に押し付ける。



 「セリフがちょっと言い辛いトコもあるから、その辺は各々直しましょ?」

 「あぁ」

 「暗転のタイミンブもしっかり打ち合わせしないとね」

 「……そ、そうだな」



ナミはガタガタと机や椅子を元の位置に戻す。

自分の机から鞄を取って、一人勝手に帰り支度を始める。
ゾロはぼんやりナミのその背中を眺めていた。






 「ゾロ」

 「…お、おう」



振り返ったナミに、ゾロはギクリと体を強張らせる。
ナミはにこりと笑い、ゾロに近づく。




 「本番はさっきみたいなのじゃなくて、ちゃんとやってよ?」

 「……な、何だよ、セリフはちゃんと覚えてたろ」

 「そうじゃなくて」

 「………」

 「…バカゾロ!」




ナミはそう言って、べーーっと舌を出した。

それからゾロの横を通り過ぎ、さっさと教室から出て行った。








 「………どうしろっつーんだよ……」



赤い顔のまま、本番の『あのシーン』をどうすればいいのか、
一人残された教室でゾロはひたすら悩むのだった。




『白雪姫でゾロナミ』
学芸会風でもいいかも…だそうです。

白雪姫の王子のセリフが分からん!
てか棺を落としてリンゴが出てきたんだよなぁ?アレ??
まいっか!
台本だし!

10/15にリクくれたねここさん、これ白雪姫ですよね?(聞くな)

2006/12/19 UP

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