要。








 「いつもいつも、ムカつくんだよてめぇのツラ見てっと!」

 「それはこっちのセリフだグル眉!!」

 「出てけクソヤロウ!!!」

 「てめぇの船じゃねぇだろ! そっちこそ出てけ!」

 「おれが出てったらクルー全員飢え死にだろうが! その点てめぇは出てっても何の問題も無ぇ!!」

 「何だとコルァ!!?」

 「さっさと出てけ! てめぇのツラなんざ一分たりとも見たくねぇんだよ!!」

 「けっ! じゃあお望みどおり出てってやるよ!!」




甲板で怒鳴りあっていたゾロとサンジはバチバチと火花を飛ばす。

ゾロはクルリと向きを変え船から飛び降り、ずんずんと街に向かって歩いて行った。
はーはーと肩で息をしながら、サンジは大きな溜息をつく。





 「……サンジ、今回はまた嫌な感じの喧嘩を……」

 「うるせぇ長っ鼻、蹴り殺されてぇか」



ギロリと睨まれ、ぶんぶんと首を振りウソップはマストの裏に半身を隠す。
だが今回はここで退かなかった。



 「ゾロ、船下りちまったぞ」

 「………」

 「どうすんだ」

 「……すぐに戻ってくんだろ、どうせ」






だが翌日になっても、ゾロはメリー号に帰ってこなかった。

迷子の可能性も含め探しに行ったクルーのうち、
ロビンが見つけたらしいが一緒には戻ってこなかった。



 「『ここには1週間留まるんだろ? じゃあそれまで戻らねぇ』、ですって」

 「ゾロ、このまま戻ってこないのかなぁ…」

 「…なに子供みてぇなこと言ってんだかあのクソマリモは…」



一同が集まったキッチンで、チョッパーは目をウルウルとさせて呟く。
サンジは舌打ちしながら点けたばかりの煙草をもみ消し、すぐに新しい1本を咥えた。



 「大喧嘩して顔も見たくないって言ってたのは誰かしら?」

 「………」

 「ふふ、冗談よコックさん。 気にしないで、ちゃんと戻ってくるわよ」



固まってしまったサンジを見ながら、ロビンは慰めるように笑った。














 「……あー、……チッ」



テーブルの上の皿に料理を盛り付けていたサンジは、ふと手を止めて舌打ちする。
それから1枚の皿の料理を、他の1枚に丸ごと移した。
明らかにその皿だけ見た目が倍になっているが、気にせずに続ける。


一通りの準備を終えて、一服するためにキッチンから出て手すりに肘をかけ、甲板を見下ろす。

甲板の端で、ウソップが何やらガラクタを広げて作業していた。
サンジはぼんやりとそれを眺める。

手元を真剣に覗き込みながらチマチマ指を動かしていたウソップは、
ふと顔を明るくして手を止め、それからキョロキョロと周りを見渡した。
だがピタリとその動きが止まり、はーーっと溜息をつきながら肩を落とした。

ウソップの発明品をいつも一番最初に見て感想を述べるのは、ゾロだった。


倉庫のドアが開き、チョッパーが薬草や薬瓶を抱えて、
バタバタと駆け足で男部屋へと下りて行った。
すぐに出てきてまた倉庫に戻り、再び色々抱えて男部屋に下りる。

チョッパーが作る傷薬のほとんどは、ゾロのためのものだった。



甲板を見下ろしながら、サンジは煙草を深く吸い込み、


溜息を誤魔化すように、長く吐いた。













翌日、おやつの時間にサンジは甲板に座り込むクルーたちに皿を配っていく。
各々の皿に盛られたタルトにかぶりつきながら、ルフィはふと自分の山盛りの皿を見下ろして呟いた。



 「ゾロ、戻ってこねぇな」

 「………」



その言葉にクルーたちは一瞬動きを止め、甲板がしんとなる。




 「おれが食べ過ぎたからかなぁーーー」



ルフィはえぐえぐと泣きながらそう言う。



 「おれだってしつこく新作の説明してウザイとか思われてたのかな」



ウソップも頭を垂れて溜息をつく。



 「おれも治療治療ってうるさく言いすぎたのかなぁ………」



チョッパーは鼻水まで垂らしながら呟いた。





デッキチェアに腰掛けたナミとロビンに皿を渡し終えたサンジは、
振り返りヘコんでいるルフィたちをじろりと睨む。



 「戻ってくるっつったんだから戻ってくるさ五月蝿ぇヤツらだな全く」

 「サンジは寂しくねぇのかよーーーー」

 「……寂しいわけあるか」

 「薄情モーーン!!!」



ズカズカと足を踏み鳴らしてキッチンへ戻るサンジの後姿を、ナミは溜息をついて見送った。













 「ごちそうさま、サンジくん」

 「あ、ナミすわぁんv わざわざありがと〜〜!」



おやつの皿を重ねて、ナミはキッチンへ入った。
ぼんやりしていたサンジは驚いて跳び上がり、だがそれでも目をハートにしながらナミへと駆け寄る。

皿を受け取りそれをシンクに置くと、ナミがサンジの袖を引っぱった。



 「ナミさん?」

 「サンジくん、ちょっと来て」



そのままキッチンの外まで引っぱられ、サンジはよろめきながらも大人しく一緒に出た。






 「ね、あれ見て」

 「あれって?」



ナミは手すりの上から手を伸ばし、甲板の一点を指差す。
サンジはそこを見るが、特に変わったものは何も無い。



 「あそこ、いつもゾロが寝てるトコなの」

 「………あぁ、そういやいつもあのヘンに…」

 「ルフィもウソップもチョッパーも、あそこじゃ暴れないのよ」

 「え?」

 「というか、いつもゾロがあそこに居るから、遊べないのよね」

 「あー…、なるほど」




ゾロが自分の腕を枕にして、甲板の壁にもたれて眠っている。
その近くで遊ぶルフィとウソップとチョッパー。
上手い具合にゾロをよけて甲板中を走り回る。

普段のその光景が目の前に見えた気がして、サンジは軽く笑った。




 「今はゾロは居ないのに、避けてんのよね。 習性ってヤツかしら?」

 「……」




現実の甲板にはゾロの姿は無く、だが3人は甲板で遊んでいる。
ゾロが居るはずのところは避けて、いつものように甲板中を走り回る。


じっと甲板を見つめているサンジを横目で見て、ナミはふふと笑った。



 「サンジくんだって、もう4日も経つのにいまだにゾロの分のゴハンとか作ってるでしょ?」

 「…っ! ……えぇまぁ、実は…」



ぎくりと体をすくませて、だがナミの笑顔に結局サンジは肩をすくめてそう答えた。



 「ま、ルフィは自分のが2人分になってオイシイ目見てるけどね」

 「はは…」



チョッパーを追い掛け回して大笑いしているルフィたちを見下ろしながら、ナミはクスクスと笑った。
サンジもつられて軽く笑い、だがすぐに暗い顔になる。



 「…ごめんね、ナミさん」

 「何が?」

 「おれが喧嘩したせいでさ、あいつ帰ってこなくなっちゃって」

 「いいのよ別に、あっちだって子供みたいな意地はってるだけなんだから」



手を振りながらナミはそう答え、申し訳なさそうなサンジの腕をぽんと叩く。



 「1週間で戻るって言ったんだから、戻るわよ」

 「………」



そう言ったナミの笑顔は、サンジには寂しそうにしか見えなかった。














ゾロが船を下りてから5日目。

ロビンからこっそりと話を聞いて、ゾロが泊まっていたという宿を調べたサンジは、
気合を入れてその部屋のドアを叩いた。

だが誰も出ない。
出ないどころか気配も無い。




 「なぁ、角の部屋のヤツは?」

 「その部屋の人なら、1泊しただけですよ。今は空いてます」



受付に下りて聞いてみると、あっさりとした答えが返ってきた。



どこ行きやがった、あのバカ。
サンジはそう毒づいてゾロの行動パターンを予測し、
とりあえず宿を出てからひたすら右に向かって走った。





街の中心部を抜け田園地帯、それから森に入る手前まで来てしまい、
サンジは立ち止まりはーーーっと長い溜息をついた。



 「さすがにこんなトコまでは……来てねぇ…か?」




そう口にした矢先、サンジの目の前の藪からゾロが現れた。





 「………」

 「……お? クソコック、何でお前がこんなトコに」



目が合ったゾロは、驚いた顔でそう言った。
その軽い口調にサンジはあんぐりと口を開けて固まり、どうにか返事をする。



 「こ、こんなトコはこっちのセリフだ!!」

 「あぁ? おれはここで修行中だ」

 「…修行?」

 「おう、修行と言えばやっぱ山篭りだろ」

 「……あ、そ……」




サンジが溜息をついて黙り込むと、ゾロも何も喋らない。
元々この2人の会話は、いつもサンジからなのだ。


サンジが話しかければゾロはちゃんと答える。
サンジが喧嘩を売れば、ゾロはそれを買う。



 「……あー、その、何だ」

 「あ?」

 「…ゾロ、戻ってこいよ」

 「……どこに?」



サンジが気合を入れて言った台詞に、ゾロは眉を寄せて首をかしげた。




 「どこって……船に決まってんだろ?」

 「そりゃ戻るさ、ずっとここにいても意味無ぇし」

 「……え、いやだから、その、おれと喧嘩して、それで……」



ゾロの返事に戸惑って、サンジはしどろもどろで何とか説明をする。
だがゾロはそれにも首をかしげた。



 「喧嘩…? あー、そういやしたな」

 「……はぁ?」

 「今頃何だよ、いつものことじゃねぇか」

 「………」




ここ数日、サンジは料理が手につかないほど悩み込んでいたというのに、
ゾロにとってはいつもの喧嘩と同じレベルだったらしい。

脱力したサンジは、ふとゾロが背負っているものに気付いた。

太い棒切れに、いい具合に肥えたイノシシをくくりつけて担いでいた。



 「……帰ろうぜ、ゾロ」

 「あ? もう出航か? もう2,3日あると思ったが…」

 「それ、てめぇにゃ調理できねぇだろうが」



サンジは顎でイノシシを示す。
それに気付いたゾロは、イノシシとサンジを交互に見てにやりと笑った。



 「ルフィに全部取られちまうじゃねぇか」

 「あいつはどっかに閉じ込めとく。ここ数日2倍食ってんだ、我慢させるさ」

 「2倍? 何でだ?」

 「…気にすんな」

 「まぁ、それなら戻るか」



向きを変えたサンジの後に続いて、ゾロも船への道を歩き出した。







 「ゾーーーーーローーーーーー!!!!」



船に戻ったゾロに、ルフィたちは一斉に飛び掛ってしがみついた。
よろけながらもさすがに倒れずに踏ん張ったゾロは、
?マークを浮かべまくったまま、しばらく解放してもらえなかった。



 「もう戻ってこないかと思ったーーー!!」

 「何だ、大袈裟な…。ちゃんとロビンに伝えたろ?」

 「だってよーーーー!!!!」



ルフィらの涙と鼻水でシャツがびしょびしょになっているのに気付いて、
ゾロはハァと溜息をつきつつも引き剥がすことはしなかった。
心配されていたらしい、というのは充分に分かったからだ。

顔を上げると、これまた安心したようなナミと目が合った。



 「何なんだ?」

 「サンジくんに聞きなさい」

 「コック」

 「ナミさんに聞いてくれ」

 「ナミ」

 「つまりは愛されてるってことよ。 ね、サンジくん?」

 「さぁ…」




ナミとサンジは2人で微笑みあい、結局ゾロは一人で首をかしげるしかなかった。



『ゾロの存在の大切さを改めて認識するクルー』
決してサンジ→ゾロではない。
言うならばゾロ総受だ(それも違う)。

10/15にリクくれたizumiさん、これって何か違う?
うん、自分でも分かる…何か違うって…orz

2006/12/17 UP

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