絆。









 「そういえば航海士さん、さっき街で変な男たちに絡まれてなかった?」

 「あれ、見てたのロビン?」

 「えぇ、ルフィたちが一緒だったから大丈夫だと思ったけど…どうだったの?」

 「問題なかったわよ」




騒がしい夕食を終え、クルーたちはお茶を飲みつつくつろいでいた。

ふと昼間のことを思い出したロビンは、両手で湯のみを持ったままナミに問いかけた。
ナミはにっこり笑って返事をしたが、サンジが反応し声を張る。




 「変な男!!!?? てめぇらちゃんとそいつらボコってきたんだろうな!!!」

 「何でだよ」



ずず…と茶を啜りながらゾロは答える。










この日、ナミはルフィとゾロを連れて上陸していた。
いつもならばウソップかチョッパーにルフィの世話を押し付けるのだが、
チョッパーは今回は静かに本屋巡りをしたいと言い、ウソップは船番だったので、
仕方なくナミがルフィ番になってしまった。

ゾロと2人で出る予定だったのだが、ルフィを放置して面倒が起こるよりは一緒に行動した方がラク、
という結論に2人同時に至って、結局3人で街に出た。




ゾロとルフィがたまたま2人ともナミから少し離れていたとき、
2,3人の男たちがナミに近づいて声をかけた。

センスの欠片も無い下品な言葉でナミを誘い、当然ナミはそれを歯牙にもかけず跳ね除けた。
ルフィらもすぐに気付いたが、ナミがそういう類を余裕で断れると知っているので、口は出さなかった。


だが、一蹴されてしまった男たちは顔を歪め、立ち去ろうとするナミの道を阻んだ。


ヘラヘラと笑いながら、男たちはナミに迫った。

自分たちは海賊だ。
一緒に来れば不自由はさせない。

ナミの後ろでその様子を楽しむように眺めている男2人の懸賞金額も知らず、
海賊と自称する男たちはなおもナミを「勧誘」し続けた。



 『悪いけど、私も海賊なの』

 『……はぁ?』



笑顔のナミの答えに、男たちは目を丸くしてそれから大笑いした。

あんたみたいなのが海賊?
あぁ、なるほど情婦か。

黄色い歯を見せながら笑い続ける男たちを、ナミは変わらぬ笑顔で見つめていた。



 『行きましょルフィ、ゾロ』

 『あぁ』



ナミは澄ました顔のままルフィとゾロに声をかけ、男たちの間に割り入って港への道をさっさと歩き始める。
ルフィも同じように後を追い、続いてゾロも歩き出した。
去り際に、ゾロは男たちにニヤリと笑いかけた。



 『命拾いしたな、出航時間迫ってるおかげで』

 『あぁ…?』















 「………って、それで終わりか!?」

 「あぁ」

 「何で2人ともそいつら潰してこなかったんだ!!!」

 「だから、何でだよ」

 「何でだと!? ナミさんが侮辱されたんだぞ!!?」



サンジは額に血管を浮かべて、顔を真っ赤にして立ち上がる。
バンと両手をテーブルに打ちつけ、プルプルと肩を震わす。
ルフィとゾロ、そしてナミは平然とした顔でその姿を眺めていた。



 「ナミは最高の航海士だ」

 「おれらはソレをちゃんと分かってんだから、別にいいじゃねぇか」



ルフィとゾロは顔を合わせてそう言って、肩をすくめた。
ナミはそれを聞いてニコリと笑う。



 「だよなー、ゾロ」

 「あぁ、いちいちあんな雑魚相手にしてられっか」

 「そういう問題じゃ無ぇだろ……!!!」

 「サンジくん」



血管が切れるんじゃないか、と周りが心配してしまうような様相のサンジに、
ナミは至極落ち着いた声で呼びかける。



 「……ナミさん」

 「私気にしてないのよ?」

 「でも!」

 「名前も知らない下っ端海賊に何言われようが、関係ないでしょ?
  私がかわいい一流航海士ってのは変わらないんだから」

 「……」



ナミの笑顔に、サンジは口を噤んだ。
それからすとんと椅子に腰を下ろし、俯いた。

ゾロはナミを横目で見つつ、ボソリと呟く。



 「自分で言うなよ」

 「あら、否定するの?」

 「……」



ナミは首をかしげてゾロと目を合わし、ゾロは苦笑でそれに応える。

サンジはいまだ納得がいかないのか、俯いたままブツブツと何やら呟いている。
それを見たゾロは腕を伸ばし、サンジの前のテーブルの上を指でコンコンと突付く。



 「お前なぁ、どうせ二度と会わねぇ奴らだぜ?」

 「次の島で会うかもしんねぇじゃねぇか」

 「次は無ぇよ」

 「何で」



サンジが目だけを上げてゾロを睨むと、ゾロはぎしりと椅子に背もたれて答えた。





 「次は叩っ斬る」

 「………」

 「ははっ! ゾロはおっかねぇなー!」



ルフィが大口を開けて笑い、同じようにゾロとナミも笑った。
周りで眺めていただけだったロビンやウソップ、チョッパーもつられて笑う。

サンジは一人、仏頂面でその光景を睨んでいた。
















 「まだ起きてたの、サンジくん」

 「…ナミさん」



深夜、日誌を書き終えてキッチンに入ったナミは、
サンジがテーブルに腰掛けているのを見て驚いた声を出す。

顔を上げたサンジは、いまだに浮かない顔をしていた。



 「…ナミさん、おれやっぱ納得いかねぇよ」

 「まだ言ってるの?」

 「何であいつら平気なんだよ…。おれナミさんがンなこと言われてたら我慢できねぇ」



いじけた子供のような顔で呟くサンジに、立ったままでナミは優しく微笑みかけた。



 「その気持ちも嬉しいわよ、サンジくん」

 「……」

 「でも、あれでいいのよ」



ナミの笑顔を見たサンジは、自嘲気味に笑いながら言う。



 「何か悔しい」

 「何が?」




説明できるものではない。

言葉を交わすことも視線を交わすこともなく、この3人は心を共有することができるのだ。




 「ナミさんの気持ちがあいつらには分かって、おれに分からないってのが」

 「あら、サンジくんだって分かってるじゃない」



その言葉にサンジは首をかしげる。
ナミはふふふと楽しそうに笑って、サンジの正面の椅子に腰を下ろす。




 「私が今何を飲みたいか、サンジくんにしか分からないわよきっと?」

 「……」



テーブルに肘をついて手を組み、ナミはサンジを見つめながらそう言った。

サンジはしばらく目を合わせたままで、それから立ち上がる。




 「…では、あたたかいミルクティーを」

 「大正解」




2人は微笑み合って、夜のティータイムを共にした。




『無意識なルナゾの絆、それに嫉妬するサンジ』
あぁ何かもう色々ごめんなさい。
リクに応えられてないよコレーーー!!!
うがーーーぁ!

10/15にリクくれた安季さん、心からごめんなさいぃぃぃぃぃぃぃぃ。

2006/12/18 UP

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