仮。










海賊船に女がいれば、当然『そういう』対象になる。
もちろんこの船の男たちは野蛮なことはしないし、そもそも興味があるのかもよく分からない。

ただゾロは、それを求めていた。

そして私も求めていた。


互いの利が一致した。
ただそれだけで始まった、この関係。










事を終えて、ゾロはまどろむ事もなくシャツに袖を通す。



 「…あんたはいっつも、終わったらすぐよね」



綺麗な背中を、寝転んだまま見つめながら言った。



 「あぁ?」



ベッドの端に腰掛け、シャツから頭を出したゾロは目だけをこちらに向けた。
目が合ってもそれは一瞬で、すぐに逸らされる。



 「ムードってのは無いの?」

 「…必要か?」

 「…」



ズボンは履いたままだったゾロは立ち上がり、出口の階段へと向かう。
いつもの事なのに、何となくそんな後姿を見る気が起きなくてシーツを引っぱり上げた。




 「…別に、ここで寝てってもいいのに」



シーツ越しの篭った声で小さくそう呟くと、ゾロの足音が止まる。
だがすぐにまた出口へ向かって歩き出す。




 「…恋人同士じゃあるまいし」




そう言って、ゾロは階段を上り部屋から出て行った。


頭までシーツに埋めて、その端をぎゅっと握る。





分かってる。
分かってる。
だって、そういう理由で始まった関係だもの。

恋人同士になったわけじゃない。
ただ互いの欲求を満たすためだけ。

私だってそう思ってたし、納得してた。


だけど。


ゾロの口から実際にあんな事を言われると、何故だか無性に哀しくなった。




ゾロの事が好きだったのか?
抱きあううちに好きになったのか?

いまさらどっちでも関係ない。
今の私は、ゾロの事が好きなのだ。
こんな関係ではなく、恋人としての関係を望んでいる。


誰でも良かったわけじゃない。
ゾロだったから、今の関係を欲したのだ。


だがゾロは?

ゾロはそんな関係は望んではいない。
船上の生活で溜まる欲を時折発散する、きっとそれだけで充分なのだろう。
ただ乱暴に、愛情も何もなく抱くだけ。
それは単純に私しかいなかったから。
他に女がいれば、そちらでも構わないのだ。

自ら望んだ関係が、今は辛くて仕方ない。




隣の男部屋に聞こえてしまわぬよう、声を殺して泣いた。

















 『ここで寝てってもいいのに』



ナミは素っ気無く、至極簡単にそう言った。

何を考えてやがる?

一瞬だけ足を止め、だがすぐにまた歩き出す。



 『恋人同士でもあるまいし』



ナミは返事をしなかったが、そのまま部屋から出た。





おれたちは恋人じゃない。
ただ抱き合うだけの関係だ。

誘ってきたのはナミの方だ。

最初からナミは言っていた。
『ただの性欲発散なら、お互いちょうどいいんじゃない?』
ナミは笑っていた。
『恋愛感情があるわけじゃないし、後腐れも無いでしょ?』
何を考えているかは分からなかった。


自覚は無かった。
ただ気付けばナミはおれの視界にいたし、居なければその姿をつい探していた。
その感情を何と呼ぶのかは気付かなかったが、単なる仲間への想いだろうと思っていた。


あのときナミは『恋愛感情』と言った。

あぁそれか、と気付いてしまったのだ。


だがナミにそれを言うわけにはいかなかった。
ナミにとっておれは単なる仲間で、『恋愛感情』抜きの『性欲発散』にちょうどいい相手でしかないのだ。
おれたちの関係に、その感情はあってはいけない。
それが混じった瞬間に、この関係は終わる。
だからおれはそれを決して出さない。

卑怯だと言われても、それでもおれはナミを抱きたかった。


















 「ゾロ、もうやめよっか」

 「何を」



ナミの上でその白い肌を見下ろしながら、ゾロは尋ねた。



 「こういうの」

 「…何で」

 「別に、特に意味は無いわ」

 「…他にいい相手見つけたか」

 「………っそんなわけないでしょ…」



ナミは一瞬傷ついた表情を見せたがすぐにいつもの顔に戻り、
首を横に向けてゾロから視線を逸らす。
その目を見ながら言葉を続けることができなかった。



 「なんか、面倒くさくなっちゃって」

 「………」

 「皆にバレないようにしなくちゃいけないし、やっぱり同じ船のクルーでこういうのって良くないわよね」

 「今さら何言ってんだよ」

 「それにずっと同じ相手って、飽きたでしょ?」

 「………」

 「ヤリたいだけならさ、島で買えばいいんだし」

 「………」




睨むようなゾロの視線に決して目を合わさず、ナミはただ口を動かす。




 「ナミ」

 「私はもう」

 「ナミ」

 「何よ!」

 「何で泣く」

 「………」



横を向いたまま、ナミは静かに泣いていた。
ゾロは顔を隠そうとする腕を引き剥がし、ナミの顎を掴んで無理矢理自分と目を合わさせた。




 「ナミ」

 「離してよ」



ナミが何故泣くのか、自分に都合のいいように考えるとゾロには理由は一つしか浮かばなかった。
鼓動が早くなるのを感じながら、ナミの頬に手を当ててもう一度名前を呼ぶ。



 「ナミ」

 「…もう、イヤなの」

 「………」

 「だって、私」

 「ナミ」

 「私、ゾロが」

 「ナミ」



もう誤魔化すこともせずボロボロと涙を流すナミに、ゾロは口付けた。



 「……ゾ、」

 「おれだってな、もう嫌なんだよ」

 「……じゃあ、もうやめようよ」



驚きのあまり思わずゾロを見つめてしまったナミは、その言葉に顔を歪めて掠れた声で言った。



 「そうだな」

 「…なら、もう出てって」



ぎゅっと唇を噛んで、ナミはまた目を逸らす。
意地になったように腕から逃れようと身をよじるナミを、ゾロはしっかりとシーツの上に組み敷いた。



 「離して」

 「こういうのが、もう嫌なんだよおれは」

 「…なに」

 「ただヤルだけってのが」

 「…どういう…」




目を見開いたナミを無視して、ゾロは今度はナミの目尻に唇を当てて涙を舐め取る。
そのまま頬から顎、鼻筋にキスをして、最後にまた唇に触れる。
普段のゾロらしからぬ優しい仕草に、ナミは戸惑った。




 「ゾ、ゾロ…?」

 「分かれよ」

 「…」

 「…こういうことには、慣れてねぇんだよ…」



顔を上げたゾロは、耳をうっすら赤くしてそう呟いた。
その顔を見てナミはまた目を丸くし、それから潤んだ目で微笑んだ。



 「…ゾロ」

 「………」

 「私…ゾロが好きよ」

 「…あぁ」

 「ゾロが好き」



ナミはゾロの首にしがみついて、何度もそう繰り返した。

そのたびに、ゾロもナミを強く抱いて小さな声で応える。



 「―――」













変な駆け引きなんかしないで、最初からちゃんと言ってればよかったのにね、2人とも。

お互いがお互いを求めていたのに。



想いを口にするたびに、ゾロがちゃんと答えてくれる。



今までとは違うこの関係が、愛しくてたまらない。




『すれ違い、最後は甘く』
確かまだガッツリは書いてない気がするので、超ベタな王道で攻めてみたよ!
……あれ、これってすれ違ってる???
オチが弱いのも見逃して!

あぁもう視点がコロコロ変わってゴメンナサイ。
こういう書き方好きなんです(ラクで)(笑)。
最初と最後はナミさんで(説明…)。

10/1にリクくれた方、こんなじゃダメかな?

2006/11/10 UP

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