云。






砂の国での戦いが終わり、

まるでそれが夢だったかのような心地良い休息の時を過ごし、

だがそれに甘えているわけにも行かず、海へ戻ると決めた夜。







この国の王女がこれからどうするか、
ナミはそんなことを考えていると眠れなくなった。

ベッドから起き上がり、外を歩こうと部屋から出る。
一瞬違和感を感じて扉に手をかけたまま、振り返る。

ゾロの姿がベッドに無かった。

あの男も、同じように眠れないのか。
それともどこかでまたトレーニングを?


とりあえず外に出ようと、ナミは静かに扉を閉めた。







庭へ出るとすぐにゾロの姿を発見した。

ベンチの上に腰掛け大きく背もたれて、ぼんやりと夜空を見上げている。
足音を消して近づいたつもりだったが、すぐにゾロはナミに気が付いて顔を向けてきた。



 「あんたも眠れないの?」

 「さっきまでトレーニングしてたんで、涼んでんだ」

 「チョッパーに控えろって言われたでしょ」

 「寝つきにちょうどイイんだよ」

 「やっぱり眠れないんじゃないの」



ゾロが少しよけてくれたので、ナミは隣に腰を下ろした。



 「……長居した気がするけど、そうでも無ぇよな」

 「本当ね、密度が濃かったから」

 「明日だよな」

 「うん」




何となく沈黙になって、2人で空の星を見る。
考えるのは、きっと同じこと。




 「……ここ、もう大丈夫よね」

 「…ビビがいれば、大丈夫だろ」




まるで愛しいものを想うかのように、空を見上げたまま目を細めてゾロは緩く微笑んだ。


ぎゅう、と胸が苦しくなる。

ナミは胸のあたりに手を当てて、小さく息を吐く。




 「……ビビが、好き?」

 「あ?」



ゾロは片眉をあげてナミを見る。
我ながら場にそぐわない質問だとはナミは思ったが、言ってしまったものは仕方ない。
どうにか視線を逸らさないようにして、もう一度聞いた。



 「お前は嫌いなのか?」

 「まさか!」

 「じゃあ人に聞くなよ、分かってんだろ」



ゾロが呆れた顔と声で答えたので、ナミは思わず顔を伏せる。



 「…好きなんだ」

 「……仲間だろ」



自分から言い出したんだから何か言わなければ、と思ったが、
なかなか次の言葉が出なかった。
しばらくゾロの視線を感じていたが、ナミが無視を決め込んでいると、
肩をすくめたゾロはまた顔を空に向ける。





 「…私、あんたが好きよ」

 「……あ?」



小さな声で呟くと、ゾロが遅れて返事をした。
顔を向けると、何とも間抜けな顔をしたゾロと目が合った。



 「仲間、としてじゃなくてね」

 「……いきなり何冗談かましてんだ、お前」

 「冗談なんかでもなくて」

 「色々終わって気でも抜けたか?」



眉間に皺を寄せたゾロを、じろりと睨む。
こっちの気も知らないで、とナミは心中で悪態をついた。



 「色々終わったから、こうして素直になってんじゃないの」

 「………」

 「ゾロがビビのこと好きでも、私はずっとゾロが好きだから」



言葉に出すとやっぱり胸のあたりが苦しくなったので、
ナミはぎゅっと胸の布を握り締めて、俯く。



 「……あ? 何の話だ?」

 「ビビよりももっと私のこと好きになってくれるよう、頑張るから! 覚悟してなさい!」

 「いやだからちょっと待て」



その言葉を無視して、ナミはすくっと立ち上がりゾロの正面に立ち、
相変わらず間抜けな顔の剣士に笑いかける。



 「じゃあね!」




勝手に決意表明をして、満足気な顔のナミはそのまま消えた。




 「……何でビビが出てくんだ……」














ゾロのいたベンチから少し離れた庭木の横で、ナミはしゃがみこむ。


言ってしまった。
隠しておこうと思ってたのに。

顔を赤くして、ナミは頭を抱えて「うー」と唸る。

ゾロはビビのことが好きなのに、あんなこと言って迷惑だっただろうか。
そう思い至って、それからまたずーんとヘコむ。


ゾロがビビに優しいのは、随分前から気付いていた。
もちろんゾロはみんなに優しい。
ぶっきらぼうだけど、でも誰に対しても同じように優しさを持っている。

だけど、ビビには特別に見えた。

少なくとも、ナミにはそう見えた。




はぁ、と溜息をつく。

こっちは泥棒あがりの海賊で。
あっちは王女あがりの海賊で。

なかなか厳しい状況だわ。

ナミは一人ごちて、しゃがみこんだまま両手をだらりと垂らして無意識に芝生の草をブチブチと千切る。


ビビには一緒に来てもらいたい。
でもそしたら、ゾロはビビと付き合うのだろうか。

あぁもう、いやだ。

どちらも大事な仲間なのに、こんなドロドロした感情を抱いてしまうなんて。

自己嫌悪に陥って、芝生を毟るナミの手は止まらない。












 「人んちの庭に何やってんだ」

 「っひゃ!?」

 「王宮だぞ」



突然背後から聞こえてきたその声に、ナミは甲高い叫びを上げて飛び上がった。

慌てて体勢を直して立ち上がり、振り返るとそこには苦笑したゾロの姿があった。
言われてはっと気付くと、自分の手の中やさっきまで座っていた所には、
無残にも毟り取られた緑の草が散らばっていた。



 「え! やだ、何してんの!?」

 「こっちのセリフだ」



ナミは両手をぶんぶん振って手に付いた草を払い落とし、ちらりとゾロに目をやる。


先程告白されたというのに、ゾロはその当人を目の前にしても平然としている。
何だか腹が立ったが、こちらが意識するのもムカついた。
負けじと平然としてやろうと、ナミは顔を上げてゾロと目を合わすが、
まっすぐ見つめ返されて思わず頬が熱くなる。

まだまだだわ、私も。

ナミは心の中で呟いて、とりあえず何か話そうと口を開こうとした。
だが、それよりも先にゾロが声を出した。




 「なぁ」

 「…な、なに?」

 「さっきの、何だ?」

 「……」



鈍感なのか、無神経なのか、デリカシーが無いのか。
一体どれだろうとナミは目の前の剣士を見ながら固まる。

成り行きとはいえ勇気を出した人の告白を、何だとは何だ。

ぶちっと軽くキレたナミは開き直って、両腕を胸の前で組んで仁王立ちする。




 「あんたが好きだって言ったのよ」

 「……えらい堂々としてんな」

 「文句ある?」

 「いや、ただちょっと」

 「何よ」



ゾロはふいと視線を逸らせて、ボリボリと頭を掻く。
ナミは相変わらずの強気の姿勢で、ゾロを睨む。




 「お前、おれがビビのこと好きかって聞いたよな?」

 「………き、聞いたわよ」



まさか早速お断りの返事をされるのか、とナミは内心は動揺でグラグラしつつ、
だが傍目には平静を装って、ゾロを見つめる。




 「おれがビビのこと好きっていうのと、お前がビビのこと好きっていうのとは、多分同じだぜ?」

 「………え?」

 「お前がそういう趣味の持ち主でなけりゃ、同じだ」

 「………」




上手く頭が回らないが、ナミはそれでも必死に考える。

つまりは、ゾロのビビへの感情は、恋愛感情じゃないってこと?




 「……わ、わざわざソレを言いに?」

 「あともう一つ、付け加え」

 「…なに」



いまだ動かない頭で、ナミは条件反射的に返事をする。
ゾロは一瞬無言でナミを見つめ、すぐにまた口を開く。





 「お前がおれに持ってる感情と、おれがお前に持ってる感情も、多分同じだ」

 「…………へ?」

 「…間抜けな顔だな」




ゾロがくっくと笑う。
さぞかし間抜けな顔だったのだろう。
ゾロの言葉が、ナミの頭の中でグルグルと回る。




 「……私は、ゾロが好きよ?」

 「らしいな」

 「仲間としてとかじゃなくて、その、恋愛感情で好きって意味よ?」

 「あぁ」

 「………それと、同じなの?」

 「そう言ったろ」



ようやく頭が追いついて、ぼんと音がしたんじゃないかと自覚するほどナミの顔が赤くなる。


ゾロは笑っている。
そのままナミに向かって一歩足を踏み出す。


二歩。

三歩。



もうすぐ、ゾロの腕が自分に届く。





動けないナミは、その様子をスローモーションのように見つめていた。


どうしよう。
その前に、もう一回言っておこうか。




好き、と。





『ナミからゾロに告白』

こんな話、前に書いた気がするけど探す気が起きない(笑)。
何だっけ。
あぁアレか。
(でも書き直す気ナシ)
あれ、スランプ?(多いなスランプ)(てかネタ切れ)

10/11にリクくれたチカさん、こんなモンで許してェェェェェェ。

2006/12/09 UP

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