宝。









とある国のとある村、
竹林の奥にひっそりと佇む屋敷には、大層美しい娘が暮らしていた。



娘の名はナミと言い、彼女はサンジと言う翁と住んでいた。

サンジはナミを幼いときから大切に大切に育て、その大きな愛を受けてナミはすくすくと成長し、
誰もが見惚れる、美しく立派な女性となった。


年頃を迎え、周りの村や国からは容姿や地位に自信のある男たちが、次から次へとナミに求婚するようになった。
だがナミにその気はなく、いつもつれなく断るばかり。


男たちもしつこいもので、中には軒先に居座って結婚を迫るものもいた。
昼夜を問わず押しかけては、ナミへの贈り物や愛の言葉を置いていく。
堪忍袋の尾が切れかけたサンジは、こう宣言した。



 「ナミさんの目に適うようなお宝持ってこい! でないとてめぇらなんぞにウチの宝はやれるかぁ!!」



こう怒鳴ったかは定かではないが、とにかく宣言した。


男たちは持てる財力・人脈を駆使し、これこそ最高の宝だと思うものを持って再びナミの元にやってきた。

自慢の宝石をかき集めてやってきた者があれば、
一族の持つ全ての財産を抱えてやってきた者もいた。
中には偽物の宝を持ってくる者もおり、そういう輩はサンジによって蹴り出されていた。



 「私の宝はこの古書です」

 「それは素敵ね、でもまだまだよ」

 「私の宝はこのカラクリです」

 「とても面白いわ、でもまだまだね」

 「私の宝はこの人体標本です」

 「……す、すごく勉強になるわね、でもそれじゃだめ」

 「私の宝は肉です!」

 「問題外」




断られた男たちはしょんぼりと肩を落として屋敷を出て行き、サンジはそれを疲労の溜息とともに見送った。

そこらの男にナミをやる気はサンジにはかけらもなく、
また同じようにナミ自身もそこらの男の妻になる気はなかった。







ある日、一人の男がやってきた。
サンジは他の者と同じように、その男をナミが待つ広間に通した。

部屋の中央に男は胡座をかいて座り、その正面の簾をじっと見つめる。
その奥には、ナミがいる。

サンジは少し離れたところに腰を下ろし、男を観察する。
身なりは汚れてはいないが、今までの求婚者のような金持ちには見えない。
腰には3本の長い刀を携えており、どうやら剣士らしかった。
その鋭い眼光と変わった色の髪には目を惹かれるが、宝を持っている様子は無い。

これは、あっという間に一蹴だな。

サンジはそう考えて、ナミの言葉を待つ。



ナミも同じように男を観察していた。
胡座をかき、堂々とした鋭い視線を寄越してくる。
その脇に置かれた、3本の刀。
簾越しでも、それらが良い物だと分かった。
1本ほど妖混じりの物があったが、それはそれで高値になるというもの。

ナミはしばらく黙って見ていたのだが、いつまで待っても男が口を開かないので自分から切り出した。



 「あなたの宝は、その刀? よく見せて」

 「いや、これはおれのだ」

 「……」



男はあっさりと即答し、庇うように刀に手を伸ばす。



 「じゃあ、何を持ってきたの?」

 「別に」

 「……」

 「実は、この話を聞いたのはさっきでな。
  竹林の中でグルグルしてたら、やけにヘコんだ男が親切にも道を教えてくれて、 
  言われた通りに来たらこの屋敷の前に出たんだ」

 「………あら、そう」



要は迷子になって、間違えてここに来たってわけ。
ナミはそう考えて、少しむっとする。



 「あんたに求婚するには、宝を持ってこねぇといけねぇんだろ?」

 「そうね、私の目に適うお宝をね」

 「生憎おれは金持ってねぇし、金目の物っつってもこの刀くらいしか無ぇ」

 「みたいね」

 「でもおれは剣士だから、刀をあんたにやるつもりはない」

 「じゃあ何のためにそこにいるの」



ナミは呆れた声で答えた。
男は少し間を開けて、ニヤリと笑いながら言った。



 「おれの宝は……まぁ、この体だ」

 「………」

 「てめぇ!! 人んちの娘の前で無礼な発言すんじゃねぇ!!」

 「うるせぇなぁ」



思わず立ち上がり叫んだサンジの声に、男は振り返って眉を顰めた。



 「体力にも、腕にももちろん自信はあるぜ。
  懸賞金付きの盗賊だの物の怪だの、そっち方面ならいくらでも稼げると思うが?」




ナミは無言で男を見つめる。
くすりと笑い、手を伸ばして簾を少し上げ男と直接顔を合わせた。
一瞬サンジは慌てて止めようとしたが、ナミに目で制されて再び腰を下ろす。





 「そんなに自信があるの?」



ナミの妖艶な笑顔を見た男は、その美しさに一瞬言葉を失ったが、
だがすぐに口端を上げて笑い返した。



 「あぁ…かなり、な」

 「じゃあ見てみるわ、こっちへ…持ってきてくれるかしら?」

 「…仰せのままに」



男は立ち上がり、簾を越えてナミの寝所に消えた。











 「そんなの認めねぇーーーーーーー!!!!!」











サンジは自分の叫び声で目が覚めて、ガバリと飛び起きた。

はーはーと肩で息をして周りを見渡すと、そこはいつものゴーイングメリー号の男部屋だった。
どうやら自分はソファで寝ていたらしく、顔を上げると他のクルーがハンモックに揺られて眠っているのが見える。



 「何だ……、夢か……」



ナミさんと…ナミさんと……クソマリモが……!!!

サンジは気を落ち着けようと煙草を探し、ソファの下に手を伸ばす。
固いものが指に当たり、顔を下ろすとそこには1冊の本があった。



 『かぐやひめ』


先日上陸した際に、古書屋に行ったチョッパーがオマケで付けてくれたと嬉しそうに言っていた本だ。



 「これのせいか…」



チョッパーが貸してくれたので、暇つぶしで寝る前に読んだのだった。
サンジは再び手に取って、暗闇に慣れた目でパラパラと流し読みする。
うっすらとしか文字は見えないが、昨夜読んだあらすじは覚えている。
姫は結局、誰のものにもならずに月へと帰ったのだ。

これでいいんだよ。
手に入らないからこそ、いつまでも美しいんだ。


一人呟くと、突然ガタリと音がして女部屋と繋がる非常扉が開いた。




 「ぐえっ」

 「……いたのか」



出てきた足にぎゅうと踏み潰され、サンジは声を上げる。
足の持ち主・ゾロは少し驚いた声を出した。



 「いて悪ぃか」

 「別に」



ゾロはサンジを越えて床に足を下ろし、扉をゆっくり閉めた。
それから何も無かったかのように自分のハンモックへと向かっていく。



 「……どこ行ってたんだよ」

 「分かんねぇか?」



後姿に声をかけると、ゾロは立ち止まって振り返り、ニヤリと意地悪く笑った。



 「………いつかコロス……」

 「返り討ちにしてやるよ」







手に入らないからこそ美しい、
手に入らないからこそ美しい………。

サンジは自分に言い聞かせるように、ブツブツと何度も呟いた。



『かぐや姫でゾロナミ』
夢オチ!!!(?)(どーん)
がっつりパラレルから逃げました……。
自分のお宝持ってナミさんを口説きに来た男(?)たち、誰のセリフか分かる……よ、ね…?

10/13にリクくれた翠さん、逃げたmarikoをお許しください…。

2006/12/13 UP

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