決。










話を聞きゾロが下船を決めて、それから船を下りるまで、

その間はわずか2日だった。












 「鷹の目が?」

 「その島って…おれらが2,3日前に居たトコじゃねぇか?」

 「あぁ…」




襲ってきた小さな海賊団から聞いた情報、そしてチョッパーが海鳥から聞いた情報。
2つの情報源から、鷹の目が自分たちのすぐ後ろにいることをゾロは知った。


呼んだわけではないが、何となくクルー全員がキッチンに集合した。
海賊から話を聞いたのはサンジとウソップ、海鳥から聞いたのはチョッパーだった。
3人から聞かされ、ゾロは腕を組んで黙って座っていた。

周りも思わず無言になり、じっとゾロを見つめる。




 「ゾロ、どうする?」




最初に口を開いたのは、やはり船長であるルフィだった。
クルーたちがそれを聞いて、一瞬体を固くする。

ゾロの答えは分かっている。
この剣士が海に出たのは、ただその男と戦うためなのだから。

それを皆知っている、その思いの強さも知っている。
だからこそゾロの答えを聞くのが怖かった。






 「…船を、下りる」

 「そうか」




ゾロの言葉に、ルフィはあっさりと返事をしてウソップはぎゅっと目を閉じ、サンジは小さく舌打ちをする。
ナミは、足の上で拳を握りずっとゾロを見つめていた。

ルフィは椅子に背もたれて、ゾロを見ながら笑った。



 「別におれたちも一緒に戻ったっていいんだぜ」

 「そうもいかねぇだろ。あの島で海軍連中に見つかっちまったから今もケツにつけてるし、
  あの島自体にもまだ人数割いて目ぇ光らせてるだろうからな」

 「まぁなー本当邪魔だよなー」

 「おれ一人なら何とかなる」

 「そうか」



ゾロの声に迷いは欠片も無い。
船を下りることへの戸惑いも。

ただ鷹の目との再戦だけを見ている声だった。




静まった雰囲気に耐え切れなくなったチョッパーが、涙まじりで声を出した。



 「な、なぁゾロ、戻ってくるよな?」



チョッパーは、鷹の目がどれほど強いのかは知らない。
だが、ゾロの胸の傷は知っている。
あの傷の深さを知っている。

チョッパーの問いに、再び皆がゾロの返事を待った。
ゾロはしばらくチョッパーを見つめていたが、ゆっくりと皆の顔に視線を巡らせ静かに口を開く。




 「…必ず戻る。だから先に行け」




チョッパーが思わずボロリと涙をこぼす。
ウソップも唇を噛んで耐えていた。


ゾロの強さは皆知っている。
そして、鷹の目の強さも知っている。

だが、それでも相手は世界一と謳われる男だ。

もし、もしまた。





 「分かった。勝てよ!」

 「勝ちに行くんだ」

 「ししし、それでこそゾロだ!」



ルフィは呑気に笑い、ゾロもそれに応えてニヤリと笑った。
ウソップやサンジも、ムリヤリだったが一緒に笑顔を見せる。

だがナミだけは、そこでガタンと音を立てて立ち上がる。
何も言わず、キッチンから出て行った。



 「………」

 「ゾロ、ナミは?」

 「…あぁ?」



ナミの姿を目で追うこともしなかったゾロに、ルフィが尋ねた。



 「ナミは一緒じゃなくていいのか?」

 「何言ってんだよ」

 「じゃねぇと、お前迷うだろ」



笑いながらルフィが言うと、ゾロは眉間に皺を寄せて睨みつける。
サンジたちは何も言わず、ゾロがどう返すのかを見守っていた。



 「…あいつが動かすのは、おれじゃなくてこの船だろ」

 「ま、お前がいいならいいけどよ」

 「第一連れてったら連れてったで、お前らが迷うじゃねぇか」

 「まぁな!」
















 「ゾロ、行くの」

 「あぁ」



翌朝、少ないながらもまとめた私物を甲板に運んだゾロに、ナミが近づいていく。
どさりと布袋を下ろして、ゾロは振り返る。
眠れなかったのか、ナミは少し腫れぼったい目をしていた。

正面に立ったナミは、ゾロの胸に紙の束と小さな袋を押し付けた。



 「…海図、あんた用に詳しく描いたから」

 「…ありがとう」

 「あと予備のログポースも。見方は分かるわよね? 念のためにちゃんとメモしとくから」

 「あぁ」

 「私たちはそれぞれの島で長めに滞在するから、その間に追いついてきてね」

 「あぁ」



ゾロは渡された海図と袋を、布袋の中に大事に詰めた。
またナミの方を見ると、ナミは両手を胸の前で組んだり合わせたりしながら、
それでもゾロをまっすぐ見ながら喋り続けた。



 「それから、あの島には海軍がわんさかいるんだから、…鷹の目に…会うまでは大人しくしとくのよ」

 「分かってる」

 「お金と食糧は後でまた渡すけど、無駄遣いしちゃダメよ、島に着く前に無くなっちゃうわよ」

 「あぁ」

 「チョッパーに救急セットも用意してもらってるから、忘れずに持って行って。
  ケガしたら放ってないでちゃんと手当てするのよ」

 「努力する」

 「それから、それから……」

 「……」



ナミは目を伏せて、両手をぎゅっと組む。




 「死なないで」




顔を歪めて、小さな、必死な声でそう言った。
ゾロはナミの頭を、自分の胸に引き寄せる。

ゾロのシャツの胸を掴んで、ナミは大きく深呼吸した。




 「邪魔はしないわ」

 「あぁ」

 「見届けたいけど、あんたが一人で行くって言うんならそれでいい」

 「あぁ」

 「文句なんか、言わないわよ」

 「あぁ」

 「だから、だから死なないで」

 「…あぁ」



シャツの胸のあたりが湿ってくるのをゾロは感じた。
だがナミは声にそれを出さない。
ゾロにしがみつくようにして、時折大きく深呼吸する。



 「私が見てるときじゃないと、あんたは死んじゃダメなのよ」

 「さっきから死ぬ死ぬって、縁起でも無ぇ事ばっか言うんじゃねぇよお前」

 「あんたが悪いのよ、バカ」



顔を伏せたままのナミが少し笑う。
ゾロはナミの頭を撫でながら、そのつむじに唇を落とす。



 「まぁ待ってろ、次に会うときは世界一だ」

 「楽しみにしてるわ」





ゾロの胸にしがみついて、
ナミはいつまでも顔を上げることができず、

いつまでも離れることができなかった。




『ゾロ下船ネタ』
わーい!どシリアス!!(笑)
ゾロが船を下りる理由って、正直鷹の目関連しか思い浮かばんのですよ…。
続きは無いよ、無い。
重すぎる(笑)。

10/2にリクくれたショコラさん、こんな感じで……!

2006/11/13 UP


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