療。







 「シャンクス、どうにかしてくれ」





聞き知ったその声に、シャンクスは受付の窓からひょいっと顔を覗かせた。


田舎の小さな診療所は、意外と忙しい。
大きな手術が必要になる患者で溢れる、ということこそ無いが、
日課のようにやってくる老人たちの話相手で一日が終わることは多々ある。

いつものようにこの日の診察が終わり、外来の患者も今のところ最後の一人が終わった。
院長であるシャンクスが伸びをして休憩をしようとしたところで、
先程の声の主が扉を開けて入ってきたのだ。

仕事終わりの疲れを取ってくれる(気がする)アメを口の中で転がしながら、
シャンクスは受付の外に出てその主を出迎えた。



 「何やってんだ、ゾロ?」

 「見ての通りだ」



声の主、ゾロは額のあたりに布を押し当ててシャンクスを睨んだ。
その布はじんわりと赤く染まっている。



 「撥ねられた」

 「…撥ねられたぁ?」

 「相手先から会社戻る途中で…」



自分の足でここまで歩いてきたらしいゾロを見て、シャンクスは呆れた声を出した。
ゾロは布を外してそこに付いた血を見て、舌打ちをしてまた額に押し付ける。



 「撥ねられたっつーか、バイクと当たって不覚にも転んじまった」

 「で、ドライバーは?」

 「帰った。連絡先はもらったけどな」

 「警察は?」

 「何かすっげぇ謝ってきたから、面倒くさくなった」



しれっとそう言ったゾロに、シャンクスは溜息をついて手招きをした。



 「まぁお前がいいならいいけどよ、さっさと入れ」








転んだ拍子に地面で切ったらしい傷口を、シャンクスは鼻歌でも歌いそうなノリで縫っていく。



 「お前、真面目にやれよ」

 「おれはいつでも真面目だぜ。それとも全身麻酔でもしてもらいたいのか?イタズラするぞ?」

 「変態ドクターか」

 「ははっ」



ゾロが本当に気持ちの悪そうな顔をしたので、シャンクスは思わず笑った。





ゾロのカルテに記入をしながら、シャンクスはちらりとゾロを見て言った。



 「お前、一人暮らしだよなぁ? 頭だから気になるし、今日は泊まってけ」

 「あぁ!?誰が病院みてぇな辛気臭ぇトコ泊まるかよ!!明日も仕事あんだぜ!」

 「宿じゃねぇんだぞ、入院だ入院」

 「余計嫌だ!」



ゾロは慌てたように自分の鞄や背広をかき集めた。



 「何だよ、晩飯も出るぞーーなかなかいい宿だと思うがなー」

 「宿じゃねぇっつったのそっちだろ!」

 「か〜わいい女の子もいるしなぁ?」

 「……あぁ?」



シャンクスの妙にヤラシイ言い方に、思わずゾロの動きが止まる。
ふふんと得意げな顔でシャンクスはそんなゾロの姿を見ていた。






 「あーら、変な言い方しないでよ先生!」

 「…………ナミかよ」



診察室に入ってきた看護師の姿を見て、ゾロはこっそりと溜息をついた。



 「何その不満そうな態度は。久しぶりの再会なのに!」



ナミと呼ばれた女は白いナース姿でつかつかとゾロに近づき、その後頭部をポンと叩いた。



 「いてぇ!! てめ、それでも看護婦か!包帯見えねぇのかよ!」

 「そんなので痛がるなんて、あんたも弱ったモンね。高校の頃はもっと流血してたくせに」

 「そういう問題じゃねぇだろ!」



ぎゃーぎゃーと抗議するゾロと、さらりとそれをかわすナミ。
シャンクスはにこにこと笑いながら観察していた。



 「あぁ、ナミちゃんとゾロって中学高校と一緒だったんだっけ?」

 「そうなんですよー」

 「じゃナミちゃん、こいつ空いてる部屋に押し込んどいてー」

 「はーい」

 「だからおれは入院なんかしねぇって……!!」









丸々空いていた4人部屋に向かって、ナミはゾロを案内する。
違和感のある頭の包帯に手をやりつつ、ゾロは渋々とナミの後姿についていった。



 「さーてと、じゃあこのベッドでいい?」



入り口近くのベッドのシーツを整えながら、ナミは言った。
ゾロは脇にあった台の上に背広と鞄を置いて、また溜息をつく。



 「何よ、そんなに病院が怖いの?」

 「怖いわけあるか! 面倒くせぇだけだ」

 「いいじゃない。寝てるだけでしょ」



入院患者用の服を渡しながら、ナミは微笑んだ。
ゾロは無言でそれを受け取り、ベッドに腰掛ける。
それからじっとナミを見て、そのナミが首をかしげるとボソリと告げた。



 「…コスプレみてぇだな」

 「失礼ね、本物ですー!」

 「本当に看護師ってヤツになったんだなぁ、お前」

 「何よ今さら。あんたはちゃんと働いてんの?」

 「当たり前だ」

 「じゃあ部屋の鍵出して」

 「あぁ?」



台の上の背広を取って、ナミは片手をゾロに向かって突き出した。
今度はゾロは片眉を上げて首をかしげる。



 「血まみれスーツで会社行く気、明日?」



スーツを持ち上げて、ナミは肩をすくめる。
ゾロもようやくそのことに気付いて、派手に舌打ちをする。



 「後で時間見つけて、あんたの家に行って着替え取ってきてあげるから」

 「…いや、別にそこまで…」

 「住所はカルテので合ってるわよね?」

 「お、おう」

 「ほら、早く鍵」

 「……んじゃ、まぁ、頼む」



ゾロは戸惑いつつも、ポケットから鍵を取り出してナミに渡した。










しばらくして、ナミが夕食の盆を持って病室にやってきた。
入院着に着替えたゾロはすることもなくベッドの上に転がっていたが、
ナミの足音に気付いて起き上がっていた。



 「頭は痛くない?」

 「あぁ、別に平気だ」

 「これ、晩御飯ね」

 「こんなんで足りるかよ」

 「文句言うな。ここは病院よ」

 「ちっ」



ゾロは盆を受け取り、足元の台に置いた。
律儀に手を合わせて箸を握る。



 「食べさせてあげよっか?」

 「あ、あほ言え!」



うっすら顔を赤くしたゾロは、慌てて箸を掴みなおして白飯をかっこんだ。
ナミはクスクスと笑いながらその様子を見下ろしていた。

ふいに手を伸ばし、ゾロの頭の包帯に触れる。



 「な、何だ」

 「本当に痛くない?」

 「…あぁ」



触れるナミの手があまりに優しかったので、ゾロは払いのけることができなかった。



 「高校の頃はさ、喧嘩ばっかでいっつも怪我してたわよねアンタ」

 「…お前にゃ大分世話になったな」

 「多分校内で一番仕事した保健委員だったわよ、私」



ナミは懐かしむように笑って、ベッド脇の椅子を引き寄せて座った。



 「でもある意味、今の仕事に役立ってるわよ?」

 「だろうな、感謝しろよこのおれに」

 「誰がアンタに!」



ゾロらしい冗談にナミはまた笑って、立ち上がった。



 「明日の朝イチで精密検査するから、もし仕事行くんなら午後からにしなさいね。
  電話は廊下にあるから、連絡するならソレ使って」

 「…分かった」



素直な返事に満足したナミは微笑んで、部屋から出て行こうとした。
だがふと足を止める。



 「あ、ゾロ」

 「何だよ、まだ何かあんのか」

 「もし夜中に傷が痛くなったらいつでも言ってね」

 「…おう」



まさに白衣の天使のような微笑に、ゾロは思わず身を固くしてぎこちなく返事をした。







 「座薬…入れてあ・げ・るv」





ナミは笑顔を崩さず、入り口から顔だけを覗かせてそう言った。







 「…誰がてめぇに頼むかぁ!!!」



真っ赤な顔のゾロの叫びを受けながら、ナミは笑って消えていった。


我慢しよう、どれだけ痛くなろうと絶対に我慢しようとゾロは心に決めた。




『入院患者ゾロと看護師ナミ』
リアルな臨床現場なんて書けません!!!!(逃)
シャンクス、最初だけ出てすぐ消えたね……。
私にあの男は書けないよ!男前すぎて書けないよ!!
何つーか、ストーリーの設定を端折りすぎかな?
ゾロとナミの高校生活とか要る?
皆さんで想像してくださいってことでね?
だって私もあんまり深く考えてねぇんだもん!
こう…ぼーんやりとした…設定で……。

10/2にリクくれたみちりんサン、こんなだけど終わらせる!!(また逃)

2006/11/15 UP


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