称。








 「こんちはー…」




鍵のかかっていない玄関を開けつつ、ゾロは声をかけた。

友人からの返事は無い。
日曜で暇だから遊びに来いと呼び出しておきながら、不在らしい。
ゾロは半開きにした扉の隙間から中を伺いつつ、何だよアイツと呟いた。

鍵がかかっていないのだから中には誰かがいるはずだ。
もしかしたら寝ているのかもしれない。
ゾロは玄関先で考えながら、もう一度声をかけようとした。


口を開いた瞬間、2階から駆け下りてくる足音が聞こえた。





 「ゾロー?」

 「…ちっす」



友人であるルフィの姉、ナミだった。

オレンジの髪をふわふわと揺らして、ナミは笑って階段を下りてくる。
部屋着なのか、シンプルな白いワンピースを着ていた。



 「ごめん、ルフィったらコンビニ行ったみたい」

 「あー…」



ナミが申し訳無さそうな顔をすると、ゾロは少し顔を赤らめてボリボリと頭をかいた。



 「えーと、じゃあ、出直してきます」

 「え? 中で待ってれば?」

 「…」

 「せっかく来たのに、帰ることないじゃない。どうせアイツもすぐ戻ってくるわよ?」

 「…じゃあ」




返事を聞いてナミはにっこりと笑った。
ゾロは軽く頭を下げてから、スニーカーから踵を抜く。



 「アイツの部屋、勝手に入ってていいわよ。何か飲み物持ってくわ」

 「お構いなく…」



ナミはまたゾロに笑顔を寄越して、奥の台所へと消えた。
その後姿を横目で見送りつつ、ゾロは階段を上る。



 「コーラでいーい?」

 「あー、コーラで」



下からナミの声が聞こえて、ゾロは手すりから顔を覗かせて慌てて叫んだ。
りょーかい、という機嫌のいい声が返ってきて、ゾロは軽く笑う。





3つ年上で大学生であるナミのことは、ゾロはルフィを通して知った。

ルフィとは高校に入ってから親しくなり、今ではこうして互いの家に遊びに来る仲だ。
学校帰りで家に遊びに行くとそのまま有難くも夕食まで頂いて帰ることがあり、
その時にはナミとも顔を合わせる。
姉弟仲もいいらしく、ナミは弟の友人にも気さくに接してきた。

高校の友人たちの間では、ルフィの姉は美人だということで評判だった。
ゾロも初めてその姿を見たときは思わず見惚れたほどだ。
実際に話してみると、その容姿を鼻にかけることはなく、強気な男まさりの性格だった。
最初こそ猫を被っていたようだが、今では自分の友人かのようにゾロに接してくる。


男がいるのかは知らないが、日曜のこの時間に家に居るからいない、とも言い切れない。
ルフィに聞くこともできないし、ましてや当人に直接聞けるわけもない。


友人の姉に抱く恋心。
ベタすぎやしねぇか?


ゾロはぼんやり考えつつ、ルフィの部屋に入った。






すぐに階段を上ってくるナミの足音が聞こえてきた。
パタパタと駆けるその音に、思わずゾロは部屋から出た。



 「そんなに急がなくても――」



部屋を出て階段に近づいたゾロの目に、小走りで上がってくるナミの姿が映った



だが次の瞬間。






 「あ」






バランスを崩したナミの足が、階段を踏み外す。
両手でお盆を持っていたナミは手すりを掴むことができず、そのままその体が斜めに浮く。





「ナミ!!」





思わずそう叫んで、ゾロはナミの腕を掴んで思い切り引っぱった。
お盆やコップが中身をぶちまけながら、派手な音を立てて階下へと落ちていく。









階段の一番上で、ゾロはナミの体を抱き寄せて尻をつき、そのまま息を呑んでいた。




 「…っぶね……」



脱力して、大きく息を吐く。
腕の中のナミは、自分の身に何が起こったのか分からないのか、
目を見開いたまま固まっていた。



 「…おい?」

 「……だ、だいじょうぶ………」



急にさーーっと顔を青くして、ナミは小さく呟いた。
ゾロはまた深く息を吐く。



 「両手塞がった状態で階段走んなよ…」

 「だって、自分ちだし…」

 「それでもだ」

 「…ごめん、ありがと」




安心し始めたのか、ナミはようやく笑った。
それからゾロは、自分たちの格好にはたと気付いた。


床に座り込み、自分の足の間でナミをしっかりと抱きしめている。
ナミもナミで、両手でゾロの胸のシャツをがっちりと掴んで引っ付いている。



 「………」

 「………」

 「…っっ悪ぃ!!」

 「…いいわよ、命の恩人だもんね」



顔を赤くして立ち上がったゾロを、ナミはふふっと笑って見上げた。
その顔にゾロの顔がさらに赤くなる。



 「ところで、さっき初めて名前呼んでくれたわね」

 「…あ?」

 「ナミ、って」

 「…すんません」



思わず呼び捨てしてしまったことに気付いて、ゾロは気まずく呟いた。



 「親友の姉なのにさ、今まで『お姉さん』とか『ナミさん』とかでも呼んでくれなかったじゃない」

 「………」



ゾロの中では『ナミ』だったせいで、『お姉さん』とも『ナミさん』とも呼ぶことができなかったのだ。
今まで曖昧に誤魔化していたのだが、ナミは目聡くそれに気付いていたらしい。



 「呼んでもらえて、ちょっと嬉しかった」



頬をうっすら赤く染めて、ナミは小さく言った。



 「…今度からちゃんと呼びます…おねえ、さん」

 「やめてよ! ゾロがお姉さんだなんて何か笑える!」

 「…」



楽しそうなナミの言葉にちょっと眉間に皺を寄せ、ゾロは黙りこむ。
では何と呼べと?



 「『ナミ』で、いいわよ。無理矢理な丁寧語もいらない」

 「………」

 「分かった?」

 「…わかった」

 「OK」



満足気に笑ったナミは立ち上がり、ワンピースの裾を正す。



 「…ナミ」

 「…なぁに?」



早速呼ばれて、ナミはやはり嬉しそうにゾロを見た。
ゾロは少し照れたような顔だが、顔の赤さは少し落ち着いていた。



 「とりあえず、下片付けよう」

 「…そうねぇ…」



ゾロに言われて思い出したのか、ナミは階下を見下ろし溜息をついた。

階段はジュースまみれ、割れたガラスやまっぷたつに割れてしまったお盆が目に飛び込んでくる。
やれやれ、と呟いて階段を下りようとすると、ゾロに手首を掴まれて止められた。



 「ゾロ?」

 「おれが先に行く」



ゾロはそう言って、零れたジュースの間を縫って下りながら目に付く大きなガラス片を拾っていく。



 「ナミ、小さい掃除機ってある?」

 「…あ、部屋にある。取ってくるね」




ゾロはこくんと頷いて、またカチャカチャと破片を集めていく。

ナミはそれをチラリと見てから、自分の部屋へと向きを変えた。




あっという間に自然に『ナミ』と呼んでいる。

気付いているのかいないのか、自然な呼び方にナミは思わず一人で笑った。




『弟の友達ゾロと、友達の姉ナミ』
友達の姉妹に対する態度って、どんなモンかなぁ。
てか、また尻切れ……!!!(逃)

10/1にリクくれたみちりんさん、この程度で誤魔化されてくれ(笑)。

2006/11/12 UP


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