道。
『ちょうど終わったから、送ってやる』
カチカチと短い文面を打ち込んで、ゾロはメールを送信した。
深夜、バイト先のバーを出てからゾロは歩きながら携帯を確認した。
返事はまだ来ていない。
(……、まぁいいか)
返事は待たずに、ゾロは送信先の相手を迎えに行くため足を早めた。
「あれ、ゾロ?」
「よぉ」
営業時間の終わった居酒屋の裏口で、ゾロはナミに声をかけた。
金曜の夜は忙しい。
バイトを終えたナミが出てくるのを、ゾロはメールを送ってから大分待っていた。
ゾロの姿を見たナミは、驚いたようだったがすぐに笑顔を見せる。
「どうしたの?」
「メール見なかったか?」
「あーごめん、まだ見てない」
「おれも終わったから、ついでに家まで送ってやるよ」
「あ、でも……」
ゾロが言うとナミは少し戸惑った表情で、先程自分が出てきたドアをチラリと見た。
「どうし――」
ゾロが口を開いた瞬間、そのドアから一人の男が出てきた。
30代後半か40代ぐらいだろうか、この居酒屋の店長である男だった。
ゾロと同じくらいの身長だが、体格はゾロの方がいい。
眼鏡をかけて、居酒屋店長というわりには、ぱりっとしたシャツを着てやたらに整った身なりだった。
男はナミを見てそれからゾロに気づき、一瞬動きを止めたがすぐにゾロに笑いかける。
人の良さそうなその顔を見て、ゾロは気付かれない程度の舌打ちをした。
男は裏口に鍵をかけて、ナミにお待たせと声をかける。
ナミもううんと男に笑いかけ、それから申し訳なさそうにゾロを見た。
「……そいつに、送ってもらうのか?」
「ん…、ごめんね、せっかく来てくれたのに」
「大学の友達かいナミ?」
「うん、同じゼミのロロノアくん」
男はゾロの視線を受けて、何かを察したのかさり気なくナミの肩に軽く手をまわす。
「わざわざ悪かったね、私が送っていくから君は――」
「…離せよ」
「ゾロ?」
剣呑なゾロの声に、ナミは眉を顰めた。
男も無言でゾロを見つめる。
「結婚してるくせに、従業員に手ぇ出すなんざ最低だなアンタ」
「…っ、ゾロやめてよ!」
ナミは肩に置かれた男の手を外して、慌ててゾロに近寄った。
その腕を掴むが、ゾロはナミに目をやりもせずじっと男を睨んでいた。
男もその視線から逸らすことはなく、少し怒りの混じった目を返した。
「変なこと言わないで!」
「…妻とは別居中だ」
「籍入ったままなら同じだ」
「離婚はするつもりだ」
「どうせ口だけだろ、アンタみたいなのは」
「やめてったらゾロ! 店長も、離婚とかそういうのやめてよ!!!」
ナミが叫ぶと、2人は口を噤む。
ゾロの腕から手を離して大きく息を吐き、一人で帰ると呟いたナミは足早に歩き出した。
「ナミ」
「アンタは帰れよ。嫁の待ってる家にな」
そう言うと男はギリと奥歯を噛んで睨みつけてきたが、ゾロは無視してナミの後を追った。
足の速いナミにようやく追いついたゾロは、無言で隣に並んだ。
チラリと見下ろすが、俯いたままのナミの表情は見えない。
ゾロは自分の行動をちょっと反省したが、素直に謝る気にはなれなかった。
「……分かってるんだから…、店長が離婚とかしない事くらい」
「…じゃあ何で」
ボソリと口を開いたナミは、やはり顔は上げなかった。
「最初は奥さんいるって知らなかったから」
「今は分かってんだろ。…別れろよ」
「そんなこと言われても、なんていうか」
「…好きなのか」
ゾロは眉間に皺を寄せて、ナミを睨むように見下ろす。
顔を上げたナミは、泣いているのかと思いきや意外と平気な顔をしていた。
「うーん、正直よく分かんないのよね…」
「…何だよそれ」
思わずゾロは苦笑した。
ゾロの顔を見上げて、ナミもへへっと笑う。
「奥さんいるとか分かって、ちょっと冷めた部分もあったのよ正直。
別れなきゃなーーとは思うんだけど…」
「はっきりしねぇな」
「その、きっかけっていうかね、そういうのが」
「………」
ナミは自分の背中に手を回し両手を組んで、ゾロに向かって笑顔を見せる。
「心配してくれてありがとね、ゾロ」
「……」
「修羅場はイヤだし、そのうちちゃんと別れるから――」
「…おれなら」
「え?」
ナミから目を逸らし、前を向いたままゾロは呟いた。
よく聞き取れなかったナミはゾロの顔を覗き込むが、目は合わなかった。
「おれなら、彼女もいねぇし嫁もいねぇよ」
「……アンタに奥さんいたらびっくりするわよ」
目を見開いたナミは、クスクスと笑い出した。
その姿をチラリと横目で見て、ゾロはまた正面を向いて言った。
「おれ、お前のことずっと好きだったんだぜ」
「……………初耳」
ナミは思わず立ち止まる。
ゾロも少し遅れて止まり、振り返ってナミを見つめた。
「だからあの男と別れて、おれと付き合えよ」
「………何で命令口調?」
顔をうっすら赤くして、だが今度は目を逸らさずに言ったゾロを見てナミはまた笑った。
気恥ずかしさを誤魔化すように、冗談めかして口調で返事をする。
「それに、不倫相手と別れてすぐに次と付き合う女でいいの?」
「お前ならイイ」
「………」
ゾロにじっと見つめられ、ナミの顔が段々と赤くなる。
「……すげぇ真っ赤」
ゾロはぷっと吹き出して、クルリと向きを変えてまた歩き出した。
指摘されてさらに赤くなったナミは、慌ててその後を追った。
「あ、あんたが急に変なこと言うから!」
「急じゃねぇ、ずっと前からだ」
「……何か、まだよく分かんないんだけど、……ありがとう」
「…ありがとうだけじゃおれも分かんねぇ」
「……」
「……明日も、終わったら送るから」
「……うん」
ゾロが振り返って、手を差し出してくる。
ナミは少し迷って、その手を取った。
「……………こういうのが、きっかけなのかしら」
「あぁ」
『彼氏持ちナミ&ゾロで略奪愛』
りゃ、略奪愛かなァコレ……。
すげぇドロドロが書きたかったけど、やめました。
だって仮にもナミさんが選んだ相手だもんなぁ。
イヤなヤツにはできなかったんです……orz
それにしてもタイトルが浮かばない。
10/7にリクくれたSHAMさん、もっとこう…ねっちりねっとり書けなくてごめんなさい(笑)。
端折りすぎなmarikoです…。
2006/11/23 UP
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