傍。







ロビンが風邪を引いた。



大丈夫、と言い張る本人をムリヤリ引っぱってきて、
ナミはロビンをベッドに寝かせた。


 「何かしてほしいことある?」

ベッドの枕元でそう言うと、
ロビンは頼りなく微笑んで言った。


 「いいえ・・・・大丈夫よ、ありがとう。できれば一人にしてくれるかしら」


 「・・・・そう・・・・・」





 「おいナミ、ウソップが進路の確認してくれだと」


ノックも遠慮もなしに女部屋の扉を開けて、ゾロが覗きこむ。


 「・・・すぐ行く」

 「・・・・おい」


くるりと向きを変えベッドから離れたナミは、
そのままゾロの脇をすり抜けて部屋を出て行った。



ゾロはしばらくナミが去っていった方を見ていたが、
そのまま部屋へと降りた。


 「泣きそうな顔してたぞ、あいつ」

 「・・・そんなつもりはなかったのよ・・・ごめんなさい・・・」


一瞬驚いたロビンは、呟くように言う。


 「怒らせちゃったのかしら・・・・」

 「怒るわけねぇだろ」

 「ただ一人でいたほうが・・・・・」

 「だろうな。もう喋んな、喉痛ぇんだろ」


ロビンは微笑むが、辛そうなその表情では痛々しさが増すだけだった。


 「今コックが飯作ってる。食えそうなら食えよ」


ロビンは声を出さずに、うなずく。


 「じゃあな。ちゃんと寝とけよ」


そうしてゾロは、すぐに部屋を出て行った。




  あなたはやっぱり私と似てるわね


  とてもありがたいわ



ロビンはシーツを引っぱりあげて、眠ろうと目を閉じた。
























女部屋を出たゾロは、そのままミカン畑へと向かった。


 「・・・何泣きそうになってんだよ」



ミカンの木の根元で、ナミは膝を抱えてうずくまっていた。



 「・・・だって、寂しいじゃない。あんな言い方されたら」

 「弱ってるとこ見られたくねぇんだよ」

 「分かってるけど、でも、そういう時だからこそ傍に居て何かしてあげたいじゃない」






ナミにとって、ロビンは憧れの女性であった。

美しさと強さを兼ね備え、豊富な知識と常に冷静な判断力。

出会いは敵としてではあったが、
今、同じ船に乗る同じ女性であるロビンは、ナミには姉のような存在なのだ。

その相手が寝込んでいるというのに、
何もさせてもらえず、一人にしてくれ、と。

病気の時に甘えてくるような人ではないと分かっている。
それでも看病したかったのだ。





 「皆が皆、そういう人間って訳じゃねぇよ」


ゾロはナミの頭をポンポンと叩きながら言う。


 「弱ってるときは独りになりてぇヤツだっているんだよ。分かってやれ」


 「・・・あんたはよく分かってるのね・・・」

 「あ?」

 「なんでもない」

















ゾロが彼女に魅かれるのは、無理はないと思っていた。


あの2人が一緒に居るのを見ると、自分でも信じられないほど弱気になる。
いつもの自分ではなくなる。

こんなにロビンの事も好きなのに。
それなのに。

醜い自分に吐き気がした。



いつだったか、部屋でロビンが突然謝ってきたことがあった。
その時は何のことだろうと思っていたけど、翌日になって分かった。
ゾロとロビンが、以前の2人では無くなった。

ゾロは私を選んでくれたのだ。

そうして喜ぶ自分に、また嫌気がさした。

ロビンの気持ちを知っているのに。
彼女がゾロを想っていることを知っているのに。

それでも私は、喜んだのだ。


自分がこんなに嫉妬深く、一人の男に執着するなんて思いもしなかった。

姉のように慕っているはずの女性すら、憎んでしまうなんて。









今、彼女は病気で苦しんでいるのに、
またこうして彼女に嫉妬する。

彼女は終わらせてくれたのに。
それなのに、まだ。



最低だ、私。










 「おい、マジで泣いてんじゃねぇよ」


私が静かに泣いている間、ゾロはずっと私の頭を撫でてくれていた。

























 「ロビンちゃん、平気かい?」


サンジはノックしたあと、盆を片手に女部屋へと降りていく。



 「ありがとう、大丈夫よ」

 「おかゆ作ってきたけど、食べれそう?」

 「えぇ、少しいただくわ」

 「あとでチョッパーが薬持ってくるから」

 「ごめんなさいね、迷惑かけて」

 「誰も迷惑だなんて思ってないよ」


サンジは椅子をベッドの脇に持ってきて腰掛ける。
盆をサイドのテーブルに置き、粥の皿をロビンに渡す。



 「食べさせてあげようか?」

 「結構よ」


にっこりと拒絶され、サンジは項垂れる。





 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」


しばらく、スプーンと皿のあたる音だけが響く。





 「あの、コックさん?」

 「何だい?やっぱり食べさせて・・・・」

 「一人で大丈夫だから、戻ってくれて構わないのよ?」


 「・・・・・・・・」

 「・・・・・・・・」



 「一人が、いいかい?」

 「・・・えぇ、そうね・・・」

 「おれはいやだね」

 「・・え?」

 「おれはロビンちゃんの傍に居たい」

 「・・・・・」

 「元気な人間が我儘言わせて貰うけど」

 「・・・・」

 「君が眠るまで傍に居るよ」




にっこり微笑んでそう言うサンジに、ロビンは「そう・・」としか言えなかった。





















 「・・・・ゾロ」

 「ん」

 「ゾロも、病気の時は独りがいい?」

 「おれは病気なんかしねぇ」

 「もし、よ!もし!」

 「・・・・・そうだな・・・・・」

 「・・・・私も、傍に居ちゃ駄目なの?」

 「・・・・・」

 「私はゾロの傍に居たいよ」

 「・・・お前は、別に、いい」

 「別に、って何」

 「お前は、いい」

 「何でカタコトなのよ・・・」



それでもゾロの言葉は嬉しかった。
病気の時に好きな相手の傍には居たいし、傍に居てもらいたい。

じゃあロビンも、ゾロに傍に居てもらいたいだろう。


 「ゾロ、ロビンのお見舞い行ってあげた?」

 「あ?さっき行ったぜ」

 「え?さっき?」

 「お前が出てったあと」

 「あとって・・・・・・すぐ出てきたの?」

 「メシ食って寝ろっつってから、すぐ出た」

 「何で?」

 「何でって、おれがやることってねぇだろ別に」

 「・・・・・ロビンは、何も?」

 「・・・・普通にしてたぜ?」













半分ほど残して皿を置いたロビンは、しばらく体を起こしていたが、

 「少し眠るわ」

と言って横になった。


 「じゃあ眠るまで傍にいるよ」

 「・・・・・・・・・」

 「手でも握ってようか?」

 「・・・・・・・・・」


促されるままに片手を出してみると、思ったよりも大きな、暖かい手に包まれた。


 「・・・・・・・・・・」



 「おやすみ、ロビンちゃん」


 「・・・・・・・おやすみなさい・・・」





誰かが傍に居ることが、意外に心地良い事を知った。

それが誰ゆえか、ということに考えが及ぶ前に、
ロビンは眠りに落ちた。


ん?訳分からん。
今までで一番訳分からん?
サンロビに近づいてるんだよ、と。
ゾロとロビンは意外ともう割り切ってるんだよ、と。
あとナミさんはヤキモチやきまくってたんだよ、と。
でも多分平静を装ってたんだ。うん。

皆さんは弱ってるときには好きな相手に傍に居て欲しいと思いますか?
傍に居たいと思いますか?
私は独りがいーでーーす(笑)。

2005/02/15

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